創業者間契約はしておくべき?締結の必要性や留意点についてわかりやすく解説

創業手帳

共同経営をする際に結んでおきたい創業者間契約。締結しないリスクとは


複数人で起業する共同経営の場合、途中で創業メンバーが退職するケースもあるでしょう。
そのメンバーが自社株を持ったまま退職すると、後々会社が大変な状況になるかもしれません。

問題の解決に有効なのが、創業者間契約です。創業者間契約という言葉をはじめて聞いた方もいるのではないでしょうか。
今回は創業者間契約の内容や締結をしないリスクなどを解説します。共同経営を検討する方は、ぜひ参考にしてください。

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創業者間契約とは


創業者間契約とは、複数人の創業メンバーで起業する際に創業者同士で結ぶ契約です。
具体的には、途中で会社を辞める際に保有する株式の全部または一部を買い取ることを事前に約束する契約を指します。

例えば、創業の時点でAさんが40%、BさんとCさんで30%ずつ自社株式を保有していたとしましょう。
創業者間契約を締結している場合、もしもCさんが退職することが決まったら保有する30%の株式はAさんもしくはBさんが買い取ることになります。

なお、創業者間契約は株式の買取りなどに関することを定めた契約なので、創業株主間契約とも呼ばれています。

創業者間契約が必要な理由


創業間契約は起業前に締結する必要があります。しかし、本当に必要な契約なのかと疑問に思っている方もいるかもしれません。
ここで、創業者間契約の必要性について解説します。

創業メンバーが退職した後のトラブルを回避できる

創業者間契約をする一番の目的は、創業メンバーが退職した後に生じるトラブルを回避するためです。
株式は一度譲渡すると、会社側から一方的に株主としての地位を剥奪することはできません。
そのため、創業者間契約を締結していないと、自社株を保有したまま退職されてしまいます。

株主は、配当金・キャピタルゲインを得られるほかに、議決権を行使できる権利を持っています。
保有する株式の持分割合が多いほど、会社に対する支配力は高くなります。
つまり、持分割合の多い人が退職した場合、議決権の行使により経営陣の意図と関係なく企業経営をコントロールされてしまう場合があるということです。

また、ほかにも以下のようなトラブルが発生してしまう恐れがあります。

  • 退職した人と連絡が取れず、総株主の同意が必要となる諸手続きが行えない
  • 退職した人から株式を買い取りたいと思っていても、価格に合意できず買取りを実行できない
  • 100%子会社化によるM&Aが行われる際の弊害になる
  • 退職した人が競合に転職し、自社のノウハウや情報が伝わってしまう場合がある

いずれも会社経営の運命を左右する問題であるため、トラブルを未然に防ぐためにも創業者間契約はしっかり締結しておく必要があります。

リスク管理の基本的な考え方を学ぶ機会にもなる

企業活動では、取引先などと契約を締結する機会が度々あります。どのような契約も事前に将来のリスクを想定し、回避する方法を見つけた上で締結しなければなりません。

創業者間契約は、共同経営における将来のリスクを想定した契約です。
契約書の作成から打ち合わせ、締結までの経験を通じて、企業活動におけるリスク管理の基本的な考え方を身につける良い機会となります。

リスク管理の重要性を認識していないと、法的トラブルに巻き込まれる確率が上がることもあります。
もしもトラブルが生じれば、その対応に余計な時間と手間が取られ、ビジネス成功も遠ざかってしまうかもしれません。
ビジネスを順調に進めていくためにも、創業者間契約を通じてリスク管理の重要性を認識する必要があります。

創業者間契約締結における5つの留意点


創業者間契約を締結する際、留意すべきポイントがあります。ここでは、特に留意すべきポイントを5つピックアップしてご紹介します。
契約を結ぶ前に確認しておきたい点のため、ぜひチェックしてください。

1.締結検討のタイミング

契約締結のタイミングは、とても重要です。会社を離れる予定の人材がいなかったとしても、何をきっかけにして関係が悪くなるかというのはわからないものです。
ちょっとした意見の食い違いにより、良好だった関係が崩れてしまうといったケースも実際にあります。

また、会社を離れる人にとっては、株式を手放すという結論に合意するメリットはありません。したがって、関係が悪くなってからの契約締結は困難だと考えられます。
それを踏まえて考えてみると、株式を譲渡したタイミングで締結をするのが理想的です。

きちんと契約を結んでおけば、関係がさらに悪化するようなトラブルを回避できるというメリットも享受できます。
トラブルを自分たちで解決できるようにするためにも早めの締結は必要です。

2.誰が株式を買取るのか

株式を買い取るのは社長のみ、または、残された創業株主全員のいずれかとなるケースが一般的です。
場合によっては、社長などが指定する第三者が買い取るといったケースもあります。

会社がベンチャーキャピタルから出資を受けたのであれば、会社が買い取ることはできないのかと考えるかもしれません。
しかし、会社法によって会社は分配可能額の範囲内しか自社株を買い取れないと定められています。
スタートアップ企業は分配可能額がないケースもあるので、会社は買い取れないと考えた方が無難です。

分配可能額を超えているのに会社が買い取った場合は、刑事罰に科される恐れがあります。リスクを負ってまで会社が買い取るのは避けてください。

3.買取りのタイミング

買い取るタイミングも留意点のひとつとして挙げられます。会社の役員が地位を失った時に買い取れるようにするパターンが多く見られます。
辞任・解任・解雇・退職など理由は問いません。

しかし、契約を締結した直後に辞めた場合も、長期間会社に貢献した場合も、すべて手放さなければいけないのは不公平だと感じる方もいるのではないでしょうか。
不平不満を解消するためには、リバースベスティングを設定するのがおすすめです。リバースベスティングについては後ほど詳しく解説します。

細かい部分もしっかりと決めておけば、トラブルに発展する確率も低くなります。お互いのためになるので、買取りのタイミングもしっかりと決めておくことが大切です。

4.株式の買取評価額

株式の買取評価額も重要なポイントになります。買取価格は、取得した時の価額、買取時に締結した価額、買取時の時価のいずれかに設定するケースが多くあります。
特に、取得した時の価額に設定するのが一般的です。

買取時に締結した価額だと、辞任する創業株主と折り合いがつかないと決定されず、買い取れないといった事態に陥る場合があるためです。
企業価値が高まっていると、当初の価額で買い取ることに納得してもらえないといったパターンもあり得ます。

買取時の時価はフェアに見えるかもしれませんが、非上場だと時価を判断するのが困難な場合もあります。
決まらないために買い取れなくなってしまうこともないとは言い切れません。

5.課税される税金について

創業者間契約では、贈与税や譲渡所得税に注意しなければいけません。株式譲渡によって得た対価の取得価額が、譲渡時の適正な時価を上回っているケースもあります。

そのような場合、株式を受け取るのが個人だと贈与税が発生します。そして、法人だと譲渡した人に譲渡所得課税、受け取る側の法人に法人税が課税される仕組みです。

どのような税金がかかるのかあらかじめ把握しておくことも、創業者間契約を結ぶ上で重要であり、覚えておくと良いでしょう。

創業者間契約書の主な項目


創業者間契約書を交わす際、必要な項目がいくつかあります。記載すべき項目にはどのような点があるのかを見ていきましょう。
また、留意点についても解説します。

株式譲渡

株式譲渡は、創業者間契約書の中でも中核となる部分です。
創業株主が会社の取締役もしくは従業員の地位を両方失った時、保有している株式を譲渡する旨が記載されています。
株式数・譲渡価格・譲渡を受ける人などについて定めています。

株式数

退職する際に譲渡する株式数を規定します。保有しているすべての株式を譲渡するパターン功績に応じたリバースベスティングを行うパターンの2種類があります。

リバースベスティングは、退職する人が在籍していた期間に応じて株式を保有する権利を決めるという仕組みです。
アメリカ・シリコンバレーにおいては、在籍年数が1年経過するごとの25%の株式保有権を確定しています。
つまり、4年間在籍していればすべての株主保有権を得られるということになります。

創業メンバーが株式を手にしたまま退職してしまうと、重要な意思決定が円滑に行えなくなるリスクがあり、注意しなければいけません。
つまり、リバースベスティングを採用しないほうが良い場合もあります。

譲渡価格

株式を譲渡する価格や算定方法を規定するのが譲渡価格になります。創業メンバーが退職する時、譲渡価格を巡るトラブルに発展してしまうケースは珍しくありません。
そのため、創業者間契約書でしっかりと決めておくことは重要です。

基本的には、株式取得時の価格と規定します。しかし、時価が上がっている場合は時価より低い価格で譲渡するので、受ける側が贈与税を課税されることを忘れてはいけません。

譲渡を受ける人

退職した人の株式を誰が買い取るかという点も、創業者間契約で規定すべき事項です。一般的には、社長が買い取るケースが多くあります。
しかし、社長が退任する可能性もないとは言い切れないので、その状況も考慮しておく必要があります。

原則として社長が買い取るとしておき、万が一退任した場合の対応も記しておくのが得策です。
退任した時は、残された創業メンバーが買い取るなどの規定も設けておくとトラブル回避につながります。

相続

創業株主が死亡してしまった場合、相続人に対して譲渡請求ができるという旨を規定する部分です。
創業株主が亡くなると、相続人となる人物が株式の所有者になります。つまり、事業に関して無知な人が相続人となり、重要な意思決定を任されることもあるといえます。

それを踏まえて考えてみると、相続人に対して譲渡請求ができるような規定は必要です。事業を円滑に進め、トラブルを回避するためにも必要な事項です。

譲渡や担保設定などの禁止

譲渡や担保設定などの禁止も創業者間契約書で規定されている項目です。
保有している株式は書面による承諾なしで譲渡したり、担保設定をしたりできないようになっています。
株式を保有している人は、会社の意思決定権を持っているので、無断で保有者を変更できないようにすることはとても重要です。

無断で譲渡などができてしまうと、会社の経営などに悪影響を及ぼす恐れがあります。それを回避するための対策が、譲渡や担保設定などの禁止です。

協議義務

創業者の間で意見が食い違ってしまった時、意見を一致させる仕組みを設けることも重要なポイントです。そのために、創業者間の協議義務を規定します。

協議は話し合いを行うことを意味するので、やったところで意味がないと思うかもしれません。
しかし、会社を良い方向へ変えていきたいという思いがあるなら、妥協点を見つけたり、説得したりできる可能性もあります。
話し合いの場すら設けられない場合は会社にとってさらなるリスクが生まれる恐れがあるので、重要な規定のひとつといえるでしょう。

協議義務の規定がなければ、意見が異なる株主が話し合いのテーブルについてもらえないこともあります。
そうなってしまっては、うまくいくはずだったことも失敗に終わってしまうかもしれません。

その他事項

創業者間契約書を結ぶ際、そのほかにも盛り込むべき事項があります。
譲渡手続き・秘密保持義務・準拠法や合意管轄・有効期限・通知書の交付方法・競業避止義務などです。これらの事項は、ひな形にも盛り込まれています。

条文を最初から作るのは手間もかかり、専門的な知識も必要です。契約は、株式を確実に買い取ることが目的なので、買取価格は慎重に決めることをおすすめします。

創業者間契約書はひな形の利用が便利


創業間契約書のひな形やテンプレートは、インターネット上で配布されているので、契約書を作成する際は参考にしてみてください。
まっさらな状態から作るよりも簡単で、確実な契約書が完成します。

ただし、盛り込むべき内容は創業者同士の関係などにより異なるので、必要な場合はアレンジした契約書を使用するようおすすめします。
全員が納得できるような契約書にするためには、話し合いも重要です。合意を得た内容を取り入れるという点も重要なポイントです。

まとめ

創業者間契約を結ぶことにより、創業者同士のトラブルを回避できる可能性が高まります。また、将来的に起こりえるリスクを管理するための基本的な考え方も学べます。
今回紹介した留意点を踏まえた上で契約書を作成すれば、万が一の時にもスムーズに対応できるようになるでしょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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