なぜもう有限会社は設立できないの?

創業手帳

有限会社に代わる、合同会社・株式会社という選択肢について

(2018/08/29更新)

「いつか起業しよう」と長年計画を温めてきた方の中には、「起業するなら有限会社を」と考えている方がいらっしゃるかもしれません。しかし、実は2018年現在、残念ながら有限会社を新たに設立することはできなくなっています。今回の記事では有限会社とは何だったのかを振り返りつつ、今はそれが新設できなくなった経緯、さらに、その代替案についてご紹介します。

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有限会社とは

有限会社は1938年に作られた有限会社法に基づく法人でしたが、2006年に廃止されました。

2006年以前の商法、有限会社法には「最低資本金規制」と言われた制度があり、例えば株式会社の設立には1,000万円以上の資本金が必要でしたが、有限会社の最低資本金は300万円と比較的少額から設立できました。また、株式会社の設立には取締役3名以上が必要だったのに対し、有限会社は1名から設立できるなど会社設立のハードルが低かったことから、比較的小規模な事業を行うのに適した法人格とされていました。

また、株式会社同様に出資者全員が有限責任となる制度でしたが、一方で出資者の人数に50人以下という制限が定められていました。つまり、有限会社は設立のハードルは低いものの、大きく成長させるには制約のある制度だったと言えます。

なぜ有限会社は設立できなくなったのか

会社法人に関する法制度は2006年に大幅な改定が行われ、有限会社法もこの一環で廃止されることになりました。
この法改定が行われた背景はさまざまありますが、これまで厳しかった株式会社設立の条件が緩和されたことが大きく影響しています。

旧制度では、株式会社は1,000万円以上の資本金に加えて、たとえ小規模な株式会社であっても3名以上の取締役と監査役が必須(つまり、4人以上確保しないと作れなかったのです!)でした。しかし、スタートアップや小さな会社でも身の丈に合わせて株式会社が作れるようにと、柔軟な選択肢のある制度へと改正が進められたのです。

当時は「資本金1円から株式会社が設立できる(※1)」と大きな話題になったので覚えている方も多いのではないでしょうか。

この改定でまず最低資本金規制が撤廃されたことで、有限会社の「少ない資金で設立できる法人」というメリットは失われることになりました。
ほかにも、株式会社に課されていた条件や規制が大幅に緩和されることになりました。
改定の一部を挙げると・・・

【旧】株式会社 【旧】有限会社 【新】株式会社
設立に必要な資金 1,000万円~ 300万円~ 1円~
役員 3人~ 1人~ 1人~
取締役会 必須 なし 設置しなくてもよい(公開会社の場合は必要)
監査役 必須 なし(設置してもよい) 設置しなくてもよい(取締役会を設置する場合は原則必要)
役員の任期 2年以内 なし 10年以内(公開会社の場合は2年以内)
決算公告義務 あり なし あり

これらの改定により、株式会社設立のハードルが大幅に下がり、従来有限会社が対応していた範囲までカバーするようになったため、有限会社を別個の制度として存続させる意味はなくなったのです。

有限会社法が廃止されたことにより、新たに有限会社を設立することはできなくなり、また、2006年時点で存在していた有限会社は法律上「株式会社」になりました。ただし、経過措置の「特例有限会社」として、(株式会社であるにもかかわらず)「有限会社」を名乗る、役員の任期がない、決算公告義務がない、といった従来の有限会社と変わらない運営の特例が認められています。

なお、特例有限会社は登記費用などが必要にはなりますが、組織変更を行うことで通常の株式会社に移行することができます(株式会社などの他の法人が組織変更して特例有限会社となることはできません)。

※1
1円で設立できる特例措置は2003年から運用されていた

有限会社に代わるものとして期待される会社形態

有限会社が廃止された現在、会社法で定められている会社法人は「株式会社」「合同会社」「合資会社」「合名会社」の4種類です。その中から「小さな企業に適する」とされていた有限会社の代わるものとして、株式会社と合同会社をご紹介します。

なお、どの法人格でも法人税、消費税等の税や社会保険の取扱い、営むことのできる事業分野などに違いはありません。

「新しくなった」株式会社

前にお話した通り、有限会社法が廃止されたのは株式会社設立にまつわる制度がより柔軟なものに緩和され、新しくなった株式会社が、有限会社の範囲までカバーするようになったためです。したがって、有限会社に代わる第一の候補は「株式会社」です。

株式会社の場合、毎年の決算公告が義務付けられる、役員の任期が無期限ではない(非公開会社の場合最長10年。重任する場合も登記などの手続きが必要)など、有限会社と比較すると若干の手間はありますが、仮に現在の会社法のもとで300万円の資金を用意して株式会社を設立するならば、定款などを調整して実質的に有限会社と変わらない会社に仕立てることは可能でしょう。

後にご紹介する合同会社に比べると株式会社は設立時の費用が若干かさみますが、いったん設立してしまえば多彩な資金調達方法など、株式会社本来のメリットも活用できます。日本の会社の9割は株式会社(旧有限会社を含む)ですし、個人の起業から株式上場企業まで幅広く活用されている株式会社は起業の有力な選択肢と言えます。

その多彩な資金調達方法については、資金調達手帳(無料)で詳しく解説しています。融資、出資、クラウド・ファンディング、上場・M&Aといった、株式会社が活用できる資金調達方法を解説し、注意点や、資金調達を成功させる方法も紹介しています。

「新たに登場した」合同会社

合同会社は、2006年の会社法で新たに導入された「持分会社」の法人格のひとつです。アメリカの制度がモデルとされ、当時はよく「日本版LLC」などとも紹介されていました。10余年を経て「合同会社」という名称も少しずつ定着してきています。

会社法で定められている持分会社は合同会社、合名会社、合資会社の3種です。合名会社、合資会社は出資者の一部または全部が無限責任(出資額にかかわらず会社の負債に無限に、つまり上限なく責任を負う)となる制度ですが、合同会社制度の新設により出資者全員を有限責任(出資額の範囲で責任を負う)とする持分会社を設立できるようになりました。

有限会社法の廃止と同じタイミングで入れ替わるように導入された制度ですが、「簡易な株式会社」とも評される有限会社と「持分会社」として導入された合同会社を比較すると、利益の配分や議決権のあり方など、法人の本質的な部分で異なるところがあります。

とはいえ、合同会社には「1人から」「少額の資金で設立できる」「出資者は全員有限責任」など有限会社と共通する小さな企業に適した特徴があります。また、持分会社は「出資と経営が一体」であることが特徴ですが、「自分で出資して自分で経営するよ!」という起業には合同会社はなじみやすい制度とも言えます。設立時にかかる費用が株式会社よりも少額で済むことなどのメリットもあって、合同会社の法人数は5万社を超えるまでに着々と増加しています。

なお特例有限会社は、組織変更で合同会社に移行することも可能となっています。(旧法では有限会社は株式会社への組織変更のみが認められていました。)

株式会社・合同会社・有限会社の違い

出資額・構造など

株式会社(現行制度) 合同会社 有限会社(旧制度)
設立に必要な出資額 1円~ 1円~ 300万円~
役員 取締役1名~ 取締役1名~ 取締役1名~
役員の任期 2年以内(非公開会社は10年以内) なし なし
出資者の人数 制限なし 上限なし 50人以下
出資の仕方 (法律上、口数、株数にあたる規定なし) 定款で定める1口あたりの金額×口数
利益の配分 株数に応じる 自由に決めることができる 出資額(口数)に応じる
議決権 株数に応じる 原則対等(変更も可能) 出資額(口数)に応じる
重要な事項の決定 株主総会 総社員(出資者全員)の同意(法律上「総会」のような規定はない。定款に定めて社員総会を置くことは可能) 社員(出資者)総会
決算の公告義務 あり なし なし
株式上場 できる できない(そもそも株式は存在しない) できない
社債の発行 できる できる できない

設立手続き

株式会社(現行制度) 合同会社 有限会社(旧制度)
定款認証 必要(5万円) 不要 必要(5万円)
定款に貼る収入印紙 4万円(電子定款なら不要) 4万円(電子定款なら不要) 4万円(電子定款なら不要ですが、2006年当時の普及状況は…)
登録免許税 15万円~ 6万円~ 6万円~

会社を大きくして将来的には上場を考えている場合には「株式会社」を選択しましょう。また、ベンチャーキャピタルなどの資金調達を想定する場合も株式会社にする必要があります。しかし、資金調達や法人格の知名度があまりデメリットにならない分野=合同会社に向いているケースと考えられます。

株式会社と合同会社の具体的な設立方法や選択のポイントなどは下記記事でもまとめているので詳しくは下記記事もご覧ください。

失敗しない法人格選び
合同会社と株式会社どっちが自分に合っているの?メリットとデメリットを徹底比較

まとめ

2018年の現時点で特例有限会社として存続している企業は少なくありませんが、いずれにしても有限会社は制度としてすでに過去の遺物です。これから起業を考える方はすっぱり諦めて他の法人格を検討しましょう。

現在は、株式会社であってもごく小規模な事業を運営することができます。それでも法人なのは法人なので、注意すべき点や、手続きなどがあります。冊子版の創業手帳では、法人設立後に必要なことを詳しく解説しています。

(執筆:創業手帳編集部)

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