シェアダイン 井出 有希|出張シェフサービスから、国内最大規模の「調理人キャリアプラットフォーム」へ

創業手帳
※このインタビュー内容は2024年06月に行われた取材時点のものです。

子どもの偏食に悩んだママが起業!コロナ禍の資金調達を乗り越え「シェフの課題」に目を向けるまで


「子どもの偏食をどうにかしたい」。

そんな代表自身の切実な悩みがきっかけとなり誕生した、家庭向けの出張シェフサービス「シェアダイン」。2018年のリリースから6年が経ち、現在は約9,000名の料理人が登録する国内最大級の料理人プラットフォームへと成長しています。

これだけを聞くと順調にサービスを拡大しているようですが、2回目の資金調達では非常に苦労したと言います。

今回はシェアダイン代表の井出さんに、起業の経緯やサービス展開の背景、どのようにして資金調達を乗り切ったのかなど、これまでの道のりをお伺いしました。

井出 有希(いで ゆき)
株式会社シェアダイン 代表(共同代表)
高知県出身。2000年に新卒でゴールドマン・サックス証券に入社し、9年にわたり株式アナリストとして働く。2009年にアライアンス・バーンスタインに転職するも、2012年にチーム解散を経験。ボストンコンサルティンググループを経て、2017年、当時の同僚であった飯田陽狩さんとともに株式会社シェアダインを創業。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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「子どもの食事の支度に時間をかけられない」自分の悩みが創業のきっかけに


大久保:起業の経緯について、原点からお伺いできますか?

井出:もともと私は証券会社などに勤めていて、起業は全く考えていませんでした。転機となったのは、ボストンコンサルティンググループ在籍中に妊娠出産を経験したことです。

子どもを育てながらきちんと仕事をこなすのは、想像以上に大変で。特につらかったのが、「食事の準備がおろそかになること」だったんですよね。

私の子どもは偏食で、口に入れるものが限られているのですが、調理に時間は取れません。だから毎日「絶対食べてくれるもの」ばかりを食卓に並べてしまうことに悩んでいました。
そこで、周りの働きながら子育てをしている人と話したところ、似たようなことに悩んでいる人は多いと気づいたんです。

大久保:シェアダインはお2人で共同創業されていますよね。一緒に起業された方も同じ悩みを持ってらっしゃったんでしょうか?

井出:そうですね。一緒に創業した飯田も働くママで、「子どもの食が細くて、どうしたらいいかわからない」と悩んでいました。

そこでお互いの悩みを話すうちに、“「家庭の食に課題を感じている私たち」と「料理の専門家」がマッチングできて、専門家に相談できたり料理を作ってもらえたりするサービスがあれば助かるよね”というアイデアが出ました。それがシェアダイン創業のきっかけです。

大久保:まさにご自身と周りの方々の悩みがサービスの原点なんですね。

井出「子どもが心配」という切実な悩みが原点になりましたね。

当時偏食の子どもに対して、「唐揚げしか食べてくれないんだから、唐揚げを出すしかない」と割り切ろうとするものの、どうしても栄養面が心配でした。加えて、「この子の食卓の記憶が、唐揚げだけになるのかな」といったことも気にかかって。

大久保:「子どもの食卓の記憶」って重要なキーワードのような気がします。

井出:そうなんです。私も子どもの頃は、「今日の晩ご飯」を聞くことが1つの楽しみでした。家庭の食卓は、日々の楽しみにもなり、家族が食事を通じてコミュニケーションを取る場にもなるんですよね。

でも、私が専業主婦だった母と同じように食事の準備に時間をかけることは難しいので、「自分をサポートしてほしい」「同じように困っている人のサポートもしたい」という思いからサービスが誕生しました。

子どもの食だけでなく「個々の家庭の食の悩み」に寄り添うサービスへ


大久保:シェアダインの「出張シェフ」というサービスは、偏食の問題など個人の悩みに合わせた料理を作ってもらえるんでしょうか?

井出:おっしゃる通り、出張シェフのコンセプトは「家庭の食の悩みに寄り添う」です。

例えば私であれば、「偏食の子どもにもっといろんな食材を食べてほしい」「子どもに知らない料理にも興味を持ってもらいたい」といった相談をします。すると、「こういった調理法なら食感が変わって食べるかもしれない」など専門家の知識を駆使した料理を提供してもらえるんです。

このように、家庭の悩みに寄り添うサービスを提供をするという点は、創業から変えていません。

大久保:サービス提供開始から、お客さんの要望によって変えてきた部分はありますか?

井出:サービスを提供する対象を広げました。

創業の経緯でお話した通り、シェアダインは「子どもの食事の悩み」を解決したくてスタートしました。

ただ、シェアダインのシェフ側に「栄養士・管理栄養士」という専門職の登録が増えるにつれ、家族に病気のある方からの依頼も入るようになったんです。

確かに、家庭料理は必ずしも子どものためだけに作るものではなく、家族や大切な誰かのために作るものですよね。

そこに気づいてからはすぐに、子ども向けの食事サービスという括りから、「家庭におけるパーソナライズ食事支援」へとサービスの対象を広げました。

大久保:糖尿病などで糖質制限している人も、管理栄養士さんに料理を頼むことができれば楽になるし安心ですよね。

井出:そうですね。今は食事のサービスには、宅食を含めいろんなものが出てきていますが、今日の体調から好み、持病にまで合わせて料理してもらえるところは、訪問型調理の強みだと思います。

大久保:シェアダインの出張シェフに来てもらうことで、栄養面の勉強もできそうですね。

井出:そうですね。栄養面だけでなく「衛生管理知識」も、個人と管理栄養士では違います。

シェアダインでは、熱湯消毒などのちょっとした衛生知識も提供しますので、その後の家でのお料理に活かしてもらえると思います。

レストラン出身シェフの登録が増加し「おうちレストラン」もスタート


大久保:出張シェフサービスでは、毎日の食事のサポートだけではなく、レストラン料理も提供しているんですよね。

井出:そうですね。例えばお食い初めや七五三、お誕生日といったイベントの日におうちで楽しめるような「レストラン料理」も提供できます。

ただ、あくまでも日々の食事のサポートからスタートしたサービスなので、予約の90%は「日々の作り置き」の依頼です。

大久保:レストラン料理を提供するようにした経緯も教えていただけますか?

井出:もともとシェアダインへの登録シェフは、料理教室の先生や栄養士さんが中心でした。シェフ側にも、「作り置きニーズ」に対応できる方の活躍の場として認識いただいていたからだと思います。

しかしコロナがきっかけで、レストラン出身シェフの登録も非常に増えました。そこで、レストランで食べれるような食事を家庭でも食べられる「おうちレストラン」というコンセプトも打ち出したのが経緯です。

大久保:「日々の作り置き」と「おうちレストラン料理」は、対応するシェフが違うのでしょうか?

井出:いいえ。おもてなし料理だけでなく、毎日の食事サポートもしているレストランシェフが多いですね。

なぜかというと、作り置きの方が予約が埋まりやすく、ユーザーは隔週などでリピートしてくれるからです。「レストラン料理」だけでなく「日々の料理」にも柔軟に対応する方が、シェフ側にとってもお仕事が安定するというメリットがあるんです。

大久保:利用金額は時間単位ですよね。例えば3時間8,800円のプランを頼んだとすると、どのくらいの品数を作ってもらえるんでしょうか?

井出:目安は3時間で10品〜12品くらいですね。作り置きなら4〜5日間分の夕食のおかずになります。

コロナ禍の気づきを新サービスへ展開。「飲食店の人手不足」と「シェフの働く場の確保」を同時に解決


大久保:シェアダインには、お宅に訪問して料理を提供する以外のサービスもあるんでしょうか?

井出「スポットシェフ」という、飲食向けに即戦力シェフをマッチングするサービスを昨年リリースしました。このスポットシェフの利用は非常に伸びています。

大久保:スポットシェフは、シェアダインの「家庭の食事支援」とは毛色が違いますね。どのような流れでリリースに至ったのでしょうか?

井出:スポットシェフも、コロナがきっかけで誕生したサービスです。

コロナ禍に「レストラン飲食店出身シェフ」の登録が増えたと先ほどお伝えしました。そういったシェフの方々のなかには、副業ではなくシェアダイン上での仕事を本業にする方も増えてきています。

ですが、家庭料理の支援やおうちレストランの仕事だけだと月20日以上予約が入り、本業として稼げるようになるまでにリピーターを増やしていく必要があるため時間がかかります。

一方でコロナ禍には飲食店からも、「規模を縮小して料理人も減らしたんだけれども、この日の予約対応のために、シェアダインへ登録しているシェフに仕事を頼みたい」といった相談が入るようになったんです。

このようなニーズは他の飲食店にもあるかもしれないと考えました。そこで、2022年からベータ版として、飲食店とシェフをマッチングするサービス「スポットシェフ」をスタートし、2023年に正式にローンチしました。

大久保:スポットシェフは「飲食店の人手不足解消」と「シェフの自由な働き方の実現」、両方のニーズを満たせますね。

井出:今は、出張シェフというtoCのサービスと、スポットシェフというtoBのサービス、2つのプロダクトを回しています。

このtoBのサービスは、今全国にチェーンがあるようなレストランや、ホテルでの利用が増えています。試しに1店舗で使っていただき、その後姉妹店を紹介してもらう流れで、どんどん広がってきました。

現在は大手企業を中心に利用が増えていますが、ゆくゆくは多店舗展開していない飲食事業者までユーザー層を広げられたらと考えています。

大久保:今、登録シェフはどれくらい増えているのでしょうか?

井出登録シェフは約9,000名になりました。2020年4月時点では600名だったので、15倍くらいになりましたね。

2回目の資金調達で諦めなかったから今がある


大久保:登録シェフの数からみても、シェアダインの認知度はとても上がってきています。創業当初からここまで順調でしたか?

井出創業初期はいろいろな苦労がありました。

ようやくサービスをローンチしたものの、まずサービス提供者であるシェフの獲得に試行錯誤しましたし、ユーザー獲得も手探りでした。
最初の半年〜9カ月間は、とにかく打ち手を50個ぐらい考えて、すぐできるものやインパクトが強そうなものから実践する日々でした。

でも一番大変だったのは、資金調達ですね。

大久保:何回目の資金調達でご苦労されたんでしょうか?

井出:2回目の資金調達です。

すでにシェアダインのプラットフォームを使ってシェフの方が仕事をしていて、その方たちの生計を成り立たせるためにも資金調達が必須だったので、2回目の資金調達を迎えたのですが・・・。時期がコロナ禍にかぶってしまったんです。

そのため、まとまりそうな話もまとまらなくなりまして。2020年2月ごろのことなのですが、それから無事に着金するまでの期間は、髪の毛が抜けてしまうくらい資金繰りにドキドキしながら過ごしました。

大久保:どのようにして、その資金調達を乗り越えたのでしょうか?

井出:VC(ベンチャーキャピタル)からの投資額に加えていろいろな人に応援をお願いしエンジェルになっていただき、成長に必要な資金に目処がつきました。

大久保:それはスリリングでしたね。

井出:そのときは本当に駆けずり回っていましたね。それでもこの資金調達を乗り越えられたのは、共同創業で飯田と2人だったのが大きいです。

出資がなかなか決まらなくても、「悔やんでも仕方ないから、次は誰に当たろっか」と話し合うことで、前向きでいられたからです。1人だったら悩みすぎていたかもしれません。

ただ、苦労した2回目の資金調達後のエクステンションラウンドでは、「新しい働き方を実現できるプラットフォームの重要性」が投資家の方にも伝わったのか、すごく人気がありました。

「数カ月前とは全然違う・・・」と戸惑うくらいでしたね。

大久保:投資って、誰も投資してくれないときは周りの人もしてくれないのですが、1人投資するとみんなしてくれるようなところがありますよね。

井出さんの例を見ると、今1件も集まってない人でも、最後まで諦めないことが大切ですね。

井出信念を持って当たり続けたからこそ、今のシェアダインがあると思っています。

会社が成長する前に、組織作り担当をおいて良かった

大久保:創業からこれまでに、やっていて良かった、うまくいったと思うことを教えていただけますか?

井出:シェアダインで良かったのは、初期の段階で「組織作り担当の方」に来ていただいたことです。

その方が、あるべき会社の姿や組織体制を考えてくださったので、管理部が創業者だけのときよりずっと組織をまとめやすくなりました。

担当の人に早めに入ってもらったのは、組織作りの面でものすごくプラスだったと思います。

大久保:人事部分は、組織が大きくなる前に先駆けて準備をしていった方がいいのでしょうか?

井出:早め早めに対応すべき部分ですね。特にスタートアップでの人事経験がある方に入ってもらうと、かなり違うと思います。

料理人のキャリアを作るプラットホームを目指す


大久保:今後の展望を教えてください。

井出:もともとシェアダインは、「自分の課題」を解決したくて始めたサービスでしたが、だんだんと働き手の「料理人や栄養士の課題」にも目が向くようになりました。

例えば、病院で働いている管理栄養士は、4時ごろからのシフトも多いので、お子さんを持たれると辞めざるをえない方もいらっしゃると聞きます。

コロナ禍では、飲食店舗には助成金や補助金が出ましたが、職を失った料理人の方々には何の保証もありませんでした。

そんな方々が身1つで働ける場を作っていくことで、「スキルがある人たちの活躍の場」を広げられるのではないかと、コロナ禍にサービスを展開していて感じたんです。

ですからシェアダインは、「料理人のキャリアを作るプラットフォーム」を目指す方向に変わってきています。

大久保:出張シェフは、利用者の評価が星でつきますから、それがそのままキャリアになるわけですね。

井出:おっしゃる通りです。日本の料理人は最初は店舗で働くかもしれませんが、最終的には自分の力だけでフリーランスへとシフトもできます。

シェアダインに登録しておくことで独立のためのキャリアを作っていける、そんなプラットフォームにしていく予定です。

大久保:海外への進出もお考えですか?

井出:海外でも日本の料理人の需要は高いですから、シェアダインのプラットフォームへ海外からも問い合わせが入り、海外で働く場が提供できるようにしたいと考えています。

大久保:読者へ一言いただけますか?

井出:飯田と創業する前は私も、「本当に自分にできるのかな」「失敗したらどうしよう」と悩みました。

でもいざスタートしてみると、新しく見えてきたものがあるんです。「料理人の働く環境の課題」も、やってみて初めて見えたことです。そして、それがビジネスチャンスになりました。

ですから、「どうしよう」と悩むくらいなら、とりあえずやってみることを強くおすすめしたいです。「もっと準備してから」と先延ばしにしていると、いつまでもチャンスは来ないので、とりあえず飛び込んでみるといいのではないでしょうか。

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(取材協力: 株式会社シェアダイン 代表(共同代表) 井出有希
(編集: 創業手帳編集部)



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