出張料理人 ソウダルア|人間も空海山や生き物が成す生態系の一部

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年07月に行われた取材時点のものです。

人間は自然にならってもっと長い時間軸で物事を考えたほうがいい

店を持たずに、いろいろな場所に出向き料理をふるまう「出張料理人」であるソウダルアさん。和紙の上にさまざまな土地の料理を盛りつけていく様子はアートのようです。

創業手帳の「ウクライナ難民×スタートアップ」のイベントでも、ソウダルアさんのアート、鮨×ウクライナ料理のソースというパフォーマンスは拍手喝采を浴びました。

子どもの頃から料理に親しみ、料理を仕事にするようになったソウダルアさん。どのようにして出張料理人という今の職業にたどりついたのか、またウクライナ支援をする原体験となった震災での経験などについて、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

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ソウダルア
出張料理人/現代美食家
全国各地でその土地の素材のみを扱い、風土と歴史が交差する料理を和紙の上に表現する。その他、芸術祭でのレストランプロデュース、食による地方創生、フードエッセイの連載、映画出演など、あらゆる食領域で活動。現在はウクライナ避難民へ食糧ではなく”美味しい”を届けるプロジェクトを立ち上げる。2015年に大地の芸術祭「うぶすなの家」、2016年に瀬戸内国際芸術祭「レストランイアラ」に参加。2017年には北は北海道羅臼から南は奄美群島まで日本中を巡りながら各地でその土地の歴史と文化、自然と人々の営みを食卓で表現する。2021年、7ヵ月だけの食とアートの実験場sevenを手掛ける。各方面のアーティストとのコラボレーション映画「もったいないキッチン」に出演、クックパッドにて連載など、様々な形で新しい食の在り方を実践し続けている。2023年ウクライナ大使館後援・創業手帳主催の「ウクライナ難民×日本のスタートアップ花見」のイベントでも日本とウクライナを料理をつなげるパフォーマンスを披露した。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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5歳ぐらいから家の調味料で「味変」をしていた


大久保:料理に目覚めたのはいつごろなのですか。

ソウダルア:僕が中学生のときにフードコーディネーターに転向しましたが、母はもともとスタイリストで、父はコピーライターで、2人ともいわゆる業界系と呼ばれる職業だったんです。日本もバブルで盛り上がっていて、両親はあまり家にいず、小学校から帰ってきたら家でひとりという時間が長かったんですよね。

もちろん食べるものは用意してくれていましたが、ただ与えられたものをそのまま食べるということに飽きてきて、調味料がたくさんある家だったので5〜6才頃からいろいろなハーブやスパイス、調味料を加えて味を変える、料理本や漫画がたくさんあったのでそれを再現するという実験のようなことをしていました。

一生懸命料理していたわけではなく、いちばん身近な遊び道具が包丁だったという感じですね。「おいしい」も「まずい」も、結果としてすぐ出るのが面白いと感じました。

大久保:料理の漫画ですか。『美味しんぼ』なんかは人気がありましたよね。

ソウダルア:『美味しんぼ』はど真ん中で好きですね。社会課題に興味を持ったのも『美味しんぼ』の影響が大きかったように思います。

大久保:そこでテレビやゲームにはいかなかったのがすごいですね。

ソウダルア:そこは親もちゃんと対策をしていて、テレビはリビングではなく親の寝室にあって、入った痕跡があると怒られたんです。

子どもにとって、学校から帰ってから寝るまで誰もいないってめちゃくちゃ暇なんですよね。何をやっても楽しくてなんでも吸収できる年齢のときに、料理が好きになってよかったと思います。

中学生の頃に母がフードコーディネーターになり、自宅で料理の撮影をしたり、お店のプロデュースをしたりという様子を見ていたり手伝ったりしていたことが、自分も料理を仕事にするということにつながっていきました。

高校生になって、飲食店でバイトを始めました。そこで初めて、料理と飲食業というのはまた違うんだなという現実を知りました。「料理がこういうふうにお金にかわっていくんだな」という仕組みを理解するのは楽しかったのですが、本当の料理は作るのも食べるのも楽しいハッピーな循環なのに、飲食業になったとたんに楽しさとかけはなれていってしまうんだなということにはずっと悩んでいました。

21歳で東京に出て、表参道にあるいくつかのカフェで働き、途中からはメニューの開発にも関わらせてもらいました。和食なら和食、フレンチならフレンチというように集中的にある分野の料理を修行するというよりも、トレンドに目を向けて同時並行的に各地の料理を学んできたという感じですね。
 
アジアの料理を作りたいと思ったら、インドとベトナムとタイがどう違うのかを体系的に学んできました。また、料理というのは結局人間の歴史でもありますし、食べられないものがあるという制限があったりするので、宗教や人種も関わってきます。

そういう理由から、歴史や宗教など、一見関係ないようなトピックも料理と同時に勉強してきました。そうするとフランスの植民地だったベトナムにフランスパンを使ったサンドイッチ「バインミー」がある理由もすっと理解できます。

アジア人はアゴが小さいためやわらかいものを好む傾向があるので、本場のフランスよりもパンをやわらかくアレンジしているのだな、ということもわかります。

食料だけでは人は生きられない


大久保:ウクライナ支援をしていらっしゃいますが、ご自身も被災経験があるとうかがいました。

ソウダルア:阪神淡路大震災のとき、僕は14歳で兵庫の一宮に住んでいました。周りは瓦礫だらけですべてのインフラは止まり、救助を手伝ったけれど目の前で亡くなる方がいて、生まれて初めて死を直視した体験でした。

冬だったのですごく寒くて、カセットコンロで家族3人で集まって鍋料理を食べたんです。温かくておいしいものを大切な誰かと食べるということが、こんなにも生きる上での救いになるんだな、明日も生きようと思えるんだなと実感できた夜でした。

それと同時に食料だけでは人は救われないということも実感したんですね。学校が避難所だったのでそこでしばらく暮らしていたんですが、体育館って寒いじゃないですか。その中で缶詰や缶パンばかり食べていると心がすさむんです。でも本当に怖いのはその後で、まだ人が密集して暮らしている間は耐えられても、家族を失った人が仮設住宅でひとり暮らしを始めた直後というのが一番自殺が増えたというデータがあります。日々の食料と屋根がついた家があっても、それだけでは人間は生きられないんだなと。

最初はもちろん最低限の支援が必要なんですが、それだけでは不十分で、お花や音楽などのカルチャー的なものや、ただお腹を満たすだけの食事ではなく、おいしいものを誰かと食べるための何かを届けられたらという思いが、今回のウクライナ支援につながりました。

ウクライナの人々においしいものを届けるため、クラウドファンディングに挑戦しました。今度現地に行くんです。家族や子どもたちのためにご飯を作って、現地の花などでデコレーションできたらと思っています。

大久保:ロシア料理は食べたことがありますが、ウクライナ料理と似ているんですか。

ソウダルア:関西と関東のような感覚にも近いのかなと思いますが、ロシア料理として有名なボルシチのルーツは実はウクライナなんですよ。ロシアとウクライナは国としては分かれていますが、本当は近い関係です。残念ながら国のトップはいがみあっていますが、市民どうしはシンプルに助け合えたらいいのにと感じます。

ウクライナ大使に聞いたんですが、戦争が始まったときに、千羽鶴や封筒に入った現金がたくさん届いたらしいんです。もちろん善意なのですが、それらがすぐに現地で困っている人々の助けになるかといわれたら残念ながらそうではないですよね。実際に現地に行かないとわからないこともあると思うので、僕が行ってそうした善意の通り道を作りたいと思っています。シンプルに寒そうな人やお腹がすいていそうな人がいたら温かくておいしいごはんを作ってあげたい、そんな思いで動いています。

2023年ウクライナ大使館後援・創業手帳で清澄庭園で企画主催した「ウクライナ難民×日本のスタートアップ花見」のイベントの模様。ソウダルアさんは圧倒的な迫力のパフォーマンスを披露した。

北海道の羅臼で仕事をしていたとき、晴れているとロシアの領土である国後島が見えるんですよ。北方領土問題は教科書でしか知らなかったけれど、日本から見えるところにロシア領があるのかと驚きました。北海道だと実際ロシア人も住んでいますし、けして対岸の火事ではないんですよね。

「アフリカに飢えている人がいる」とニュースで見てもなかなかリアリティがないですけど、平和な世界であるためには地球上での「対岸の火事をなくす」ことが大事だと個人的に思っているんです。なるべく他人事にせず、自分事にしていくということですね。

食材だけでなく水や空気、風景が欠けても同じ味は再現できない


大久保:出張料理人になったのはどんな経緯だったのですか。

ソウダルア:東日本大震災がきっかけでした。

当時、渋谷で店を経営していたのですが、物理的な被害は免れたものの、扱う食材の安全が担保できなくなったことを理由に店を閉め、出張料理人として全国を巡りその土地の人々の営みの歴史を食卓で表現する活動をはじめました。

SNSなどで告知することで、少しずつ口コミが広がり、北から南までのさまざまな場所に呼んでもらえるようになりました。
 
自然の物はそのままだと固かったり、生では食べられないものなどもあるので、人間界に適切な加工をした形でお届けすることが、料理と料理人の役割だと思っています。その土地の人とのコミュニケーションだったり、海で海水を汲んで塩を作ったりすることを通して、その土地とひとつになっていき、自分自身の境界線も知らず知らずほどけていくんですよね。

人間も生態系の一部であるほうが気持ちいいと思うんです。もともとは一部だったわけですから。「地球を救おう」なんて言ってますけど、何億年先輩だと思ってるんだという話ですよね。

大久保:赤ちゃんが大人を救うっていってるみたいなものですね。

ソウダルア「救う」という視点じゃなくて、「ありがとう」という視点になれたらいいですよね。山があり海があり、いろいろな生き物や目に見えない菌がいて、料理ってそれで成り立っているので、命への感謝である「いただきます」という言葉を僕たちはより意識していくといいのかなと思います。

大久保:料理のテーマなどはどうやって決めるのですか。

ソウダルア:テーマは特に決め込まなくても、その土地で3〜4日過ごしていれば自然にフォーカスするべき食材や調味料などがわかってきます。

子どものころからいろいろな素材や調味料を扱ってきていて、この食材がおいしくなるためには何が必要かという知識や配合は身についているので、組み合わせなどの新しさはありますが、特に難しい技術は必要としないので、地元の婦人会に手伝ってもらったりしていますね。

大久保:日本はその地方によって食材も幅がありますよね。スーパーやチェーン店と逆のことをやられているという印象です。

ソウダルア:それが、スーパーにもよりますが、ちゃんと地元のものを売っていたり、魚コーナーが充実していたりというところも多いんですよ。それを見つけるのも楽しいです(笑)。

大久保:いろいろな場所を訪れて来られたと思いますが、特にここがお気に入りという場所はありますか。

ソウダルア:日本各地の200か所ぐらいで料理をしていますが、本当に全部の土地の食材がおいしかったですね。自分が育った環境では、山菜が採れたり柿をもいで食べられたりという素晴らしい体験はできなかったので、外の人間としてそういったことに注目して照らすのが役割だと思っています。

都会に住んでいると、例えば野菜って早くても前日収穫したものしか食べられないと思いますが、採れたてのキャベツやきゅうりは味も水分量も全然違います。

2015年の夏に大地の芸術祭「うぶすなの家」で農家レストランをやった際、野菜の惣菜や定食を提供したのですが、「こしひかり」の米が「今まで自分は何を食べてきたんだろう?」というぐらい美味しかったんです。

最初は品種などの違いかと思ったのですが、都会でも流通している品種だったのでそうではないはず。その後もいろいろと考えて、炊くのに使っている水が違うんだ、という結論に至りました。使う水や見ている風景、空気、そのうちの何かひとつでも欠けたら同じ味にはならないんですよね。

その季節のその土地を表現する生態系は、空海山と全部つながっています。蒸発した水蒸気が雨になり、降り注いで地下水脈を通って川を通って海に注いでという基礎的な自然の循環がそこにあって、海がないエリアだとしても海との関連はあるんですよね。

おいしいものを作ってくださっている生産者の方ほど、自分が活動しているエリア以外のところまでちゃんと意識されていることが多いです。昆布を育てたり、牡蠣の養殖をされている方たちは、禿山だと栄養価の高い水が流れ込んでこないということを代々ちゃんとわかっていて、山をきれいにする運動に参加しているという話を聞きました。

意識が分断されると「こうやったほうが便利だよね」とか「人間が住みやすいよね」という話になっていろんな工事をするんですけど、結果として土砂崩れを招いたり、津波が来たときに家が流されたりということが起こります。例えば昔からその土地にある鳥居は、「鳥居のこちら側までしか住めないですよ」という印だという節もあります。

大久保:ソウダルアさんは、地方を巡ってその土地の食材や人々に接することで、日本の課題みたいなものを生で感じている方なのかなと思いました。

ソウダルア:そうですね。さまざまな場所を巡って感じているのは、人間が時間軸をもうちょっと長く持つようになれたらということです。

資本主義社会って3年5年、長くても10年ぐらいで回していかないとお金も借りられないですけど、自然のスパンって100年とか1000年とかなんですよね。もちろん人間は自分が生きている間に結果を見たいからなんでもスピーディーに変化させようとするわけですが、そうすることによって自然環境に負荷がかかるのではないかなと感じています。

大久保:それを料理人であるソウダルアさんが提案するのがまた面白いですね。料理というのは「花火か料理か」というぐらいに瞬間的なものというイメージがあるので。

ソウダルア:消えますもんね(笑)。瞬間を楽しむ料理をしているからこそ、長いスパンを考えるのかもしれないですね。時間軸をずらしてみると違うものが見えてくると思っているんです。日本各地を旅していると、自分で10何代目ですという米農家さんや漁師さんに会いますし、人類は縄文時代から料理のようなものをしていました。

その時代からずっと続いていた何かみたいなものを受け取って、これからも伝えていきたいと思っています。「5年でこうなる」という視点も大事ですが、もう少し長いスパンで自分や組織を考えることにもぜひトライしていただきたいですね。

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(取材協力: 出張料理人/現代美食家 ソウダルア
(編集: 創業手帳編集部)



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