ハッシン会議 井上千絵|会社の魅力や長所を社内から発信しよう

創業手帳

最初はミニマムでいいけれど、経営と広報はセットで行うべき

経営に精一杯で、ついつい広報が後回しになっていませんか?

報道記者からキャリアをスタートさせ、大学院を経てPR業界へ。内部からの広報の必要性を感じ、起業した井上さん。中小企業にはまだまだ広報専任者がいないという現状を目の当たりにし、『ひとり広報の教科書』という書籍を出版しました。

彼女はテレビ業界にいたころに、テレビからSNSなど新しい形のメディアに時代が変わっていくことを感じていたといいます。もう一つ起こった社会の変化は「広報の民主化・一般化」ともいえるでしょう。広報は、従来はマスコミが相手にするような、ある程度の規模の会社のものでした。しかしSNSやネットを中心にしたメディア多様化で「広報」の手段も多様化し、民主化・一般化されました。小さな会社でも広報という武器にアクセスできるようになったのです。

結果として、「広報部」のようなチームプレーが可能な大企業と違い、小さな組織の広報はひとりで多様な仕事をこなさないといけないという課題が生まれました。そんな時代に、テレビ業界出身の井上さんがひとりでもできる広報のやり方を広めているのは意義のあることだといえます。

井上 千絵(いのうえ ちえ)
株式会社ハッシン会議 代表取締役/PRコンサルタント。元・名古屋テレビ放送株式会社(メ〜テレ)報道記者。2010~2012年に局を代表してテレビ朝日「報道ステーション」へディレクター出向。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科修士。企業の広報チーム立ち上げ&伴走を支援する株式会社ハッシン会議を2020年に設立。ひとり広報担当者のためのPRコミュニティ(会員75名)を主宰。2022年11月『ひとり広報の教科書』(日本実業出版社)を出版。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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報道記者から大学院を経てPR業界へ

大久保:起業するまでの経緯を教えていただけますか。

井上:2005年に香川県のテレビ局に入社、その後2007年より名古屋のテレビ局にて、報道記者として現場を巡る忙しい生活を続けていました。2010年からの2年間は「報道ステーション」にディレクターとして出向し、政治や事件事故、さらに東日本大震災発生直後からは災害報道にも関わるなど、あらゆるジャンルの取材で全国を駆け回るディレクターとして奔走しました。

2014年に結婚し、2015年に娘を出産しましたが、激務の中、子育てを軽やかに楽しんでいるようなロールモデルが周囲にいませんでした。また、そのタイミングがテレビ業界が大きく変化し、配信動画サービスが立ち上がり、スマートフォンやタブレットでの動画視聴が増加するなど、いわゆる若者のテレビ離れが課題になってきた時期とちょうど重なっていたんです。

大久保:メディアの変化を肌で感じられたんですね。

井上:それまでは記者として自分の目で見たものを伝えてきましたけど、伝える手段はテレビだけではないなと感じました。情報を得る手段も伝える手段も変わってきていて、もっと広い意味でのメディアを見てみたいなと思い、ライフイベントとも重なったタイミングでテレビ業界を外から見てみたいと考えるようになりました。

ただ、テレビ局でのキャリアを、それ以外の業界でどのように生かせるかが明確に見えず、慶應義塾大学の大学院でメディアデザインを学びました。

その後、ベンチャー広報というPR会社に入り、外注という形でのPR業務を担当しました。さまざまなクライアントさんを担当し、PRのスキルや実務など学ぶことも多かった一方で、外部としてのPRに私自身はある意味限界を感じたんです。

例えば「社会課題を解決したい」という熱い思いで会社を立ち上げたスタートアップの方の熱量を冷まさずに世の中に伝えるためには、外部ではなく内部の当事者のPR力を育てていくことが必要なのでは?という思いがありました。

その思いが元になり、2020年に立ち上げたのが「ハッシン会議」です。

大久保:どのような事業内容なのでしょうか。

井上:ひとことで言うと、企業内の広報人材やひとり経営者の方に伴走し、スキルアップを目指すPRコミュニティを運営しています。具体的には、メディアの方を呼んだ勉強会を開いたり、アーカイブでさまざまな動画が視聴できたり、1on1で面談をさせていただいています。

またIPOをめざすような企業に対しては、広報人材の採用や育成、組織作りの支援をする「最強広報の組織作り」というサービスも提供しています。

外部に委託するのではなく、当事者の発信こそが社会を動かす原動力になります。企業の中で持続的に発信活動ができるようにするためには、組織作りも重要になってきます。

大久保:確かに、社長や社内の人が直接思いを世の中に伝えるというのは強いですよね。

井上:はい。ですが100人以上300人未満の企業、約70%に広報担当者がいないというデータ※もあるんです。 ※データ元:株式会社イノーバ

外部にPRを委託できる会社というのは、環境が整っている会社という側面もあります。外部に委託するのは難しいという企業も多いので、小さく始めようという会社を応援したいという思いもあります。

外部で広報を行うと短期間で多くの成果が目指せるかもしれませんが、契約が終わると同時に社内では広報活動をやらなくなってしまうという例を見てきました。内部で広報を行うと、時間はかかるけれど人脈が育つというメリットがあります。

会社の魅力を自分の言葉で語れるようにしておこう

大久保:ひとり広報の難しさというのはどこにあるのでしょうか。

井上:最初の悩みとしては何から手をつけたらいいかわからないということですね。今の時代、広報についての書籍もありますし、ウェブ上にもいくらでも情報はあります。noteやSNSなど、無料で始められる広報ツールも豊富に存在します。ただ、その中から自分の会社にあった広報スタイルとは何かというのをチョイスするのが難しいんですね。

ひとりでリソースが限られている中、全部やろうとする、でも難しいというのが陥りがちなパターンといえます。

大久保:例えば社長の考えを理解し、世の中にわかりやすく伝えることができる編集力や、メディアに適切にアピールできる企画力など、広報に必要な資質っていろいろとあると思うんですが、一番重要な資質は何でしょうか。

井上「会社の長所や魅力的な点を、自分自身が愛をもって語れること」が一番大事なのではないでしょうか。これってなかなか外部からでは難しいことで、自分自身がそのサービスを企画したり、日々のディスカッションに参加しているからこそ、「このサービスや商品はここがいいんですよ」と伝聞形ではなく自分の言葉で語ることが可能になります。

大久保:広報になって、一番最初に取り組むべきことは何ですか。

井上:まずやってほしいのは社長からのヒアリングです。ひとり広報の方の特徴として、所属している組織がまだ大きくないということが挙げられます。だからこそ社長に近いところにいる必要があり、社長の脳内や、なぜ自分が広報にアサインされたのかを理解しておくことが重要です。

自分に何が期待されているのか、広報の結果としてこの先会社がどうなることを目指しているのかを把握しておくと、やるべきことがクリアになりやすいといえます。リリースなどを書く上でも、社長とキャッチボールしながら進めていけるといいですね。

大久保:難易度が高いイメージがありますが、メディアへの露出を目指すためにはどんなことが必要でしょうか。

井上:まずは会社の中で、何に価値があるのかを整理できるといいですね。例えば全員がテレワークなどのユニークな働き方であったり、社長がユニークであったりという、自分の会社のオリジナリティを見極めましょう。

メディア側もどうしたら視聴率が取れるのかを常に考えていますし、ネタがなくて困っているときに相談されたりもするので、今の世の中で起きていることと自社のことをかけあわせてストーリーを作ることができる企画力が大事になります。

例えば新聞やさまざまなメディアの人とコミュニケーションを取るようにしたり、他社のニュースがどのように掲載されているのかを調べて、自社の場合だったらどのようにリリースを書けば取り上げられるのかを考えることも有効です。

自社の取り組みをメディアに伝える際は相手の立場に立ってみることが重要です。メディアの記者が何に興味を持っているかまで考えましょう。社会性のない情報発信は自己満足になってしまうので、そこを削ぎ落とす必要があります。

特に新聞は民間企業に加担したくないという思いが強いです。テレビなどでいろいろな問題が起きたということもあり、報道倫理は最近非常に皆さん意識されています。

「社会がこれを課題に感じている」というところから入っていかないと、企業のニュースの掲載は難しくなっていっている実情があります。ただ、メディアとして「社会のためになりたい」という思いは強いので、「ここでこのように困っている実情があり、それをA社はこのような形で解決しようとしている」というニュースがあれば、伝えなくてはという使命感で取材に来てくれるのではないかと思います。テレビは「絵になるかどうか」という点も加味されるので、新聞とは性質が少し違うかもしれませんね。

書籍『ひとり広報の教科書』で伝えたかったこと

大久保:井上さんが書かれた本を読みました。広報に割けるリソースが少ない場合の進め方について具体的に記載されていてわかりやすいと感じましたが、書籍ができた経緯を教えてください。

井上:ありがとうございます。ひとり広報の方って、皆さん孤独だと思うんですよね。仕事は他にありつつ「広報やってくれない?」と言われるケースも多く聞きますし、相談相手がいなかったり、正しい方法がわからなかったりという悩みを抱えていらっしゃる方が多いんです。そういうときに自分だけで抱えず、気楽に感じてほしいという気持ちで書籍を出しました。

PR業界に入って4年が経ちますが、PRのための書籍は既に世の中にあるけれど、ひとり広報ならではの業務の進め方や実務はまた少し違うなと感じたことも本を出した理由のひとつです。

例えばTwitterで広報仲間を作るとか、会社の中でもひとりで全部やろうとしないでチームで広報活動するとか、ひとりで戦わずに味方を作って広報をしましょうというメッセージを込めました。

大久保:起業した感想はいかがですか。

井上:会社員の時は、注力すべきことは自分のスキルをどう伸ばすかだけでしたが、起業後は経営について知るということに取り組んでいます。会社をやっていく上で一番知らなくてはいけない部分だなと感じます。

事業計画書の作成や採用活動など、初めての経験ばかりでとても勉強になりました。今でもトライアンドエラーを繰り返しながら少しずつ前に進んでいるような状態です。

大久保:想定していたライフスタイルは実現できていますか?

井上さまざまなイベントや子どものことも大事にしながら仕事ができることや、自分自身の判断軸でいろいろなことを決められる今の環境はありがたいですね。関わっているメンバーにも、それぞれの事情を大事にしながら働いてもらえたらいいなと思います。

大久保:最後に、企業が広報をしたほうがいい理由はなんでしょうか。

井上会社を営むということは、物やサービスを人に届けることです。届けるという言葉の中に「知ってもらう」ということは必ず含まれます。存在を知ってもらうために広報が必要ということです。知ってもらう機会がなければ、機会損失になってしまうので。もちろん、最初はミニマムにスタートしても大丈夫です。

事業を営む以上、広報は経営とセットであり、商品やサービスをより多くの人に知ってもらうために一緒に動かしていくべきものだという認識をもっていただきたいですね。


『ひとり広報の教科書 知識ゼロからでも自信を持ってPR活動ができる!』 井上千絵 日本実業出版社

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(取材協力: 株式会社ハッシン会議 代表取締役 井上千絵
(編集: 創業手帳編集部)

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