コロナで2店舗を閉店。助成金・給付金・家賃補助をフルに活用した、生き残り策とその決断プロセスとは?【中村氏連載その1】

飲食開業手帳

売上げ伸ばさず「絞る」! 「100食限定ランチ×ホワイト労働」の繁盛店「佰食屋」オーナー中村朱美氏に学ぶ、これからの時代の飲食店経営のヒント

今、飲食業界では2つの逆風があります。ひとつはもちろん新型コロナ。もうひとつは、若者が少子化で減り、働き手が確保しにくいことです。そのため、ブラック労働になりがちだった飲食の現場に、ホワイト労働化の波が押し寄せています。

そんな中、「佰食屋」の創業者/経営者である中村朱美氏は「1日100食限定」という新機軸で店を繁盛させ続けています。コロナ禍の最中に2店舗を閉じたものの、10月に1号店を訪れてみると、朝から整理券が配られるほどの盛況ぶりでした。

顧客や働き手にとって本来ならプラスであるはずの「売上げ」を限定するという経営モデルは、新しい時代のヒントになり得ます。売上げを制限するというと経営者は身構えて当然ですが、このコロナ禍において、単価1000円で100食を、たった12席で、短時間で確実に売り切る、というスタイルはむしろ売上げも安定的で、優秀な経営といえます。そんな株式会社minittsによる「佰食屋」の経営の秘密に、全6回の連載で迫ります。

中村朱美

中村朱美(なかむら あけみ)
株式会社minitts代表取締役
1984年生まれ、京都府出身。専門学校の職員として勤務後、2012年に「1日100食限定」をコンセプトに「国産牛ステーキ丼専門店 佰食屋」を開業。その後、「すき焼き」と「肉寿司」の専門店をオープン。連日行列のできる超人気店となったにもかかわらず「残業ゼロ」を実現した飲食店として注目を集める。また、シングルマザーや高齢者をはじめ多様な人材の雇用を促進する取り組みが評価され、2017年に「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選出。2019年には日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019」大賞(最優秀賞)を受賞。同年、全国に「働き方のフランチャイズ」を広めるため、100食限定をさらに進化させた「佰食屋1/2」をオープン。従来の業績至上主義とは真逆のビジネスモデルを実現させた経営者として、最も注目される起業家の一人。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計150万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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100食をランチで売り切るスタイルで、コロナ前には4店舗を展開

創業手帳Tシャツ姿の大久保が、京都の1号店にお邪魔してきました!

大久保:昔、LED関西という女性起業家応援プロジェクトで創業手帳で「サポーター賞」ということで表彰させていただきましたね。その後ぐんぐん知名度を上げられていて、素晴らしいです。

先日お店の方にうかがって、限定100食のステーキ丼とハンバーグ、とても美味しくいただきました。

本来ならば売上げを絞るといった、当初からの経営方針などについて詳しく聞きたいところですが、今回はまず、飲食業界を脅かしている今回のコロナ禍の状況について、お聞かせいただければと思います。

京都では全部で何店舗を運営されていたのでしょうか。

中村:大久保さんが来店してくださった、西院の住宅地立地にある「佰食屋」が本店というべき1号店で、国産牛ステーキ丼専門店として運営しています。その開業が、2012年11月29日です。「イイニク(いい肉)」の日ですね。

こちらがオープン3カ月で、ランチのみで100食を完売するようになり、次いで2015年3月に「佰食屋すき焼き専科」、2017年3月に「佰食屋肉寿司専科」という、やはり国産牛ですき焼き、肉寿司の専門店をオープンさせました。そちらはインバウンドも意識して、京都の中心地である河原町、錦市場にそれぞれ作っています。

大久保:100食モデルの横展開を順調に進め、3店舗まで増やされたわけですね。

中村:はい。その後、2018年6月の大阪府北部地震や西日本一円を襲った平成30年7月豪雨などにより、京都の観光業全体がダメージを受けたのを機に体制を見直しました。逆転の発想で100食までいかず、その半分の50食売れれば維持できる店舗モデルを考えました。そうして2019年6月にオープンさせたのが「佰食屋1/2」で、カレーメニューなどを扱っています。

大久保:その4店舗目のモデルによってフランチャイズ展開を構想されていましたよね。

中村:そうなんです。コロナ前には、FC展開を次の事業の柱にと考えて、まず京都市内に直営店を1店舗もったという段階でした。

大久保:それら4店舗に共通するのは、100食、「佰食屋1/2」については50食限定で、その日に売り切るというスタイルですね。

中村:そうですね。営業時間は3時間半で、それぞれメニューは3つに絞るといった共通点もあります。

6月末で2店舗の閉店をスピード決断。その時、従業員の反応は!?

大久保:細かい運営については回を改めるとして、コロナ禍で閉店に至った状況や経緯を聞かせてもらえますか。閉めたのは、「佰食屋すき焼き専科」「佰食屋肉寿司専科」の2店舗ですね。閉店日は6月30日で、印象としては正直、見切りが早かったように感じました。早めに決断しようという意識は強かったのですか?

中村:それはありました。実際にお店に影響が出始めたのは、志村けんさんが亡くなられた報道のあった3月29日からなんです。それまで客足は、むしろ前年対比でプラスだったのですが、同時期に京都では京都産業大学でクラスターが初めて発生したとの報道もあり、そのダブルパンチで、その日を境に、あっという間に来店される方がいなくなりました。それ自体もショックなことでしたが、さらに不安だったのが、この3月、4月の段階ではコロナの影響はいつまで続くのか、誰にも分からないことでした。

大久保:経営者にとっては、先の見通しがつかないのは苦しいことですね。

中村:私たちは常に、統計や大衆動向などの客観的な数字を基に経営判断を行うのですが、それでこの状況を試算すると、4カ月後には全店舗で倒産が予測されました。ですので、一刻も早く何か対策を打つしかなかったのです。でなければ、何か補助金などを使いながら倒産を待つことになっていたでしょう。

大久保:2店舗も閉店するとなると、全ての従業員の雇用を守ることは難しかったでしょう。皆さんの反応はどのようでしたか。

中村:それが有難いことに、従業員のメンバーのほうから「これだけ外に出ても誰も歩いていないし、もう無理なのは分かっているから、朱美さん決断してくれていいですよ」と声をかけてくれました。「朱美さんは転職できないけれど、私たちは転職できるから大丈夫です」と、皆がさも楽しげに「どこに転職しよう~」などとわたしの前で話してくれたりするんです。そんな従業員の思いも後押しとなって、できるだけたくさんのメンバーを助けるために、赤字が膨らみすぎる前に決断をしなければと覚悟し、4月11日にはもう閉店を決断していました。

大久保:それは泣ける話ですね・・・。経営者として苦渋の決断だったと思います。

中村:そうですね。ですが決断を早くできたおかげで、失業保険の手続きも4月中には終えていました。会社都合による解雇の場合は、給付制限期間なしに速やかに給付を受けられるなど、失業手当を有利な条件で受給できます。また、私たちは解雇予告手当として1カ月分多く賃金を支払うなど、できるだけ多くを得られるような形で手続きを行いました。それは、赤字がかさんでしまってからでは難しかったでしょう。また、4月の段階ではまだ世間一般での解雇者数も膨らんではいなかったこともあり、すぐ次の職を見つけられた従業員もいたようです。

大久保:倒産、破産までいってしまうと、何もしてあげられませんから、よい決断だったといえますね。

中村:そうなんです。頑張って耐えるというのは、耐えられるかどうか分からないまま進んでいくことなので、もし耐えられなかった場合には解雇予告手当も払えず、場合によっては最終月の賃金も払えないまま、私も破産するとなってしまっては誰の得にもなりません。できるだけお金を渡せる体力があるうちに、解雇予告手当を渡すほうがよいと判断しました。

生き延びるために、給付金・助成金はフル活用

大久保:コロナ禍はたしかに緊急事態ではあるものの、解雇してしまうと責任問題を問われかねない面もあるかと思います。しかし、総合的に見て全体のリスク度合いと幸福度合いを天秤にかけた結果の、責任ある決断だったわけですね。

中村:そうです。全ての従業員にできる限りのことをできる、最善の策だったと思います。後に検証もしましたが、やはりあの時点で閉店していなければ、倒産は免れなかったでしょう。

祇園や先斗町、錦市場などのお米屋さんや酒屋さんに納品の状況を伺うと、かなり戻ってきたとはいえ、9月時点で前年対比50%程度とのことでした。もし河原町と錦市場の2店舗がそのような売上げ状況であれば、現時点でもう倒産していた試算ですから、あの決断は正しかったと思っています。

大久保:持続化給付金などの支援策は何か活用されましたか?

中村:持続化給付金は早々に申請して、法人の上限額である200万円の支給を受けられました。実際、200万円の最終利益を出そうとすれば何カ月もかかることを考えると、この支給のおかげでその何カ月か分を生き延びられたわけで、やはり経営の再建を図るには非常に重要なお金だったと思います。

また、手続きが煩雑ということで申請していない方も多いようですが、家賃支援給付金も申請し、8月上旬には入金されてとても助かりました。やはり家賃負担というのは大きいので、それが少し軽減されるだけでも、客数が前年対比で減った分を賄えるくらいにはなりました。生き延びるには助かる金額でしたね。

大久保:いろいろと活用されたのですね。

中村:ほかにも、4月5月は小学生のお子さんのいる従業員は休んでもらったので、新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金と、4月には一部、雇用調整助成金も申請しました。

大久保:なるほど、支援策を賢くフルに利用されていますね! あと、今回ぜひ中村さんに直接伺いたかったことがあります。8月頃に一部メディアでminittsが2020年内をめどに事業承継先を探すという報道が見られました。あれはどういうことでしょう?

中村:事実とは異なる書き方をされてしまったので、少し補足をすると、こちらから意志を持って探しているわけではなく、可能性としては条件が合えば考えてもいいのかもしれない、といった程度の話です。

将来的にメリットがあってシナジー効果が見込めれば他社との協働もあり得るし、たとえば今経営が難しいとされている居酒屋業態チェーンが新規事業としてランチ事業に取り組まれる場合に、当社のメニュー力でシナジーが期待できるようなことがあれば、M&Aというのも考えられるかもしれない、という話でした。

大久保:全くニュアンスが異なる形で書かれてしまったわけですね。安心しました。

コロナで再認識した「女性だけで運営」できる飲食モデルは、フランチャイズ向き?!

大久保:フランチャイズ事業についてはどうですか? もともとモデル店舗として「佰食屋1/2」をオープンさせ、そのお店も続けられていますが。

中村:フランチャイズに関しては、コロナ禍からの立ち上がり期にある今、とても可能性を感じています。多くの飲食店が閉店するなど、いわば淘汰されてしまいましたが、実はステーキ丼の「佰食屋」は緊急事態宣言下においても常に完売していたのです。改めて、このメニュー力女性だけで現場を賄える働きやすさ、しかもお昼だけという組み合わせの強さを大いに実感しました。ですから、このモデルでのフランチャイズ化を将来的に考えたいという思いを強くしましたね。

大久保:なるほど。メニューが絞られているのは、フランチャイズ向きといえそうですね。課題はありますか?

中村:候補者の選定や物件探し、工事の管理などには一定の手間がかかります。また、そういう仕事をする時間が、今の私にはないので、場合によっては当社のフランチャイズ事業を担ってくれる会社を探すことはあるかもしれません。提携して進めるのは現実的かと思います。

大久保:そういえば、2019年6月にオンエアされた『ガイアの夜明け』で既に、フランチャイズ展開をいつかやってみたいと発言されていましたね。かなり反響があったのではないですか?

中村:そうなんです。あれ以来、フランチャイズを希望される問い合わせがこの1年で100件以上はあり、反響の大きさに驚いています。モデルとして実践しやすく、日中だけという働きやすさも好評のようです。日曜を定休にしてもよいというスタンスも、飲食店にありがちな「働きづめ」のイメージと異なっているといわれますね。

将来フランチャイズ展開をする際には、シングルマザーの方や高齢の女性に優先的にオーナーになっていただくのが「佰食屋」らしくてよいのではという案も、社内では出ています。ただ、実際にはまだまだ悩んでいるというのが正直なところです。

大久保:ブレーキとなるのは、何でしょうか。

中村:やはりコロナの影響で私たちの組織も人数が減りましたし、店舗も半分に減った中ですから慎重にならざるを得ません。

また、メニュー内容についても悩んでいて、フランチャイズモデルとしてつくった「佰食屋1/2」ではなく、1号店の看板メニューであるステーキ丼のメニューでFC展開するのがよいのではという点です。

ただ、そうしたコロナの中で改めて気づかされたのが、女性だけでも店舗を運営できるという事実です。実はコロナを経て、従業員の女性比率が非常に高まりました。いま男性は正社員1人とアルバイト1人だけで、実際に女性だけでお店を営業している日が少なくありません。

それを見たときに、本当に女性だけでこのステーキ丼のお店をこれからやっていけるなと、この2~3カ月間見ていてすごく実感したんですよね。

大久保:女性オーナーによるステーキ丼専門店ですか。従来であれば、飲食店で商材がステーキといえば、男性オーナーというイメージですが、女性も入りやすいお店になりそうでいいですね。

中村:お肉のお店ってけっこう油でベタベタしたりするんですけど、女性って掃除もこまめに行き届くので、そのあたりを払拭できるというのもいいと思っています。もちろんまだ検討段階で、確かなことは何も言えないのですが。

大久保:展開が実現すれば、また「佰食屋」が新しい旋風を巻き起こしそうで、楽しみです。 

では、次回は「佰食屋」の開業ストーリーを振り返り、資金調達や運営ノウハウなどを詳しくうかがいたいと思います。引き続きよろしくお願いいたします。

(次回に続きます)

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(取材協力: 株式会社minitts代表取締役 中村朱美
(編集: 創業手帳編集部)

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