「妊活」をともに支え合う社会へ アプリ「ファミワン」開発者の挑戦

創業手帳

社会問題に取り組む石川勇介代表に話を聞きました

(2019/02/08更新)

夫婦の6組に1組は「妊活=妊娠に向けた活動」に取り組んでいるといいます。しかし、
妊活はデリケートな問題であるという認識が強く、「不安や悩みを誰に相談すればいいか分からない」、「夫婦で話しても答えは見付からずに喧嘩になってしまう」、「そもそも何をしたらいいか知らない」、といった様々な障壁があるのが現状です。

株式会社ファミワンの石川勇介代表は、自身も妊活に悩んだ経験から、妊活をサポートするサービス「ファミワン」を開発しました。2015年6月設立のスタートアップながら、妊活をテーマにしたドラマ「隣の家族は青く見える」(2018年1月~3月、フジテレビ系)の監修も務めるなど、着実に認知を広げています。社会問題に取り組む石川代表の想いと、創業エピソードを聞きました。

石川 勇介(いしかわ ゆうすけ)
2006年3月慶應義塾大学経済学部卒業。飲食系ベンチャー企業、国内ERPパッケージベンダー企業、国内最大級の医師向け情報提供企業にて勤務後、自身も悩み取り組んだ妊活分野にて独立。結婚後、約1年間の妊活を経て、2015年7月に第一子が誕生。

「妊活の成功には正解がない」自身の経験から得た気づき

ー提供しているサービスの概要を教えてください。

石川:妊活に取り組む人、取り組もうと思っている人を支援するサービスです。妊活に取り組む人の悩みは大きく分けて3つあります。「情報が溢れすぎていて、何から始めたらいいか分からない」、「誰にも相談できない、相談しようと思わない」、「周囲から理解を得られず、当事者だけがストレスを抱えてしまう」、というものです。ファミワンは、こういった悩みに対して、専門家がLINE上で適宜情報提供、アドバイス、メッセージ送信などを行うサービスです。

ーどんなフローで運用しているのですか?

石川:利用者のほとんどは「妊活に向けて何をすればいいか分からない」というところから始まります。なので、ユーザーにはLINE登録後、まずチェックシートを送って記入をお願いしています。最初は「シートに答える」という受け身の姿勢でよいので、現状の振り返りを行い、悩みを整理してもらいます。そして、その情報をもとに不妊症看護認定看護師やピアカウンセラーといった専門家がアドバイスを返すという形でサポートしています。情報が蓄積されればされるほど、どのユーザーにどんなアドバイスが必要なのか、という情報の精度が上がっていく仕組みです。

現状、利用した約6割ものユーザーがアドバイスに対してフィードバックを返してくれており、95%が「継続して利用したい」と答えてくれています。単なる知識面だけでなく、感情面など全般的にユーザーを支えていこうという考えでやっています。「寄り添っていただけて気持ちが楽になりました」、「非常に励みになります」、「(アドバイスを)何度も読み返しています」といった声が数多く届いています。

実際の利用イメージ

ーなぜこの事業を立ち上げようと思ったのでしょうか?

石川私自身の妊活経験がきっかけですね。妊活に取り組んでいる間、妻と何度も話し合いや喧嘩をしました。そもそも何をするべきか、病院に行くべきかどうか、一旦妊活をやめて時間を置いた方がいいのかなど、自分たちでは解決できないさまざまな悩みが出てきました。こんな状況が、病院に相談する前も後も続いたんです。当時は、どの情報を信じたらいいかわからず、夫婦での話し合いも平行線で前になかなか進めませんでした。妊活という大きな課題を十分にサポートしてくれるサービスがありませんでした。

かつて私は医療系の企業に務めていたこともあり、妊活をしていた当時、ネットで検索すると上位に出てきた医療系キュレーションサイトの情報などについて、エビデンスや確かさをチェックする習慣がありました。すると、Web上に出ている情報の多くは非常に不確かであるということに気づき、危機感をいだきました。

私達夫婦が妊活に成功しても、後から妊活に悩む人たちが同じ悩みに直面することになる。このまま誰もやらなければ、自分たちの子ども世代も同じように妊活で悩むことになるかもしれない。ならば、私が確かなサポートができるサービスを作ろうと思ったんです。

ーご自身の妊活経験から得られた「気づき」を教えてください。

石川:「妊活の成功には正解がない」ということがわかりました。

世の中には「これをすれば妊娠する」という情報が溢れているのですが、しっかりとしたエビデンスがあるものは、実際ほとんどありません。治療すれば妊娠できるというものでもありません。結果的に私達夫婦は子どもを授かることができましたが、たまたま成功しただけかもしれない。本当のところは誰にも分からないんです

そういった現実も専門家からしっかりと伝えた上で、「妊活にはどんな選択肢があるのか」という判断を夫婦で行う材料を提供したい、というのがファミワンを立ち上げた理由の一つでもあります。

ーセンシティブな問題に関わる事業で、どのように認知を広げているのでしょうか。

石川:現状、ファミワンのユーザーは、ネットで妊活について検索した結果存在を知った、という方がほとんどです。このルートだけでは、妊活について検索するほど興味がある人以外にはあまり広がっていかないということもあり、現在取り組んでいることが2つあります。

一つは企業との連携。会社の福利厚生として、ファミワンのサービスを社員は無料で使えるようにし、加えて役職者や新入社員に対して「そもそも妊活って大変なんです」ということについて伝えるセミナーを行ったりしています。ダイバーシティ&インクルージョンやSDGsが広まってきていますが、企業の風土から変えていき、自然と妊活についても意識する社会になればと考えてます。

もう一つは、世の中を変えていくソーシャルアクションです。東京都主催のセミナーを始めとする各種イベントでの登壇や、2018年に放送された深田恭子さん主演のフジテレビのドラマ「隣の家族は青く見える」の監修などを行っています。そして、現在妊活をしている人だけではなく、すでに経験した人や、若いけれどこの課題をなんとかしたいと考えている人からファミワンを応援してもらえるような場を作っています。Facebook上で交流会を開いたりとか、ユーザーのヒアリングを手伝ってもらったりとか、一緒にこの領域を変えたいと思ってくれる人が少しでも増えていけばいいなと思っています。

妊活の敷居を下げ、いろんな選択肢を知るきっかけを作りたい

ーファミワンを通じて、社会にどんなインパクトを与えたいと思っていますか。

石川妊活を考えることへのハードルや敷居を下げて、もっと早い段階から妊活に向き合っていこうという雰囲気を作っていければなと思っています。ファミワンのターゲットを「妊活で悩んでいる人、不妊治療する人」に限定するのではなく、これから妊活しようと思う人や、自分には必要ないと思ってたけどいつか子どもがほしいし使ってみようかくらい人も使えるような心理的ハードルを下げて利用してもらえるような形も理想の一つですね。

というのも、妊活って実際に問題に直面して、そこで初めて考え始める人が多いんです。もっと早くに妊活を意識していれば、その分いろんな選択肢を考えることができたんじゃないか、みたいなケースも多々あります。例えば、妊娠率が下がる大きな原因は年齢ですが、「3年前に妊活を始めていたら妊娠率ももう少し高かったのに」という後悔をする方はとても多いです。

後から「そうだったのか」と知るよりは、早い段階から「こういう選択肢があるから考えてみよう」みたいな気軽さで、偏った情報や知識ではなく、フラットな立場で専門家の情報を知るほうがいいと思います。

ードラマ「隣の家族は青く見える」の監修は、どんなきっかけで携わることになったんでしょうか?放送後の反響や変化などについても教えていただきたいです。

石川:ドラマは、私の友人を介してドラマの関係者とつながり、紹介してもらったのがきっかけです。創業以来、妊活や不妊の領域を変えようという信念は変わらず事業を進めてきたので、周囲の友人やメディアの方にも「こんな姿勢で事業をやっているファミワンの石川という人物がいる」と少しずつ理解と認知が広がっているように思います。

サービスのファンを作ることにも似ているのですが、愚直にやっていることを発信し続けることで、協力してくれる人が増えていき、なにかあった時に関係を繋いで貰える機会が増えます

反響に関しては、ドラマを通じて、社会的に妊活の大変さへの認知が広まったと感じています。現実に即した非常にリアルな内容だったので、妊活当事者はもちろん、妊活に取り組む人の親世代や若い世代の人からも「こんなに大変なんだ」といった声が寄せられています。妊活を意識していない人への啓蒙のきっかけになったのではないかと思います。

ー起業にあたって一番苦労したこと、嬉しかったことを教えてください。

石川プロダクトづくりに非常に苦労しました。妊活は、どの課題にどんな価値が提供できるのか、すぐに正解は見つからない領域です。このサービスであればより多くの人に届けられるというところがわかるまで、何度もピボット(方向転換)を繰り返しましたし、ヒアリングも相当数重ねました。

とにかくひたすらサービスを作って、使ってもらって、フィードバックを見て修正していくことの繰り返しです。当事者としての想いや、この領域を変えたいという気持ちがあったからこそ、苦労を乗り越えることができました。

嬉しかったこととしては、ユーザーから「誰にも言えなかったことをここで話せて良かったです」、「病院に行く決意ができました」といった言葉を聞けたことですね。あとは、ファミワンを通じて妊活へのいろんな選択肢を伝えたいという思いもあるので、「敢えてアクションを起こさず、もうしばらく夫婦で取り組んでみると決めました」、「治療をやめることも考えてみます」という声もうれしいです

ー起業家に向けてメッセージをお願いします。

石川「自分がなぜやるのか、どんな社会を作りたいのか」という意識を強く強く持つことが大事です

事業として成り立つためにどうマネタイズしていくか、という視点を持つことも重要ですが、マネタイズの方法は、自分が解決したい課題につながっているのであればちょっとずれていてもいいんです。収益化できる部分で出した利益を、本当にやりたい課題に投入するというのも方法の一つだと思っています。啓蒙など収益が難しい課題に対するサービス提供だけに絞り込んで事業を考えてしまうと、視野も狭くなってしまいます。特に、社会課題に取り組む事業の場合はお金になりにくい領域が大きいので、まずは将来的にシナジーのありそうな領域から取り組んで、本当に取り組みたい事業は選択肢やスキルが定まってから挑戦するというイメージです。ただし、この時、迷いそうになった時や目先の利益だけにとらわれないためにも、核となる強い意志や信念が必要です。

起業は、基本的に困難の連続です。困難は、自分一人じゃない形で、チームで乗り越えていけるといいですね。起業家は一人でなんでもやらなきゃと思いがちですが、一人でできることには限界があります。いろんな情報や友人、パートナーに頼りながら進む必要があるのです。これは、過去の自分に対して言いたいことでもあります。

格言

マネタイズは本当にやりたいことから少し離れていてもいい。社会を変えるという事業への強い意思があれば迷わない

(取材協力:ファミワン/石川勇介
(編集:創業手帳編集部)

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