サイエンスアーツ 平岡秀一|ワンプッシュでコミュニケーション!デスクレスワーカーをつなげるプラットフォーム「Buddycom」で社会課題を解決
JAL・JR・イオンで高評価獲得!現場コミュニケーションの革命児が語る市場開拓の極意
さまざまな領域において急ピッチで進められているDX推進。多くの業界で効率化や生産性向上を目的に浸透しつつありますが、これまでデジタル化が難しいとされてきたのが小売や製造、輸送などの幅広い現場で働くデスクレスワーカー市場です。
この巨大市場が直面していた課題をDXで解決した企業として、サイエンスアーツが高い評価を受けています。
同社は「世界中の人々を美しくつなげる」をミッションに掲げ、オフィスではない、現場で働く人を指す独自のキーワード「デスクレスワーカー」を生み出しビジネスを展開。デスクレスワーカーをつなげるライブコミュニケーションプラットフォーム「Buddycom(バディコム)」の開発・販売を行っています。
今回は代表取締役社長を務める平岡さんの起業までの経緯や、デスクレスワーカー向けの市場開拓の極意について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。
株式会社サイエンスアーツ 代表取締役社長
1984年日立西部ソフトウェア株式会社(現・株式会社日立ソリューションズ)入社。主に銀行や証券会社で利用される、OLTPの設計・開発に従事。その後マイクロソフト株式会社(現・日本マイクロソフト株式会社)へ転職。2001年株式会社インスパイア取締役、2002年日本駐車場開発株式会社の監査役に就任。自分でソフトウエアをつくりたいとの思いから、2003年株式会社シアンス・アール(現・株式会社サイエンスアーツ)設立。父親がスマホでメールを打つのに苦労していたのをきっかけに、誰でも簡単にコミュニケーションできるツールBuddycomを開発。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
日立・マイクロソフトでキャリア形成!ストックビジネスに出会い起業を決断
大久保:まずはご経歴についてお聞かせ願えますか。
平岡:大学卒業後の1984年4月、日立西部ソフトウェア(現日立ソリューションズ)に入社し、あらゆるシステムのプログラミングを行いながら実績を積みました。
1996年1月にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に参画。同社ではコンサルタントとしてキャリア形成したあと、2001年2月に投資コンサルティング会社のインスパイアの取締役およびインスパイア・ストラテジッグ・コンサルティングの代表取締役社長に就任しました。
2002年6月からPlan・Do・Seeの取締役を務め、2002年10月に日本駐車場開発の社外監査役に就任。この日本駐車場開発での経験が、現在のサイエンスアーツの事業を構築するうえで活きています。
大久保:ストックビジネスで成功されたそうですね。詳しくお教えください。
平岡:日本駐車場開発にはインスパイアでの業務と並行して未上場の時期からずっと携わっていたのですが、「ストックビジネスは可能性が大きい」と実感しました。
同社はビルオーナーの賃料収入を最大化すると同時に、契約会員に便利かつサービスの行き届いた駐車場を提供するというビジネスモデルで運営しています。社会問題である交通渋滞や違法駐車の減少にも貢献している会社です。
「ビルオーナーの賃料収入を最大化」がポイントなのですが、ビルには規模によって駐車場を担保しなければならない「附置義務」があります。ところが、ビルの入居者のほとんどがそのビルの駐車場を借りることはありません。
そこで同社は、「空いた状態のままになってしまっている駐車場を有効活用しよう」と目をつけました。
ビルオーナーから空き駐車場を借り上げ、継続的な契約を結んでいる会員に提供します。その結果として、どんどんストック収益がたまっていくんですね。満足度が高いため解約も極めて少なく、一気に成長しました。
大久保:そのご経験を基に、現在御社で提供されているサービスにストックビジネスのひとつであるサブスクリプションを採用されたんですね。起業にあたって、システム開発事業を選んだ理由についてお聞かせください。
平岡:起業までの間に投資関連業務なども経験しましたが、「やっぱりソフトウェア開発を行う会社を作りたいな」と実感したからです。
キャリアのスタートが日立でのプログラマーでしたし、特にマイクロソフトはプロダクトで大きな利益を出す会社でしたので、そのダイナミズムが自分の性に合っていたんですね。
こうした経緯で2003年9月に前身となるシアンス・アールを設立し、代表取締役社長に就任しました。その後、2019年10月に現在のサイエンスアーツに社名変更しています。
デスクレスワーカーをつなげるライブコミュニケーションプラットフォーム「Buddycom(バディコム)」
大久保:御社のサービス内容についてお教えください。
平岡:弊社では「世界中の人々を美しくつなげる」をミッションに掲げ、デスクレスワーカーをつなげるライブコミュニケーションプラットフォーム「Buddycom(バディコム)」の開発・販売を行っています。
「Buddycom」の特長は、インターネット通信網(4G・5G・Wi-Fi) を使用した音声・映像のプッシュツートークにより、チームのリアルタイムコミュニケーションを実現していることです。
スマートフォンに「Buddycom」をインストールするだけでなく、世界中の音響機器メーカーと協力して周辺機器を提供することで、あらゆる業種・職種のデスクレスワーカーに適した使用を可能にしました。
「かんたん・はやい・間違わない」ワンプッシュでのライブコミュニケーションの提供により、デスクレスワーカーの移動・伝達・確認業務を削減し、集中すべき業務の遂行に貢献しています。
大久保:デスクレスワーカーの定義についてお聞かせください。
平岡:デスクレスワーカーとは世界の労働者の大半である、机の前に座らない「現場」の最前線で活躍する労働者のことです。世界の労働人口のうち27億人、労働人口の80%を占めています。
小売・製造・輸送・建設・医療・介護・教育・農林漁業など幅広い産業に従事していますが、弊社はこのエリアにテクノロジーが浸透しづらい状況が続いているという問題に着目しました。
デスクレスワーカーの多くがその都度スマートフォンを開いて確認することが困難な環境下で働いていますので、それぞれの業種や職種に最適な各種周辺機器と合わせて使うことで、いつでも隣にいるような感覚でやりとりできるシンプルで多彩な機能を提供しています。
数百人・数千人でも運用できて、テキスト化や翻訳、映像配信も可能です。万全のセキュリティ体制を整え、初期費用なし、免許も不要でご利用いただけます。
世界の労働人口の80%を占める巨大市場の課題を認識し、プロダクトを改良
大久保:世界の労働人口の80%を占めるデスクレスワーカーの領域は、大きな可能性を秘めた非常に魅力的な市場です。この市場向けのプロダクト開発を決めたきっかけについてお教えください。
平岡:実は最初からデスクレスワーカー市場に目をつけたわけではありませんでした。開発のきっかけは、私の父がスマートフォンに難儀していたことに気づき、「なんとかできないかな?」と考えたことなんです。
父はパソコンが得意で、公私問わずスムーズに活用していました。ところがスマートフォンを手にした途端、チャットやメールがものすごくやりづらそうだったんですね。
その姿を見て、「もっとかんたんにコミュニケーションが取れるツールを作れないだろうか?」と。すでに前身のシアンス・アールを運営していましたので、この発想を基に製品開発を進めました。
こうした流れで2015年に誕生したのが、「Buddycom」の前身にあたるスマートフォンIP無線サービス「Aldio(アルディオ)」です。2019年の社名変更と同時に、サービス名を「Buddycom」に変更しています。
大久保:デスクレスワーカーに特化したプロダクトとして改良された理由についてお聞かせください。
平岡:たまたま最初のお客様から「デスク以外で使いたい」とご要望をいただいたことが発端です。このときあらためて、デスクレスワーカー向けのDXサービスがまったく浸透していないことに気づきました。
デスクワーカー向けのサービスはZoomなどあらゆるソフトウェアが飽和状態で、プロダクト開発側の視点で見ると売るものがないなと。一方、デスクレスワーカーはスマートフォンやタブレットが支給されているものの、これらのガジェットで活用できるサービスがほとんどなかったんです。
そこで再度綿密な市場調査を行い、「この領域に注力するべきだ」と判断して急ピッチで進めました。
大久保:「デスクレスワーカー」というキーワードを生み出したのも御社だそうですね。ひと目で市場や顧客ターゲットがわかりますし、素晴らしいアイデアだと実感しました。
平岡:ありがとうございます。市場へのアプローチはもちろんですが、資金調達時の投資家への説明でも明確に訴えることができるんですね。具体的なマーケットが見えますし、規模感もイメージしやすいというメリットがあります。
弊社のサービスは「外で働く方や立ち仕事をされている方」がすべて対象ですので、誰が見てもわかりやすい・伝わりやすいことが重要でした。良いキーワードが作れたと自負しています。
サイエンスアーツ流の緻密な営業戦略!大手企業からサービス浸透させた理由
大久保:「Buddycom」はJALやJRなど、日本を代表する大手企業各社で利用されていると伺っています。もちろん中堅・中小企業にも最適なサービスですが、社内全体の生産性改善などを目的に全社一括数万人規模で導入するケースでは、より大きな効果を発揮しそうですね。
平岡:おっしゃる通り、「Buddycom」は企業規模を問わず、どんな現場にも最適なDX推進プロダクトです。
そんななかで現在大手企業を中心にご利用いただいているのは、弊社の営業戦略でもあります。中堅・中小企業で構成されるSMB市場での推進から始めると、大手のエンタープライズ市場におけるシェア獲得が難しくなるからです。
そのため、まずはエンタープライズを優先させ、徐々にSMBでの認知度向上およびシェア拡大を目指そうという方針で進めてきました。このスタンスを徹底することで弊社は成功したと思っています。
大久保:身近で獲得しやすいところからではなく、後々の波及効果が大きな領域から始めるのが大切ということですね。
平岡:SMBからシェア拡大を目指すベンチャーやスタートアップが多いですが、弊社は真逆の戦略を選びました。いずれSMBもすべて狙いたいと考えていたからです。
エンタープライズでもSMBでも不動の地位を築きたい場合、最初はぐっと我慢して大手企業からいかないと難しくなるのではないかなと思います。
大久保:JALでのサービス導入は大きな分岐点だったそうですね。
平岡:はい。エアラインのシェア獲得を重視していましたので、ご導入いただけたことで弊社のビジネスは飛躍的に伸びました。
エアラインの重要性は、マイクロソフト時代に学んだことです。エアラインに浸透すれば、流通領域の獲得もスムーズになります。弊社にとってJALとJRでご利用いただけたことは本当に大きかったです。
秒で決まるプレゼン!現場至上主義を貫いた結果、多くの顧客の高評価を獲得
大久保:「Buddycom」の成功を確信されたタイミングについてお聞かせください。
平岡:「これはきっとうまくいく」という確信を得たのは、JAL・JR・イオン各社での評判がものすごく良かったことです。しかもトップダウンではなくボトムアップで受け入れてくださり、ありがたい高評価をたくさんいただきました。
この「ボトムアップでの評価の高さ」が弊社の強みのひとつでもあります。
弊社は一貫して「現場至上主義」を理念に開発や改良を行っていますので、現場を熟知されている現場責任者や従事者の方々を重視しているんですね。現場でご活用いただくプロダクトですので、当然のこととしてブレずにやってきました。
トップダウンのプロダクトは解約リスクが高いですが、ボトムアップは現場の皆様が支持してくださいますので長くご利用いただけるというメリットもあるんです。弊社がデスクレスワーカー領域でトップシェアを取れた勝因でもあります。
大久保:「Buddycom」を使った瞬間、感嘆される方が多いと伺っています。
平岡:はい。たとえばコロナ禍でZoomを活用した営業が浸透しましたが、オンラインでお話ししながら「Buddycom」をインストールいただくんですね。「ボタンを押してみてください」と促し、そのまま会話することができると、皆さん「すごい!」とうれしそうに驚かれます。
「Buddycom」に触れた瞬間、「これは本当に良いものだ」とご理解いただけるんです。弊社では「秒で決まるプレゼン」をモットーに、小難しい話ではなく実際に「Buddycom」を使っていただくことを優先しています。
大久保:DX推進が難しかった市場において「Buddycom」は待望のサービスですね。「かんたん・はやい・間違わない」ので使いやすく、ストレスなくつながれる安心感もあります。
平岡:弊社の「Buddycom」は、これまで現場従事者が抱えていた孤独の解消にも貢献しています。
どの現場でも顧客対応や作業にあたる場面で、「誰にも頼れない」「不明点などをすぐに確認することができない」などの問題を解消しきれずにいました。
特に定年退職後に新しい現場で働く方々や、学生や社会に出たばかりの未経験の方々は、大きな不安を抱えながら従事せざるを得ないケースが多く、働きづらいのがネックだったんです。
こうした現場に「Buddycom」を導入することで、どの従業員の方にも「ひとりじゃない」という安心感をもたらすことができ、生産性向上にも寄与していると市場に認識されました。
大久保:「Buddycom」があるかないかで大きく変わってくるわけですね。
平岡:はい。1人の従業員に常時サポートを1人つけるのは現実的に難しいですが、その部分を「Buddycom」ならカバーできます。
これまで周りに「助けて!」と言いづらかったのが、「Buddycom」で「ヘルプお願いします!」と声をあげるだけで、「こちらの作業が終わったのですぐに行きます!」とちょうど手が空いた方が誰かしら飛んでこれる環境を作れるようになりました。
しかも年代を問わず対応可能なサービスとして開発されていますので、「多くの孤立問題を解決できた」という喜びのお声を日々いただいています。
起業家にとって重要なのは、信頼のおける優秀な人材とともに良い会社を作ること
大久保:今後の展望についてお聞かせください。
平岡:弊社はこれまで大手企業や官公庁といったエンタープライズ市場を中心にシェアを獲得してきましたが、これからさらに伸ばしていく段階にあります。
おかげさまで各業種の中心となる企業にご活用いただいていますが、まだまだ「Buddycom」をご存知ない方も少なくありません。今以上に市場認知度を上げ、シェア獲得に邁進したいと思います。
また中堅・中小企業のSMB市場については、積極的に強化していくマーケットです。先ほどお話しした通り、弊社は営業戦略としてエンタープライズから開拓しましたので、SMBでの認知度が高くないんですね。今後は認知向上とシェア拡大を狙っていきます。
国内はもちろんですが、アメリカを中心に海外展開も進めながら、世界中の企業に「Buddycom」をご利用いただきたいです。
大久保:最後に、起業家に向けてメッセージをいただけますか。
平岡:会社を運営するにあたって最も重要なのは「従業員」です。自分ひとりで事業を進めることはできませんし、信頼のおける優秀な人材の獲得が企業の命運を左右すると言っても過言ではありません。
私も弊社の設立後、日立・マイクロソフトで一緒にやってきた人間がずっと在籍してくれたことがものすごく励みになりました。どんなに苦しい時期でも辞めずに、常に支えてくれたんですね。私ひとりだったら諦めていたと思います。
人材を見極める際には、業務遂行能力だけではなく人間性まで加味することが大切です。ぜひ素晴らしい仲間に恵まれた良い会社を作っていただきたいですね。
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(取材協力:
株式会社サイエンスアーツ 代表取締役社長 平岡 秀一 )
(編集: 創業手帳編集部)