Casie 藤本 翔|「カジュアルアート」でアート市場の裾野を広げる戦略とは?

創業手帳人気インタビュー

「誰もが一枚のアート作品を飾る世界を作る」創業者藤本氏が、今は亡き画家の父から受け継いだ思い

Casie
「画家になりたい」と思うことはあっても、絵で生計を立てるのは難しいために、夢を諦めていく。今の日本の絵画業界、アート業界は、ほんのひと握りのトップ画家だけが絵一本だけで食べていける、といった世界です。

株式会社Casie(かしえ)の藤本翔氏は、総合商社・コンサルティングファーム出身。いわゆる「ビジネスエリート」で、キャリアの上ではアートのバックグラウンドがあるわけではありません。しかし同氏は、Casieの事業を通じて「アートを民主化する」ことで、「小学生の人気職業ランキングで、画家が上位にランクインするようにしたい」と述べます。その思いの裏には、画家であったお父様の存在がありました。

藤本氏がCasieを創業された経緯や、Casieの事業内容、これまで培ってきたビジネスとサイエンスの力で「アートを民主化する」戦略について、創業手帳の大久保が迫ります。

藤本 翔(ふじもと しょう)
株式会社Casie 代表取締役CEO
1983年大阪生まれ。亡き父が生涯画家を貫いたが作品発表の機会を満足に得られることができず苦労した姿を幼少期に体験。才能ある画家が経済的理由で創作活動を断念する現在のアート業界に課題を感じ、新しいアートのエコシステムを考案。 総合商社、コンサルティング会社勤務を経て、2017年株式会社Casieを創業。代表取締役に就任。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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画家であったお父様への思いで創業

売れない画家であったお父様への思いで創業

大久保:本日は平面絵画のサブスクリプションサービスを展開するCasie(かしえ)の藤本さんにお越しいただきました。本日はよろしくお願いします。

藤本:よろしくお願いします。

大久保:創業の経緯を教えていただければと思います。

藤本:私の父親が画家をやっていたんです。高校生の時から画家とミュージシャンをやっていて。母親と結婚してからは、絵描き一本になりました。

よく個人で販売会を開いて、描いた作品を自分で売っていました。でもそれが全然売れなくて。私もチラシ配りをやらされていた覚えがあります。でも、全然売れない。父親が苦労した姿を近くでずっと見てきました。

私の父親もほかのアーティスト同様、セールスやマーケティングの知識はないですし、苦手意識も強かったでしょう。アーティスト本人がビジネスを得意としていることは少ないはずです。

父親は、34歳という若さで病に倒れこの世を去りました。

父親と同じように、創作することは得意でも自身の作品を流通させることに苦労しているアーティストはたくさんいるだろうと考え、父親が亡くなった年齢と同じ34歳に私がなったタイミングでCasieを創業しました。

Casieが展開するサービス

大久保:Casieのサービス内容について教えてください。

藤本平面絵画を貸し出すサブスクリプションサービスを展開しています。絵画は一点モノの原画ばかりで、現在は約13,000作品を取り扱っています。

小さめの作品が届く「ライトプラン」が2,200円(税込)、ポスターサイズの作品が届く「レギュラープラン」が3,300円(税込)、大きな作品が届く「プレミアムプラン」が5,830円(税込)です。アーティストの知名度や作品のクオリティーに関係なく、作品の大きさのみで価格は変動します。

最短で月に1回、最大で年間12回作品を交換できるので、自分に合った作品や、推しのアーティストが見つかるまで交換し続けるのもおすすめです。

また、アート作品と一緒に16ページ構成の小冊子をお届けしています。冊子ではアートの鑑賞法などが学べるので、アート作品をより深く楽しめるようになります。

同時に、ユーザーそれぞれが自分の「推し」アーティストと出会えるよう、アーティスト個々人のプロフィールページもお届けしています。

大久保:人気がある作品でも価格が一定なのはうれしいですね。作品はアーティストから直接購入しているんですか。

藤本:すべての作品を資産として購入しているわけではありません。アーティストそれぞれと預かり契約を結び、作品現物を預かっている形です。著作権と所有権はアーティスト本人に帰属しています。

同業者もいますが、作品を現物管理している点は我々がほかの事業者と違うユニークな点ですね。

大久保:気に入った作品は購入することもできるんですか。

藤本:はい。購入することももちろんできますよ。

大久保:アートを買わないで預かる形でサブスクサービスを展開するというのは、コスト観点で上手いやり方だと思いますね。

藤本:そうかもしれません。ただし、ユーザーが作品を利用したり、作品を運搬するなかで破損するリスクもあります。我々はすべての作品に絵画保険をかけているので金銭面でのリスクは保障されていますが、心情面においてアーティストにとっては非常に大切な作品ですから、万全の体制と注意は心がけています。

アーティストにとっても貸し出すことでメリットもあります。まず保管料が無料であるということ、著作権、所有権ともにアーティストに帰属する状態なので個人で展示販売会をされるケースがあれば作品をお戻しすることも可能です。また、作品がユーザーの手元にお出かけ(レンタル)されることで、そのアーティストの存在や作品認知を拡大することができます。

創業当初は苦労した

創業当初は苦労した

大久保:画期的でイケてるサービスなので、創業時から結構うまくいってたのかなと思うのですが、いかがですか。

藤本:いえ、最初は全然だめでした(笑)。正直、私はこの事業じゃなかったら諦めていたかもしれません。絵というところに私の原体験がありましたから、踏ん張れましたね。

2017年に創業したはいいものの、2019年の1月に最初のWebサービスをリリースするまで、絵画関連の売り上げはまる2年ほどゼロでしたから。

その間、我々は画家から作品を集めるのに東奔西走していました。このハードルがめちゃくちゃ高かった。私のなかで「1,000作品集めるまではWebサービスをリリースしない」と決めていたんです。だから、なかなかリリースできなかった。

私自身にアートのバックグラウンドもなかったので、信用がなかったんですね。もう大変でしたよ。

大久保:今でもアーティストを集めるのは大変ですか。

藤本:今では、SNSの口コミを通じてアーティストもユーザーも集まってくれるようになりましたので、創業当初と比べると知ってもらえる機会は増えました。

大久保:VCなどから資金調達もしているんですか。

藤本:はい。VCから資金調達するまでは「井の中の蛙」でしたが、VCと関わり出してからKPIにコミットしてくれる仲間が増えて非常に心強いです。

正直、それまではVCが入ってくることに懐疑的な部分もあったのですが、今では「VCがハンズオンでサポートしてくれたから着実に成長できた」と思っています。当然イグジットのミッションは発生するのでCasieの場合ですと上場がそれになります。

「新しい画廊」が画家を育てる

大久保:絵の所有権は画家が持っているままで、画家の代わりに作品を見せて、場合によっては購入してもらう。これは、本質的には画廊と同じではないですか。

藤本:はい。我々もCasieは「新しいタイプの画廊」だと認識しています。

ただし、画廊とは違って、まだ権威や人気のない画家の作品を扱っているという点では、画廊とは真逆のアプローチだとは思います。

画廊などからは「草の根活動」とも呼ばれていますね(笑)

大久保:契約している絵は現在も活動中の画家さんたちの作品ですか。

藤本:そうですね。

大久保:Casieで作品を見せているなかで評価されて、画廊などにステップアップしていく、というルートはあるのでしょうか。

藤本:あると思います。美術品の作品価値は、人気で決まるわけではありません。美術史の文脈にどう乗っていくかという点も含めて評価が決まるので、すんなりとステップアップできるわけではないですけどね。

我々も、Casieで人気のあるアーティストの作品はお付き合いのあるギャラリーや画廊に紹介しています。美大や芸大ともタッグを組んで動いたりもしていますよ。

Casieから評価される作品が出てくるのは、我々としても目指しているところです。

大久保:藤本さんご自身も、絵を買われているんですか。

藤本:そうですね。結婚してから初めて住む新居に絵を飾ろうと思ってギャラリーに買いに行ったことがありました。でも自分にはアートの知識がそこまであるわけではなかったので、ギャラリーのスタッフに「営業」ばかりされて冷や汗をかいた覚えがあります。無理に「説得されている」気分になったんですよね。

それがCasieだと、まずオンラインで作品をのぞくことができて、「現物がほしい」となったらまずは2,000円台程度から借りることもできる。「何か違うな」となったら、交換もできる。10,000以上の作品があって、そこから探せる。気に入ったら購入できる。

まさに「新しいタイプの画廊」ですよね。スタッフからの「営業」がない画廊。

京都をビジネスの拠点に選んだ理由

大久保:京都でビジネスを展開されていますが、なぜ京都を拠点に選んだのですか。

藤本京都の地代家賃の安さがやはり理由ですね。オフィスをビル一棟の形で借りているのですが、東京や大阪でビルを丸ごと借りると高いですから。

Casieのビジネスモデルは、作品と物流の管理にリソースが必要になるモデルなので、コスト削減は常に考えています。作品数が増え続けていますので、将来的にはより地方に移る選択肢もあります。

大久保:ほかにも、京都のメリットはありますか。

藤本:京都は元々、文化や芸術に対するリスペクトがある街です。京都の金融機関では、我々のような芸術をサポートするビジネスも評価を受け、融資を受けやすい、といった面はあるでしょうね。

また、芸大や美大も多いので、我々の場合、アルバイトなどの採用がしやすい点もメリットです。

アートを科学してサービスをグロースさせる

アートを科学してサービスをグロースさせる

大久保:10,000以上の作品がある点は魅力ですが、ビジネスとしてサービスをグロースさせるにあたって考えている点や試行錯誤している点について教えてください。

藤本:我々はアートの専門家として業界にドップリ入っていくような組織ではありません。アートはアーティストに任せて、我々はビジネスとサイエンスの力でサービスをグロースさせています。私自身、アートのバックグラウンドはないですからね。「アーティストたちのエージェント」としての役割に振り切っています。

たとえば、ユーザーそれぞれが最適なアート作品を選べるようにUI・UXを開発してます。具体的には、検索の際にまずは「色」で選べるようにしたり。最初から作品のモチーフで選ぶと、アート初心者は混乱するんですよね。だから入りやすい「色」で選べるようにしました。

ユーザーの年齢や性別、属性などによって、どんな作品に人気が出やすいのか、データを溜めていっています。それらのデータを利用したレコメンド機能もあったり。絵画作品のNetflix、Amazonのようなイメージです。

ユーザーが選択肢を選んでいくだけで好みのアートがわかる「アート診断」というツールもあります。

芸大の先生たちと話していると、「そんなに芸術を科学しているとは思わなかった」、「もっと画廊っぽいかと思っていた」など、言ってもらえることも多いですね。

大久保:画廊の腕ききスタッフを自動化しているようなイメージですかね。

藤本:そうとも言えるかもしれません。

平面絵画にこだわる理由

大久保:なぜ平面絵画のみでサブスクサービスを展開しているのでしょうか。

藤本:まず、平面絵画は美術品マーケット全体でも約半分のシェアを占めています。作り手の数も、立体作品のそれに対して、平面絵画は10倍以上の人数がいる。マーケットインの発想から、平面絵画のほうがビジネスとして展開しやすいんですね。

物流の面でも立体作品だと難しいです。平面絵画だと配送する際の箱もすべて同じサイズでできますが、立体作品だとその都度サイズを作品に合わせなければいけませんから。

大久保:立体作品の取り扱いはまったくないのでしょうか。

藤本:いえ、越境EC事業では取り扱っています。サブスクのほうでは取り扱っていませんが。

利便性から意味で消費する時代へ

大久保:GMO創業者の熊谷正寿さんや、ZOZO創業者の前澤友作さんなど、著名な経営者にはアート好きがたくさんいます。

藤本:そうですね。利便性というレイヤーでの消費意欲が満たされてしまっている人は、意味消費にいくのかもしれません。意味が感じられるものに消費する。

大久保:確かに、生活していく上での利便性は高まる一方ですね。

藤本:はい。利便性や効率性という意味では、資本主義社会のなかでどんどん満足度が高まってきています。

他方、満たされないのは意味の部分。これからは経営者などの富裕な人だけでなく、一般の人であっても意味レイヤーの消費が増えていくに違いありません。Casieの事業にとっては追い風ですね。

日本人のアート好き

大久保:日本のアート需要って、どの程度のものなんでしょうか。

藤本じつは、日本の1年間の美術館の来館者数は、延べ人口で5,000万人〜6,000万人もいるんです。これは、プロ野球のセ・パ両リーグの全ペナントレースの試合の来場者数の約2.4倍にも匹敵します。つまり、日本人は野球よりもアートのほうが好きなんですね。入館料もそこまで安くはないのにもかかわらず、です。

大久保:それはすごいですね。

藤本鑑賞の需要はあるけれども、購買の需要を育てられていない。そこにCasieの存在意義があると思っています。

美大や芸大を卒業したての画家の作品は、数万円程度で購入できるケースもあります。でもその価格帯の作品はギャラリーや画廊では展示されていない。そこのギャップを埋めれば、アートの売買市場も伸びていくはずです。

大久保:Casieのユーザーも全国にいるんですか。

藤本:そうですね。ユーザーもアーティストも全国にいます。

意外なところでいくと、沖縄在住のユーザーさんもたくさんいらっしゃいます。沖縄には西洋絵画の展示も少なくて、ゴッホやピカソなどの大型企画展が開催されないことも多いんです。琉球アート中心なんですね。そこでほかのテイストのアートを求めてCasieに登録されている方がいます。

Casieではアーティストの出身地でもアートが選べるので、「まるで全国各地を旅するかのように」アートを楽しむこともできます。

カジュアルアートが売れるアメリカ・アジア

大久保:世界のアート市場の動向について教えてください。

藤本:アート市場が一番大きい国はアメリカ、次は中国です。この2つの市場が大きいのは、日本とは違って「カジュアルアート」の流通市場があるから、だと考えています。

カジュアルアートというのは、いわゆる「美術品」というものではなく、気軽にインテリアとして楽しめたり、お祝いごとなどにプレゼントとして贈れるような手頃な価格帯のアート作品、といった意味ですね。

とくに、アメリカはカジュアルアートの流通市場が大きいです。私は高校生の時に、サンフランシスコに住んでいたことがあります。週末になると原っぱにアーティストたちがテントを組み立てて、そこを根城に自分たちの作品を売っていました。200ドル〜500ドルくらいが相場で、結構買っている人もいたんですね。しかも、そういったアートのフリーマーケットのような場所がアメリカにはたくさんある。

アメリカの西海岸のギャラリーは若手アーティストの発表の場になっています。日本のように、ある程度評価が確立されている画家の作品のみを展示するわけではありません。作品の価格も4万円〜5万円程度のものからあるので、購入する方も多いです。資産としてではなくインテリアとして購入しているんですね。

じつは、ベトナムもそうしたカジュアルアートのマーケットが成熟している国なんです。ベトナムでは、結婚祝い、新居祝い、開店祝いなど、お祝いごとにはアートを贈る習慣があるので、画家が職業として成立するレベルの市場の大きさがあります。

アートを民主化する

大久保:「カジュアルアート」というのは、いい表現だと思いました。日本でもカジュアルアートは浸透していくんでしょうか。

藤本:そのためにCasieの事業をやっています。Casieは「アートの民主化プロジェクト」なんですね。

私は「誰もが一枚のアート作品を飾る世界」を創りたいと思っています。当たり前のようにカジュアルアートが流通する世界になれば、画家という職業が成立するし、人気職業にもなってくるでしょう。

「アートを飾る」という行為は、それぞれの個性を表現する素晴らしい手段だと思うんです。つまり、カジュアルアートが普及していくということは、人それぞれがより個性を追及できる社会になるということ。それは今よりも豊かな社会ですよね。Casieを通じて世の中を豊かにできればいいなと考えています。

カジュアルアートでアートのよさに気づいたら、ギャラリーや画廊にあるより権威あるアートを買いに行ってもらうのもいいですしね。

大久保:本日は「アートを民主化する」Casieの藤本さんから貴重なお話を伺えました。藤本さん、ありがとうございました。

創業手帳の冊子版には、創業時の諸々の手続きや資金調達などの知識・ノウハウ情報が充実。無料で配布していますので、ぜひお気軽にご利用ください。

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(取材協力: 株式会社Casie 代表取締役CEO 藤本 翔
(編集: 創業手帳編集部)

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