セールスフォース・ジャパン 佐々木聖治|あらゆる情報を一元化し、検索可能にすることで生産性を向上

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年12月に行われた取材時点のものです。

Slackの日本代表が最初にしたのは社員旅行! デジタルをハブにしつつ、リアルの良さも取り入れる


ビジネスコラボレーションツールのSlackを仕事で使われている方も多いのではないでしょうか? コロナ禍でリモートワークが浸透したことで爆発的に広まり、今ではデジタル庁も導入しています。

PC、スマートフォン、タブレットなどあらゆるデバイスに対応しており、チャット、音声通話、ファイルの共有も可能。リモートワークにおいてコミュニケーションを取るツールとして、その有効性が多くの有名企業に認められています。

今回は、Slackの日本と韓国の事業を統括する佐々木氏に、創業手帳代表の大久保がSlackの特徴やどのように組織を拡大してきたのかなどについてお聞きしました。

佐々木 聖治(ささき せいじ)
Slack(株式会社セールスフォース・ジャパン)
日本韓国リージョン事業統括
常務執行役員
カントリーマネージャー
2018年2月よりSlack Japan株式会社のカントリーマネジャーに就任し、日本の事業責任者および代表として、Slackの日本及び韓国の事業統括及び拡大展開を指揮。2021年10月以降は、株式会社セールスフォース・ジャパンの常務執行役員として、日本と韓国地域にわたるSlack事業の成長を牽引している。Slack入社以前は、米SuccessFactors, Inc.の日本法人社長を経て、約5年間にわたりSAP Japan株式会社にて、人事人財ソリューション事業統括本部長としてSAPSuccessFactorsビジネスの日本市場における急成長を牽引した。また、米セールスフォースの日本法人にて、エンタープライズビジネス部門の戦略アカウントマネジャーとして営業の経験も有する。米ワシントン大学にて国際経営学の学士号を取得。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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リモートワーク継続希望の5割の人をDigital HQで支えたい

大久保:今までのキャリアについてお聞かせください。

佐々木:米SuccessFactors, Inc.の日本法人社長を経て、ドイツのSAPという会社で人材向けのソリューション事業を担当していました。2018年2月からSlackの日本事業の責任者となり、事業拡大にともなって2年前から韓国の事業も指揮しています。1年前にセールスフォースに統合されました。 

人と人のコミュニケーションは密接に企業活動の中にあると考えたため、Slackのようなスピーディーに成長している企業に参画しました。日本は、北米に次いでSlackユーザーが多い市場です。「仕事がはかどる」というお客様の喜びの声に支えられていると感じています。

大久保:日本と韓国の事業を指揮されているとのことですが、両国で違いなどはあるのですか。

佐々木日本と韓国の組織文化や意思決定プロセスは非常に似ています。日本の企業がやってきた手法を韓国の企業も非常に欲していたり、日本に並ぶくらいスタートアップ文化が盛り上がっているところがあります。この2年で大手企業、スタートアップ共にSlackの使用が進んでいますね。

大久保:サービス開始初期のころからSlackを見ている側からすると、Slackというツールは当初はエンジニアが好むイメージでしたが、今やデジタル庁が使っていたりと、一部の業界のみならず一般ユーザーに広がってきた感があります。

佐々木:もともとSlackはゲームクリエイターやエンジニア向けのサービスでした。グローバル間でリアルタイムにコミュニケーションを取るためのツールとして生まれ、それがユーザーの口コミで広がり、シリコンバレーに本社を置くと、横のつながりで急速に認知度が高まっていったんです。

サービスの提供が始まったのは2014年の頭です。日本でも働き方改革やコロナ禍によるリモートワークが広まり、テキストベースのコミュニケーションによって意思決定が早まるなど、Slackの価値を実感してくれた企業が増えたことで、企業の大小も業種も超えて広まっていったと感じています。

地方自治体の中でも産学連携ということで、教育機関と民間企業でコミュニケーションを取るためにSlackが使われています。研究段階からつながってものづくりをする際に様々なアイディアが結集し、活発に意見交換が行われる土壌となっているようです。 

2021年に、「ISMAP(イスマップ)」の認定を受けました。これは官公庁への導入に必要なセキュリティー基準などのガイドラインに準拠しているかの基準です。公共機関での利用も進んでおり、デジタル庁でもSlackを利用いただいています。

大久保:Slackの特徴といえば何でしょうか。

佐々木:我々は「Digital HQ(会社を動かすデジタル中枢)」と呼んでいますが、サイロ化(※1)を防ぐために、Slackにあらゆる知見や情報が集約されていき、検索することで必要な情報が瞬時に見つかるという状態を目指しています。

(※1 サイロ化:データがさまざまな部署などに分散しているため、貴重なデータを活用できない状態)

社名であり、サービスであるSlackという名前は、「Searchable Log of All Conversation and Knowledge(すべての会話と知識の検索可能な記録)」の略です。検索できることがいかに重要か、ということですね。

以前は社員全員が会社にいるという状態が当たり前でしたが、現在はデジタルなものがハブになってきます。

Slackが支援するFuture Forumというコンソーシアムの調査で、日本の企業でも顕著になっているのは、4割の人がリモートと出社とのハイブリッドを継続したい、1割の人はフルリモートで働きたい、残りの5割の人が会社に戻って仕事したいということです。

ハイブリッド、フルリモート、オフィス勤務、あらゆる働き方をデジタルでつなぎたい、デジタルでの居場所を担保したいという気持ちでやっています。

大久保:誰でも情報がオープンに見られるというのは効率や生産性の向上にもつながりますし、サイロ化の解消は重要ですよね。

佐々木:そうですね。閉じた情報はサイロになってしまうので、極力パブリックチャンネルを推奨しています。誰でも検索でき、共有できることで可視化できますし、透明性も高まります。

もちろん機密情報もあるとは思いますが、そこはオープンなチャンネルとクローズなチャンネルを上手に使い分けることで解決できます。

従業員の獲得のために重要なのは「時間と場所の柔軟性」

大久保:例えば社内に反対派がいるなど、なかなかデジタル化が進まない組織に対して、Slackを導入するにはどうすればいいでしょうか。

佐々木:従業員の採用と就業の定着には、柔軟性がきわめて重要と考えています。それだけ今は、働く場所や時間の柔軟性を求める人が多いのです。

ツールを目の前にすると抵抗感がある方には、Slackを使用することで柔軟性やメリットを得られることを伝えてあげるといいでしょう。

私たちは、グローバルに使用しているユーザーの声を聞きつつ、新しいエッセンスを提供しています。例えば、スケジュールされたミーティングではなく、チャンネル上にそのときいる人同士ですぐにミーティングができるSlack ハドルミーティングは、手軽に意見交換ができると好評です。

また、クリップという機能では、動画メッセージをSlackにアップロードすることで書き起こしをしてくれます。動画を全て見なくてもいいので時間の効率もいいですし、取りこぼしなくメンバーで共有することができ、検索することも可能になります。

また、様々なアプリと連携することが可能で、連携することによって情報を一元化できます。

大きな企業だと1000個ものアプリが導入されているという統計もあります。連携により、各アプリにログイン・アクセスしなくても情報を見ることができるので業務効率が上がります。

そうした作業効率を高め、面倒な作業の敷居を下げていく仕掛けを豊富に用意していますので、いかにデジタル化を進めるかの突破口になれるのではと思っています。

大久保:一元化は重要ですね。個人的な悩みとして「あの情報はメールとチャットとどっちで来たんだっけ?」ということがあります。

佐々木:例えばgmailとSlackを連携しておくと、Slackのチャンネルにメールを転送できるのでSlack内で検索ができます。Google Workplaceに保存しているドキュメントの編集権限もSlack側から許可や変更が可能です。 

大久保:それはいいことを聞きました。最近ではどのような企業に導入されることが多いのでしょうか。

佐々木:最初はスタートアップ企業やIT企業から広まったのですが、最近は創業100年を超えるような老舗企業にも導入していただいています。自社基盤を作る上でのコミュニケーションを重視するというニーズにお応えすることで好評をいただいていますね。

創業130年以上を迎える長野のカクイチさんという企業は、工場でのワークフローをSlackで自動化されました。従業員の帰属意識を高めるような意味合いでも使っていただいています。

特にコロナ禍で、急にリモートワークに移行しなければいけなくなった企業さまも多く、Slackがあったので業績も維持できた、というような声も聞きます。

リモートでできることとリアルでできることを考えよう

大久保:立ち上げ時から今まで、どのようにステップアップされてきたのでしょうか。

佐々木:Slackの日本市場の立ち上げメンバーだったので、組織が急速に拡大してきたところを見てきました。

グローバルな組織の中の日本支社ということで、初期の頃は日本語へのローカライズを進めたり、日本語のテキストをきちんと検索できるように、他社のエンジニアチームの方々にアドバイスをいただきながら開発を進めました。

導入したら終わりというサービスではないので、使いながら成熟度が高まっていき、生産性を上げるなどの結果を出すために、営業だけでなく、導入後のサポートを支援するカスタマーサクセスチームの拡充にも注力してきました。

組織が拡大していく中でお客様の課題を解決していけるように、様々な業界の知識を取り入れながらチームを作っていくことが重要だと感じています。

大久保:組織を拡大していく上でのエピソードや失敗談はありますか。

佐々木:Slackはオンラインで組織の文化を作っていける環境を提供していくつもりですが、社内の関係性に関しては、人が交わって泥臭く作っていく機会も大事だと考えています。

実際、私が最初に行ったのは社員たちとの温泉旅行でした。リアルなコミュニケーションで膝を交えて物事を考え、どのように事業に対して貢献していくかを話し合うことは、時には有効な手段です。スチュワート(Slack共同創業者のスチュワート・バターフィールド氏)も、コロナ禍以前に「オフィスを構えて社員が一緒に仕事をすることも大事だ」と発言しています。

Digital HQということは1本の柱としてありつつ、コロナ禍以前のリアルな関係性をどう取り戻すかも課題と考えています。

大久保:確かに、オンラインの利便性もある一方で、リアルでしかできないこともありますよね。

佐々木:オンラインの利便性は高いですが、リアルの場で言葉のキャッチボールをするという良さもあると思っています。今後のコミュニケーションにおいて、どのようにオンラインとリアルを使い分けるかを考えるべきタイミングが来ているのではないでしょうか。

大久保:最後に、起業家へのメッセージをいただけますか。

佐々木Slackは創設初期から企業理念として6つのコアバリューと、従業員に求める4つの性質を設定してきました。6つのコアバリューとは共感、匠の精神、思いやり、遊び心、向上心、チームワークで、4つの性質とはスマート(探究心)、ハンブル(謙虚、相手への敬意)、ハードワーキング(プロ意識)、コラボレイティブ(チームワーク)です。

この軸に沿って採用や評価を行い、それぞれが成長していこうと呼びかけています。コミュニケーションツールを扱う企業だからこそ、その裏にある文化が大事であると伝えています。

Slackの立ち上げから今に至るまでの拡大期をずっと見てきた身として、こうした会社の軸を早い段階で掲げることが重要なのではと思います。社内のコミュニケーションを支える共通理解を従業員それぞれが持ち、実感しながら仕事をしていくことで、企業の成長や貢献がなされるのではと考えています。

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(取材協力: Slack(株式会社セールスフォース・ジャパン) 日本韓国リージョン事業統括 佐々木聖治
(編集: 創業手帳編集部)



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