元UCC副社長 杉本譲|人の心を掴む「営業の極意」とは?

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年04月に行われた取材時点のものです。

昔ながらの「取引営業・御用聞き営業」に未来はない!今の時代の営業に必要な「協業的な取組営業」を伝授


「コーヒー関連業界でUCCの杉本を知らない人はいない」と言われるほど、コーヒー業界に精通している元UCC副社長の杉本譲さん。UCC上島珈琲株式会社(以下UCC)では、コーヒー業界で圧倒的なシェアNO.1を獲得し、UCCを世界のTOP10メーカーにまで牽引しました。

約42年間ビジネスの最前線で活躍した杉本さんに、営業として取引先の心を掴むための極意を創業手帳代表の大久保が聞きました。

杉本 譲(すぎもと ゆずる)
オフィス杉本 代表
1952年福岡県生まれ。1976年に大学卒業と共にUCC上島珈琲株式会社に入社。世界初の「缶コーヒーブラック無糖」など数多くの新製品開発・広告宣伝を手掛ける。1998年より営業部門に転じ、営業力の再生・営業部門の再構築に注力。再び右肩上がりの成長を牽引。UCCは世界のTOP10メーカーに成長。2017年3月にUCC上島珈琲株式会社 取締役副社長を退任。同年7月に営業戦略コンサルタント事務所を設立、現在に至る。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。

※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください

UCC社内では「事業や組織の立て直し役」として複数部署で活躍

大久保:UCCではどのような業務を担当されていましたか?

杉本:私は約42年間UCCに勤めていましたが、大きく分けて前半の20年ほどはマーケティング部門、後半の20年ほどは営業部門を担当しました。

全体を通じて「事業や組織の立て直し」の業務を主に任されていました。マーケティング部門でも営業部門でも、事業として上手く行っていない事業、組織として上手く機能していない部門に配属され、その事業や組織を立て直すということを行っていました。最終的には財務・経理以外の殆ど全ての部門を担当しました。

この事業の立て直しの役割で一番驚いたことは、「明日から韓国に行けるか?」と急に韓国事業を任されたことでした。

実はUCCは韓国での事業展開に3回挑戦しています。1回目も、2回目も思うような成果が出ませんでした。そして、3回目の挑戦も赤字の状態でした。そこで3回目の挑戦の途中に、白羽の矢が立ったのが私でした。

韓国での駐在が決まった時に、会社からは韓国での事業を畳んでもいいと言われていました。なので私もそのつもりで韓国に渡り、韓国でのUCCの事業の実態を見てみると、なんとかなるかもしれないと思いました。

当時はBtoC事業を中心に事業展開をしていましたが、BtoB事業への切り替えを決断しました。具体的には、展開していた直営カフェなどの店舗を閉店させ、業務用の卸売事業に事業の舵を切りました。

この結果、赤字だった韓国事業も1年半で黒字に転換できました。

ようやく韓国事業も安定したので、じっくりと次の戦略を練ろうと思っていた矢先に、次の辞令が出ました。

それは日本に帰国し営業本部長をしつつ、兼任で月に1回韓国に行き韓国事業を継続して担当するという内容でした。

人の心を掴む「営業の極意」

大久保:『元UCC副社長が伝える!営業の極意(平成出版)』という杉本さんの著書を読ませていただきました。この著書の中で、「口先のうまい営業は信頼が作れない」という項目があったのですが、この点について詳しく教えていただけますか?

杉本:口先のうまい営業は短期的には良い成績が出せるかもしれません。しかし、その成果は長くは続かないと私は考えています。

営業の仕事は「人の心を掴むこと、信者を創ること」です。このためには口先だけでなく、考え方や普段の行動により構築される相手との関係性が大切になります。

商品を売り込む、商品を売ることばかり考えている営業は、長期的には上手くいかないケースを多々見てきました。

大久保:この考え方は個人の営業だけでなく、組織としての考え方にも言えることですか?

杉本:その通りです。色々なスタートアップのコンサルもしてきましたが、「今だけ、金だけ、自分だけ」という考えの企業、自分たちだけが儲かれば良いという考えでやっている事業や組織は上手くいっていません。こういう企業は長続きしないと思います。

大久保:著書の中に「営業は種を蒔き、苗を育て、収穫する」という項目がありますが、この点についても詳しく教えていただけますか?

杉本:土佐の高知には戦国時代に「一両具足」という仕組みがありました。これは平常時には農民として田畑を耕し、いざ戦となると鎧をつけ鋤や鍬を刀に変えて戦場に赴くという仕組みです。

これは営業にも応用ができる考え方、仕組みだと思っています。

営業は通常時は田畑を耕すくらいの気持ちで、地道な努力を続けて実力をつける必要があります。しかしいざ新規営業となると、日頃の努力の成果を発揮して新規獲得に取り組むということが本来の営業のあるべき姿だと思います。

企業によっては既存営業と新規営業の担当者を分ける企業もありますが、既存営業のことがわかった方が新規営業も成果に繋がりますし、その逆も言えると考えています。

お客様の「問題点」ではなく「機会点」を見つける

大久保:営業をする方が気をつけるべきことを教えていただけますか?

杉本:まずは「取引先の言うことを聞くだけの御用聞きにならないこと」が大切です。取引先の言うことだけを聞いている営業では、いずれビジネスとして成り立たなくなります。言われることだけを聞いて仕事をすることは楽なのかもしれません。

また営業の仕事は「お客様の問題点を解決すること」という表現をよく聞きますが、問題点や課題という捉え方ではなく、私は「機会点」という言葉を使うようにしています。

つまり問題があるネガティブなポイントという意味ではなく、成長できる可能性があるポジティブなポイントと捉えるようにしているのです。

「問題点」と認識してしまった時点で会話が全てネガティブな雰囲気になり、いいアイディアも生まれにくくなります。

問題点とか課題とかではなく「成長の機会点」と認識するようにして「ここをこうしていくと、もっと良くなる」というポジティブな発想で、お客様と一緒に考えていくことが大切です。

大久保:著書にある「A(あたりまえのことを)・B(ばかにしないで)・C(ちゃんとやる)」について教えていただけますか?

杉本営業に「逆転満塁ホームラン」はありません。「バントヒット」でもいいのでコツコツと地道に努力を続けなければ成果には結びつきません。

「A(あたりまえのことを)・B(ばかにしないで)・C(ちゃんとやる)」とは、営業に限らず全ての仕事で基本的なことであり、必ずやり続けなければならないことです。しかし、ABCを徹底してやり続けることは、そう簡単にできることではありません。

営業だけでなくどの分野においても、このABCがとても大切なのです。

飲食店のABCとしてよく言われるのはQSC(Quality・Servise・Cleaness=品質・接客・清潔さ)です。どんなキャンペーンを打ち出すよりも、どんな新商品を発売することよりも、このQSCができていないとお客様はリピーターになってはくれません。

飲食店でのABCはQSCでしたが、他の業種や職種にも、それぞれのABCがあり、それを徹底してやり続けることがとても大切です。

最も大切なことは「何が正しい”あたりまえ”なのか?」を考えることです。

昔ながらの「御用聞き営業」に未来はない

大久保:マーケティングを行う際に「トップ10とワースト10を比べる」と著書にありますが、このことについて詳しく教えていただけますか?

杉本:一般的には「平均値」で考えがちですが、私は平均値から次のアクションに繋がるものは少ないと考えています。平均値の店舗や商品は現実的には存在しないので、平均値を前提に考えた施策をいくら打っても、成果には結びつかないと思います。

私の場合は平均値ではなく、トップ10とワースト10に注目します。

例えば、店舗のケースで考えると、売上がトップ10の店舗には売れている・成功している共通点が必ずあり、ワースト10の店舗には売れない・成功しない共通点が必ずあります。何故、売れているのか?何故、売れていないのか?の共通点があると思います。

このトップ10の店舗の成功事例を他の店舗に横振り展開する方が効率的です。ワースト10の店舗からは、何故、売れないのか?何故、上手くいかないのかが見えてきますので、次のアクションをどうすべきかの答えが出てきます。

単に数字だけを見て判断するのではなく、実際に現場に足を運び自分の目で観ることが大切なことだと考えています。

大久保:日本では問題を解決することばかり注目されがちですが、実際には成長できるポイントを伸ばす方がより良いのでしょうか?

杉本:その通りだと思います。社員教育や子供の教育にも通じる部分があります。苦手なことをいくら覚えさせようとしても自ずと無理があります。そうであれば、本人が得意であったり、積極的にやりたいと思うことを適材適所も含めて、とことん伸ばしていけるように考えるべきだと思います。

「取引」ではなく「取組」と考えると営業は変われる

大久保:「取引ではなく取組と考える」と著書にありますが、この点を詳しく教えていただけますか?

杉本:お客様と接する時に、「取引」は向かい合って商売をしているイメージです。一方、「取組」はお客様の横に並んで立って、お客様と一緒に目標達成に向けて歩いて行く・努力していくというイメージです。

より良い関係を長く継続させるためには、お客様と同じ目標に向かって一緒に進んでいくことが必要だと考えています。「取引」ではなく「取組」としてお客様と関わることで、長く続くより良い関係性が築けると考えています。

コロナ禍になりリモートでの営業活動も増えていると思いますが、やはり大事な場面では対面で話をすることです。その場の空気の動き、空気の流れ、空気感が大切な様に思います。

大久保:営業は接触回数が大切だと言われていますが、この点についてのご意見をいただけますか?

杉本「接触回数」「接触頻度」だけでなく「関係密度」を意識する必要があります。

関係密度を深めたいのであれば、接触頻度を増やさなければいけません。接触頻度を増やせば自ずと関係密度が深まり、お客様の業界情報や悩みを共有化し理解できるようになります。

しかし、ただ会う頻度を増やせば良いというわけではありません。この営業と会うといつも新しいアイディアや気づきを与えてもらえるとお客様に思っていただける努力をしなければなりません。

営業成績を伸ばす方法など色々と言われていますが、根本的には「接触頻度×関係密度」を意識して、より深くお客様のことを理解することが必要です。

お客様のことを深く理解することで、結果的にお客様の業績アップにも、結果として自社の営業成果にも繋がると思います。

「缶コーヒーブラック無糖」はどのようにして生まれたのか?

大久保:「缶コーヒーブラック無糖」というUCCの看板商品を手がけた際の苦労したことを教えていただけますか?

杉本:私が広告宣伝と商品開発の責任者をしている時に、ビールメーカー各社が自社の缶コーヒーのブランドを開発し、大量広告を投入してきました。

これがきっかけで自社のブランド価値や強み、また何故、缶コーヒーを発明したのか?などの原点を考え直す良いきっかけとなりました。

私たちは単に缶コーヒーという商品を売りたいのではなく、レギュラーコーヒーの美味しさや良さを、より多くの消費者に知って頂くための手段の1つとして缶コーヒーを販売しているのだと気づかせてくれました。

UCCはブルーマウンテン、ハワイコナ等の高品質産地での直営農園事業展開のみならず、世界中のコーヒー産地で生産者の方々との深い繋がりがあり、またコーヒー豆の品質を上げるための持続可能な農事指導も行ってきました。併せて、カップからコーヒー産地に至るまでの垂直事業展開に努めてきました。「こと、コーヒーのことなら我々にお任せ下さい」という感じです。

そういう背景もあり、コーヒーの品質で勝負する「ブラックコーヒー」の発売を決意したのです。砂糖やミルクを入れては、コーヒー豆本来の香りや美味しさがわかりにくくなります。そこでコーヒー豆本来の味を引き出す為に、原料の良さと共に抽出温度を3回も変えることで得られる味で真っ向勝負をする「缶コーヒーブラック無糖」が誕生しました。

大久保:マーケティングにもとづく商品開発ではなく、UCCが作れる最高の商品を世に出したということでしょうか?

杉本:当時、缶コーヒーでブラックコーヒーという商品は世界中のどこにも無い商品でしたので、社内の多くの方から反対されました。当時は未だ喫茶店でも、コーヒーに砂糖とミルクを入れることが普通であった時代でしたから。

しかし、私は「ブラックコーヒー」こそがUCCの強みを最大に発揮できる商品だと信じていました。

社内ではブラックコーヒーの商品化への反対意見は多く、商品化の許可が降りませんでした。なので、先に某コンビニチェーンと水面下で話を進め、テスト販売をできる約束を取り付け、テスト販売用の商品を製造しました。

実際に販売してみると、想定以上に売れ行きがよく、徐々に販売エリアを拡大し、最終的には大ヒットに繋がったのです。

この経験から「マーケットは自分で創るもの」だと考えるようになりました。

大久保:最後に起業家にメッセージをいただけますか?

杉本:起業家は「志」と「心意気」が大切だと思います。

なぜその事業を行うのか?なぜそのマーケットを創りたいのか?など、全ての行動に「志」と「心意気」がない企業は長続きしないと思っています。

日本には「100年企業」と呼ばれる企業が多くありますが、時代の変化に対応して創業時と業種・業態が変わっている企業もあります。しかし、そこには確実に創業の「志」と「心意気」が生きています。企業の背骨に一本筋が通っている、一貫性があると思います。

日本の起業家の方々には、自身の事業の「志」と「心意気」を大切にして、100年企業を目指して頑張ってほしいと思います。

冊子版創業手帳では、色々な業種の起業家のインタビュー記事を掲載しています。無料で取り寄せられますので、ぜひお問い合わせください。

関連記事
クエスチョンサークル 宮本寿|アインシュタインもドラッガーも知っていた「問い」が持つ真の力とは
JOENパートナーズ 城野えん|起業家のための営業組織作り
創業手帳別冊版「創業手帳 人気インタビュー」は、注目の若手起業家から著名実業家たちの「価値あるエピソード」が無料で読めます。リアルな成功体験談が今後のビジネスのヒントになるはず。ご活用ください。

(取材協力: オフィス杉本 代表 杉本譲)
(編集: 創業手帳編集部)



創業手帳
この記事に関連するタグ
創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
創業時に役立つサービス特集
このカテゴリーでみんなが読んでいる記事
カテゴリーから記事を探す
今すぐ
申し込む
【無料】