凸版印刷 坂田 卓也|TOPPANとベンチャーの共創で新たな社会的価値を創出

創業手帳

オープンイノベーションを推進する凸版印刷ならではのCVCで多種多様なスタートアップに投資


凸版印刷におけるオープンイノベーションを実現するため、2016年に戦略投資センターを創設し、6年間で約60社以上のベンチャー企業に投資を行いました。
ベンチャー企業と共創をすることで、一社単体ではできない切り口で多種多様な事業開発に取り組んでいるのが、凸版印刷戦略投資センターの坂田さんです。

凸版印刷がCVC(ベンチャー企業への直接投資)を始めた背景や、大企業がベンチャー企業に投資をする意義について、創業手帳代表の大久保が聞きました。

坂田 卓也(さかた たくや)
凸版印刷株式会社 事業開発本部 戦略投資センターCVC部課長
2005年凸版印刷入社後、出版、広告、玩具、ゲーム、駐車場・カーシェアリング、コミュニケーションプラットフォームなど幅広い業界のマーケティング・新規事業支援に携わる。2014年4月より、経営企画に異動し、経営戦略部に所属。次世代の事業の柱を構築するべく、社内の新事業支援を実施。2016年より、戦略投資推進室にて、新事業創出を目的としたベンチャー投資およびM&A業務に従事。21社のスタートアップに出資。2016年4月グロービスMBA卒業。さとなおラボ9期生。
2019年8月ユニファ株式会社社外取締役就任。2021年7月株式会社コンボ社外取締役就任(PARTYスタートアップスタジオ)。グロービス講師(経営戦略・マーケティング系)従事。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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凸版印刷が取り組むオープンイノベーションの形

大久保:凸版印刷さんの中での戦略投資センターの位置づけを教えてください。

坂田戦略投資センターは、凸版印刷の事業開発本部の中でオープンイノベーションをする部署です。

私は凸版印刷に新卒で入社しました。営業やマーケティングの企画を経験し、入社10年目に異動になったのが経営企画本部です。経営企画本部では朝田・大矢と共に3人でオープンイノベーションを活用した新規事業を作るというミッションを与えられ「戦略投資」が必要だという結論に至りました。

現在は事業開発本部で、国内のスタートアップに戦略投資をしています。新事業開発を目的としているので、出資だけでなく、業務提携を締結することにこだわっています。協業の進捗に応じて、追加出資をしたり、リードインベスターを務めたり、取締役として入ることもあります。

2016年8月の立ち上げから、現在50〜60社ほどの投資ポートフォリオがあります。

常に時代の最先端テクノロジーに取り組み続ける「凸版印刷の歴史」

大久保:凸版印刷さんの歴史を教えてください。

坂田凸版印刷は1900年に大蔵省の印刷技師が創業した会社です。

印刷は1900年当時の最先端テクノロジーで、「エルヘート凸版法」という当時の最先端技術を使い、紙幣の印刷などをしていました。凸版印刷の社名の「凸版」は「エルヘート凸版法」が由来です。

凸版印刷は様々なことにチャレンジしている印象があると思いますが、ソフトとハードの両方に注力しています。創業して最初の60年間は印刷をメインに行っていましたが、お客様の要望が多岐に渡るようになりました。

例えば1960年頃にお客様からクリエイティブも印刷と一緒にやってほしいという要望をもとにソフトの領域の参入がはじまりました。デザインをお客様に提供するにはマーケティングの知識も必要なため、マーケティングにも挑戦するなどして、事業範囲が多角化してきたのです。

投資を通じてあらゆる分野の課題解決に取り組む

大久保:印刷に限らずソフトとハードの両面で色々な事業を展開しているのですね。

坂田:ソフト面では印刷だけにこだわって事業を展開しているわけではなく、新しい情報価値を届けようと考えています。お客様のプロモーションを受注した時には、携帯アプリなど必要に応じて新しいメディアを作ることもします。1997年にはバーチャルリアリティ(VR)を開発し、多岐に渡る分野の課題解決に取り組んでいます。

ハード面でも、これもまたお客様の要望で半導体の部品を作ったこともあります。お客様のご要望に応える形で、受注モデルとして一定のマーケットを作ることができました。

多角化している反面で、凸版印刷はお客様に合わせてモノづくりをする受動的な意識が強いため、凸版印刷がどんな社会課題に応えていきたいかを能動的に伝えるためのプロダクトが必要だと思い、今の投資事業ポートフォリオを構築しました。

社内外問わずネットワークを最大限に活用し、様々な社会問題に対応するために戦略投資センターがあります。ベンチャーと共創投資をすることで新事業を開発する部署ということです。

戦略投資センターでは事業シナジー(※2)を重視しているため、投資は全て「資本業務提携」です。出資だけでなく業務提携を結ぶので、凸版印刷の事業部と連携することになります。スタートアップのニーズと弊社の事業部門、そして事業開発本部で新たな事業の価値を見出すことで、3者それぞれにメリットが出せるように投資先を選んでいます。

※2)事業シナジー:事業間の資源の共用や活動の繋がりで、事業の稼ぐ力が高められる効果のこと

凸版印刷が投資先として注目する最先端テクノロジーの分野

大久保:どのような分野のベンチャー企業に投資をしていますか?

坂田主な投資先はDX(※3)やSX(※4)、そして印刷に変わる最先端テクノロジーです。

ビジネス投資は取締役会の承認などが大変だという印象があると思いますが、少額な投資は取締役会を通さず意思決定できる新しい規約を作りました。

投資先は将来的な売上に見通しが持てる段階の企業が多いですが、従来の投資基準ですと赤字先行のモデルのスタートアップには投資しにくい課題がありましたが、成長投資を先行し、上場までステップアップしたいという企業もカバレッジしました。

※3)DX(デジタルトランスフォーメーション):進化したIT技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革させる概念

※4)SX(サスティナビリティ・トランスフォーメーション):企業が「持続可能性」を重視し、企業の稼ぐ力とESG(環境・社会・ガバナンス)の両立を図り、経営の在り方や投資家との対話の在り方を変革するための戦略指針

投資先を選ぶ基準は「Missing Piece」と「Moon Shot」

大久保:投資先を選ぶ基準を教えてください。

坂田:凸版印刷の投資には、「Missing Piece」と「Moon Shot」という2つのスタンスがあります。

1つ目の「Missing Piece」(※5)は、提携によって業界ナンバーワンを目指すこと、短中期的な共同サービスを開発する投資です。

2つ目の「Moon Shot」(※6)は、ヘルスケア、自動運転、宇宙など社会問題が多く、マーケットや新しい産業ができるような領域にもトライアルしています。

まだ実績が出ていない企業でも将来的な成長を見越して投資していますね。

凸版印刷は3つの事業本部がありますが、もっと社会貢献をし、利益を出せる会社になりたいと考えています。

※5)Missing Piece:ベンチャー企業の叡智を活用し、既存事業に新たな価値を生み出すこと

※6)Moon Shot:既存事業の延長では為し得ない、新しい分野へ挑戦すること

凸版印刷が考える投資先との関係性

大久保:スタートアップと関わることで様々な分野に深くリサーチができる側面もありますか?

坂田:リサーチの役割は少ないです。大きくなりそうな領域を見つけるだけでは何も得ることができません。今は自分たちの戦略として、どのマーケットの社会課題を解決していくのが正しいのか、考える体制作りをしています。

大久保:凸版印刷さんはM&Aをどのように捉えていますか?

坂田M&Aは大事な最終目標の一つです。

株主の期待にも応えつつ、事業ポートフォリオを作るためには一定のキャッシュフローを生み出す必要があります。事業会社として、M&Aは戦略を実現する上での重要なオプションだと思います。

大久保:スタートアップにとってMissing Pieceの考え方は重要ですか?

坂田凸版印刷のパーツになってほしいのではなく、業界で勝つためにお互いの力を出し合うことが大切だと考えています。

大久保:業務提携で起こる問題点はどのようなものがありますか?

坂田:スタートアップの場合は事業が目論見通りにいかないことも多くあります。その中で難しいのは路線変更をする時です。業務提携する前提で投資しても、うまくいかず、売却してしまう可能性もあります。

投資先のベンチャー企業のビジョンやミッションが変わってしまうと、投資目的が変わってしまうので戦略投資の投資家からすると目的との不整合が発生してしまいます。

したがって、細かいサービスやプロダクトが変わることは問題とせず、前提としてマーケットを一緒に作っていく考え方が大切だと思います。マーケットでスタートアップが成長できた理由や、私達に足りない部分はないかなど、様々な視点が必要です。

投資先に求めるのは「誠実さ」と「ブレない軸」

大久保:スタートアップ企業に求めるものはありますか?

坂田:凸版印刷に合わせた事業内容を提案してくる企業はたくさんありますが、自分たちの会社のビジョンやミッションを提案し、その将来に対して、いまは凸版印刷も実現できないが、将来的にはできることを一緒に考えるというスタンスを大切にしていますので、原理原則として様々なスタートアップとの共創の可能性をディスカッションさせてもらっています。

したがって、あえて求めていないところを言うのであれば、凸版印刷は印刷事業でこれまで様々なチャレンジをしているので、印刷の分野に関する投資はハードルが高いかもしれませんね。

大久保:スタートアップの起業家のどの部分を見ていますか?

坂田私が重視しているのは「誠実さ」です。嘘をつくことがあれば、何を信じて良いかわからなくなるので、これから事業を共創するのは難しいです。

そして、事業の核はしっかりと持ちつつ、枝葉の議論はよりよく変えていく柔軟性があるかどうかが大切です。

大久保:誠実さはどこで判断しますか?

坂田:まず最初のポイントは、最近は紹介で起業家の方と繋がることが多いので、紹介者がどれくらい信頼しているかが大切です。そして対話をする中で、事業の現状がよく伝わってきて、さらにこれからどうしたいか、将来の自社の姿を具体的に解像度高く考えている起業家は優秀な方が多い印象です。

課題認識を持つことと改善までのプロセスを明確にでき、それを言語化しきちんと伝えてくれる方は誠実だと感じます。

大久保:会社の創業期と発展期で、投資先の起業家の人物像が変わることはありませんか?

坂田:社内外のコミュニケーションが変化することで人物像が変わる起業家もいると思います。初めは自身の気持ちが通じる方との繋がりが多いと思いますが、会社が発展していくと様々な株主とも繋がりが増えます。

経営面でも事業面でも多角的に捉えなくてはいけなくなるため、経営者としてのあり方や支える人材も変化することが多いです。

起業家を尊敬し共に事業を作っていくことが凸版印刷流の投資スタイル

大久保:投資先の資本構成など、変えられない部分でマイナスに感じる時はありますか?

坂田:投資を決める時点での資本構成に関しては、私たちはIPOだけがExitの手段ではないので、金融系の株主の方より柔軟だと思います。

その一方で、起業からまだ間もないシード期のスタートアップでIPOを成長の手段としている企業に投資をする場合は、これから投資をしてくれるプロのVCの方々が資本構成を見て納得してくださるように、凸版印刷自身の関わり方を注意しています。

大久保:起業家の方との関わり方で注意していることはありますか?

坂田凸版印刷ができないことをしている起業家なのでリスペクトの気持ちが強いです。ただし、起業家の方からアドバイスを求められれば私の考えを伝えたり、組織的に問題となりそうな部分は社内で議論することをお願いしています。

大久保:株主から適度に圧力があることは企業の成長に必要なことだと思いますが、投資家としてどう思いますか?

坂田:圧をかけすぎてコミュニケーションが取りにくくなることはよくないですよね。

気軽に電話をしたり、食事に行けるような関係性を保ち、共に事業を作っていく気持ちをお互いに持ち続けたいです。問題点が出てきた時にすぐ相談できる関係が重要で、起業家も投資家にメンタリングしてもらいながら成長できるメリットを感じていただけたら良いのかなと思います。

投資家は起業家に問い続けて気づきを与えることが大切

大久保:起業家が事業会社から力を引き出してもらう方法はありますか?

坂田:入り口から相違がないように信頼関係を築くことは大切です。そのために、たくさんコミュニケーションを取ることを意識していますね。

また、事象が起きた結果ではなくプロセスを確認する問いも重要です。うまくいった時も失敗した時も振り返りと分析をすることが次回の成功には必要不可欠です。投資家は起業家に問い続け、気づきを与えることが大切だと思います。

大久保:凸版印刷さんの事業ポートフォリオが増えて見えてきたことはありますか?

坂田:これまでの経験を元に、再現性を維持するためのチーム内でのナレッジシェアに注力しています。協業や事業開発が進むためのプロセスや、事業構想において、現状足りていない課題を言語化することで、よりよい投資をするためのプロジェクトを設計しています。個人のスキルに依存することはなく、凸版印刷にとって再現性のある戦略投資、共創投資にしていきたいです。

大企業のCVCならではの面白さ

大久保:オープンイノベーションについてどう考えますか?

坂田:言葉自体は古臭いものになっていますが、まだ取り入れている企業は少ない印象があります。全ての企業に広報や経理やマーケティングの部署があるように、通常の機能としてオープンイノベーションがあると良いと思います。

どこの会社でも従来の専門性を高めるだけでは、事業が成長し続けることは難しくなってきているので、新規事業は様々な会社や分野で必須要件になっているでしょうね。

大久保:投資部門の業務の面白さを教えてください。

坂田:凸版印刷の投資部門は、スタートアップの経営者と自社の株主や経営者が持つ視点を掛け合わせなければなりません。事業の問題点と解決方法を見出すためには自分の中に様々な引き出しが必要です。経営における視野の広さと事業の問題点を見つける視点の両方を磨ける楽しさがあります。通常の部署にいると関われない仕事なのでやりがいがあります。

起業家が出資を受けることは資金面以外のメリットも多い

大久保:大企業の中で投資の経験ができることは、これから起業したい人にとっては最高の環境ですね。

坂田:事業の成長のためにどこに力を入れるか、無駄な労力を使っていないか、欠陥はないかなどを分析して、修正していく力が身につくので、とても良い経験ができていると思います。

大久保:最後に読者の方々へメッセージをお願いします。

坂田:戦略がしっかりないとベンチャー投資を実行したり、事業をマネジメントすることはできません。あたりまえですが、戦略だけに価値はなく、実行することが何より大切なので、チャレンジをさせてくれている凸版印刷には感謝しています。

また、起業家の方にとっても上場企業からの出資は社会的な信頼ができたり、事業の理解があるメンバーと一緒に事業成長するなどメリットもたくさんあると思います。ぜひ、凸版印刷と資本業務提携して業界No.1を目指しましょう!

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(取材協力: 凸版印刷株式会社 事業開発本部 戦略投資センターCVC部課長 坂田 卓也
(編集: 創業手帳編集部)

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