【第6回】会社が毎年1回行う手続き(年度更新、算定基礎届、年末調整)-連続起業Web小説 「社労士、あなたに会えてよかった」-

創業手帳

(連載)独立起業前に読んで納得!毎年1回行う社会保険関連の手続き(年度更新、算定基礎届、年末調整)

会社が毎年1回行う手続き(年度更新、算定基礎届、年末調整)
-連続起業Web小説 「社労士、あなたに会えてよかった」-
【第1話】退職手続きと社会保険
【第2話】退職と会社設立、社会保険への加入
【第3話】はじめて社員を採用するときにやるべきこと
【第4話】3つの法定帳簿と36協定を整備する
【第5話】正しい給与計算は依頼して本業に集中する

5月下旬のある日、リンク・エデュケーションに「労働保険 保険料申告書 在中」と書かれた見慣れない緑色の封筒が届いた。折しも、その日は顧問社労士の榊原の定期訪問日であったため、竹田は封筒の中身について榊原に尋ねてみることにした。榊原は竹田に、労働保険および社会保険にはそれぞれ、毎年1回行わなければならない手続があり、これに基づいてその年の保険料が決まるので、封筒にはその手続のための書類が入っているのだということを説明した。

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【登場人物】

竹田 裕二(35) 起業家 (リンク・エデュケーション社長)

資格試験予備校「キャリアセミナー」の講師を経て、IT企業「イーデザイン」へ転職。現在は、オンラインスクール「リンク・エデュケーション」を起業するために奮闘している。

榊原 葵(32) 社会保険労務士(社労士) あおい労務管理事務所 代表

「トヨサン自動車」に勤務し、海外事業部や経営企画室など会社の中枢部門で活躍していたキャリアウーマンであったが、様々な仕事をこなしていく中で「企業は人なり」という言葉を実感し、社会保険労務士へ転進。持ち前のバイタリティで事務所経営を軌道にのせ、現在はスタッフ10名、顧問先200社を抱えている。

突如やってきた労働保険料の年度更新のお知らせ

postポスト
5月下旬のある日、リンク・エデュケーションに緑色の見慣れない封筒が届いた。

封筒には「労働保険 保険料申告書 在中」と書かれている。

労働保険に関係する何らかの書類のようだ。ちょうど今日は榊原が定期訪問をしてくれる日であったため、彼女に聞いてみようと竹田は考えた。

その日の午後、約束どおりの時間に榊原がやってきた。

今日も榊原はトレードマークの白いスーツであったが、珍しく眼鏡をかけていた。

若干の「萌え」を感じながら竹田が「今日は眼鏡なんですね」と尋ねると、前日は軽井沢で企業研修の講師をしていたので、車で関越道を走ってきたとのことである。

今をときめく星井リゾートの幹部社員を相手に研修講師を務めたという話にも驚いたが、竹田も車は好きなほうなので、榊原の愛車について聞いてみたところ、榊原はBMWのX1に乗っているそうだ。カラーはもちろん白である。女性が運転するには大型な車という印象もあったが、活動的でお洒落な榊原には似合っていると竹田は思った。

そんな雑談を前置きに、予定されていた一通りの打ち合わせを終えたあと、榊原が「そういえば、そろそろ御社に労働保険料の申告書、とか書いてある緑っぽい封筒が届いていませんか?」と切り出した。

竹田は「さすが榊原先生ですね、こちらですか?」と応じた。

榊原は、「そうです」と答え、

「労働保険料(労災保険と雇用保険に関する保険料)は、4月から翌年3月までを保険年度として、年間の見込み給与の総額に基づいて保険料を前納するというルールになっています。
このため、会社は保険年度が終わったタイミングで見込み給与と実績給与の差額分の労働保険料を精算しなければなりません。竹田社長の会社は昨年から労働保険に加入しましたので、今回が初めての保険料精算ですね。」

「また、前年度の労働保険料の精算を行うと同時に、当年度の見込み給与に基づき、当年度分の保険料の前納も行います。これらの手続を合わせて、専門的には『年度更新』と呼んでいて、6月1日から7月10日までの間に行わなければなりません。」

と続けた。

竹田は榊原の話を一通り理解したうえで、「では、私はこの封筒をどうすればいいのですか?」と尋ねると、

「そのまま渡していただけば私のほうで全て処理しますので、社長は最後に納付すべき保険料さえ用意していただけば大丈夫です。」と、榊原は微笑んだ。

それを聞いて、竹田は、心の中で自社に顧問社労士がいることの心強さと有難さを感じていた。

もし榊原がいなかったら、自分はこの緑色の封筒を処理するために丸1日や2日はかかっていたかもしれない。それは、本業に対しても大きなロスだ。

社会保険料をうまく抑えるコツ

社会保険の算定基礎届
労働保険料の話がひと段落すると、榊原が、「この時期の事務処理でもう1つ重要なものがあります。」と切り出し、

社会保険(健康保険+厚生年金)に関して、『算定基礎届』という書類を提出する必要があり、これは、毎年4月・5月・6月に支払われた3か月分の給与を年金事務所に報告するための書類です。この書類の記載内容に基づいて9月から翌年8月までの保険料が決定されます。

と続けた。

竹田は、「毎年の昇給や降給を社会保険料に反映させるためですか?」と榊原に尋ねると、

榊原は「その通りです。」と答え、「大幅に昇給や降給があった場合は年度の途中で保険料を変更する場合もありますが、原則としては算定基礎届の内容に基づいて、年単位で保険料の額が決まります。」と付け加えた。

竹田はそれを聞いて何かをひらめいた表情で、「榊原先生、もしかして、4月・5月・6月は残業をさせなかったりしたら、社会保険料が安くなったりするのですか?」尋ねた。

榊原は、「竹田社長、鋭いですね。」と微笑み、「ご認識の通りです。」

「7月以降に残業が増えたとしても、固定給が変化しない限り、年度途中での保険料の改定(随時改定)の要件には当てはまりませんので、残業が少ないベースで決まった保険料を1年間維持できます。逆に、4月・5月・6月にたくさん残業をしてしまうと、高い保険料を1年間払い続けなければならなくなってしまいます。」

「保険料を安くするために、仕事があるのに無理やり残業をさせないとか、ましてやサービス残業をさせるというのは本末転倒ですが、4月・5月・6月は、無駄な残業はさせないという意識を、普段以上に持つことが大切だと思います。」と、榊原は意見を述べた。

そして、「『算定基礎届』も7月10日が提出期限になっていますので、届き次第、私の事務所にお送りください」と榊原は付け加えた。

年末調整をしよう!!

年末調整
算定基礎届の話が終わったところで、竹田は、「『年度更新』とか『算定基礎届』とか、そういうものの存在を知りませんでした。今日はとても勉強になりました。ほかにも、このように会社が年ベースで行わなければならないことはあるのですか?」と榊原に尋ねた。

榊原は、「あとは、年末調整ですね。」と答えた。

「年末調整は、税理士も社労士も両方が対応できるのでどちらが対応するかはケースバイケースですが、御社の場合は、顧問税理士の栗山先生を交えて調整させていただきました通り、今年度から私が対応させていただきます。給与計算を私の事務所で行っておりますので、その流れで年末調整も私が行ったほうが、効率が良いですから。」と、榊原は続けた。

竹田は「なるほどですね。是非、栗山先生と連携して宜しくお願い致します。」と答え、

「ところで、年末調整ってよく聞きますし、サラリーマン時代もずっと勤務先の会社にやってもらっていましたが、具体的にはどういうことでしたっけ。」と榊原に尋ねた。

榊原は、「毎月の給与計算において、所得税は『月額表』という表に基づいて概算で控除されていますが、扶養親族の異動、生命保険料の控除、住宅ローンの控除などの影響で最終的な所得税額は変わってきます。そのため、これらを反映させて所得税を確定させることが年末調整です。」と説明した。

竹田は、「良く分かりました」と答え、ちょうど予定の時間になったので、次回の日取りや宿題事項などを確認し、打ち合わせは終了となった。
BMW
竹田は、「榊原先生のBMWを拝見したいですね」と、駐車場まで見送りをしたが、榊原を見送りながら、どちらかといえば小柄な榊原が、BMWのX1に乗り込んでも、それがアンバランスに見えなかったのは、きっと彼女のオーラなのだろうと感じていた。

つづく

(監修:あおいヒューマンリソースコンサルティング 代表 榊 裕葵
(編集:創業手帳編集部)

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