小規模企業共済とは? 危ない・デメリットがあるって聞くけど本当?
『貯金のつもりで節税になる』『共済金は退職所得となる』制度がさらに手軽に
(執筆:渋谷税理士法人 中村剛士)
以前の記事『起業家・個人事業主必見!知らなきゃ損する小規模企業共済』で紹介している小規模企業共済について、平成27年8月28日に改正があったことをご存じでしょうか?
加入者を増やすためにハードルを下げたり、手間を削減したりしているので、今まで『面倒くさい』『時間がない』『キャッシュが心配』と尻込みしていた創業期の起業家にとっても使い勝手がよくなっています。
今回は、改正の内容を中心に、小規模企業共済を再度確認しておきましょう。
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この記事の目次
小規模企業共済とは
小規模企業共済は、昭和40年に発足しました。運営は、公的機関である「独立行政法人中小企業基盤整備機構」です。共済に加入すると、共済金を月々積み立てることができます。積み立てた共済金は、解約時に受け取れるため、退職金代わりに活用する場合も少なくありません。また、貸付制度が利用できるという特徴もあります。
小規模企業共済の概要は、次の表でご確認ください。
対象 | 20人以下の個人事業主または小規模企業の経営者や役員 |
加入プラン | 月々1,000円~70,000円(500円単位) |
小規模企業共済って危ないの?
小規模企業共済が危ないといわれるのは、次の2つのデメリットがあるためです。
・元本割れのリスク
・解約時に課税される
公式ホームページでも、「掛金納付月数が、240ヶ月(20年)未満の場合は、掛金合計額を下回ります。」と明記されています。返戻率は、加入期間が短いほど小さくなる仕組みです。
ただし、「20年未満で損する」のは、「解約手当金」を受け取った場合のみです。「共済金A」「共済金B」「準共済金」なら20年未満であっても損することはありません。具体的な内容については、後で詳しく解説いたします。
また、共済金を受け取る際に課税される点も注意が必要です。小規模企業共済は毎年の節税にはなりますが、受け取り時に税金がかかるため危ないといわれるのでしょう。
小規模企業共済が改正
改正の背景
経営者の高齢化の進展に伴い、経営者の平均引退年齢も上昇傾向にあり、経営者の高齢化を背景として、休廃業・解散等件数が増加している現状があります。
そこで課題となるのが、引退後の生活資金の確保と事業承継の推進です。
今回の改正は、まさにこれらの課題に対して『準共済事由』だったものを『A共済事由』『B共済事由』に引き上げることで、加入や事業承継を促進するために行われたものと推察されます。
改正内容
- 共済事由の引上げ
- 共済金を受給できる遺族の範囲の拡大
- 分割共済金の支給回数の増加
- 申込金の廃止
- 掛金月額の減少(減額)の要件廃止
- 掛金納付月数の通算事由を追加
- やむを得ない掛金滞納に対する機構解約の例外を追加
(1)以下の事由が準共済事由からA共済事由に見直しされます。
・個人事業主の「個人事業主が配偶者又は子への事業の譲渡」
・共同経営者の「個人事業主の配偶者又は子への事業の全部譲渡に伴い、配偶者又は子への事業(共同経営者の地位)を全部譲渡」
(2)以下の事由が準共済事由からB共済事由に見直しされます。
・会社等役員の「会社等役員の退任(疾病・負傷・死亡・解散を除く)」のうち、会社等役員の退任日において65歳以上の場合
共済金を受給できる遺族に『共済契約者と生計維持関係がなかった「ひ孫」と「甥・姪」』が追加されます。
共済金の分割支給(分割共済金)が年4回から年6回(毎年1月、3月、5月、7月、9月、11月)の支給になります。
「共済契約の申込み」と「増額の申込み」のお手続きの際に、申込金を添えていただく必要がなくなります。(現金による納付が必要ではなくなります。)
掛金月額の減少を行う際の要件(減額要件)が廃止され、これまで必要だった「委託機関による減額理由の確認」が不要となります。
共同経営者が、いったんその地位を退いた場合でも、一定の条件に該当する場合は、1年以内に新たに経営者となり本共済の加入要件を満たすときは、掛金納付月数の通算ができるようになります。
災害など契約者の責任ではない理由(やむを得ない理由)により生じた掛金の滞納については、共済契約を継続できることとなります。
出典:中小機構HPより
小規模企業共済はどう変わったの?
上記が改正の全貌ですが、全体を通してみると、ポイントは下記の2つに集約されます。
- 解約時の制限が緩和
- 申込み時及び金額変更時の手間を削減
いずれも加入の間口を広げ、ハードルを下げている傾向が見て取れます。
それぞれのポイントごとに見ていきましょう。
1.解約時の制限が緩和
以前の記事では、詳細に触れていませんでしたが、小規模企業共済の解約にはその事由によって、いくつかの種類があります。
『A共済事由』『B共済事由』『準共済事由』『任意解約』の4種類がそれですが、どの事由によって解約するかに応じ、貰える共済金等の額が変動となります。
個人事業主の場合を例にみると、
A共済事由……事業を廃業した場合
B共済事由……老齢給付(65歳以上で180ヶ月以上納付)
準共済事由……配偶者や子に事業を譲渡した場合
となり、貰える共済金等の額は以下のようになります。
掛金 納付月数 |
掛金残高 (円) |
共済金A (円) |
共済金B (円) |
準共済金 (円) |
---|---|---|---|---|
5年 | 600,000 | 621,400 | 614,600 | 600,000 |
10年 | 1,200,000 | 1,290,600 | 1,260,800 | 1,200,000 |
15年 | 1,800,000 | 2,011,000 | 1,940,400 | 1,800,000 |
20年 | 2,400,000 | 2,786,400 | 2,658,800 | 2,419,500 |
30年 | 3,600,000 | 4,348,000 | 4,211,800 | 3,832,740 |
※解約手当金は、掛金納付月数に応じて、掛金合計額の80%~120%相当額がお受け取りいただけます。掛金納付月数が、240ヶ月(20年)未満の場合は、掛金合計額を下回ります。
出典:中小機構HPより
詳細は中小機構のHPで確認していただきたいのですが、貰える共済金等の額は『A』>『B』>『準』となっています。
以前の記事では、デメリットとして掛金納付月数が240ヶ月(20年)未満の場合は、元本割れするということのみを紹介しましたが、実はこれは任意解約のケースで、A共済事由・B共済事由・準共済事由のように、理由の強弱はあれ、所謂『退職した』事実がある場合には、払い込んだ金額以上を共済金として受け取ることができます。
具体的に「共済金A」「共済金B」「準共済金」「解約手当金」に当てはまる内容を見ていきましょう。
・個人事業主
共済金A | 個人事業を廃業した(すべての事業)共済契約者が亡くなった |
共済金B | 老齢給付(65歳以上で180カ月掛金を払った) |
準共済金 | 個人事業を法人成りし加入資格がなくなり解約した |
解約手当金 | 任意解約 機構解約(掛金を12か月以上滞納) 個人事業を法人成りし加入資格があるが解約をした |
・法人の役員
共済金A | 法人が解散した |
共済金B | 病気や怪我または65歳以上で役員を退任した 共済契約者が亡くなった 老齢給付(65歳以上で180カ月以上掛金を支払った) |
準共済金A | 法人の解散・病気・怪我以外の理由または65歳未満で役員を退任した |
解約手当金 | 任意解約 機構解約(掛金を12か月以上滞納) |
つまり、フリーランスを始めて小規模企業共済に加入していた場合では、途中で廃業して共済金Aを受け取っても、元本割れしなくてすみます。フリーランスの加入者が亡くなった場合も元本割れはないため、万が一の際に家族のために共済に掛けておくこともできます。
今回の改正では、いままで『準共済事由』だったものを『A共済事由』『B共済事由』に引き上げているので、より多く貰える事由が増えているということになります。
また、共済金を受給できる遺族に『共済契約者と生計維持関係がなかった「ひ孫」と「甥・姪」』が追加されたり、共済金の分割支給(分割共済金)が年4回から年6回(毎年1月、3月、5月、7月、9月、11月)の支給になったりと、出口のハードルを下げているのが分かります。
2.申込み時及び金額変更時の手間を削減
今までは、新規申込時と増額申込時には現金納付が必要だったが、それが不要となったり、掛金の減額申込みの際に必要だった「委託機関による減額理由の確認」が不要となったりと、加入者が自身の状況によって臨機応変に掛け金を決定しやすくなっています。
小規模企業共済のデメリット
小規模企業共済のデメリットは、すでに説明したとおり、「元本割れリスク」「解約時に税金がかかる」2点です。元本割れリスクをなくすために、解約理由を確認しておいてください。
廃業してから共済金を受け取れば「任意解約」にはなりませんが、この場合は廃業届を提出する必要があります。廃業届は廃業手続きを終えないともらえないため、注意してください。
廃業の際にすぐお金が必要になると、「任意解約」を選択せざるを得ない場合もあるでしょう。共済金の受け取りを待ってからだと間に合わないケースも考慮しなければなりません。
次に、解約時に課税される点です。廃業せざるを得ない状況で税金の支払いとなると、負担が大きいと感じる場合があります。
小規模企業共済のメリット
小規模企業共済は、いくつかのメリットがあります。
1つは、「最大掛金の120%が戻ってくる」点です。
2つは、掛金の全額が控除として利用できる点です。このことから節税の目的だけでも、小規模企業共済を活用するメリットがあると言えます。
3つは、解約時の税負担が軽くなる点です。解約時に税金を支払う必要がありますが、個人事業主であれば「退職所得」扱いになります。退職所得は、事業所得と比べて税率が低いため、個人事業主であれば節税対策になるでしょう。
4つは、無理のない掛金に調節できる点です。毎月の掛け金は1,000円~70,000円までで、500円単位で自由に設定できます。売り上げが落ちて余裕がないときは掛け金を減額できて、余裕があるときは増額して積立金を増やせます。
最後に、低金利の貸付制度が利用できる点も挙げられるでしょう。借りられる金額は積立金の範囲内の制限はありますが、年利1.5%で低金利です。病気や災害時、福祉目的、創業資金、廃業準備などさまざまな目的の融資が利用できます。
改正によるメリット
出口のハードルが下がっていることとも大きいですが、何といっても、金額変更時の手間が無くなったことが大きいといえます。
これにより、掛金の金額を動かしやすくなったので、キャッシュの状況に応じて、素早い対応を取ることができるようになりました。
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今後の展望
制度としては成熟しているので、運用に失敗しない限りはこのまま現状維持されると思われます。もっとも、高齢化はこれからも進んでいくので、老齢給付(現在65歳以上)の年齢引上げはあるかもしれません。
或いは、月額の限度額の上昇(現在は月7万円まで)くらいは検討される可能性もあります。
何にせよ、前回の記事でお伝えしたとおり、『貯金のつもりで節税になる』『共済金は退職所得となる』といったメリットがあります。
少額からでも入ることができるので、起業時から入るのも難しくはなく、また一方で安定してきたタイミングで考えるというのでもよいでしょう。
この機会に検討してみてはいかがでしょうか。
このような制度はどこかから情報を仕入れないと知ることがないままになってしまいます。また、節税対策については、税理士などの専門家に相談する必要があるでしょう。冊子版の創業手帳の請求時に、Web版の創業手帳の無料会員登録が行えます。創業手帳では、専門家紹介や、創業コンサルティングを会員向けに行っています。これらのサービスを受けるに際して、料金は一切無料です。(創業手帳編集部)
(監修:渋谷税理士法人 中村剛士)
(編集:創業手帳編集部)
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