【第3話】はじめて社員を採用するときにやるべきこと -連続起業Web小説 「社労士、あなたに会えてよかった」-

創業手帳

(連載)独立起業前に読んで納得! 社員採用時に雇用契約書は必要? 社会保険・労働保険の加入条件は?

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-連続起業Web小説 「社労士、あなたに会えてよかった」-

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【第1話】退職手続きと社会保険
【第2話】退職と会社設立、社会保険への加入

前回、ついに独立・起業を果たし、社労士 榊原の助けを得て、自身の社会保険や年金の手続きも無事済ませた。その後、創業から4ヶ月が経過し、竹田の会社は順調に成長していた。業務量が増え、1人では手が回らなくなってきて、竹田は社員を採用する必要性を感じ始めていた。大口の契約が決まったことをきっかけについに社員採用を決意。社員を採用する場合の注意点について、榊原に助言を求めることとなる。

【登場人物】

竹田 裕二(35) 起業家 (リンク・エデュケーション社長)

資格試験予備校「キャリアセミナー」の講師を経て、IT企業「イーデザイン」へ転職。現在は、オンラインスクール「リンク・エデュケーション」を起業するために奮闘している。

榊原 葵(32) 社会保険労務士(社労士) あおい労務管理事務所 代表

「トヨサン自動車」に勤務し、海外事業部や経営企画室など会社の中枢部門で活躍していたキャリアウーマンであったが、様々な仕事をこなしていく中で「企業は人なり」という言葉を実感し、社会保険労務士へ転進。持ち前のバイタリティで事務所経営を軌道にのせ、現在はスタッフ10名、顧問先200社を抱えている。

はじめて社員を採用する

ビジネスマン タブレットコンピューター 竹田が「リンク・エデュケーション」を起業して4ヶ月が経過した。 

 「リンク・エデュケーション」は、オンラインの資格試験の予備校というビジネスモデルであるが、DVDやストリーミングで講義を受講する会員の数は順調に増えていった。

 最初は、宅地建物取引士など、竹田がキャリアセミナー勤務時代に教えていた資格を、自分が講師として担当することからスタートしたが、持ち前の人脈の広さを生かして、社会保険労務士、行政書士、簿記、ファイナンシャルプランナーなどの資格についても、次々と担当講師をスカウトし、講義を収録してリリースを重ねていった。

 ところが、講座のラインナップが増え、会員数も伸びてくると、竹田一人ではさすがに顧客対応に手が回らなくなってきた。また、講座の運営そのものだけでなく、サイトの改善や、プロモーション活動なども後手に周りつつあることに危機感を感じ始めた。

 竹田は悩んでいた。1人で続けるのはもう限界が近いことは分かっている。社員を雇いたいのはやまやまだが、売上が伸びてきているとはいえ、これが続くという保障はない。社員を雇うのが先か、それとも多少無理してでももう少し売上を安定させるまで採用は見送るべきか・・・

 そのとき、オフィスの電話が鳴った。電話の発信元は、1ヶ月ほど前から打合せを重ねていた「新東京不動産」であった。リンク・エデュケーションの宅地建物取引士の講義を、社員研修のeラーニング教材として使うための打合せをしていたのだが、この案件について最終決裁が下りたという連絡が来たのだ。

 契約ID数は約300である。はじめての大口契約を獲得したのだ。竹田は、内心飛び上がりたい気持ちを抑え、丁重にお礼を言って受話器を置いた。
 電話を置いて一呼吸すると、これを機に社員を雇おうという覚悟も決まった。


社労士に聞く、社員を採用する時にやるべきことは?

煎餅 社員を雇うにあたり、そもそも何をすればよいのか、また、何に注意すればよいのかが分からない。そこで、社労士の榊原にざっくばらんに話を聞いてみようと、電話で面談のアポをとることにした。

 アポ当日。竹田は銀座を歩いていた。思えば、前回、榊原の事務所を訪れたときは、クリスマス前で、ライトアップが美しい時期だった。
 早いもので、今は8月。並木通りの柳が爽やかだ。

 竹田は並木通り沿いにある「松崎煎餅」で手土産を買い、榊原の事務所へ向かった。「松崎煎餅」は1804年(文化元年)創業の、江戸時代から続く老舗で、手焼きの煎餅は何とも味わい深い。竹田は贈答品として数年前にもらって以来、大いにお気に入りで、客先や取引先への手土産としても愛用している。

 並木通りから中央通りへ抜け、榊原の社労士事務所に到着すると、事務員が会議室へ案内してくれた。
 ほどなくして、トレードマークの白いスーツに身を包んだ榊原が現れた。挨拶を交わし、手土産の松崎煎餅を渡すと、榊原は「このお煎餅大好きなんです!」と目を輝かせて喜んでいた。普段の凛々しい榊原とのギャップに、竹田は良いものが見られたと、内心得をした気分になった。

はじめての社員採用、ベストな人材募集方法は?

 榊原はすぐ真顔に戻り、早速本題の打ち合わせが始まった。
 竹田がまず聞きたかったのは、そもそも社員をどのように求人すれば良いのかということだ。

 榊原が言うには、求人には大きく分けて3つの方法があるいう。
 1つ目は、ハローワークに求人を出す方法、2つ目はリクナビなど民間求人サイトや求人誌に広告を出す方法、3つ目は、身近な人脈の中から紹介を受けたりスカウトをしたりする方法である。

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 榊原は、ベンチャー企業が1人目の社員を雇う場合、3つ目の「身近な人脈の中から紹介を受けたりスカウトをしたりする方法」が最も良いのではないかという提案を示した。

 まず、1つ目のハローワーク経由の場合であるが、助成金をもらえる場合があるなどのメリットもあるが、生き馬の目を抜くベンチャー企業の世界で、即戦力として動いてもらえるような人材は正直なところ、なかなか見つけにくいそうだ。

 また、2つ目のリクナビのような求人サイトを使う方法は、数十万、場合によっては百万単位で費用が発生するが、まだ知名度のないベンチャー企業の場合は、費用対効果に見合った応募者が集まる可能性は低いので、あまりお勧めはできないということであった。

 やはり、1人目の社員は、将来のNo2候補でもあるので、社長の意思を汲み取って自発的に動いてくれるような才覚があって、なおかつ会社のビジョンに心から共感してくれる人物が望ましい。1回2回の面接では本当にそういう人物かは到底見抜けないので、社長がよく知っている人物の中から、1人目の社員は是非とも見つけ出すのが良いというのが榊原の持論であった。

 竹田はもっともだと思い、前職、前々職からの人付き合いも多いので、この路線であたってみることにした。

雇用契約書は絶対に必要というわけではないが...

契約書に押印 次に竹田が知りたかったのは、実際に採用が決まったときに雇用契約書などを取り交わす必要があるのかということだ。

 榊原が言うには、雇用契約書を必ずしも取り交わす必要はないのだが、雇用契約の成立時に社員に対して書面で明示すべき事項が労働基準法で定められているようだ。中でも、次の5項目は「絶対的明示事項」とされており、いかなる場合でも書面によって明示しなければならない。

絶対明示事項

  1. 労働契約の期間
  2. 就業の場所、従事すべき業務
  3. 始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働(残業)有無、休憩時間、休日、休暇、並びに労働者を2組以上に分かれて就業させる場合の取扱い
  4. 賃金の決定、計算および支払方法、賃金の締切りおよび支払の時期並びに昇給に関する事項
  5. 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

 これらの事項が網羅されていれば、書面を交付するだけで法律上の要求は満たせるのだが、榊原は、「多少なりとも手間はかかるかもしれないが、『雇用契約書』という形にして2部作成し、お互いに署名押印をして1部ずつ保管することが望ましいです」と、強い口調で念押しをした。

 一方的に書面を交付するだけでは何かトラブルが発生した際に、「もらった、もらってない」の水掛け論になるかもしれないし、仮に書面を交付したこと自体は証明できても、社員側の押印がなければ「この労働条件に同意した記憶はない」と言われたときに立証が困難になってしまう場合があるからだ。

 これは、社労士として数多くの労働トラブルを解決してきた榊原の経験に裏打ちされたアドバイスであり、榊原は、トラブルが起こってからでは解決は困難なので、雇用する段階でトラブルが発生しないように労働条件を目に見える形でしっかりと合意することこそが肝心だということを強く認識しているのだ。

社会保険と労働保険の加入条件は?

 最後に、竹田は社会保険のことについて確認をした。
 榊原の説明によると、社会保険は、

①2ヶ月超の継続勤務
②おおむね週30時間の勤務

 の2つの条件に該当する社員は強制加入となる。したがって、正社員で採用するならば、採用当初から社会保険に加入させなければならないのが原則であるということだ。

 また、社員の場合は、社会保険に加えて労働保険にも加入しなければならない。労働保険とは、労災保険と雇用保険を合わせた呼び名だ。
 労災保険は全ての社員に加入義務がある。
 そして雇用保険は、以下いずれかの条件が見込まれる社員は必ず加入する義務がある。

①31日以上の継続勤務
②週20時間以上の勤務

 したがって、正社員であれば、労働保険もやはり必然的に加入が必要となるものだ。

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 竹田は、社員の採用が決まった際は、社会保険・労働保険の手続の代行をお願いすることを述べ、榊原の事務所を後にした。

ついに第1号社員の採用が決定!

眼鏡を掛けた男性 よろこぶ
 その夜、竹田はフェイスブックを眺めていると、イーデザイン時代に部下だった福川弘樹が「俺、思うことがあって会社をやめた。次も何か面白いことをやりたいな。」と投稿しているのを見つけた。
 福川は、竹田の下でアシスタントマネージャーを務め、イーデザインの株式公開に向け現場の実務をテキパキ仕切ってくれた才能溢れる若者である。現在もまだ28歳だ。

 竹田は、「これだ!」と思い、福川にメッセージを送った。
 「福川くん、久し振りです。私が創業したリンク・エデュケーションが軌道に乗り始め、これからさらに規模を拡大していくので、一緒にビジネスをやってくれる仲間を探しています。もし福川君に加わってもらえたら、本当に心強いので、いちど食事をしながら話を聞いてもらえませんか。」

 ほどなく福川から、「是非お願いします。」と返信があり、次の日の夜に早速食事をすることとなった。
 竹田は、福川の好物が焼肉だと知っていたので、福川の自宅に程近い麻生十番の叙々苑で食事会をセットした。熱い炎で肉を焼きながら、その熱さに負けないくらい、竹田は福川に事業計画や将来のビジョンを熱く語った。

 食事の後、「前向きに検討したい」という返事で福川と別れた。竹田は思いを存分に伝えたので、あとは福川の決断を待つのみであった。福川は仕事も意思決定も早い男なので、数日中に返事があるだろう。

 竹田は帰宅後シャワーを浴び、ベッドに入る前に携帯電話を確認すると、フェイスブックのメッセージの着信を示すマークが表示されていた。想像以上に早い福川からの連絡であった。期待と不安が半々であったが、メッセージを開くと「竹田先輩の会社でお世話になります!」と書かれていた。

 竹田は思わす「よっしゃ!」と叫んでしまい、妻に「何時だと思っているんですか。子供が起きてしまいますよ。」と、たしなめられたが、嬉しさを抑えられなかった。

 竹田はガッツポーズをしながら、夢を共有してくれた福川のためにも、絶対に会社を成功させねばと、ますますモチベーションが高まる思いであった。

【第4話】3つの法定帳簿と36協定を整備する -連続起業Web小説 「社労士、あなたに会えてよかった」-

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(監修:あおいヒューマンリソースコンサルティング 代表 榊 裕葵
(編集:創業手帳編集部)

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