【第5話】正しい給与計算は依頼して本業に集中する -連続起業Web小説 「社労士、あなたに会えてよかった」-

創業手帳

(連載)独立起業前に読んで納得!給与計算で間違いやすい割増賃金、雇用保険料、社会保険料、所得税額

正しい給与計算は依頼して本業に集中する
-連続起業Web小説 「社労士、あなたに会えてよかった」-

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【第1話】退職手続きと社会保険
【第2話】退職と会社設立、社会保険への加入
【第3話】はじめて社員を採用するときにやるべきこと
【第4話】3つの法定帳簿と36協定を整備する

竹田は榊原の事務所と顧問契約を結ぶことを決め、榊原と再び面談を持つこととなった。お互いに意気投合してのことだったので、契約はスムーズにまとまり、早速実務の話へ入っていった。まずは、これまで給与計算が正しく行われていたのか、榊原が顧問社労士として、早速チェックの目を光らせるのだが・・・

【登場人物】

竹田 裕二(35) 起業家 (リンク・エデュケーション社長)

資格試験予備校「キャリアセミナー」の講師を経て、IT企業「イーデザイン」へ転職。現在は、オンラインスクール「リンク・エデュケーション」を起業するために奮闘している。

榊原 葵(32) 社会保険労務士(社労士) あおい労務管理事務所 代表

「トヨサン自動車」に勤務し、海外事業部や経営企画室など会社の中枢部門で活躍していたキャリアウーマンであったが、様々な仕事をこなしていく中で「企業は人なり」という言葉を実感し、社会保険労務士へ転進。持ち前のバイタリティで事務所経営を軌道にのせ、現在はスタッフ10名、顧問先200社を抱えている。

社会保険労務士と顧問契約を結ぶ

Contract formation
 渋谷での会食から1週間後、榊原がリンク・エデュケーションに再び来社した。竹田と顧問契約を結ぶ打ち合わせを行うためだ。

 竹田は榊原が頼りになる存在だということはこれまでの実績からも確信していた。しかし、正直なところ、社会保険労務士と顧問契約を結ぶと何をしてくれるのかということが、いまひとつイメージを持てなかった。榊原に、まずそこから尋ねてみることにした。

 榊原は次のように説明をしてくれた。
 「社会保険労務士と顧問契約を結ぶと、うちの事務所もそうですが、一般的には次の3つのサービスを受けることができます。

 第1に『労働相談』です。社員の日々の労務管理、採用や解雇、パワハラ・セクハラのトラブル、労災の発生など、経営者の方が持つ人事労務に関するあらゆる困り事に対し、専門家としてアドバイスやサポートをいたします。

 第2に『手続代行』です。社員の入退社があった場合の社会保険・雇用保険の被保険者資格の取得や喪失、毎年の労働保険の年度更新、社会保険の算定基礎届など、社会保険・労働保険に関する会社の手続を代行します。

 第3に、『給与計算』です。会社から毎月の勤怠データを送っていただき、それをもとに残業代や欠勤控除などを計算し、また、社会保険料や源泉所得税の計算などを行い、毎月の給与計算を代行します。

 就業規則の作成や助成金の申請は別料金になりますが、顧問契約を結んでいる会社様の場合には、報酬を割引いたり、納期を優先的に対応したりしています。」

 竹田は以上のような説明を聞いて、社会保険労務士が何をしてくれるのかということが良く分かった。3つのサービス全てを契約することを「フル顧問契約」というそうだが、フル顧問契約ではなく、自社にとって必要なサービスだけを契約することもできるらしい。

 榊原は、料金表も示してくれた。社労士の顧問料というのは、社員数に基づいて決まるものとのことである。

あおい労務管理事務所 顧問報酬表(月額) 単位/円
社員数 相談顧問 相談手続顧問 相談給与顧問 相談手続給与顧問(フル顧問)
1名~2名 5,000 10,000 10,000 15,000
2名~4名 5,000 11,000 12,000 18,000
5名~6名 10,000 17,000 18,000 25,000










 リンク・エデュケーションは、現在のところ竹田と福川、2名の会社なので、サービスメニューに応じて、月額顧問料は5,000円から15,000円らしい。

 竹田は榊原のことを全面的に信頼しているし、当面は自社に総務部門専属のスタッフを置くことも考えていないので、「フル顧問契約」を結ぶことにした。
 その旨を榊原に伝えると、榊原は「ありがとうございます。御社のようなこれから伸びようとする会社様のお手伝いをさせて頂けることは社労士冥利につきます。」と笑顔で答え、「これから一緒に頑張りましょう」と、竹田と榊原はガッチリ握手をした。ここに、あおい労務管理事務所とリンク・エデュケーションの正式な顧問契約が成立したのである。

賃金台帳を確認して正しく給与計算する

賃金台帳を確認して正しく給与計算する
 契約の話がまとまったところで、「早速ですが・・・」と榊原が切り出した。
「御社の出勤簿と賃金台帳を見せてください。」
 榊原が言うには、自社で給与計算をやってきた会社では、どこかしら計算が間違っている場合が多いので、必ず、最初に、過去の出勤簿賃金台帳をチェックさせてもらっているということだ。

 榊原はしばらく無言で出勤簿や賃金台帳を眺め、電卓を叩いていたが、おもむろに顔を上げ、「たとえばですね・・・」と11月20日に支払った賃金の欄を差した。

割増賃金の正しい計算方法

賃金台帳 -割増賃金の計算-
基本給 ¥260,000
役職手当 ¥30,000
通勤手当 ¥10,000
時間外手当 ¥60,960
総支給額 ¥360,960
健康保険 ¥17,946
厚生年金 ¥31,453
雇用保険 ¥1,300
所得税 ¥13,320
住民税 ¥20,000
控除計 ¥84,019
差引支給額 ¥276,941

 「まず、時間外手当ですね。出勤簿によると、この月の残業時間は30時間とのことでしたので、逆算をしますと、¥60,960 ÷ 30時間 = ¥2,032ですから、1時間あたり2,032円の割増賃金を支払っている計算になります。
 
 ここからは私の想像ですが、竹田社長が計算なさった2,032円という割増賃金の単価の根拠は、基本給の260,000円を御社の月平均稼働時間の160時間(20日×8時間)で割って時給を計算(260,000円÷160時間=1,625円/時間)し、これを1.25倍(1,625円×1.25=2,031.25円)して端数を切り上げたものと思われます。
 
 計算の流れとしては正しいのですが、割増賃金の計算には、基本給だけでなく、役職手当も含めなければなりません。ですから、役職手当の30,000円に対応する部分の時間外手当が未払いになってしまっています。」

 竹田は、「面目ありません」と答えるしかなかったが、榊原は、「いえいえ、とんでもありません。実労働時間に応じた時間外手当を支払おうとなさっていること自体、とても立派です。」と応じた。

間違えやすい雇用保険料・社会保険料や所得税額の計算方法

間違えやすい雇用保険料・社会保険料や所得税額の計算方法
 榊原は続ける。
 「ですが、まだ計算間違いの箇所がありまして、雇用保険料の計算です。雇用保険料の本人負担率は0.5%なので、基本給の260,000円に0.5%をかけて計算していらっしゃると思うのですが、役職手当と通勤手当も含めて雇用保険料を計算するのが正しい計算方法です。」

 竹田は、「通勤手当もですか!?」と驚いたが、榊原が言うには、出張旅費のような実費弁済的なものや、結婚祝金のような任意恩恵的なものを除き、会社から支給されるほとんどの手当は、雇用保険の保険料の計算に含めなければならないらしい。
 これは、社会保険料も同じだが、社会保険料については、榊原の事務所で社会保険加入代行した際に「この額をひいてください」と連絡した額がきちんと控除されているので問題ないということである。

賃金台帳 -雇用保険料と社会保険料の計算-
基本給 ¥260,000
役職手当 ¥30,000
通勤手当 ¥10,000
時間外手当 ¥60,960
総支給額 ¥360,960
健康保険 ¥17,946
厚生年金 ¥31,453
雇用保険 ¥1,300
所得税 ¥13,320
住民税 ¥20,000
控除計 ¥84,019
差引支給額 ¥276,941

 「まだあります。」と榊原が言うと、さすがに竹田もシュンとしてしまった。
 榊原は「給与計算の実務は見かけよりも難しいので、ほかの会社もこんな感じですよ」とフォローしつつ「所得税の計算が間違っていて、竹田社長は総支給額をそのまま月額表にあてはめて所得税の源泉徴収額を計算していますが、総支給額から社会保険料を控除した額を月額表に当てはめるのが正しい計算です」と、説明を続けた。

 「自分の計算がこんなに間違っているとは思いませんでした。修正はどうすればいいですか?」
 榊原は、「まずは、私のほうできちんと再計算をしてみます。本人への支給額が増える結果になると思いますので、給与支給額が不足していた分を、次回の給与の支給日に上乗せして支払うことにしましょう。」と答え、「来月からは私が顧問社労士として責任を持って給与計算を引き継がせていただきますので、社長は心配をせずに、本業に邁進してください」とエールを送った。

 竹田は、肩の荷がフッと下りたような気持ちになり「この安心感が社会保険労務士と顧問契約を結ぶ意味なんだな」と、強く実感したのだった。

給与支払業務は社労士に依頼して本業に集中する

 榊原の事務所と顧問契約をしてからは、給与支払業務が大幅に楽になった。
 リンク・エデュケーションの給与の支払は、毎月末日締め、翌月20日払いなので、翌月の第1週までに榊原の事務所に出勤簿を送れば、榊原のほうで出勤簿から残業時間数や休日出勤時間数を計算し、時間外手当の計算に反映をしてくれる。

 その他の支給や控除の計算項目も、もちろん正確に対応してくれる。給与支払日の2日前までには、給与計算の結果が届くのだ。個人別の給与明細まで作成してくれるので、竹田は、その給与明細を本人に渡すことと、振込作業を行うだけで毎月の給与支払は完了してしまうわけである。
 これまで竹田は、毎月20日が近づくと慌てて給与計算をし、会議や出張と重なると泣きたくなることもしばしばだった。晴れて給与計算から開放されて、時期を気にせず本業に集中できるようになった。

 また、給与計算だけでなく、労務管理で困ったことがあれば、これまでは自分で本やインターネットで調べていたが、榊原にメールか電話をすれば、速やかに回答がもらえるので、本当に助かっている。

竹田は榊原の事務所と顧問契約して良かったと思った。
竹田はふと、会合である先輩経営者から聞いたアドバイスを思い出した。
「会社経営において、経費として出ていくお金は少ないほうがいい。だから、無駄な経費は削減していくのは当然だ。だがそれは、何もかも自社に取り込めばいいとか、ケチればいいという意味ではない。社長や社員の持っている『時間』という最も大切な経営資源は、有限なものなのだから、『より付加価値の高いこと』に集中するためのアウトソーシングは、積極的に活用すべきだ。」

榊原の社労士事務所と契約をしたことで、竹田は、先輩経営者の言いたかったことを身にしみて実感した。

給与支払業務は社労士に依頼して本業に集中することができるので、生ハムとウィスキーで乾杯!

その夜竹田は、会社のある雑居ビルから徒歩10分の、セルリアンタワー東急ホテルに繰り出し、ワインが充実している40階のスカイバー『ベロビスト』のカウンター席に座った。目の前に広がる新宿の摩天楼の夜景を眺めながら、「俺も経営者としてもっと成長しなくちゃな」と、パルマ産の生ハムをつまみつつ、バローロの入ったグラスを傾けたのであった。

【第6話】会社が毎年1回行う手続き(年度更新、算定基礎届、年末調整)-連続起業Web小説 「社労士、あなたに会えてよかった」-

(監修:あおいヒューマンリソースコンサルティング 代表 榊 裕葵
(編集:創業手帳編集部)

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