農業法人とは?法人化のメリット・デメリットについて
今後の農業経営で知りたい法人設立の必要性などわかりやすく解説
農業法人は、農業経営を行う上で検討したい経営形態のひとつです。
法人化しておくと農業を始めやすくなるため、特にこれから農地を獲得して農業に携わっていきたい経営者、起業家はひとつの選択肢として考えておきましょう。
農業法人になることはメリットもありますが、経営の規模によっては不利益になることもあります。
そのため、先々のビジョンも見据えながら、法人化すべきか、いつ法人化するかなど、検討することも大切です。
農業法人のメリットとデメリット、法人設立で知っておきたい手順を紹介します。
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この記事の目次
農業法人とは農業・施設園芸・畜産などを営む法人のこと
農業法人とは、農業を営む法人の総称であり、稲作のような農業をはじめとして施設園芸、畜産などを営む法人のことをいいます。
法人にすることで様々なメリットがあり、制度面でも優遇されるため、農業を営む場合には検討してもいいでしょう。
農業法人の形態には、会社法人と農事組合法人との区別があり、さらに「農地所有適格法人」であるかどうかの違いもあります。
これらの違いを知っておくことも、農業法人が何たるかを知るために大切です。
法人形態は「会社法人」と「農事組合法人」
農業法人には会社法人と農事組合法人があり、それぞれに意味が違うものもあるため注意しましょう。
農事組合法人の1号法人は集落で機械施設などを共同利用し、共同で農作業を行う協同組合のようなものです。法人自体は農業経営をしていません。
2号法人は、農業とそれに関係のある事業を行う法人です。
農業を事業として行いたいと考える場合には、会社法人、もしくは農事組合法人の中でも営利目的で農業を事業として行う2号法人について知る必要があります。
いろいろな区別があり分かりにくいですが、混合せずに理解していきましょう。
農地所有適格法人とは、農業経営のために農地を取得できる農業法人のこと
「農地所有適格法人」とは、その名の通り、農業経営を行うために農地を取得できる農業法人のことを指します。
平成28年4月1日施行の改正農地法によって「農業生産法人」から「農地所有適格法人」に呼称が変更されました。
農業法人という大枠の中に、「農地所有適格法人」があるイメージです。
「農地所有適格法人」以外の農業法人は農業を営むことはできても、農地を売ったり買ったりすることはできません。
農地を持ちたい場合には「農地所有適格法人」になる必要があります。
農地所有適格法人になる要件を満たした上で農地の取得申請を行ってください。農地所有適格法人の要件は次の4つです。
1.農事組合法人(2号法人)
2.株式会社(譲渡制限付株式会社=非公開会社)
3.合名会社、合資会社、合同会社
※それ以外の法人はNG
主たる事業が、農業およびその農業に関連する事業であること
1.農地の権利提供者(農地の貸主や売主(農地の地主さんのこと))
2.農業の常時従事者
3.農作業委託農家(農業生産法人に農作業の委託を行っている個人)
4.地方公共団体、農地保有合理化法人、農業協同組合、農業協同組合連合会
5.継続的取引関係を持つ個人・法人
1.農業生産法人の経営を行う役員の過半が農業の常時従事者(原則年間150日以上)である構成員であること
2.1に該当する役員のうちの過半数が農作業に従事(原則年間60日以上)すること
農地所有適格法人になるためには、これら設立・運営の条件が農地法の規定を満たしていることが必要です。
ただし、農地を使わない農業を営む法人や、農地を借りて農業を営む法人は要件を満たす必要はありません。
農業法人化のメリット
農業法人は、対外的な意味でも法人経営においてもメリットがあります。
農業法人になると税制面などで優遇されることも多くなるため、農業を営むことをメインに起業を考えるなら法人化の道は一度検討すべきです。
農業法人になるメリットについて、様々な面から解説します。
信用力がアップする
農業法人になることで得られる対外的な影響力として、信用力のアップがあります。
農業は法人化せずとも営むことは可能ですが、法人化することで取引先や金融機関からの信用が増します。
そのため、受注量の拡大やスムーズな融資審査などが期待できそうです。
法人化することで、財務諸表の作成が必要となり、経営状況が見えやすくなります。プライベートの家計と経営が分離され、経営管理も進みます。
そのため、法人化すると取引相手や金融機関も、経営の安定を見込んだ関係作りをするようになるでしょう。
雇用がスムーズになる
農業法人になることで雇用もスムーズになり、質の高い人材を受け入れやすくなります。
人材を確保することによって、経営の多角化も目指すことができるようになり、事業展開や経営の発展にも良い影響が期待できそうです。
農業法人にすることで、社会保険や福利厚生、就業規則も整える必要が出てきますし、雇用契約も明確にすることが必要です。
休日の確保など、労働法に基づき、労働条件も改善されることでしょう。それらの整備によって魅力ある職場、安心して就業できる職場となり、人材確保もしやすくなります。
また、給与や賞与という形での対価の支払いをルール化することで、従業員のモチベーションアップにもつながります。
経営継承もスムーズに
農業経営者が法人化をすることで、経営の継承もスムーズになり、事業の継続がしやすくなります。
後継者不足の悩みも軽減されやすく、これまで培ったノウハウを次の世代にしっかりと受け渡せるでしょう。
農業法人として事業を継承するには、優秀な人材を雇用して育てることもできますし、共同経営として複数人で農業を営み、誰かがリタイアの時期を迎えても誰か他の経営者が引き継ぐこともできます。
また、農業法人であれば、農地や農業機械などの農業資産の継承もスムーズです。
所有者が個人の場合には亡くなった後の相続が必要ですが、法人化して農業資産を法人に引き継ぐことで、相続の問題を考えることなく法人として他の従業員や経営者が利用できます。
税制面・融資で優遇される
法人化することで、事業所得の税金が軽減される、法人のための補助金に申し込むことができるといった優遇も期待できます。
事業所得の節税は、従業員として家族に給料を支払い経費にする、生命保険を経費にするなどの方法を取ることが可能です。
また、赤字の場合にも欠損金を持ち越せるため、次年度以降の節税も期待できます。
補助金では「強い農業・担い手づくり総合支援交付金」が農業法人優先です。
融資でも金融機関からの信用がアップしているため、審査に通りやすくなる、大きな融資の可能性が高くなるといった有利さが増す可能性があります。
農業法人化のデメリットと注意点
農業法人になった場合、様々な面でメリットがありますが、一方でデメリットとなることもあるため注意が必要です。
農業法人になる時やなった後の問題点、注意点をまとめました。良い面だけでなく、悪い面も見てから法人化を検討してください。
出資金や費用が必要
法人化、つまり会社を設立するにあたっては、出資金や費用の準備が必要です。
会社設立は資本金1円からでもできることになっていますが、実際に1円での会社設立は信用問題に悪影響となるためおすすめできません。
また、資本金を1円にしても、それ以外に法人設立費用が掛かります。
法人設立費用の目安は、30万円程度です。事務手続き費用で定款認証手数料や登録免許税などがかかります。
自分たちで手続きをすべて行うと多少は削減できますが、現実的にはプロに依頼したほうが安心なので、その手数料も必要です。
会計処理が難しくなる
法人化すると会計処理も難しくなり、会計業務に手間取る、顧問税理士・会計士などが必要になる、といったことも起こります。
自分で法人の会計業務を行うのは大変なので、ここでも経費がかかることになるでしょう。
また、従業員の社会保険の手続きも必要となり、保険料の会社負担が発生し、経費も個人経営のように自由には使えなくなります。
法人を廃止(解散)する場合にも、手続きが複雑で個人では対応できないかもしれません。
所得の少ない場合に負担が増大することも
農業法人になると、個人経営の時よりも負担が大きくなる可能性もあります。節税効果が期待できると前述しましたが、その条件は所得によって異なります。
法人の場合は利益がなくても最低限地方税の負担が発生するため、儲けが少ない場合には法人化はおすすめできません。
また、社会保険の加入でも経費の負担が必要となり、自分の役員報酬にも所得税がかかります。
トータルすると結果的に節税になっていないこともあるため、利益が出ていないタイミングでの法人化には注意が必要です。
農業法人を株式会社で設立する方法・流れ
農業法人を設立するためには、様々な準備が必要です。法人設立を決めたら、順序立てて計画し、準備を進めてください。
農林水産省でも詳しい農業法人の情報は知ることができます。農業法人設立、法人経営の発展などのサポートを行っています。
①基本事項の決定
農業法人を設立するためには、以下の基本事項の決定を初めに行います。これらが決まっていないと手続きができません。
・商号
会社名のことで、ひらがな、カタカナ、ローマ字などを使えます。
・会社所在地
正確に本社の住所を記載します。
・事業の目的
事業内容は分かりやすく、将来行う予定のものまで記載します。「農産物の生産、加工、販売」「水田の経営」「有機農法による農産物の生産、加工、卸売」などです。
・資本金
資本金の金額を記載します。資本金は1円以上でOKですが、取引相手から信用力を見られるため、半年分の運転資金に相当する金額程度は必要とされています。
・株主構成
土地を賃借、所有する農業法人の場合、実際に農業に従事する人が資本金の50%超を所有することが条件となっています。
・役員構成
農地を賃借、所有する場合、役員の過半数が農業に従事する構成員であることが条件となります。
・事業年度・決算日
会社の決算日、いつから事業年度がスタートするのか、です。
②定款作成と認証(公証役場)
基本事項が決まったら定款を作成し、公証人役場で認証してもらいます。定款は会社組織の憲法のようなものなので、必要なことは漏らさず記載しなければいけません。
基本事項をはじめ、重要な案件の決議方法や役員の任期を記載します。
記載しないと効力が発生しないこともあるため注意が必要です。定款の作成方法を理解した上で作成してください。
作成した定款に構成員の印鑑を押し、管轄の公証人役場で認証を受けます。その際には、定款の他、取締役の印鑑証明書や収入印紙4万円分、公証人手数料5万円が必要です。
③資本金預け入れ
定款の認証が終わったら、資本金を代表者の口座へ出資者名義で振込みます。
全員が振込んだ後、通帳を記帳、コピーをして会社の代表者印で割印します。④の登記申請で必要です。
④登記申請(法務局)
登記申請は法務局で行います。登記に必要なものは以下の通りです。
-
- 株式会社設立登記申請書
- 会社の実印(代表者印)
- 取締役の印鑑証明書
- 定款(認証を受けたもの)
- 役員の就任承諾書
- 出資金の払込があったことを証する書面(通帳のコピー)
- 印鑑届出書
- 印鑑カード交付申請書
- 登録免許税
登録免許税は、最低15万円、資本金の0.7%が15万円より高い場合にはその額となります。書類一式を揃えて法務局へ登記申請します。これで法人が設立しました。
⑤各種届出(税務署など)
法人設立後にもやることはあります。それぞれ期限内に税務署や都道府県への届け出が必要です。
税務署への届け出が必要な書類は以下の通りとなります。
-
- 設立届出書
- 青色申告承認申請書
- 給与支払事務所の開設届出書
- 源泉所得税の納期の特例に関する申請書
都道府県、市町村への設立届出書の届け出も必要です。また、社会保険関係の届け出も、従業員を雇用した場合には必要となってきます。
⑥法人として農地を取得
法人名義で農地取得を可能にするには、農業法人のなかでも「農地所有適格法人」としての要件を満たす必要があります。
要件を満たした上で、農地の取得申請を行います。また、農地の権利を取得した後も、農地所有適格法人の要件を継続的に満たしていなければいけません。
農業法人を設立する際に必要な金額
農業法人の設立では、事業を始めるために必要になる資金と、会社設立にかかる費用が必要です。
農地の規模によっても必要な金額は変わってきますが、最低限準備しておきたい金額をここでは紹介します。
・資金
農業法人の事業を始めるために必要な資金は、1,000万円~2,000万円が目安とされています。
ある程度の資金が必要になる理由は、農地や機材の購入、また技術力の習得や人材確保に費用がかかるからです。
とくに農業法人として運営するにはある程度の土地の広さが必要になるため、1,000万円単位で初期費用がかかると考えましょう。
農地は、日照条件・広さ・土壌条件・水利権などを比較し、適切価格の土地を選んでください。希望する条件に合致する土地が見つかったら、権利者と取引きする必要があります。
また、農業法人として運営する場合は、ある程度の技術を持った人材確保が求められ、人数も必要です。
経営者や既にいる人材が農業の知識を習得する必要がある場合は、農業学校や研修制度を利用して学ぶ方法があるため、教育に関する費用も考慮しておきましょう。
農地や機材の購入から技術力のある人材確保では、専門家の協力が欠かせません。
農地を保有する権利者との話し合いも必要なため、農業関係者とコミュニケーションを取ることをおすすめします。
・会社設立にかかる費用
会社設立にかかる費用は、定款認証手数料が3~5万円で、登録免許税は最低で約15万円です。
どちらの費用も資本金の額に応じて変動するため、最低限必要な費用と考えてください。定款作成や登記を専門家に代行してもらう場合は、別途費用が必要です。
さらに、会社印鑑作成費用や、印鑑証明書取得費なども会社設立時にかかります。会社設立費用自体は、とくに高額になるわけではありません。
農業法人設立で失敗しないためのポイント
農業法人で失敗しないためのポイントは、増える事務作業に対して、いかにコストを削減するかです。コスト削減が目的で法人化を目指すなら、とくに見逃せない部分となります。
法人では書類や記録を残すことが義務付けられており、農業以外の事務作業が増えてしまいます。とくに、法人化で注意が必要なのは経理に関する作業です。
個人経営なら経営者自らが書類作成や経理を行うことはできますが、法人化するとより複雑化するため、新たな人材を雇うか税理士に依頼する必要性が出てきて、コストアップするかもしれません。
農業法人での事務作業に対しコストダウンを目指すなら、会計ソフトの利用を検討しましょう。
毎月の経理は会計ソフトを利用し、経営者や既にいる人材が担当することで、コスト削減できます。
ただし、決算は業務が複雑になるため、決算だけ税理士などの専門家に依頼するといった方法もおすすめです。決算のみの依頼なら、専門家の費用は高額になる心配がありません。
税理士など専門家に依頼する場合は、事前に見積もりを取って金額を把握しておくと安心です。
専門家に支払う費用は、交渉次第で安くなる場合もあります。また、複数の税理士から見積もりを取得し、コスト削減できる専門家に依頼する方法もよいでしょう。
まずは、農業法人化でどのくらいのコストアップが予想されるのか、試算してみることが大切です。
農業法人を成功させるには、できるだけ経費を削減させ、利益が出せるかが重要となります。
法人化に不安があるときは、コストの試算と削減できる部分がないか考慮してみてください。
数字上で確実に利益が出せるとわかってから、農業法人化を進めるのもひとつの方法です。
まとめ・農業法人は経営規模が拡大したら形態変更を検討しよう
農業法人は、農業を営む法人という意味であり、その中に農業のための土地を持つことができる農地所有適格法人があります。
農業法人自体は普通の株式会社と変わらない手順で設立できますが、農地所有適格法人になるには条件を満たすことが必要です。
農業法人にはメリットもありますが、事業の状態によってはデメリットや注意点もあります。
そのため、農業を始めたい人や法人化したい人も、本当に法人化が必要かどうかを見極めてから準備を進めましょう。
また、経営の規模拡大を目標にする場合は、法人形態を変更することも検討しましょう。
まずは、費用を抑えながら設立できる農事組合法人として開始し、規模が拡大してきたら、株式会社に変更する方法などが挙げられます。農業法人としての可能性を広げるためにはぜひブルーベリー観光農園始め方ガイド(無料)をご利用ください!
(編集:創業手帳編集部)