村上 臣|自分にどんなバリューがあるのかをタグ付けし、発信しよう

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年08月に行われた取材時点のものです。

日本の働き方は時代に合っていない。個の持つ力をエンパワーメントし、もっとキャリアがなめらかな社会へ

『転職2.0』で日本のキャリアの新ルールを鮮やかに表現した村上さんが、このたび『Notionで実現する新クリエイティブ仕事術』を発売。ランサーズの社外取締役にも就任し、個人がパワーを持つようになった現代で、日本のキャリアがもっとなめらかになるようにという思いを持ち、活動されています。

Notionは、メモ作成、プロジェクト管理、タスク管理のためのオールインワンワークスペース。なぜNotionについての本を書こうと思ったのか、日本の働き方について思うことなど、創業手帳代表の大久保がたっぷりとうかがいました。

村上 臣(むらかみ しん)
青山学院大学理工学部物理学科卒業。大学在学中に仲間とともに有限会社「電脳隊」を設立。
2000年8月、株式会社ピー・アイ・エムとヤフー株式会社の合併に伴いヤフー株式会社入社。
2011年に一度退職した後、再び2012年4月からヤフーの執行役員兼CMOとして、モバイル事業の企画戦略を担当。
2017年11月に8億人超が利用するビジネス特化型ネットワークのLinkedIn(リンクトイン)日本代表に就任。日本語版のプロダクト改善、利用者の増加や認知度向上に貢献し、2022年4月退任。
株式会社ポピンズ 及び株式会社ランサーズの社外取締役ほか複数のスタートアップの戦略・技術顧問も務める。
主な著書に『転職2.0』(SBクリエイティブ)・『Notionで実現する新クリエイティブ仕事術』(インプレス)がある。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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Notionがもっと広まってほしいという思いから本を書いた

大久保:『Notionで実現する新クリエイティブ仕事術』読ませていただきました。まだNotionをメインに使っているわけではないのですが、活用法が分かりやすく、事例も豊富で参考になりました。どういった経緯でNotionについて書くことになったのですか。

村上Notionの本社のCOOが、もともとリンクトイン時代の同僚なんです。プロダクト系のカントリーマネージャーって世界に2人しかいなくて、僕が日本のカントリーマネージャーで、彼がインドのカントリーマネージャーだったので自然と仲良くなりました。

彼がNotionに参加するということになったときは、まだNotionはスタートアップとしてもアーリーステージで全く世間に知られていなかったんです。彼のことをプロダクトを作る能力が高い人ということで尊敬していたので、成功しているキャリアを持つそんな人が飛び込むスタートアップということで非常に興味を持ちましたね。

それで試しに使ってみることにしたのがNotionとの出会いです。初期の頃はかなり荒削りで、今ほど使い勝手もよくなかったんですが、フィードバックを重ねてどんどん進化してきました。

日本でも少しずつ使う人が増えてきて、個人的にも毎日使っているツールですが、使い方がわからないという声もよく聞くので、もっと広まってほしいという思いで書いたのがこの本です。

大久保:最初はちょっととっつきにくいですよね。

村上:そうなんですよ。エンジニアが使いやすいような仕様になっていて、使い方は「さわればわかるでしょ」という感じで作っているので、日本の一般的なユーザーではいきなり使いこなすのは難しいところがあります。だから本で情報を補填したという経緯です。

大久保:似たサービスとしてEvernoteがありますが、後発なのになぜここまで伸びたのでしょうか。

村上:僕も以前はEvernoteや、ブックマークとしてPocketをよく使っていました。名刺をスキャンして、画像から文字検索できますというのは画期的でしたよね。

ただ大量にデータがたまってくると重くなってきて、毎日使うにはストレスを感じていたんです。Notionは軽くてChromeの拡張もあるので、まずブックマークをNotionに移行しました。その後、NotionにEvernoteからのインポート機能ができたのでインポートしてみたら、Notionだけで大丈夫だな、という結論に至りました。

Facebookも一番最初のSNSではなく、その前にMySpaceがあったので、やはり後発でも優れたサービスが生き残っていくということですよね。

大久保:Notion以外のツールで使っているものはありますか?

村上:Google系のツール、それからDropBoxですね。

自分へのタグ付けと発信がキャリアにおいては何よりも大切

大久保:ランサーズの社外役員になられたそうですが、なぜだったのでしょうか。

村上:『転職2.0』などで働き方について発信してきたので、ダイバーシティが足りない日本の働き方を変えるという意味で、少しでも貢献できたらという思いがありました。

ランサーズは働き方の多様性というところに力を入れていて、個をエンパワーメントするという点で考え方が合致したのもご縁でしたね。

会社が力を持っていた昭和から、個が力を持っている令和への移り変わりの中で、何ができるかということをディスカッションしているところです。

ランサーズというプラットフォームを使って、自分のやりたいことを成し遂げていきたい個人の方たちを応援したいという気持ちがあります。

大久保:現在の日本の働き方で、変化を感じるところはありますか。

村上:フリーランスは増えていますが、爆発的にといった印象ではありません。その代わりに副業がこの数年で進み、上場企業の50%弱が副業OKになっています。

転職というとハードルが高いですが、週1〜2で違う仕事をするほうがハードルが低いんですよね。正社員、終身雇用といった枠組みが、少しですがなめらかになってきているのではと感じます。

大久保:個が弱い時代、会社は最強のネットワークでした。会社に属さないということは、ネットワークから切り離されることでもあるという風にも感じますが、そのあたりはどうお考えですか。

村上:人脈とネットワーキングというのはちょっと違うと僕は思っています。今までの終身雇用というのは、主に社内との深くて狭い関係性が形成される環境ですよね。安心感があり、プライベートまでお互いに知っている関係だと、何を考えているかわかってくるし、「今回は泣いてくれよ」というような貸し借りの関係が出てくることもあります。これが続くとビジネス的には不健全なんですが、日本ではこういった関係が成り立っていました。

反対に、ネットワーキングというのは浅くて広い関係のことで、友達の友達くらいがビジネス上はちょうどよいと思っています。そこまで話すことがないので、すぐ本題に入ることができるんですよね(笑)。深くなりすぎず、建設的な話をしやすい、距離感がほどよいというメリットがあります。

大久保:村上さんは、ずっとインターネットの最前線のところにいらしたなと感じるのですが、ネットワーキングがやはり重要なのでしょうか。

村上:『転職2.0』でも書きましたが、もっとも大切なのはタグ付けと発信だと思っています。自分はその場でどういうバリューが出せるのか、仕事上何の役に立てるのかを明確にし、友達の友達ぐらいの関係性まで、いかに浸透できるかというのが、個人がいかに生き延びていくかの戦略でもあります。

ランサーズの中で、活躍したフリーランスの方を表彰する「ランサーズオブザイヤー」というアワードがあるんですが、表彰された方々に共通しているのは、ある領域においてどういうバリューがあるのかを明確に発信していることです。そういう状態になると、周囲から仕事の声がかかるんですよね。

僕自身についても、どんなスキルがどの程度あるのか、自分が提供できるものが何かというのを常に考え、周囲に発信していたことが今のキャリアにつながっていると思います。

大久保:電脳隊についても各方面で語られていますよね。その頃から発信は意識されていたのですか。

村上:電脳隊も、最初は片足をつっこんで手伝っていただけでした。ある日、今はZホールディングスの社長をしている川邊健太郎氏が「ある会社のホームページを作る」という仕事を取ってきたんですが、ホームページを作れる人がいなかったそうなんです。学部もキャンパスも違ったので、まさに「友達の友達」でした。

当時、僕は情報の授業の過去問を解きまくってみんなに配っていたりしたので、大学のネットワークの中で「理工学部にパソコンがすごくできるやつがいるらしい」という噂が広まって、友達経由で声がかかりました。その時に実はそこまで自信があったわけではなかったんですが、根拠のない自信というか、「できるよー」と言ってしまうことも大事です(笑)。

さまざまな場所でこういったことを繰り広げてきたわけですが、グローバル企業にキャリアチェンジしたのは、このまま日本の企業にいても埋もれてしまうのではないかという焦燥感を感じたからなんです。リンクトインに参加したのは、それなら一度トライしてみるかという気持ちからでした。

大久保:Yahooを一度去ってから再び参加されたのは、どのような経緯だったんですか?

村上:Yahooを辞めて、しばらく自分で会社をやっていたんですが、辞めるタイミングで孫さんに呼ばれて「会社を辞めるのは仕方ないけど、ソフトバンクアカデミアは辞めるな」と言われたんです。

ソフトバンクアカデミアというのは、ソフトバンクグループを担う後継者発掘・育成を目的とした企業内学校です。企業内学校なんですが、外部生もいたら面白いよね、ということで、会社を辞めたあとも在籍していました。いろいろな授業の中に、お題を与えられてみんなでピッチ大会をするという授業があります。

「Yahooの10年戦略を考えなさい」というお題が出たときに、在職していたときに考えていたことを全部つめこんでピッチをしたんです。次の年に社長交代が発表され、モバイルにフォーカスしたい、だとしたら村上必要だよねということで声がかかって、役員として出戻ったという経緯です。

スタートアップに入りたいと思う人やキャリアチェンジしたい人は、どうやったらその会社の人の目に止まるのか、どうやったらその会社に価値を提供できるのかを考えると、マッチングしやすいと思います。

日本の顧客にフォーカスできることが日本企業の強み

大久保:Yahooを一度去ってから再び参加されたのは、どのような経緯だったんですか?

村上テクノロジーができることってまだまだ大きいと思っています。日本はDXが遅れていると言われていますが、その分余地が大きいともいえます。今までの経験やスキルを使ってインパクトを出すということを引き続きやっていきたいですね。

日本のインターネットが広まるときからインターネット界にいるので、インターネットの未来に関しては楽観的です。

大久保:日本経済は横ばいか下がっているので悲観的になりがちですけど、IT業界はずっと右肩上がりですしね。

村上:ええ。日本だとEC化率はまだ約10%なので、あと最大90%も取れるということになります。

GDPとしてはフラットですが、高度経済成長期に蓄えた個人の金融資産が2000兆円あるので、バランスシートで見た場合は国力はまだ大きいといえます。また、先進国の中でも人口1億は多い方です。人もいるし資産もあって、なのに生産性が低いということは伸びしろしかないと思っています。外資系のスタートアップもどんどん日本に参入してきますし。

大久保:Notionはサンフランシスコの会社ですよね。アメリカの会社はとにかく巨大だという印象がありますが、日本企業はどうしたら勝つことができるのでしょうか。

村上:まずはグローバル企業の力学を理解するといいと思います。グローバル企業ではとにかくスケールすることがよしとされているので、常に世界の国全てを見ています。

日本企業の強みは、日本のみにフォーカスできることですね。日本の顧客をきちんと見て、そこにフォーカスしていくことが勝ち筋になるでしょう。日本は消費者の要求が高いので、グローバル企業の効率性で見ると、この対応はこの辺でやめておこうかという判断になることもあります。それに対して日本の企業は、お客様が求めるならやりましょうとなることが多いのではないでしょうか。

大久保:なるほど。グローバル企業では細かい対応はなかなか難しいですもんね。海外の企業と比較したときに、日本の企業の長所というのはありますか。

村上OJTや内部ローテーションについては日本企業が持つ特殊な育成システムだと思いますね。ずっと根付いて運用されているのはあまり世界でも例がないですし、10年単位で人材育成が考えられているのはいいことだと思います。

ジョブ型の会社だと職種をかえるのはかなり難しいんです。例えば営業のマネージャークラスにいて、マーケティングをやりたいと思ったら、そのままマネージャーでスタートすることはできず、ポジションを下げてメンバーからスタートすることになります。 

ただ総合職という採用には疑問を感じていて、要するに終身雇用を約束するから会社の命令は絶対ということですよね。例えば転勤を断ったら解雇事由になるというような。昔はそれでよかったかもしれませんが、今は時代に合わなくなってきているのではないでしょうか。

問題なのは強制されることだと思います。例えば北海道に人材が欲しいなら、オープンポジションにして「こういう仕事があって、こういう経験とスキルを持つ人」というように社内公募すればいいのではないでしょうか。

正規雇用についても、新卒のときに集中していますが、それが社会構造的におかしいのです。フリーランスになったり正社員になったり、勉強したいから大学院に行ったりと、その移動がもっとなめらかになり、選択肢が増えるといいなと思っています。

日本はキャリア教育を早期からするべき

大久保:日本では大学卒業をして就職活動をして就職しますが、アメリカでは大学院に行ったり、インターン経験を積んでからというのが主流ですよね。日本もそうなっていくべきなのでしょうか。

村上アメリカでフルタイムの正社員になるということはかなり大変なんです。学生時代からいろんなインターンを積み重ねて、有期の労働者職になり、そこから数年キャリアを積み重ねてやっと正社員になれるシステムです。今の日本から移行するのはかなりハードルが高いでしょう。

日米の比較でいうと、キャリア教育が学生時代にないのが日本です。両親がキャリアとしてのモデルのすべてになってしまっているのが現状です。こういう勉強をするとこういう職業につけるというのが見えにくいので、中学になったらキャリア教育という時間があるべきだと思っています。そうしたら大学選びも変わってきますよね。

「求められるスキルが自分で選べる」、ここが欠けていることがすべての元凶だと思っています。

むしろひとつの会社への勤続年数が10年ほどと、比較的長いドイツやフランス、イタリアなどのEUを日本は見るべきなのではと思いますね。

EU諸国では、例えば会社側から解雇するために24か月分の給与を払わなければいけないなど、制度として要件が決まっていますが、日本はケースバイケースです。EUを見て、日本ならではの法規制を作るべきなのではと感じています。

もうひとつ日本の問題点を挙げるとすれば、アカデミアとビジネスが離れすぎていることですね。大学との共同研究なども最近は増えていますけど、官学の人材交流をもっと密にするべきだと思っています。

起業家は話題になったツールはひと通り使ってみるべき

大久保:最後に、起業家のツールへの向き合い方について教えてください。

村上起業家は、世の中で話題になっているツールは全て使うべきだと思っています。世の中で伸びていくサービスをいち早く使って、そこから学ぶべきですね。Yahooでモバイルシフトをやっていたときに、iPhoneとiPadを買って全社員に配ったことがあるんですが、こういったものは実際の操作感が非常に大切なので、実際に使ったかどうかというのが重要になってきます。

手ざわり感がなければ本質はわかりません。起業家の人は、何がこういうユーザーにうけているのかというのかを体感しないと駄目ですね。

また、違う世代の人と積極的に交流するべきだと思っています。僕は学生インタビューなどで、スマートフォンのホームスクリーンを見せてもらってどんなアプリを使っているか、よく聞いていました。

大久保:最新のデバイスには新しい考え方がつまっています。感性に近いところですもんね。

村上:感性ってすごく大事なので、伸びているサービスを体感してみて「ここが支持されているんだな」とか「これは違うだろう」とか、自分なりの見立てを持つことが重要です。起業家の皆さんは、何をそこから学ぶかを意識してみてください。

『Notionで実現する新クリエイティブ仕事術 万能メモツールによる最高のインプット&アウトプット』 村上 臣 インプレス
自らもNotionのヘビーユーザーである村上臣氏が、人気沸騰中の万能メモツール「Notion」をクリエイティブな仕事に役立てるためのノウハウを大公開。

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(取材協力: 村上臣)
(編集: 創業手帳編集部)



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