一人親方が法人化するメリット・デメリットは?おすすめのタイミングとステップを解説

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一人親方の法人化はメリットとデメリットをよく比較して考えよう


一人親方の法人化は、自分のキャリアを振り返って将来につなげるための大きなステップです。
法人化することによって、今まで抱えていた課題が解決したり、仕事の幅が広がる可能性もあります。
しかし、タイミングや方法を間違えてしまえば後悔するかもしれません。一人親方の法人化はタイミングをよく考えるようにしてください。

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一人親方の法人化とは?


一人親方は、従業員を雇用することなく、ひとり、もしくは家族の協力を得て仕事を請け負う人のことをいいます。
一人親方として働き続けてきた人の中でも、今まで法人成りや法人化を考えたことがある人もいるでしょう。

一人親方の法人化とは、個人としての事業を廃止するとともに、法人として新たに会社を設立することをいいます。
今まで積み上げてきた実績や経験、顧客や資産を引き継いだまま法人の会社を設立できます。

一人親方が法人化するメリット


一人親方が法人化してキャリアアップすると多くのメリットがあります。今まで法人化を考えてこなかった人もメリットを知ってこれからのキャリアパスを考えてください。

一人親方が法人化するメリットをまとめました。

税負担が軽減できる

一人親方として働いている時に支払う税金は、個人事業主に課税される所得税です。一方で法人には法人税が課せられ、それぞれ税率が違います。

所得税は、5%~45%の7段階です。一方で法人税は、規模や種類に応じて15%から23.2%となります。

課税所得金額によって違いはありますが、所得税が多い一人親方は、法人化したほうが低い税率が適用されて支払う税金が少なくなることがあります。
所得が大きい一人親方ほど、法人化による節税メリットが大きくなるので、法人化することで税金がいくらになるのかシミュレーションしてみてください。

経費にできる範囲が広がる

個人事業主である一人親方よりも、法人のほうが経費として計上できる範囲が広がります
個人事業主は、仕事として支払う経費とプライベートの支払いが判断しづらく、経費として認められないことが少なくありません。

しかし、法人化すれば事業の出費は原則すべて事業活動を判断されるので経費として認められます。
計上できる経費が増えることは、課税所得を減らす、つまり節税にもつながります。

社会的信用が高くなる

法人化によって社会的信用が高まり、大きな仕事を受注しやすくなったり、融資を受けやすくなったりするなどのメリットがあります。

法人は、定款や資本金といった事項が厳格に定義され登記簿にも登記されています。
一人親方であっても決算や経営を堅実にしている人は多くいるものの、一般的に法人のほうが信用されやすいケースは多いでしょう。
企業によっては取引相手を法人に限定している場合もあり、新しい仕事や取引先を開拓するために社会的信用を高めるのは有効な手段です。

社会保険に加入できる

法人化することによって、社会保険に加入できるようになります
個人事業主は、国民年金と国民健康保険に加入しますが、社会保険のほうが受けられる保障や保険料の面でメリットが大きいケースもあります。
また、家族を社会保険の扶養に入れられることや、従業員が社会保険に加入できる点も大きなメリットです。

決算期を自分で決められる

個人事業主の確定申告は原則、翌年の2月16日から3月15日までと定められています。
確定申告は扱う書類も多く手間と時間がかかりますが、繁忙期と重なっても時期をずらせません。
建設業界のように2~3月に仕事が集中しやすい業界では、確定申告と仕事で余裕がなくなってしまうこともあります。

しかし、法人化することによって決算日を自由に決められます。
法人税の申告は、決算日から2カ月以内となっているため、会社の繁忙期を避けて設定することが可能です。
また、事業資金に余裕がある時期に納税期限を設定するといった工夫もできます。

倒産しても責任が軽減される

法人化すると、損害賠償責任の範囲が有限になります。一人親方は、事業で折った債務について、無制限に返済や賠償が求められます。
負債や損害賠償の支払いのために、個人の財産を手放すこともありえるでしょう。

一方で、法人の社長は一人親方と違って有限責任です。
債務を負うのは法人で、もし負債を出して倒産したとしても、連帯保証をしていなければ責任は出資金額に限定されます。

一人親方が法人化するデメリット


一人親方の法人化には、デメリットもあります。法人化して後悔しないようにデメリットについても確認しておいてください。

法人化するためのコストがかかる

法人化するメリットがあるものの、法人化するまでに手間や時間といったコストが発生します。
手続きが必要なので、多忙な場合には専門家に依頼することも考えなければいけません。

さらに法人化するために費用も発生します。
株式会社にするか合同会社にするかによっても違いはありますが、手数料や収入印紙代などで10万円~22万円は最低必要です。
定款の認証費用や法人登記の費用がかかるので、法人化するためのコストとメリットをよく比較しておくようにしてください。

事務処理負担が増える

法人化によって、会計処理や税務申告が複雑化します。
個人事業主の会計処理はできても、法人の決算となると専門性が高く、外注しなければならなくなることがあるかもしれません。

税理士などに依頼すれば依頼料がかかります。
法人化した後の経理処理や事務処理については、費用がかかっても外注化するかどうか考えておいてください。

法人住民税は赤字でも支払わなければならない

法人化することによって法人税を納税しなければいけません。
事業が赤字の時には法人税は課税されないものの、赤字でも法人住民税として年間7万円を支払うことになります。

一人親方の場合は、事業が赤字でほかに所得がなければ所得税も住民税も発生しません。
赤字の時にも費用が発生してしまうのは法人化のデメリットです。

会社のお金を自由には使えない

法人化によって、会社のお金と自分のお金は明確に区分されます。
一人親方であれば、仕事で得た収入はそのまま自分にお金になるので自由に使えます、

しかし、法人化すればあくまで会社のお金なので、自由に使えるのは役員報酬として受け取るお金だけです。
また、一人親方は忙しく働いて売上げが増えればそれだけ手元に残るお金を増やせます。
一方で法人化してからは頑張って売上げを増やしたとしても、役員報酬は会計期中は一定額から増やせません。
法人化してから働く量は増えているのに、自由に使えるお金は減るといった事態も起こる可能性があります。

社会保険料の負担が増える

法人化して社会保険に加入できるようになったものの、健康保険と厚生年金の保険料の負担は必要です。
一人親方の国民健康保険と国民年金は、個人で支払うため会社の負担はありません。

しかし、法人化した後の健康保険と厚生年金は会社を従業員の両方が負担します。
月給が増えれば保険料も増えるため、会社が背負う費用負担も大きくなってしまいます。

一人親方が法人化するための2つの方法


法人化すると決めた時には、どのような形態で会社を設立するかを決めなければいけません。
どの形態にするかによって、会社の意思決定や成り立ちに大きく影響があります。それぞれの違いを理解しておいてください。

株式会社の設立

株式会社は、株を発行して出資者に販売することで資金を集めて事業を行う会社です。
設立費用が合同会社よりも高くなるものの、合同会社よりも社会的認知が高く、資金調達しやすい点がメリットです。

株式会社は、所有と経営が分離されていて、出資者である株主と経営を行う取締役に分かれます。
しかし、出資者兼経営者となることも可能です。株主には株式数に応じた議決権があり、配当も受け取れます。

合同会社の設立

合同会社は、出資者と経営者が同一である会社形態をいいます。
出資者はみな経営者となり、出資したすべての社員が会社の決定権を持って経営します。
合同会社は、決算公告が不要で株式会社よりもランニングコストが安い点がメリットです。

また、設立費用も合同会社のほうが安く設立できます。株主総会が不要なので経営の自由度が高く素早く意思決定できる点も魅力です。

株式会社と合同会社の違いについて、詳しくはこちらもお読みください
合同会社とは?株式会社との違い、それぞれのメリット・デメリットをわかりやすく徹底比較

一人親方が法人化するおすすめのタイミング


一人親方が法人化するタイミングは、いくつか目安となる基準があります。
ただし、必ずこの時期と指定できるものではなく、状況を見て法人化するタイミングを見極めなければいけません。
法人化のタイミングとしては、以下のタイミングが挙げられます。

年間売上げが1,000万円以上になった時

売上げ1,000万円は、法人化のひとつの基準です。
年間売上げ1,000万円は、消費税の課税が開始されます。
消費税には免税制度があり、前々年度の売上げが1,000万円以下の事業者は免税となります。

つまり、売上げが1,000万円を超えると、2年後には消費税を納付しなければなりません。
しかし、法人化すれば個人事業主としての実績がリセットされて新しく2年間は免税期間となります。
つまり、法人化のタイミングを調整することによって消費税の課税開始時期を遅らせることが可能です。

ただし、インボイス制度の導入で、年間売上げが1,000万円未満でも課税事業者となるケースが増えるといわれています。
一人親方でインボイス登録していないと取引先から受注できない事態も起こりえます。
消費税の免税だけでなく、インボイス制度に対応するために課税事業者になるかどうかも含めて考えなければいけません

年間所得が900万~1,000万円以上になった時

法人化の最大のメリットともいえるのが、税金の負担軽減です。
所得税と法人税の税率から計算して、一人親方の所得税負担よりも法人化して支払う法人税の負担のほうが軽微になるタイミングが法人化のタイミングといえます。

ただし、法人化することで発生する費用も考えなくてはいけません。
単純な税率の高さだけでなく決算が複雑になるため専門家への報酬なども発生する点も考慮して考えます。
もろもろの支払いを考慮しても、法人化したほうが利益が残るポイントとして年間所得が900万円ほどといわれています。

社会保険に加入したい時

国民健康保険や国民年金ではなく、厚生年金などの社会保険に加入したい場合も法人化を考えるタイミングです。
労災保険は、基本的に経営者は対象外ですが、条件を満たすことで一人親方でも特別加入が可能です。
国民健康保険と国民年金保険に対して社会保険は、将来受け取る年金額や保険料、扶養の考え方も違います。社会保険では配偶者や両親、親族を扶養に入れられます。

一方で、国民健康保険には扶養の概念はなく、個人それぞれの保険料を計算して支払わなければいけません。
社会保険を利用したい、家族を扶養に入れるたいと考えた時には法人化のタイミングといえます。

従業員を雇用して事業拡大をしたい時

これから事業拡大を目指す場合にも法人化を考えるタイミングといえます。事業を拡大する時、従業員を増やそうと考えるケースは多いでしょう。
一人親方であっても従業員の雇用は可能ですが、法人化していることでより多くの求人者に選ばれやすくなります。

福利厚生や社会保険といった条件を希望して応募する人も増えるため、より新しい人材を集めやすいかもしれません。
法人化は従業員が働きやすい環境を用意するためにも、効果的な施策です。
事業拡大に際して、より生産性や従業員のモチベーションを高めるためにも法人化を検討してください。

一人親方が法人化するまでの流れ


一人親方が法人化するまでには、いろいろな手続きが発生します。

以下では、大まかにどのような流れがあるのかをまとめました。順に確認してください。

基本事項の決定 会社を設立する時には、株式会社と合同会社のように法的な会社形態をどうするのか会社の基本的な事項を決めていきます。
具体的には、会社の商号や目的、発起人や本店所在地、会計期間などです。
会社の印鑑作成 会社の印鑑として必要なのは、いわゆる代表社印と呼ばれる実印と、銀行員、角印です。
実印は法務局で印鑑登録をする印鑑、各種書類には角印を使います。
銀行員は法人口座開設時に必要です。
印鑑は作成するまでに時間がかかるものもあるので、早めに用意しておいてください。
定款の作成と公証人による認証 会社の基本的な事項を定めた書面として定款を作成します。
会社法に定められている絶対的記載事項は、商号と目的、本店所在地と設立時の出資額、発起人の氏名と住所です。
定款を作成してから公証人役場で認証を受けます。
資本金の払込み 資本金は発起人の口座に払い込みます。
資本金の金額は1円でも問題ありませんが、信用につながるためある程度の額が設定されるのが一般的。
払込みが終わったら通帳のコピーを取っておきます。
登記申請書の作成と登録申請 法務局で法人の設立登記を行います。
登記申請書は法務局のホームページからダウンロードできます。
建設業許可の取得 法人を設立してから、事業のために必要な手続きを行います。
税金に関する書類や建築業許可の取得など間違いないように行ってください。
すでに一人親方として建築業許可を取得している場合には、承継も可能です。

一人親方が法人化する時の注意点


一人親方が法人化する時には、いくつかの注意点があります。それぞれ確認して準備しておいてください。

建設業許可の取得・承継は余裕をもって行う

建設業を営む一人親方が法人化する時には、建設業許可の手続きも必要です。建設業許可は、500万円以上の工事を請け負う場合に必要な許可です。
ただし、建築一式工事と工事1件の請負額が500万円未満の場合には、建設業許可なしでも工事できるため、取得していないケースもあります。

一人親方であっても一定の取得要件を満たすことが証明できれば建設業許可は取得可能です。
その後に法人化した場合は、従来の建設業許可の許可番号を引き継いで建設業許可を承継できます
国土交通省のホームページでは、各県の許可行政庁の問い合わせ先を公開しているので必要な手続きを確認しておいてください。

「建設国保の引継ぎ」と「協会けんぽ」どちらか決めておく

法人化した後の健康保険は、協会けんぽに加入するのが原則です。
しかし、国民健康保険組合(建設国保)に加入していた場合には、法人化してからも継続できます

建設国保は保険料の会社負担がない点がメリットですが、個人負担の保険料が大きくなる点はデメリットといえます。
どちらに加入するのかあらかじめ決めておいてください。

まとめ・一人親方が法人化する時はタイミングを見極めて手順を踏もう!

一人親方が法人化することは、多くのメリットがあるもののデメリットもあります。
法人化を決めてからは、準備する書類や決めなければならない事項が多く、手続きや書類作成に忙殺されるかもしれません。
事前にどのような手続きや書類が必要になるのか整理しておくようにおすすめします。
必要があれば専門家の力を借りることも検討してください。

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(編集:創業手帳編集部)

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