「プレスリリースは○○○です」売れっ子放送作家 金森匠の「相手に伝えるために必要な広報スキル」
「相手の気持ちになって考える」と、アピールポイントが見えてくる
(2018/01/18更新)
「自社の商品・サービスをどのように伝えれば良いのだろうか?」このような悩みを抱えている広報担当者は多いのではないでしょうか?
そこで今回は、広報担当者が持っておくべきスキルについて、情報を伝える専門家である放送作家 金森 匠さんにインタビューを行いました。放送作家としてだけでなく、大手広告代理店のプロジェクトサポートや、企業のPRも手がけている金森さんが語る広報の考え方は、悩める広報担当者にとって必見の内容です。
放送作家(話し相手)
神奈川県出身。横浜国立大学教育学部附属横浜小学校卒。
中学受験で慶応中等部と栄光学園に合格するが経済的事情から栄光に進学。
周囲のレベルの高さに圧倒され戦意喪失。教科学習への意欲を完全に失う。
当時、日本に入ってきたブレイクダンスに衝撃を受け、自己の必修科目として研究と練習のため主戦場をディスコに移す。
一方日課として深夜ラジオへの投稿でアイディア思考の基礎を訓練。大学在学中にはブラジルに留学し第二外国語を身に着ける。
大学卒業後、商社でコーヒーの輸入・販売を担当。並行して週末はクラブでDJとして活動。
20代後半で放送作家に転身。以後20年に渡り、民放各局でバラエティ、情報カルチャー、スポーツ、報道と全てのジャンルの番組に携わっている。
現在は、日本テレビのZIP!、皇室日記など、地上波、BS、CS、動画配信で番組を担当中。企業の広報戦略、商品やサービスのPR方法、メディアとの向き合いのアドバイスなども請け負っている。
日本脚本家連盟連盟員。
広報では、二つの「そうぞう」を働かせる
金森:もともとテレビ業界に興味があったのですが、大学3年時に留学していたため、帰国した3月にはテレビ業界の募集は終わっていて、総合商社に就職しました。その会社には6年ほど勤め、その後は今の職業である放送作家の仕事を続けています。
金森:放送作家は、中学校1年生くらいからずっとやりたかった職業だったんです。きっかけは、当時放送されていたバラエティ番組ですね。
観ていた番組で芸人さんたちが面白いことをたくさんやっていたんですが、ある時、「番組の裏で、台本や全体の構成を考えている人がいる」ということを知って衝撃を受けたんです。直感的に「この仕事をやりたい」って思いました。
ですが、会社勤めをしていた頃は、放送作家になる方法がわからなかったんです。そこで、テレビ業界に就職した友人に相談してみました。
すると、その友人が「番組の構成を決める『構成会議』があるから、見学しに来たら?」って言ってくれたんです。そのような構成会議を、3か月くらい見学させてもらっていたのですが・・・その時の会議の様子に、「雑談しかしてないじゃん!簡単!」っていう壮大な勘違いをしちゃったんです(笑)。今思うと、アイディア出しをする時には、雑談が一番大事なんですけどね。当時はその大事さがわかっていなかったかもしれませんね。
そんな経緯があって、勤めていた総合商社を退職して、放送作家になりました。
金森:「視聴者の気持ちになって、ひたすら考える」ことです。
面白いコンテンツを作るためには、二つの「そうぞう」を働かせたほうが良いと思っています。
一つ目は、「今、ターゲットにしている視聴者は何を求めているんだろう?」と考える「想像」の力です。
それをしっかり考えてから、二つ目の「創造」の力を使うんです。
よく「ゼロから1を創る」と言いますが、本当のゼロから1を創り出すのはなかなか難しいです。「創造」のきっかけ作りのためにも、相手がどんなものを求めているかを考える「想像」の段階が必要なんです。
金森:広報に関しても同じことが言えると思いますが、その際は、あまり強い気持ちを前面に押し出さないほうが良いです。アプローチする相手が「興味がある」と言ってもらえるような広報活動をしたいですね。
企業の広報担当の方の中には、よく「プレスリリースにはラブレターのように思いを込めるのがいい」と、考えている方が多いと聞きます。
確かに間違いではないかもしれませんが、それだと「強い気持ちが前面に出すぎて相手が引いてしまう」可能性が高いです。
どちらかというと、プレスリリースは「うちのサービス・プロダクトには幸せが待っているよ」といった感じで、相手に選択のオプションを与えつつほどよい興味を惹きつけられる距離感を目指した方がいいと思います。
例えていうなら「プレスリリースは、パーティの招待状」って感じでしょうか。
放送作家という職業柄、「この商品をテレビで紹介してください!」という相談を受けることがあります。その際、「これは、こういうところが良いんです!」というストレートな紹介をすると、受け手はちょっと引いてしまいます。
商品を因数分解することで、アピールポイントが見えてくる
金森:さらに、商品・サービスをPRする場合は、「その情報は、お得だなぁ!」って思ってもらうことが重要です。そのためには、ストーリーを作らないといけません。
例えば、水筒を紹介したい場合、単体でアピールすると違和感がありますよね。なので、秋の行楽シーズンには「ピクニックに持っていくと役立つツールベスト3」として紹介する、寒い時期には「OLさん必見の冷え性対策グッズ特集」として紹介する、といった枠組みを作ってあげることで、情報が違和感なくスッと入ってきます。水筒一つ紹介する際にも様々な切り口がある、ということですね。
商品がいくら良くても、直球勝負では紹介することは難しいです。なので、商品のプレゼンに悩んだら、「この商品はこういう時に役立ちます!」といったストーリーを考える、切り口を探してあげると、お客様も納得してくれると思います。
金森:自分の製品・サービスを因数分解するんです。商品・サービスというものは、様々な要素が合わさって出来ています。
それを分解して、一つずつ見直してみるということですね。
以前聞いた事例ですが、とあるホームセンターでマジックハンドが売られていました。
なかなか売れなかったそうなんですが、あることをしたら、急に売り上げがあがったそうです。
それは、「マジックハンドの売り場を、こたつ売り場の横にした」ことです。同時に、「こたつから出なくても、周りのものをなんでも取れます」というポップをつけたんです。
これでわかるのは、「ただそこに置いてあるだけで、商品の使い道をお客様に任せていては無責任」ということです。今回の場合、マジックハンドをこたつ売り場の横にしたことで、お客様は「マジックハンドがあれば、コタツの中に入ったままでも、色々なものが取れる」というメリットを簡単に想像できます。
広報に関しても同じです。ただ性能を説明するのではなくて、「その商品・サービスを使うことによって、どんなメリットを得ることができるのか?」が明確にわかる状態にしないと、お客様は手に取ってくれません。
良い意味での「裏切り」が、顧客を惹きつける
金森:僭越ながら創業手帳を因数分解して、経済番組で紹介する場合のストーリーを考えてみました。
まず、テレビで紹介されるには、ウェブなどのメディアでたくさん紹介されるようになることが必要です。
人間はどうしても新しいものに対するアレルギーがあります。
それを払拭するためには、例えば「動画再生回数は1,000万回を超える」といったわかりやすい実績を持つことが重要です。先ほどお話しした切り口を探して、メディアへのアピールをしていきましょう。
そして、テレビでは「なぜ今これを紹介するのか?」という理由が必要です。例えば、クリスマスの特集を12月に紹介する、といった違和感がない理由ということです。
創業手帳の場合は、2月や3月といった起業をする人が増えそうな時期に紹介するといいかもしれません。「会社の母子手帳」というキャッチもすごく良いですね。
そして、紹介するときの内容ですが、こんな感じに考えてみました。
「日本の企業は月間11,000社の企業が廃業しています。対して、月間10,000社の企業が誕生していますが、そのうちの3,000社は1年以内に廃業しています。熱い気持ちを持っている経営者でも、失敗する人は多いのが現状です。実は、この問題を解決するために、活動している企業があります。しかも、その企業は創業4年のベンチャー企業なんです!」
こんな感じだと、情報を見た視聴者が「へぇ〜」と思ってくれる可能性が高いと思います。
視聴者が「へぇ〜」と思うには、いい意味での裏切りがないといけません。
ここでは、「廃業が11,000社ある」ということが、良い意味での裏切りポイントです。
当たり前のことが起こっても、印象には残りません。
熱い想いに任せた勢いだけでサービスを始めてしまう方がいるかもしれませんが、一旦足を止めて、「このサービスは誰に向けてやるべきことなのか?」を考えておくべきですね。
あとは、そのサービスを創った人、つまり創業者にスポットを当てるのも良いですね。
創業者をユニークに紹介して興味を惹きつけることによって、「この人がやっているサービスは、どんなものだろう?」と思ってもらうことができます。
「お客様が何を求めているか」を知るためには?
金森:まず、レスポンスを早くすることが必要なスキルです。
電話などで問い合わせが来たら、問い合わせ内容をしっかり聞いて、適切な対応をできるようにしておきたいですね。
さらに、自社の商品・サービスの切り口を探すのと同時に、「似たような業種の方たちは、どんな広報活動をしているのか?」をしっかり調べたほうが良いですね。
そして、自分のプライベートでのパートナーや家族など身近な人の意見を聞いてみるのも大事です。身近な人だと、オブラートに包まず率直な意見を言ってくれるからです。
テレビでは、考え方のひとつとして、視聴者にいかに自分事として考えてもらえるかを前提に、たとえば生活情報では“視聴者の半径3メートル以内”を気にするようにします。
例えば、よくバナナを食べているのであれば、「バナナの選び方」といった話題は気になりますよね。ですが、「ドリアンの選び方」というニュースを見ても、あまり気にならないかもしれません。
企業の広報に関しても同じです。「お客様は何を求めているか」を知って、初めて心に届くサービスを伝えられると思います。
そのために、まずは周りの人の意見に耳を傾けてみましょう。そこで知った情報が、自分の扱っているサービスと遠かった場合は、サービスを因数分解して、親和性が高そうな部分を探してみたら、良いと思います。
思い入れが強すぎると、その想いが常識になってしまう
金森:よく「常識を疑え」と言われていますが、自社の商品・サービスとなると、どうしても思い入れが強くなります。
すると、自分の中でその思いが常識になってしまいます。「うちのサービスにはこういう見方がある」といった他の切り口を探すことがしづらくなり、「相手も当然知っているだろう」という気持ちになってしまいます。
常に自分自身の中の「常識」を疑って、視野を広く持つことで、商品の紹介方法やアプローチ方法など、様々なことが見えてきます。なので、常識を疑うのは必要ですね。
特に、テレビの企画を考える時にも心掛けていることですが「天の目」と「地の目」を持つことです。広いところから眺めること、間近なところから見ること。どちらも大切なことだと思います。
あと、企画を考える際、企画が“通る・通らない”を決める要素の中で、一番重要なのは「タイミング」だと思っています。つまり「今、世の中がその情報を欲しているかどうか」ということです。
「世の中が欲しているかどうか」を見極めるには、「相手の気持ちになって、二つの「そうぞう」力を働かせる」ことが必要です。
広報に苦労している方は、その点を見直してみると良いかもしれませんね。
(取材協力:放送作家/金森 匠)
(編集:創業手帳編集部)