Alumnote 中沢冬芽|卒業生と大学を結びファンドレイジングを加速、日本の大学を元気にする経営支援のビジョンとは

創業手帳
※このインタビュー内容は2024年04月に行われた取材時点のものです。

卒業生からの寄付をベースにした大学経営革新への情熱と戦略

東京大学在学中に起業し、大学経営の課題解決に取り組んでいる株式会社Alumnote(アルムノート)代表取締役CEOの中沢冬芽氏。独自開発のSaaS(インターネット経由で利用できるクラウドサービス)により大学の卒業生名簿を制作し、同窓会・支援者ネットワークをデータベース化することで、寄付などによる資金調達の最大化を支援しています。

日本の大学の体質や課題を見据えたうえで競争力向上を目指し、教育分野に大きなインパクトを生み出そうとしている中沢氏に、創業手帳代表の大久保が起業の経緯や事業の展望についてお話を伺いました。

中沢 冬芽(なかざわ とうが)
株式会社Alumnote 代表取締役CEO
1998年生まれ。長野県松本市出身。 東京大学法学部在学中にGoogle Japan, Rapyuta Robotics, Apple Japanにて、自治体や学校法人、大手企業との事業開発・実装実験プロジェクトに従事。大学3年次にアルムノートを創業。将棋ウォーズ3段。Forbes 30 Under 30 Japanにも選出。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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バイオリニスト志望から東大へ、さらに独学で起業の道へ

大久保:私は起業家の生い立ちに非常に興味があるのですが、中沢さんはどんな幼少期を経て起業家になられたのでしょうか。

中沢:長野県松本市で、父は信州大学医学部教授、母は専業主婦という家庭に育ちました。母は私にプロのバイオリニストになることを期待しており、幼少期は毎日3時間、バイオリンの練習漬けの日々。しかし、バイオリンは才能に大きく左右される芸術です。高校生の頃、天才的に上手な小学生の演奏を聞いて「僕はこのままバイオリンばかりやっていていいのか」と感じるようになりました。

それなら勉強をしようと一念発起して頑張り、東京大学に入学しましたが、「これで大学の生活費のやりくりをしなさい」と入学時に100万円を渡されました。なんとかやりくりしようとしたものの、1年生の夏には足りなくなり、学費に生活費、いきなりの大ピンチとなってしまいました。自分で稼ぐ道を模索した結果、独学で学んだプログラミングでシステム開発の仕事を始めました

大久保:生活費を稼ぐためとはいえ独学でプログラミングを学んだことによって、現在の起業家の姿につながったのですね。学生時代にはインターンシップにも積極的に参加されたのでしょうか。

中沢:ええ。しかし、大手IT企業のインターンに参加した際には、ビジネスのイロハを学べると期待したのですが、もう仕組みが出来上がってしまっており、深い学びは思ったより得られなかったんです。むしろ、ベンチャー企業の方が刺激的で、自分に合っていると感じました。参加させてもらったベンチャー企業では酸いも甘いも経験し、プロジェクトマネジメントの難しさも痛感しました。任されたプロジェクトは半年で消滅してしまいましたが、よい学びになったと思っています。

大学卒業後はAppleJapanで働く予定でした。しかし、コロナ禍の影響で内定者の採用枠が消滅。ちょうどその頃、高校の同期と開発していたサービスが手応えを感じ始めていたこともあり、思い切って起業する決意を固めました

日本の大学を強くする!欧米の寄付文化にヒントを得て大学運営の支援に乗り出す

大久保:Alumnoteのビジネスはどのようなきっかけで発案されたのでしょうか。

中沢:もともと私は、ハーバード大学やスタンフォード大学に強い憧れを持っていましたが、金銭的にも学力的にも手が届きませんでした。ある時「このように魅力的な大学はどのように運営されているのだろう」と気になり、財務諸表を見たんです。すると、卒業生からの寄付によって潤沢な資金が集まり、手厚い学生支援が実現できていることに気づきました。

そういった運営の観点からわが母校である東大の財務諸表を見ると、海外の資金調達のシステムとは違うと感じました。そのほか、大学の力は論文の引用数などのアカデミックパワーでも測ることができるのですが、東大はその点でも欧米の大学に競り負けています。優秀な研究者を集め、最先端の研究を推進するための資金力が圧倒的に不足しているのは、日本の国力に関わる大問題だと思ったのです。

大久保:欧米の大学における寄付文化を日本にも根付かせようと。

中沢:ええ、そこで、寄付を集めるための第一歩として、まずは東大の卒業生ネットワークの活性化に取り組もうと考えました。

最初のアイデアは、大学専用のFacebookのようなSNSを作ること。それには卒業生の名簿が必要です。東大にこのアイデアを売り込もうにも、学生起業家の身ではおそらく門前払いされてしまうでしょう。そこで、東大の投資ファンド「UTEC(東京大学エッジキャピタルパートナーズ)」から出資を受けることを目標にしました。そのために、「起業家甲子園」で総務大臣賞を獲得し、UTECの担当者とのコネクションを築いたのです。

UTECの資金を50の運動部に配分して名簿を集めてもらって1万人規模の名簿を作成し、それを起点に大学全体の寄付につなげていく戦略を立て、無事に事業を進めることができました。

日本の大学の課題はファンドレイジングが重視されていないこと

大久保:現状、日本の大学の課題とはなんでしょうか。

中沢:海外の大学は卒業生を大切なステークホルダーと位置付け、継続的な関係構築に努めています。いっぽう、日本の大学は、学生とは在学中の関係が中心となっています。せっかく大学でこれからの人材を育てているのに、そのつながりを活用せずに卒業後は関係を絶ってしまうのは、本当にもったいないことだと思うんです。

特にこれからどんどん増えるシニア世代のOB・OGは、大学にとって貴重な存在です。学び直しをしたい人、母校への恩返しや後輩の支援をしたいと思っている人は多いはずです。大学がそのニーズに応えるプロダクトを用意することで、ファンドレイジングは進み、ブランド力も向上すると思います。

大久保:とはいえ、大学の運営は自治の概念などもあり独特な面もありますよね。

中沢:ええ、一案として、大学は資金調達と研究のための人材を分けるといいのではと思います。各研究者に資金調達の負担をかけるのではなく、大学として資金調達に特化した人材を置くのは一つの手です。

また、大学の経営においては、学長の選出方法も大きな課題です。日本の大学では経営感覚よりもアカデミックな実蹟に重きを置いてます。対して欧米の大学では、学長候補者は「勤務時間の50%以上をファンドレイジングにあてます」と宣言するなど、資金調達能力は重要な選考基準になっています。経営に対する比重を増やすことで、日本の大学ももっと変わっていけるのではないでしょうか。

特に東大などの日本のトップ校が世界と競っていくためにも、もっと教育や研究を充実させていくことが必要です。資金があることで、研究者や学生に十分なインフラを提供することが出来るため、大学の経営においてはファンドレイジングに力を注いでいく必要があると考えています。

また、卒業生との連携不足は大学のブランド力の低下や弱体化を招きます。同窓会組織と大学本部の関係を良好にすることで、大学経営の財務が盤石になりもっと大学の質が高まっていくと考えられます。これから大学が生き残り発展していくためにも、卒業生と大学本体が一枚岩にならなければいけないと思います。

だからこそAlumnoteでは、ゼロベースで卒業生コミュニティを築く新しい仕組みを提案し、自由な発想で大学と卒業生の関係性を再構築していきたいと考えています。

教育機関の持続的な発展を支えるインフラを提供する

大久保:伺っているとワクワクしてきました。Alumnoteではどのような人が働いているのですか?

中沢:現在従業員は30名ほど(副業・業務委託を含む)です。そのうちインターン学生が15名在籍しており、その多くが東大生です。いっぽうで子育て経験のある方も多いです。学校に通う学生と学費を払う立場の親という、とても当事者感の高い組織ですね。

年齢や性別に関係なく、教育の課題解決への情熱があるかどうかを重視しています。前例のない取り組みに挑むためには、ある程度の覚悟が必要不可欠。最後まで諦めずにやり抜く」強い意志を持った人材を求めています。スピード感を持って新しいことにチャレンジし続けること。それがAlumnoteのカルチャーですね。

大久保:Alumnoteのこれからの展望と、その実現に向けた取り組みを教えてください。

中沢教育機関の持続的な発展を支えるインフラを提供するというビジョンのために、大学の資金調達基盤となる「卒業生ネットワーク」の見える化をします。着想は海外の大学における寄付文化ですが、大学の内部機関ではなく、かつ後発である私たちならではの、自由度が高く斬新で収益性の高い仕組み作りをしたいと考えを巡らせています。

例えば、母校から「100周年記念事業」といった寄付依頼の封筒が届いた経験のある人もいるかもしれません。しかし、事業のビジョンが伝わらなければ、「100年だから何?」となってしまうでしょう。寄付をすれば、在学生との交流の機会が増える、自社の製品を学生に認知してもらえる、学生採用の紹介を受けられる…なにかそういった納得感のある設計をしていくことが大切です。特に人材や広告の市場の資金は、もっと教育に活かすことができるはずとずっと着目していますね。

成功事例を横展開しながら、いずれは単一大学で年間100億円規模の寄付を集めることを目指しています。100億円はすごい額ですが、世界で競争力のある大学にするためには普通に必要な数値でもあります。日本のGDPや人口における大学進学率などを勘案すると、実現不可能な額ではないので、突き進んでいきたいです。

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(取材協力: 株式会社Alumnote 代表取締役CEO 中沢冬芽
(編集: 創業手帳編集部)



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