プレスリリース一斉配信は大間違い!?広報PRのプロが伝授する「創業期の広報術」

広報手帳

まずは「自分に興味を持ってくれそうな担当者」を探そう

(2017/07/18更新)

自社のサービスをたくさんの方に知ってほしい。創業者なら誰もが思うことですね。
そのために、たくさんの企業にプレスリリースを配信して、サービスのPRをする・・・実は、このような「プレスリリース一斉配信」、創業期の会社が行っても効果が無いそうです。ですが、なぜ有効な方法ではないのでしょうか?
そこで今回は、創業期に有効な広報PRの手段について、創業期の企業の広報PRを数多く手掛けているベンチャー広報 野澤直人氏にお話を伺いました。

野澤 直人(のざわ なおひと)

1971 年生まれ。明治大学卒業後、中小企業向け経営情報サービス会社に入社。
20代後半で出版社に転職しニュービジネス情報誌の編集責任者としてベンチャー経営者500人以上の取材を経験。
その後、当時無名だった海外留学関連のベンチャー企業で広報部門をゼロから立ち上げ、半年間で日経新聞本誌朝刊をはじめ43件のメディア露出を実現。
同社在籍中の8年間で朝日新聞、週刊ダイヤモンド、ワールドビジネスサテライトをはじめ毎年100~140件のマスコミ露出を通じてブランディングに貢献した。
PR会社勤務を経て、ベンチャー広報を設立し現在に至る。

プレスリリース=価値の低い情報

ー広報というと、プレスリリースを送る、TV局など有名メディアにアプローチする人を見かけますが、創業期にこれは正しいやり方ですか?

野澤まず、創業期の会社がプレスリリースを一斉配信してもほとんど効果はないでしょう。その理由を理解するには「マスコミ関係者はそもそもなんのために仕事をしているのか?」という本質的な疑問について考える必要があります。

マスコミ関係者、特に報道に携わる記者や編集者、テレビディレクターといった人たちは、主に「特ダネ」や「スクープ」をとるために仕事をしています。それを誰よりも早く、自らの媒体で伝える。彼らがやりたいことはコレです。

特ダネやスクープを連発するメディアは、他のマスコミ関係者からもリスペクトされます。
実際、現場の記者は特ダネをとれば上司から褒められ、昇進も早くなります。

報道に携わるマスコミ関係者は、日々、そうしたシビアな世界でしのぎを削っています。では、そんなマスコミ関係者から見た場合、マスコミ各社に一斉配信されてきたプレスリリースとは、どんな存在に感じられるかを考えてみてください。

プレスリリース = 公開情報 = 絶対に特ダネにはならない情報 = 価値の低い情報

これが、プレスリリースに対してマスコミ関係者が抱く基本的な感覚です。

一斉配信されているということは、他のメディアも自社と同時にその情報について知ったということですから、プレスリリースをどんなに細かくチェックしても、彼らが追い求める特ダネやスクープは絶対にそこに含まれていません。マスコミ関係者にとっては優先順位が最低ランクの情報だからです。

つまり、プレスリリースをマスコミに一斉配信するということは「自社の情報を自らゴミにしている」ということなのです。
しかし現実には、そんな無益な行為が日々、広報PRの現場で常識として行われています。しかも、ファックス用紙などで大量の紙資源を浪費していますから、世界の森林破壊にも大いに貢献しています。

ただし、大企業や上場企業が送ってくるプレスリリースには、報道関係者は必ず目を通します。

マスコミには、「大企業の発信する情報は、世の中に与えるインパクトが大きいため、報道する価値が高い」という固定観念があります。
必ずしもそうとは思えない場合もあるのですが、もし他社がそろって報道していたら、自社だけが報道しないわけにはいきません。現場の担当者としては、とりあえず大企業の発表ネタは取材くらいはしておこう、という考えが働きます。

特ダネやスクープといったホームランにはなりませんが、大企業がプレスリリースを送ると、多くの取材依頼が殺到します。結果、不要な取材を断ろうとする広報担当者との駆け引きが発生する、というわけです。

忙しいマスコミ関係者が、話題性に乏しい中小・ベンチャー企業が一斉配信してきたプレスリリースに、いちいち目を通す理由はありません。マスコミ側の心理からすれば、当然の行動なのです。

また、創業間もない会社が、全国放送のテレビ番組や大手全国紙の新聞などにいきなり取り上げられるケースは極めて少ないです。
なぜなら、それらのメディアはウェブニュースや専門誌、業界紙などで数多く報道され、世の中ですでに具体的な現象となっている事柄を、あと追いで報道するメディアだからです。そのため、創業期で世の中に全く知られていない会社には興味を持ちません。

PRしたいなら「自分に興味を持ってくれそうな記者」を探せ

ー大企業と比べた際、創業期の企業の広報のやり方の注意点などがあれば教えてください。

野澤:大企業と異なり、創業期の企業の広報では、不特定多数へのプレスリリースの一斉配信という「広報PRの常識」は通用しません。そこで、「自社に興味を持ってくれる媒体やマスコミの中の人」を探して、ピンポイントで情報提供することが必要になります。例えば、あなたがIT系企業の広報担当者ならば、まずはその分野を担当しているマスコミの関係者を探すところから、広報活動を始めるべきなのです。

私が以前、広報担当をしていた海外留学斡旋会社のエピソードをご紹介しましょう。
あるとき、同社が新しいサービスを開発して、売り出すことになりました。それにあたって広報担当者の私に課せられたミッションは、この新サービスをある新聞に報道してもらうことでした。

当時、まだ駆け出し広報担当者だった私は、まずは広報のノウハウ本をいくつか読んで、見よう見まねでプレスリリースを書き、新聞社の編集局にファックスで送ってみました。しかし、まったく反応ナシ。
上司に「プレスリリースを送りましたが、取材はきませんでした……」なんてマヌケな報告は、絶対にできません。

どうしたら取材がとれるのか、当時の私はひとつの仮説にたどりつきました。
「もし、あの新聞社に海外留学担当の記者がいれば、今回の新商品に興味を持ってもらえるはずだ」と。

新聞社には多数の記者がいますが、それぞれがなんらかの担当分野を持ち、それを中心に取材活動を行っているはずです。問題は「どうやって海外留学担当の記者を探すか」ということ。当然ですが、どの記者がどの分野を担当しているかなんて情報は、世の中のどこにも公開されていません。

そこで私は図書館に行って、過去の新聞1年分を隅から隅までチェックしました。
すると、海外留学の記事がいくつか掲載されているではありませんか!なかには署名記事(末尾などに記者の個人名が記載されている記事)もあり、なんと、そこに記された記者名がどの記事も同じ名前だったのです!

「この人が海外留学担当の記者に違いない」と確信した私は、その記者あてに、おそるおそる電話をかけてみました。
すると、トントン拍子に話が進み、さらにプレスリリースも送ったところ、取材が成立。数日後には、日経新聞の本紙朝刊にその新サービスの記事が大きく掲載されたのです。

強力な武器になる「本当に使えるメディアリスト」


野澤:前述した成功体験を受けて、次に私は過去のさまざまなメディアでの報道を丹念に調査・分析し、海外留学について報道した実績がある媒体をピックアップしていきました。

そのうえで、その報道を実際に担当したと思われる新聞記者や雑誌編集者、ウェブ媒体の編集者・ライター、テレビ番組のディレクターなどの個人名を、可能な限り特定しました。

彼らが、海外留学についての報道を手がけてた実績があるということは、それぞれのメディアで「海外留学を担当している」可能性があります。少なくとも、「海外留学という分野になんらかの関心がある」ということは言えるでしょう。私は彼らに片っ端から電話をかけて、アポイントメントをとったうえで面談を重ねました。

その結果、できあがったのが「海外留学に興味・関心のあるマスコミ関係者50人の連絡先リスト」です。
すべての方と名刺交換していますので、フルネームに加えて直通の電話番号、ファックス番号、個人のメールアドレスなど、広報PRにおいて必要となるすべての情報が網羅されています。
これはその後、同社で私が広報活動を続けていくうえで、大変強力な武器になりました。

ですので、創業期にやっておきたい広報PRとして、まずは「自分に興味を持ってくれそうな記者を探す」、次に「その記者を複数名見つけて、リストを作成する」という2点です。
この点を意識して広報PRをやっていけば、必ず結果が出てくるでしょう。

関連記事はこちら→あなたが持ってる広報のイメージ、間違ってるかも・・・。創業期にやるべき3つの広報術とは?

(取材協力:株式会社ベンチャー広報/野澤直人
(編集:創業手帳編集部)

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