【従業員1名から使える】小規模事業者におすすめの助成金7選|賃上げ、設備投資など
個人事業主を含め小規模事業者でも助成金は活用可能!最低賃金の引き上げをはじめ、雇用関係の取り組みに
助成金といえば、社員を多く抱える中小企業等が対象というイメージかもしれません。しかし、実際には従業員を1名でも雇用していれば小規模事業者(個人事業主含む)でも助成金を利用できます。
助成金は、賃上げや正社員化、長時間労働の是正など、中小企業・小規模事業者が実施する雇用関係の取り組みを支援する制度です。10月1日に発行される地域別最低賃金への対応にも活用できるため、これを機会にぜひ利用をご検討ください。
そんなわけでこの記事では、小規模業者におすすめの助成金を7種類紹介します。助成金を活用するメリットや支給までの流れなどもお伝えします。
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この記事の目次
小規模事業者が助成金を活用するメリット
小規模事業者が助成金を利用するメリットは、第一に人件費や設備投資に充てる資金を調達できることです。助成金には金額の大きいもので数十万円、場合によっては数百万円支給されるものもあります。賃上げはもちろん、新たな人材獲得や機械の導入などにも便利です。
また助成金の申請を機会に労務関係を適正化できるというメリットもあります。きちんとした就業規則を作ったり、育児休業・介護休業の制度を整備したりと、従業員の方々にとってより良い環境を構築するきっかけにすることが可能です。
なお、助成金は、補助金のような採択制ではなく、要件となる雇用関係の整備さえ行えば基本的に誰でも受給できます。申請にあたって事業計画書などを提出する必要もありません。そのため、助成金は小規模事業者の方々にも利用しやすい制度です。
ちなみに助成金の要件の一つである「賃上げ」ですが、労働者の数が少ない小規模事業者の場合、人件費負担はそれほど増加しません。仮にパートタイマー1人に50円の賃上げを行ったとしても、増える支出は月々4,000円前後です。他方、助成金からは10万円単位で支給を受けられる可能性があり、かつ労働環境の整備や設備投資も実現できます。人員の少ない小規模事業者こそ、助成金の旨みを享受しやすいのです。
小規模事業者におすすめの助成金7選
小規模事業者が利用できる助成金は数多くありますが、とくに以下の7種類はおすすめです。
1. 業務改善助成金:最低賃金への対応で最大600万円の助成
業務改善助成金は、事業場内最低賃金の30円以上の引き上げに伴う生産性向上のための設備投資の一部を助成する制度です。機械設備の導入費用のほか、コンサルティングや人材育成・教育訓練など、幅広い費用が助成対象経費に含まれます。特例事業者の要件を満たせば、PCやスマホ、タブレット、乗用車なども助成対象にできます。
助成上限額が最大600万円と高いことも魅力です。小規模事業者が1人賃上げするだけでも、最大60万円の助成を受けられる可能性があります。
10月1日の最低賃金引き上げのタイミングで、賃上げをしなければならない小規模事業者の方々も多いでしょう。ぜひその賃上げに合わせて生産性向上のための設備投資を行い、業務改善助成金をご利用ください。なお、最低賃金引き上げにあわせて賃上げを行う場合は、最低賃金の発行日の前日(9月30日)までに引き上げる必要があります。
【助成上限額】
コース区分 | 事業場内最低賃金の引き上げ額 | 引き上げる労働者数 | 助成上限額 | |
---|---|---|---|---|
右記以外の事業者 | 事業場規模30人未満の事業者 | |||
30円コース | 30円以上 | 1人 | 3 0 万 円 | 6 0 万 円 |
2~3人 | 5 0 万 円 | 9 0 万 円 | ||
4~6人 | 7 0 万 円 | 100 万 円 | ||
7人以上 | 100 万 円 | 120 万 円 | ||
10人以上※ | 120 万 円 | 130 万 円 | ||
45円コース | 45円以上 | 1人 | 4 5 万 円 | 8 0 万 円 |
2~3人 | 7 0 万 円 | 110 万 円 | ||
4~6人 | 100 万 円 | 140 万 円 | ||
7人以上 | 150 万 円 | 160 万 円 | ||
10人以上※ | 180万円 | 180 万 円 | ||
60円コース | 60円以上 1人 6 0 万 円 110 万 円 |
|||
2~3人 | 9 0 万 円 | 160 万 円 | ||
4~6人 | 150万円 | 190 万円 | ||
7人以上 | 230万円 | 230万円 | ||
10人以上※ | 300万円 | 300万円 | ||
90円コース | 90円以上 | 1人 | 9 0万円 | 170万円 |
2~3人 | 150万円 | 240万円 | ||
4~6人 | 270万円 | 290万円 | ||
7人以上 | 450万円 | 450万円 | ||
10人以上※ | 600万円 | 600万円 |
※ 特例事業者のみ対象
【助成率】
900円未満 | 9/10 |
---|---|
900円以上950 円未満 | 4/5(9/10) |
950 円以上 | 3/4(4/5) |
( )内は生産性要件を満たした場合
【特例事業者の要件】
①賃金要件 | 申請事業場の事業場内最低賃金が950円未満である事業者 |
---|---|
②物価高騰等要件 | 原材料費の高騰など社会的・経済的環境の変化等の外的要因により、申請前3か月間のうち任意の1か月の利益率が前年同月に比べ3%ポイント以上低下している事業者 |
【助成対象経費の特例】
助成対象経費 | 一般事業者 | 特例事業者(②のみ) |
---|---|---|
生産性向上に資する設備投資等 | 〇 | 〇 |
生産性向上に資する設備投資等のうち、 • 定員7人以上または車両本体価格200万円以下の乗用自動車や貨物自動車 • PC、スマホ、タブレット等の端末と周辺機器の新規導入 |
× | 〇 |
2. キャリアアップ助成金:正社員化で一人あたり40〜80万円以上の助成
キャリアアップ助成金は、パート・派遣を含む非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善の取り組みを助成する制度です。中小企業・小規模事業者の場合、正社員にする有期雇用労働者一人あたり80万円というかなり高額な助成が受けられます。
また派遣社員を正社員として直接雇用したり、対象者がシングルマザー・ファザーだったりする場合には加算もあります。後述する人材開発支援助成金の組み合わせによる加算があることも魅力です。
なお、キャリアアップ助成金の利用には、キャリアアップ計画の作成や就業規則の改訂などの諸手続きが必要になります。手続きに誤りがあると助成が受けられない場合もあるのでご注意ください。
【正社員化コースの支給額(1人当たり)】
企業規模/正社員化前雇用形態 | 有期雇用労働者 | 無期雇用労働者 |
---|---|---|
中小企業 | 8 0 万 円 ( 4 0 万 円 × 2 期 ) | 4 0 万 円 ( 2 0 万 円 × 2 期 ) |
大企業 | 6 0 万 円 ( 3 0 万 円 × 2 期 ) | 3 0 万 円 ( 1 5 万 円 × 2 期 ) |
【正社員化コースの加算額(1人当たり】
措置内容 | 有期雇用労働者 | 無期雇用労働者 |
---|---|---|
① 派遣労働者を派遣先で正社員として直接雇用する場合 | 28万5,000円 | |
② 対象者が母子家庭の母等または父子家庭の父の場合 | 95,000円 | 47,500円 |
③人材開発支援助成金の訓練修了後に正社員化した場合 (自発的職業能力開発訓練または定額制訓練以外の訓練修了後) |
95,000円 | 47,500円 |
(自発的職業能力開発訓練または定額制訓練修了後) | 11万円 | 55,000円 |
④正社員転換制度を新たに規定し、当該雇用区分に転換等した場合(1事業所当たり1回のみ) | 20万円 | |
⑤多様な正社員制度(※)を新たに規定し、当該雇用区分 に転換等した場合(1事業所当たり1回のみ) ※ 勤務地限定・職務限定・短時間正社員いずれか1つ以上の制度 |
40万円 |
3. 人材開発支援助成金:研修費を最大100%助成、キャリアアップ助成金との併用も
人材開発支援助成金は、労働者が参加するOFF-JT(外部研修)、またはOFF-JTとOJT(社内研修)を組み合わせた訓練の費用を助成する制度です。要件を満たせば、賃金助成については1人1時間あたり960円、経費助成については最大100%になります。
なお、人材開発支援助成金のうち、「有期実習型訓練」は有期雇用労働者等の正社員化を目的とした種別です。この種別ではOJTに対しても1人あたり最大13万円が助成され、かつキャリアアップ助成金でも最大95,000円の加算が受けられます。
人材開発支援助成金とキャリアアップ助成金を併用すれば、助成金を使って優秀な正社員を育成、雇用することが可能です。
【助成額・助成率(人材育成支援コース)】
支給対象となる訓練等 | 賃金助成額 (1人1時間当たり) |
賃金要件等を満たす場合 | 経費助成率 | 賃金要件等を満たす場合 | OJT実施助成額 (1人1コース当たり) |
賃金要件等を満たす場合 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
人材育成訓練 | OFF-JT | 760円 | 960円 | 45%(30%)※1 60%※2 70%※3 |
60%(45%)※1 75%※2 100%※3 |
– | – |
認定実習併用職業訓練 | OFF-JT | 760円 | 960円 | 45% | 60% | – | – |
OJT | – | – | – | – | 20万円 | 25万円 | |
有期実習型訓練 | OFF-JT | 760円 | 960円 | 60%※2 70%※3 |
75%※2 100%※3 |
– | – |
OJT | – | – | – | – | 10万円 | 13万円 |
※1 正規雇用労働者等へ訓練を実施した場合の助成率。 ※2 非正規雇用の場合の助成率。 ※3 正社員化した場合の助成率。
4. 両立支援等助成金:育児・介護休業などの取り組みに最大20〜30万円以上
両立支援等助成金は、仕事と育児・介護などを両立できる環境整備の取り組みを助成する制度です。男性の育休取得を推進する「出生時両立支援コース」をはじめ、以下6種類のコースがあります。
- 出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金):男性労働者が育児休業を取得しやすい環境整備を支援
- 介護離職防止支援コース:円滑な介護休業の取得や職場復帰のための取り組みを支援
- 育児休業等支援コース:円滑な育休取得や職場復帰のための取り組みを支援
- 育休中等業務代替支援コース:育休取得者等の業務を代替する周囲の労働者への手当支給等を支援
- 柔軟な働き方選択制度等支援コース:育児期の柔軟な働き方に関する制度等を導入した事業者を支援
- 不妊治療両立支援コース:休暇制度など不妊治療と仕事の両立に向けた取り組みを支援
支給額はコースによって異なりますが、大きいものだと20〜30万円、もしくはそれ以上の助成を受けられるので魅力的です。育児休業や介護休業などの促進をお考えの小規模事業者の方々はぜひ活用をご検討ください。
【コースごとの支給額】
基本となる支給額 | |
---|---|
1 出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金) | 1人目:20万円 |
2 介護離職防止支援コース | 休業取得時 30万円・職場復帰時 30万円 |
3 育児休業等支援コース | 休業取得時 30万円・職場復帰時 30万円 |
4 育休中等業務代替支援コース | 業務体制整備経費 5万円 |
5 柔軟な働き方選択制度等支援コース | 20万円 |
6 不妊治療両立支援コース | 30万円 |
5. 働き方改革推進支援助成金:働き方改革の取り組みに最大730万円の助成
働き方改革推進支援助成金は、長時間労働の見直しをはじめとした働き方改革のための環境整備等を助成する制度です。
各種研修やコンサルティングの費用のほか、生産性向上に資する設備投資の経費も支援対象となります。労働時間短縮・年休促進支援コースの場合、すべての成果目標をクリアし、賃上げの加算も含めると最大730万円もの助成を受けられる可能性があります。
働き方改革推進支援助成金については、以下の記事で詳しく解説していますのでこちらもぜひ参考にしてください。
6. 早期再就職支援等助成金:離職後3ヶ月以内の人材雇用で1人30万円〜
早期再就職支援等助成金は、離職後3ヶ月以内の労働者を無期雇用計画で雇い入れ、継続雇用する事業主を支援する制度です。
支給対象者1人につき通常30万円、要件を満たせば40万円の支給を受けられます。また雇用から6ヶ月以内にOFF-JTやOJTの訓練を開始した場合には、上乗せ支給も用意されています。
早期再就職支援等助成金については、以下の記事で詳しく解説していますので、こちらもぜひ参考にしてください。
7. 産業連携人材確保等支援コース:ものづくり補助金の人件費負担をカバー
産業雇用安定助成金 産業連携人材確保等支援コースは、ものづくり補助金で採択を受けた事業者が利用できる助成制度です。ものづくり補助金の採択事業のために専門人材や管理職などを雇い入れる場合、1人あたり250万円が支給されます。
ものづくり補助金とは、中小企業・小規模事業者が取り組む革新的な製品・サービス開発などを支援する補助金です。人材確保に関する費用は補助対象となりませんが、産業連携人材確保等支援コースを活用することで人件費部分の負担もカバーできます。新たなイノベーションで生産性向上に意欲を燃やす小規模事業者の方々は、ぜひものづくり補助金と併せて活用を検討してみましょう。
ものづくり補助金については以下の記事でも詳しく解説していますのでぜひ参考にしてください。なお、第18次公募の締め切りはすでに終了しています。産業連携人材確保等支援コースの利用は、第19次公募(時期未定)の発表を待ってからということになるのでご注意ください。
小規模事業者が助成金を利用する際の注意点
小規模事業者が助成金を活用する際に注意すべきなのは、助成金が後払いであることです。申請から受給までに2〜6ヶ月、場合によってはそれ以上の時間がかかるので、ゆとりのある資金計画が求められます。例えば、業務改善助成金では設備投資に最大600万円が支給されますが、その金額は一旦事業者で立て替えなければなりません。
また各助成金の要件を満たすために、一定以上の手間がかかることにも注意が必要です。とくに就業規則の作成が必須になることは知っておくべきでしょう。通常、労働者10名未満の小規模事業者には就業規則の作成が義務付けられていませんが、助成金を活用する場合には作成が求められます。そのため、助成金の申請によって事務負担は増加しますが、労務関係をきちんとする機会になるという点でむしろメリットとも捉えられます。
小規模事業者が助成金を受給するまでの流れ
小規模事業者が助成金を申請、受給するまでの流れはおおむね以下の通りです。詳細なフローは各助成金で異なるため、逐一パンフレット等でご確認ください。
- 交付申請書や各種計画書などを提出
- 交付申請書等の審査の後、交付決定の通知
- 賃金の引き上げや設備投資などの実施
- 実績報告書や支給申請書などを提出
- 交付額の確定および助成金の支払い
助成金の申請から支払いまでにかかる時間ですが、種類によって2〜3ヶ月後のものもあれば、6ヶ月以上かかるものもあります。
小規模事業者と助成金に関するQ&A
以下では、小規模事業者と助成金に関してよくある質問にお答えします。
Q. 小規模事業者とは?
小規模事業者(小規模企業者)とは、一般的に従業員20名以下(卸売業・小売業・サービス業は5人以下)の事業者を指します。また例えば、業務改善助成金では、中小企業・小規模事業者をまとめて以下の定義が用いられています。
小規模事業者の定義については以下の記事でも詳しく解説していますので、こちらもぜひ参考にしてください。
Q. 助成金と補助金の違いは?
助成金と補助金の違いは、例えば、採択制であるかどうかにあります。補助金では採択件数や予算があらかじめ決まっているため、申請したすべての事業者が採択を受けられるわけではありません。一方、要件さえ満たせば基本的には全員受給できるのが助成金です。
また助成金と補助金では、実施の目的も違います。補助金は新規事業を奨励し、経済発展を促すために実施されるのが一般的です。これに対し、助成金では賃上げや働き方改革など、雇用関係の適正化が主眼になっています。
ただし、上記はあくまで一般論であり、現実には補助金のような性質を持った助成金や、その逆もまた存在します。
まとめ
助成金は、小規模事業者の方々にも利用しやすい制度です。人件費や設備投資の費用が調達できるだけでなく、労務関係を適正化する良いきっかけにもなります。
10月1日には地域別最低賃金も更新されるので、これを機会にぜひ助成金の活用をご検討ください。忘備録として、最低賃金引き上げに際して業務改善助成金を利用する場合、賃上げの期限は9月30日までです。
(編集:創業手帳編集部)