CareMaker 山村 真稔|「スケジュール調整」で訪問看護・介護業界の課題解決!最期まで自宅で過ごせる未来を

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年08月に行われた取材時点のものです。

看護・介護スタッフの稼働率を上げて、1人でも多くの人をケアできるように。アナログ作業のデジタル化を先導

CareMakerは、訪問看護・介護のスケジュールをAIで自動作成するサービスです。

「ただのスケジュール調整?」と侮ってはいけません。「時間単位で、利用者とスタッフのマッチングを可能にしたこと」でスタッフの稼働率を上げ、訪問看護・介護業界の人材不足の課題解決に大きく貢献しています。

このサービスを実現できたのは、「個をエンパワーメントしたい」という山村さんの想いがあったからこそ。

そこで今回は、株式会社CareMaker 代表取締役の山村真稔さんに、起業の経緯や、日本の介護業界がかかえる課題についてお伺いしました。

山村真稔(やまむら まさとし)
株式会社CareMaker 代表取締役
広告代理店からキャリアをスタートし、その後、株式会社BitStarにてYouTuberの支援などインフルエンサーマーケティングに従事。新たな産業や文化が創られていくフェーズを経験する中で、自身も社会的インパクトのある産業課題を解いていくようなことを成し遂げたいと思い、2019年9月に創業。自身の母親が福祉業界に勤めていることから業界の課題を身近に感じる機会が多く、福祉領域での起業を決意する。IT技術や自身の経験を福祉領域にも持ちこむことで、ケアを受ける人・提供する人それぞれをエンパワーメントできると思い、『CareMaker』の提供を開始した。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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「初音ミク」に出会った衝撃からインターネット関連企業へ


大久保:まずは、キャリアについて教えてください。起業の前に、2つの会社で働かれたんですよね。

山村:新卒のときは、インターネット広告代理店に就職しました。

大久保:ファーストキャリアは、どのような理由で選ばれたんですか?

山村インターネットが好きだったので、関連する事業開発を行っている企業で経験を積みたかったからです。

インターネット好きになった経緯として、学生時代に初めて「初音ミク」を見たときの衝撃は、今でも忘れられません。これまで目を向けてもらえなかったクリエイターさんたちの創作物が、「初音ミク」という媒体を通して日の目を浴びる。だれかがエンパワーメントされる生態系にとても感動したんです。それからは、「インターネットに関連する企業に勤めよう」と決めていました。

大久保:念願のインターネットに関連する企業に就職したにもかかわらず、転職をされたのはなぜでしょうか?

山村:自分がやりたいと思っていたことと、実際に任された仕事にギャップを感じたためですね。

私が担当していた広告営業では、動くお金は大きいものの、私が学生のときに感じた「インターネットの素晴らしさ」からは遠ざかっている気がしました。

大久保:モヤモヤするような日々だったのですね。

山村:そうですね。そんなモヤモヤとした日々を過ごしていたころ、初音ミクがYouTubeのキャンペーンポスターに登場しはじめます。さらに、MEGWINさんのようなYouTuberの初期メンバーが、「好きなことで、生きていく」キャンペーンをスタートしていました。

会社からの帰り道にそんなポスターを見るたび「学生のころに感じたインターネットの素晴らしさが、今はYouTubeで再現されているのではないか」と感じるようになりました。

だから、YouTuberなどのインフルエンサーを支援する会社、株式会社BitStarへの転職を決心したんです。

YouTubeという市場へ飛び込み「マーケットが伸びている」ことの大切さを学ぶ


大久保:BitStarでは、どんな経験をされたのでしょうか?

山村:BitStarには2年間勤めたのですが、「マーケットが伸びている」あるいは「マーケットが大きい」ということが、どれだけ重要なのかを学びましたね。

大久保:具体的に、BitStarでご担当された業務内容をお伺いしてもよろしいですか?

山村:最初の1年間は広告営業を、次の1年間では、「YouTuberさんのファンクラブ」のようなものの事業開発に関わりました。

当時は、動画の「規制」が始まったタイミングだったため、突然稼げなくなってしまうYouTuberの方もいたんです。そのため、ファンの方々に月額を支払ってもらってYouTuberの活動を支える「ファンコミュニティ」を開発しました。

大久保:それから起業を考え始めたのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

山村:私は、「YouTubeそのもの」に魅力を感じていたのだと気づいたからです。

だから、「YouTubeのように誰かをエンパワーメントする生態系を生み出す側」に回りたいと考えました。

9ヶ月の準備期間を経てD2C事業をスタート


大久保:退職されてから起業されるまでに、少し期間があったんですよね。どんな流れで起業されましたか?

山村:2018年12月にBitStarを退職して、起業したのは2019年9月です。約9か月間は、ひたすら事業の種を探し続けました。

そして、「とにかく起業をする」ことを目的に、CBDのサプリメントのD2C事業を立ち上げました。

「仕入れて売る」という流れは1社目の広告業で経験していましたし、2社目でインフルエンサーというトレンドに関わりましたから、D2Cという事業は自分のキャリアにもフィットしていると思ったんです。

大久保:CBDの製品の通販事業からスタートされたんですね。CBDを選んだ理由は何でしょうか?

山村:当時CBDはグローバルでトレンドでしたし、「今後は日本でも流行るだろう」と言われていたからです。

しかし、伸び悩むたびに、立ち直る理由がないと感じるようになりました。トレンドだからという理由のみではじめた事業には、「自分がやる意味」を見出せなかったんです。

大久保:では、いったん事業をストップされたということですか?

山村:そうですね。ただ、マーケットが伸びているトレンド商品だったこと、製品自体の品質が良かったことが幸いし、事業に関心を示してくれる企業様がいらっしゃいました。

そこでD2C事業は譲渡して、新しい事業を探索しはじめることになりましたね。事業の「譲り先」まで見つけたことは、のちのちの評価に繋がりました。

母親との会話が「福祉・介護業界」に目を向けるきっかけに


大久保:D2C事業を譲渡して新しい事業を探し始めたんですね。「福祉・介護業界」を選んだきっかけを教えてください。

山村:実家に帰ったとき、福祉の仕事に関わっている母親から「福祉業界で働いている人も、サービスを受けてる人も、どちらも卑屈な思いをかかえている」という話を聞いたことがきっかけになりました。

実家の最寄駅周辺では介護施設の広告を見る機会が多く、マーケットを身近に感じていたこともあるかもしれません。

「この業界なら自分のキャリアを活かして、誰かをエンパワーメントするという、やりたかったことができるかもしれない」と直感したんです。それからは、「現場の課題の解像度を上げる」ために、資格を取って実際の介護現場でも働きました。

最初は「ケアマネジャーのセカンドオピニオンサービス」に着手

大久保:福祉・介護業界で起業すると決めてからすぐに、「訪問看護や介護のスケジュールを調整する」という現在のサービスにたどり着かれたんでしょうか?

山村かなりの紆余曲折がありました。

実は、最初に着手したサービスは、ケアマネジャーのセカンドオピニオンサービスだったんです。

大久保:基本的なことかもしれませんが、ケアマネジャーは具体的にはどんなお仕事をされているんでしょうか?

山村:ケアマネジャーは、介護サービスを受けたい利用者のケアプランの作成や給付管理、サービス提供事業所をつなぐ調整などの業務を担っています。医療業界では「医師が書いた指示書」に沿って治療が行われるのと同様に、福祉業界では「ケアマネジャーが組んだプラン」に沿ってサービスが計画されるんです。

医療なら「この治療でいいのか」という疑問を持った場合に、別の病院に行きセカンドオピニオンを受けられますよね。

しかし、福祉の現場には「セカンドオピニオンを受ける」という概念がなく、「このプランで本当にいいのか」といった不安があっても、他のケアマネジャーに相談できない人がいることを知りました。

大久保:不安をかかえながら、同じサービスを受け続けるのは辛いですね。

山村:おっしゃる通りです。そこで、「別のケアマネジャーに相談してみたい人」と「今時間が空いているケアマネジャー」のマッチングをするサービスを立ち上げたんです。

非効率な現場を見て感じた「訪問看護・介護のスケジュール共有」の重要性


大久保:そこからどのように進化して、今のCareMakerになったのでしょうか?

山村:ケアマネジャーの事業所にお伺いしていたときです。たまたま知り合いのケアマネジャーさんが、営業に来た人からパンフレットと名刺を渡されている現場を見かけました。

「今のは、どういった営業ですか?」と聞くと、「近くに訪問看護ステーションができたので、管理者の方がパンフレットと名刺を持ってこられたんだよ」とおっしゃいました。

大久保:ケアマネジャーは、訪問看護の方から営業を受ける立場にあるんですか?

山村:はい。ケアマネジャーは利用者のケアプランを組んだあと、サービス提供事業者に発注するまでを担います。だからケアマネジャーの事業所には、訪問看護や介護などの営業がたくさん来るんだそうです。

そこで、「パンフレットなどは、どう管理しているんですか?」と聞いてみたところ、パンフレットだらけのファイルが大量に出てきました。そのパンフレットの山からプランにあったサービス提供事業者を探していることを知り、とても非効率だなと感じたんです。

大久保:該当の事業者を見つけるまでに、かなり時間がかかってしまいそうですね。

山村:しかも、パンフレットに「水曜日と金曜日が空いています」と記載されていても、実際に電話すると空いてないことがあるんだそうです。

なぜなら、利用者の体調や利用状況は日々変動するため。「パンフレットを見て電話しても、結局たらい回しにされる」と悩むケアマネジャーは少なくないと教えてくれました。

そこでケアマネジャーさんに、「タイムリーにサービス提供事業者のスケジュール情報が共有されると助かりますか?」と聞いてみました。

すると、「タイムリーに空き状況を更新してくれるならとても嬉しい。でも今はそんな事業者さんはまったくないんだよね」と返ってきたんです。

大久保:基本的に、スケジュール調整はアナログでするしかなかったんですね。

山村:はい。その瞬間、「サービス提供事業者サイドのスケジュールデータをとって、ケアマネジャーがどこに発注すればいいのかを時間単位でマッチングさせる」という、今のCareMakerの着想を得ました。

それからは、サービス提供事業者サイドにインタビューを積み重ねました。同時に、本当の「現場のニーズ」を掴んでから解決に向けて動き出すために、実際に訪問介護で勤務して、「シフトを組む大変さ」を身をもって経験しました。

コロナ禍で確実に需要を獲得


大久保:CareMakerをスタートしてからは、順調に伸びていきましたか?

山村:そうですね。というのも、私たちがこのスケジュール事業のピボットをしたときはコロナ禍真っ只中。

つまり、「施設にクラスターが発生したため入居できません」「病院は満床なので出て行ってください」というような状況だったため、訪問看護や介護の需要がとんでもなく伸びていました。

そのようなタイミングも相まって、需要が確実に獲得できたんです。

大久保:コロナ禍で、たくさんの方の支えになられたわけですね。

山村:看護・介護サービスの利用者は、高齢で疾患を持たれている方がほとんどです。「サービスを提供するまでには、多大な調整時間がかかります」では命に関わるかもしれない。

サービス事業提供者を見つけ出すのに時間がかかると、ケアマネジャーの負担になるだけでなく、利用者にも「私はどうなるのだろう」と不安に思わせてしまうんです。私たちは、ケアマネジャーの負担を減らすと同時に、「利用者をいち早く安心させてあげたい」という思いで進んできました。

稼働率の問題解決がもたらす成果


大久保:時間単位でマッチングさせて「ケアマネジャーの負担を軽くする」「利用者の不安を和らげる」というのは、まさにインターネットの素晴らしさを活かして「福祉・介護業界の課題」を解決していますね。

山村:それだけでなく、「稼働率の問題」という課題も解決できると考えています。

どういうことかというと、訪問看護や介護事業者は、中小零細企業を含め数えきれないほど存在していますよね。それなのに、利用者の需要をカバーしきれていない現状があります。

大久保:余っている人手の供給がうまくいっていないんですね。

山村:そうなんです。サービス提供事業者スタッフ全員の稼働率を向上できれば、利用者のケアを行き届かせることも可能なはず。ケアマネジャーも同様に、生産性を高めて担当できる人数の上限である約40人を担当できる人が増えれば、もっと多くの利用者をみれるようになりますよね。

「スタッフ1人当たりの訪問件数を増やすことで、1人でも多くの利用者を看れるようにする」ことも、私たちCareMakerのミッションだと考えています。

大久保:訪問数を増やすことは、スタッフの方の収入アップにもつながりますか?

山村:サービス事業者は、訪問数によって収益が上がる仕組みになっています。ですから、スタッフも訪問件数を増やせるほどインセンティブが付与されることが多いと思いますね。

大久保:福祉・介護業界は給料が低いというイメージがありますから、その点も改善していけたらいいですね。

山村:そもそも介護業務の給料が低い理由の1つに、「稼働率が低い」ことが挙げられるんです。

例えば、ヘルパーさんも、1日5件の訪問可能枠を全て埋めることができれば、仮の数字ですが月50万円稼げるはずです。でも、需要がある利用者とマッチができていないために、1日2~3件しか回れず月30万円しか稼げていない。

だから、稼働率を上げることで、ベースから上げることが可能になると考えています。

大久保:CareMakerはスケジュールの調整をしているだけに思われがちですが、「日本の課題解決を担っているサービスだ」と感じました。

非稼働な人材を活性化して「最期まで個が尊重される社会」の実現を

出典:厚生労働省「人口動態統計」(2016年)

大久保:今後の展望をお聞かせください。

山村:厚労省による調査結果では60%以上の国民が「自宅で療養したい」と言っているのに、実際に自宅で最期を迎えられているのは13.0%なんです。だから私たちは、この13%を50~60%に上げることで、最期まで「個が尊重される」、「個がエンパワーメントされる」社会の実現をしたいと考えています。

そのためには、少しでも稼働率を上げて1人でも多くの人にケアを行き届かせる必要がありますよね。ですから、私たちは今後「介護版Uber」ができればと思っているんです。

実は、「育休で働けない」「夜勤終わりで午前は働けないけれど午後は働ける」といった、資格を持っていて働けるのに休んでいる人材は少なくありません。

今CareMakerで実践している「生産性を最大化する」「稼働率上げる」というアプローチにくわえて、「現在非稼働な人材」を活性化して人手を増やす、ということも実現すれば、さらに多くの人のケアができるようになります。

「最期まで自宅で過ごしたい」という願いを聞いてあげられない現状がある今、稼働できる人を1人でも増やさなければと考えていますね。

さらに、その後は日本を代表する企業として海外展開を目指すことも決めています。

大久保:最後にこれから起業される方へ、一言いただけますか?

山村:「伸びてるマーケット」で起業をすることが重要だと思います。

ただ、私の経験上「伸びてるマーケットだから」という理由だけで選んでしまうと、自分がやる意味を見いだせず、うまくいかなかったときに立ち直れないかもしれません。

だから、「伸びているマーケット」かつ「自分が本気でやり続ける覚悟を持てるマーケット」で勝負ができるといいのではないでしょうか。情熱を持ってやり続けられるマーケットを見つけてほしいと思います。

大久保写真大久保の感想

地味な「スケジュール調整」で日本が良くなる!?

山村さんがやっているビジネスは形だけ見ればスケジュール管理ツールだ。ただ、介護人材が不足している現状において、介護人材の稼働率を上げることで人材の空き時間を有効に活用できると、実質的な介護の人手不足の軽減につながる。

また、時間を有効活用できると働く人の所得が上がる可能性がある。つまり単純に頭数を増やすより、無駄をなくしたほうが社会、事業者、働く人本人にとっても良いということになる。

しかし、単純に稼働率をあげようとしてスケジュールを詰め込むと、過重労働になったり、ダブルブッキングなどの問題も起こりそうだ。

こうしたデジタルサービスの良いところは、正確にマッチングできることにより問題を起こりにくくしたり、逆に詰め込みすぎて労働が過剰にならないようにコントロールすることもしやすいということだ。

今、日本は人手不足が問題になっており、特に介護や医療ではそのまま人材の不足がクリティカルで巨大な社会問題になるそんな大きな課題を救うのは、もしかしたら、ちょっとした空き時間の活用、地味なスケジュール調整なのかもしれない。

ビジネス面で見ると面白いのはSaaSのサブスク型ビジネスモデルと、あまり本人は言っていないが、今後マッチングの件数が増えてくるとマッチングでの従量型のビジネスが大きくなりダブルで収益が取れる可能性も考えられる。ポイントになるのが普及率とマッチングの稼働件数になるが、今後のCareMakerがどれぐらい健闘するか注目したい。

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(取材協力: 株式会社CareMaker 代表取締役 山村真稔
(編集: 創業手帳編集部)



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