リベラル 上田庸司|個人の価値観と組織の理念をすり合わせ、働きたいと思える組織を作る
障がい者による中古OA機器の清掃、コミュニティ作りをテーマにしたシェアオフィスの2社を社内起業
障がい者が従業員のほとんどを占めていながら、好業績を上げているのがコピー機再生などを手がけるリベラルです。
2008年に社内起業として立ち上げられ、14年が経ちます。立ち上げたのは、サラリーマンとして働きながらMBAを取得した上田氏です。その後2社目の社内起業として、人との触れ合いをテーマにしたシェアオフィス、STAYUPも立ち上げられました。
創業手帳の大久保が、2社の起業について、また障がい者がいる組織でのマネジメントなどについて、STAYUP湘南藤沢にてインタビューしました。
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この記事の目次
STAYUP横浜、湘南藤沢 支配人
流通経済大学 非常勤講師
社会福祉法人江戸川菜の花の会 理事
厚労省 就職困難性評価制度 評価委員
2008年、ラディックスグループの特例子会社としてリベラル株式会社を設立。知的障がい者が中古OA機器の清掃・修理を手がけ、新品同様に再生OA機器を磨き上げ商品として生み出すことで、新しい市場分野を創造。障がい者を「利益」が追求できる「戦力」として雇用・育成し、障がい者の仕事ぶりを世の中へ拡めることで、社会性と事業性の双方を実現できる組織を目指している。2016年KAIKA大賞、2017年東京都障害者雇用エクセレントカンパニー賞、2018年ホワイト企業大賞、2019年厚生労働省「働きやすく生産性の高い企業・職場表彰」を受賞。
2019年6月には、「知的障がい者の働き方を世の中へ拡める」べく、サービスオフィス「STAYUP横浜」を開業。「働きやすい環境」+「心の育み」という、次世代サービスオフィスを展開している。経営管理修士(MBA)、M&Aアドバイザー。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
障がい者のできないことではなく、できることに注目する
大久保:リベラルとSTAYUPという2つの事業を手がけられていますよね。改めて2つの事業についてお聞かせいただきたいのですが、まずはリベラルについて教えてください。
上田:もともとは、障害者雇用促進法で定められる、障がい者の法定雇用率をグループ全体で達成していなかったため、お叱りを受けたのがきっかけです。雇用率を達成するために中古ビジネスと組み合わせた企画書が通って、ラディックスグループの子会社として2008年にスタートしました。
知的障がい者が中古情報通信機器(ビジネス電話機・コピー機・パソコンなど)の清掃を行っています。
大久保:その頃にMBAも取っていませんでした?
上田:そうなんです。法政大学の経営職大学院に入った数か月後にリベラル設立の企画書を会社に提出し、設立しました。自社だけではなく、外部の人たちと交流して、さまざまな価値観が学べたこと、自分の会社では当然であることは、会社のルールであって、社会のルールではないということを知ることができたのがよかったことです。
大久保:障がい者を雇用する組織作りで意識された点はありますか。
上田:障がい者手帳を持っている人は、社会や組織や人に合わせにくいところがあるから持っているわけです。組織や人に合わせにくいにもかかわらず雇用するということは、組織や会社が合わせなくてはいけない。そこは仕組み作りの上で、強く意識したポイントですね。
障がいを持っている人が3分の2、健常者が3分の1という割合でスタートしましたが、誰もが快適に働ける組織を作るために、インフラを整え、従業員満足度を高める努力をしました。
大久保:障がい者と健常者のマネジメントはどうされているのですか。
上田:そこは完全に分けていますね。会社を立ち上げてから、従業員満足度を高めようと努力しましたが、環境を整え、会社側が尽くすだけでは社員が「尽くされて当たり前」という意識になってしまい、組織が一度崩壊しかけたんです。そこで主に健常者の社員の倫理観や人間力を鍛えようと、方針を変えました。「思いやりや優しさと共に、どこの会社に行っても通用する力を身につけてください。そういう人材が選びたい会社にします」というように。
組織はどうしても生産性を求めがちですが、リベラルの場合はそれにプラスして障がい者の育成、社会貢献、地域への貢献をしなければいけません。
障がいを持っている人たちの面倒を見るということは大変だけど、生産性と社会貢献的なことを並列で進める必要があるので、全員に経営者的な視点を持って働いてもらっています。
障がい者の社員に対しては、全力で彼らに寄り添い、「社会で必要とされているんだよ」、「役に立っているんだよ」ということを感じてもらうことを心がけていますね。
もう一つ、できないことではなく、彼らのできるところに注目するということを心がけています。文字が読めなかったり、数字がわからなくても、自分の中でできる範囲のことを見つけて全力でやり、それを認めてもらうという原点を彼らに教えてもらいました。それをしっかりと軸にしてやってきたから今があるんじゃないかなと思っています。
大久保:人って誰しも苦手なことがありますもんね。実際にリベラルの見学をさせていただきましたが、人によっては1時間もしたら飽きてしまうような作業も、ずっとやり続けられるような強さを持っていることに驚きました。
上田:そうですね。集中する時間については、学校などと一緒にしていて、50分働いたら10分休憩ということにしています。トイレに行きたいということも言いにくい人もいるので、そういったシステムに落ち着きました。
大久保:創業手帳でもリベラルさんのコピー機を使っているのですが、クオリティや競争力が高いと感じます。
上田:ありがとうございます。お情けなどではなく、本当にいいものだから購入してもらいたいですし、障がい者が作業しているから低品質でいいとは思っていません。
働いている人が誇りをもち、自己承認できるようにと考えています。
社会起業の組織の中には国の助成金や補助金に頼っているところもあると聞きますが、それがなくなっても経営ができるように意識しています。
自分の事業を客観的に見て、世の中にもっといいやり方があるかもしれない、もっといい商品があるかもしれない、もっといいサポートがあるかもしれないと想定して対策を考えるようにしています。経営者の皆さんにも、一度自分の事業を遠くから見てみることをおすすめしたいですね。
大久保:リベラルに関しては現在どんなことが課題ですか。
上田:倫理観や思いやり、優しさをさらに養ってほしいと思い、自分を見つめ直す研修をしています。外部に頼んで、お金を払ってやってもらっていますね。考えたら自分も同じような研修を外でやっているんですが、自分でやらない理由は単純にやりづらいからです(笑)。
我々の会社にいる障がい者の方達は、自発的に転職活動ができない人たちなんですよね。ということは、どんなことがあっても会社をつぶしちゃいけない。そのためにどんなことができるかということを日々考えています。
組織を経営していく上では、個人の欲求と会社の欲求をすりあわせることが必要になってきます。みんなの喜びが経営者の喜びになっていくといいですよね。人々が幸せになるために入るところが組織ですが、そのためには全員の価値観を合わせる必要があります。
個人の価値観として、組織のミッションと相反するのであれば、うちはそういう会社なので働きたくないなら無理ですねと伝えています。理念に共感してもらえないのであれば、そもそも双方にとって幸せじゃないですよね。組織の価値観を明確にして、そこに折り合いをつけてもらうことが大事だと考えています。
大久保:起業前にもう少しこれをやっておけばよかったな、と感じることはありますか。
上田:もっと知識と経験を積んでおけばよかったなという気持ちはありますね。30代前半で、勢いで始めた部分もあるので苦労しました。知識と経験を積む環境はあったんですが、自分ごとにしていなかったので、もっと20代の頃から経験したことを自分ごとにしておけばよかったなと思います。
大久保:サラリーマンと起業家ってそういった違いがありますよね。サラリーマンだと最悪クビになるだけですから、経営が自分ごととしてとらえられないですし、守られているがゆえに吸収できない面があります。
ライブドアに転職して、自分はクビになってもいいぐらい攻めようかなと思ったんです。クビになるのも恐れずに面白い挑戦をしていこうと思いました。そしたらどんどん偉くなったんですけども。
上田:わたしは半分は起業家で、半分はサラリーマンなので、どちらの立場もわかるんです。サラリーマンは「やるべきことがたくさんあるので、そのなかでやりたいことを見つけなさい」と思いますし、起業家は「やりたいことだけやりなさい」と思います。
自分のやりたいことを、ちゃんとやっていきたいというのがスタートだったんですが、結果として会社がお金を出してくれて、やりたいことを実現することができました。
ただ、この先もやりたいことをやり続けるためには、社会や組織に還元をしていかないといけません。「自分の待遇をよくしたい」などとばかり考えていたら、もしかしたら違う結果になっていたかもということを最近よく感じています。
コミュニティ作りができるシェアオフィスを目指す
大久保:次に、シェアオフィスであるSTAYUPについてお聞かせ願えますか。
上田:コンセプトは、単に場所を貸すのではなく、「心をはぐくんでもらう」。人との交流や触れ合いが生まれる環境づくりが一番のテーマです。顔を合わせて挨拶をすると、交流がうまれ、ビジネスが進むことだってあるかもしれません。
ビジネスを進めていく上で、一番問題となるのは心の壁です。心の壁を取り払うためにはどうしていけばいいかに重点をおいてやっている事業になります。
大久保:実は創業手帳もコワーキングスペースから始まったんです。ひとりで閉じこもって仕事をしていると、人との接触がないので病んでくるんですよね。人とのつながりがあって、初めてアイデアが浮かんでくるので、起業家にとって人との交流ってすごく大事だと思っています。
上田:組織の原点は、人と人とのふれあいだと思っています。人とコンピュータではなく、人と人がいて初めて組織になるんです。
我々のシェアオフィスが社会とのつながりを積極的に思い起こさせる原点でありたいと思っています。AIが発達して、人間が不幸になるのは本末転倒ですよね。パソコンは生活が便利になり、人が幸せになることが目的なのに、人がPCに使われる時代にもなってきています。
コンピュータが持っていなくて、人間が持っているのが思いやりや優しさ、喜怒哀楽といった感情的な部分です。そこを育んでほしいという思いからSTAYUPを作りました。
目標の設定や5年計画なども、数字で表す組織が多いと思いますが、数字って他者と共有しやすいけれど、ツールでしかないんですよね。
今後は、富士通も進めているようなパーパス経営、個人の価値観をきちんと出していき、組織の理念と融合させていくような経営が世の中にとって必要だと信じています。
大久保:ベンチャーって人が増えたり減ったりが激しいので、そういう点でもシェアオフィスって効率的ですよね。
上田:はい。オフィスって借りるとずっと固定費がかかってきます。シェアオフィスであれば人数の増減にも柔軟に対応できます。最近の流行なので、シェアオフィスはどんどんできているけれども潰れているところも多いです。正直、シェアオフィスだけで食べていこうとしても厳しい現実があります。事業として考えている方は、既存ビジネスとうまく組み合わせて戦略を練る必要があると思いますね。
うちのように、コミュニティを作ろうとしているところが栄えて生き残っていると思います。
大久保:今後はどこに展開したいと考えているんですか?
上田:今後どこに作るかは決めていないですね(笑)。運営しているラディックスの都合によります。日中、人がいなくなるラディックスの営業所が遊休地になっているため、そこを有効活用しようと思ってシェアオフィスを始めた側面もあります。
藤沢にあるSTAYUP湘南藤沢もそういうところからスタートしているんです。マーケティングをして、ここは人が多いからシェアオフィスを作ろうという流れではなく、「営業所が狭くなってきたから移転することになった。だったらシェアオフィスを併設しよう」というような経緯でやっています。
「自分の机がなくなってしまった」というような感覚の人からすると少し窮屈かもしれませんが、慣れてもらうしかないと思いますね。
事業を手放して、次の事業へ
大久保:社内起業を2つやってきて、今はどういうタイミングなのでしょうか。
上田:社内起業からここまで約15年やってきて、最近は自分がトップではなく、後継者育成の意味もあり、人に引き継いでいきたいということは考えています。どうしても近くにいると口を出したくなってしまうので、口を出さないようにするには近くにいない。これに限ります(笑)。
また、暇だとどうしても口を出したくなってしまうので忙しくしているようにしています(笑)。リベラルの事業承継をした後、STAYUPも承継して、また何かを始めるんじゃないかと思っています。
(取材協力:
リベラル株式会社 常務取締役 上田 庸司)
(編集: 創業手帳編集部)