マフィス 高田麻衣子|バリキャリでも専業主婦でもない「第三の働き方」

創業手帳woman
※このインタビュー内容は2016年03月に行われた取材時点のものです。

ママをたすけるシェアオフィス「マフィス」代表 高田麻衣子氏インタビュー

(2016/03/07更新)

キャリアウーマンとしてバリバリ働く一方で、子育てとの両立に苦労したという経験を持つ高田麻衣子氏。自分らしく妥協しない仕事をしながらも笑顔を絶やさない母親であり続けるための「しなやかで強かな生き方」を選択するに至った経緯と、働くママを支えるためのシェアオフィス「マフィス」のママに優しいサービス内容、今後の展望についてお話を伺いました。

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オクシイ株式会社 代表取締役 高田麻衣子(たかた まいこ)
1977年富山県生まれ。父も両祖父も起業家という家庭で育つ。
大阪市立大学生活科学部卒業後国内の不動産デベロッパーに数社で、仕入れ、企画、マンション販売、リーシングから、人事、教育、広報・IR、営業支援システム開発、教育プログラム開発など、フロントからバックまで全般的な業務に従事。プライベートでは1男1女の母。
自分らしい生き方を求めて、2014年8月独立。オクシイ株式会社を設立し、同年12月に、保育サービス付シェアオフィス「マフィス馬事公苑」を開業。

管理職になった直後に発覚した妊娠

ーマフィス設立までの経緯を教えてください。

高田:2014年の8月に独立するまで15年間は企業勤めをしていました。数社転職をしていますが、大半は不動産業界に身を置いていました。

大学卒業後新卒で入社し5年間在席していた会社では長らく営業畑にいたのですが、残業も仕事上のお付き合いも多く昼も夜も関係ない日々。

そんな中一つの転機だったのは、27歳の時に転職した不動産会社で、営業職と合わせて広報・IRという仕事の選択肢をいただいたことでした。

20代の後半で結婚や出産を意識しはじめていた時期だったため、営業職で男性のようなスタイルで働くより、昼間の努力で成果がわかる仕事をしたいと思い、当時はバランスシートの見方も分からない小娘でしたが、二つ返事でその申入れを受けました。

時は不動産ファンドバブル全盛期。その会社はJASDAQ上場後から東証一部へ鞍替えをめざし伸び盛りで、常に新しいことを勉強し続けなければいけない毎日でした。

自分の成長に対する自覚と社内の評価が連動している喜びが大きかったですね。20代の終わりから30歳ぐらいまでの3年間は猛烈に働きかつ学びました。

ー仕事が絶好調だったんですね。すると、初めての妊娠出産はいつ頃だったのですか?

高田:頑張りが評価されて2007年の4月に管理職に昇格したのですが、その直後に妊娠が発覚したのです。

IRという仕事は四半期決算の直後が忙しくて、妊娠中でも日付が変わることは当たり前、妊婦でも明け方まで会社で仕事をすることもありました。

妊娠35週で産休に入り出産。満1歳になる直前の2008年12月に育休から復帰しましたが、復帰後会社から指示されたのは産休前とは違う部署でした。

新しい部署は営業のサポート部門。WEBマーケティングや、ホームページ運営、営業支援やマーケティングのシステム開発、営業マンの教育研修など、いわゆる現場が動きやすくなるための一連の企画を推進するという仕事でした。

ー育休復帰後にまったく新しい部署へ移動ですか。仕事は不慣れだったのでは?

高田:はい、その仕事に私が移った理由は、その場所なら子育てと仕事のバランスを取りつつ成果を出していけるだろうという、上司の厚い配慮があったからです。

まずは与えられたフィールドで文句は言わず全力で頑張ってみる、そうすると結構楽しいものです。

自分がバックヤードを整えているので、やればやるほど仕事そのものが楽になっていくのです。

いろいろなことがオートマ化されてきて、部下の子もさらに心を尽くしてやってくれるようになるうちに、二人目を妊娠しました。

東日本大震災を契機に疑問を持ち始めたワークライフバランス

ー首都圏で通勤しながらの第二子出産と育児、大変だったのでは?

高田:管理職で2回目の育休、という事実に対して、勝手に無言のプレッシャーがあると思いこんでいました。

無理しなくていいのに「私、やる気あります。」アピールというくだらない見栄で産後3ヶ月で職場復帰をしました。

ところが復帰した3カ月後、東日本大震災が起きたのです。当時、震災後の福島原発の放射能の脅威などが連日ニュースで流れていました。

特に意識していたつもりはなかったんですが、母乳が全く出なくなりました。ストレスを感じているんだなと思いました。

いろんな友だちから「お子さん連れて実家に帰ったら?」と言われたのもこの時期でしたね。

ー何かおきて対応しようにも、独身者のように身軽に行動はできないですね。

高田:そうです。保育園に子どもを預けることにも熾烈な競争がある中で運よく年度途中に入園できたのに、1回退園させてしまうと、また同じ園に入れるのは無理でした。

それに、そもそも育休から復帰していましたから、次の休暇は退職を意味していました。

「子供を抱えて働く母親というのは、そんな身軽にサッとは動けないのよ」と叫びたいような気持ちでした。

首都圏の交通インフラは徹底的に整備され電車の乗り入れも便利になってきている一方で、通勤時のラッシュは尋常ではありませんし、埼玉で起きた車両故障がすぐに神奈川の横浜まで影響するようなことが日常茶飯事にあるでしょう。

ゲリラ豪雨や台風などの自然災害もしばしば。毎日分刻みのスケジュールで動いているワーキングマザーはそういうトラブルに翻弄されながら毎日を何とかこなしています。

フルタイムで仕事をしながら二人の子育て、という生活が何年も続き、毎日の生活にじわじわ疑問や後悔がつもっていきました。

理想の母親に近づくために「しなやかで強かな生き方」を選んだ

ーそんな中、起業されたのですね?

高田:はい。バリバリ働く一方で、やはり「母親として自分の理想に少しでも近づきたい」とも強く思っていました。

いつも笑顔で子供が見たり感じたりしているものを共感したい、子供たちの近くで安心して過ごしたい。

突然の天変地異や事故が起きたとき、保育園から遠く離れた職場で携帯を握りしめて子供の安否を確認するのではく、自分が身体をはって子供を守れるような距離感で仕事をしたい、そう切実に思うようになってきたのです。

そして、私と同じようなお母さんたちのために、それを叶えられる場を作りたいと思いました。

ーだからマフィスは、都心でなく郊外にあるのですね?

高田:そうなんです。子供の側で仕事をするのに、満員電車の中わざわざ子供を都心に連れて行くのではなく、家の近くで働く世界観を実現できると良いなと思いました。

駅から遠いのも理由があります。

一つは、母親の移動手段が主に自転車であること。母親って荷物が多いし重いんです。

子供に必要なものだけで鞄は何キロにもなりますし、その上子供も抱えます。自転車なら楽だし、移動範囲も広がるため、それを考慮した立地になっています。

もう一つは、静かな環境です。駅チカだとか、電車降りてすぐのロケーションだと確かに集客力はグンと上がります。

しかし雑居ビルの看板が立ち並んでいたり、雑踏があったり騒音がすさまじかったりというのは、やはり子育てに望ましい環境ではないわけです。

多少アクセスが不便でも、閑静な住宅街のなかで、散歩していても小鳥のさえずりが聴こえたり、自然のなか楽しそうにウォーキングしている年配者と出会えて言葉を交わせたり、子供たちの目線のなかにそういうものがたくさん入ってくる環境が、子どもの豊かな感性を育むことができるのです。

ーこのような環境・物件はなかなかないのではないでしょうか。

高田:はい。この場所に出会えたことは、私が起業に踏み切れたキッカケの一つです。

まず決定的だったのは、この静かな環境を「子育てにベストな環境」だと感じたことです。

次に現実的な話をすると、極力コストを抑えた投資ができそうな物件だったという理由があります。

私個人の自己資本のみで作った小さな会社だったため、あまり贅沢な投資は出来ませんでした。

周辺の商圏分析をしたら子どもの増えているエリアであり世田谷区の待機児童の多さもあって、スタートアップの場所としてはここしかないという冷静な判断をしました。

ー起業のキッカケは、他にもあるのですか?

高田:決定的だったのは、息子が小学1年生になり「小1の壁」にぶつかったことですね。

それは放課後に子どもを預ける場所という物理的な壁ではなく、もっと精神的なものでした。

彼の世界はそれまでのこじんまりとした保育園から、いきなりクラス30数人のマス授業へ環境が変化しましたが、その環境に彼がまだ付いていけていないと感じたのです。

ー環境が変わって、何か問題が起きたのですか?

高田:当時、18時まで都心で仕事をしてお迎えに行って帰宅すると20時前。大急ぎで夕飯の支度から就寝までことを運んでも22時。

楽しくわが子とスキンシップやコミュニケーションを図るゆとりなどほとんどなくて、少しでも油断すると23時近くまで子供が起きています。

するとてきめんに翌日に影響していたようで、1年生の4月から「授業中に寝ています」と先生に言われるようになりました。

母親としてわが子が健康的に学校生活を送るための家庭生活を用意できていないことを痛感しました。

あと数年で、母親の私よりも友達との時間が多くなっていく子ども達に、母親らしいことをちゃんとやりたい。子ども達とすごすゴールデンタイムをしっかりと取りたい。

24時間を自分の思い描いた時間割で運営したい。その思いが独立への最後のトリガーになりました。

とにかく「子育てにベストな環境」を創る

ー起業してからも運営は大変だったのでしょうか。

高田:凄く大変でした。経営とは、ヒト・モノ・カネのマネジメントのバランスが重要ですが、そのすべてにおいて苦労しました。

スタッフと思いや理念を一つにしないと現場が混乱しますし、それが顧客満足度の低下につながります。

稼働が安定するまでは人件費や賃料などの固定費は持ち出しで、自分の給与なんて出せない時期が長く続きました。

会社勤めなら、毎月決まった給与が口座に振り込まれ、実績さえ出せば賞与もたくさんもらえて、子供が熱を出せば有休が取れて、育児休業もきちんと手当が出ます。

サラリーマンはとても守られています。

今マフィスで仕事をしている人たちは大半がフリーランスで、腕一本でお金を稼いでいる方々です。

フリーランスという働き方は子育てと仕事を両立するにはとても良いスタイルですが、サラリーマン以上に安定的に稼ぎ続けることのできる方はごく一握りです。

今後は会社に勤め続けながらも自分の子供たちに寄り添って仕事を無理なく継続していける社会づくりに貢献したいと思っています。

残念なことに、まだ企業の利用は少数です。

リモートワークは相手の顔色が見えない状況で信頼関係を維持向上していかなければならないので、難しさもたくさんあります。

ただ、中にはマフィスでの勤務を前提とした採用活動を行う試みもあります。

満員電車に揺られることなく子連れ出勤ができるとか、自宅から限りなく近いところに、職場環境があるという条件に、これまでなかなかいい人材が取れずに苦労していた職種に応募が殺到しました。

自社の採用力があまり強くないと感じる企業さんにとってママの都合に少しだけ歩み寄ることで、ハイスペックな人材を採用することが可能になる好事例でした。

ー会員様にはどんな方がいらっしゃるのですか?

高田:面白い方が多いですよ。WEBデザイナーやスタイリスト、翻訳家など専門職の方、弁護士や会計士、税理士など士業の方。

そのほかにも育児休暇中のリモートワークや資格取得の勉強など、様々な目的でご利用なさっています。

皆様当初はここを、子どもを預けることができる仕事場という「機能面」を目的にいらっしゃるのですが、少しずつご自身の「居場所」に代わっていくんです。

子育てをしていると、様々なことを妥協なく最後までやり遂げる、ということが難しくなります。

そこにストレスを感じ、心身ともに疲れ切っていらっしゃった方も、ここで仕事を完遂出来たり、自分自身の時間を持つことが出来たりすると、どんどん素敵な笑顔が出てくるようになります。

「マフィスを使い始めて生活が良くなりました。」「ストレスなく子育てができるように」という声をいただくたびに、もっと頑張らないと、という気持ちになります。

また、フリーランスのママやリモートワークで仕事をしているママたちは自己評価として、「バリキャリほど仕事に没頭しているわけではない、専業主婦ほど完璧に子育てできているわけではない」というある種ご自身を中途半端な位置づけとしてとらえがちです。

そして同じ価値観の仲間にはなかなか巡り合えないと感じていらっしゃるのですが、マフィスでは近しいスタンスのママがとてもたくさんいます。

その結果、「フリーランスなのに同僚ができた」と喜んでくださっています。子どもを通してつながったいわゆる「ママ友」とも違い、大人の女性として、職業人として新しい価値を提供してくれる友だちに出会えた、そんな雰囲気がのびやかに広がっています。

無理なく成果を出し続けるためには、自分が女性であることを自覚すること

ー最後に、ご自身の経験も含め、女性起業家の方々へのメッセージを。

高田:「しなやかに強かに」という言葉を座右の銘にしています。自分が女性であることを受け入れて、肩の力を抜くことは、長く走り続けるためにも大切なことです。

頑張る女性は、どうしても男性社会の中で男性同様のスタイルで成果を出さないと認められないと思いがちですが、少し見方を変えてもいいと思っています。

性別だけ女性でキャラクターは男性なのも痛々しいですしね。

私が、マフィスの会員様からいただきトライしている言葉を贈りたいと思います。

「オトコ並みに頑張りたい人は、自分がまずオンナであることを受け入れることです。

女性は男性とは体の機能も形も違います。排卵があり、月経があり、その間に女性ホルモンが増えたり減ったりします。

そのため体の調子のいいときと悪いときの差が如実にあって、調子の悪いときに頑張っても成果は出づらく、できない自分に益々落ち込みます。

だからまずは自分の体をよく知り、いまがギアをかけるときなのか、休むべきなのかという体のリズムを理解して、その調子に合わせて仕事の繁閑をのせてください」

体のリズムを自覚し、調子の悪いタイミングに忙しくなりそうだったら事前にスケジュール調整をしっかりやる、片づけられるものは片づけておく。

男の人と同じ成果を出したければ、まず自分が女性であることを受け入れ、違うアプローチを考える。

簡単なようで難しいアプローチですが、もっと意識するべきだなと実感しています。

女性起業家となると、多くのことを一人でしなければなりません。本当に忙しくなります。

自分がやるべきこと、人にやってもらっていいことの仕分けも必要です。付き合う相手を見極めることも必要です。

女性としての心身とバランスよく向き合いながら、自分とその環境を大事に育むというのが持続的な強さの秘訣になるはずです。

ーありがとうございます。女性の身体や意識の問題を深く掘り下げつつ、社会のなかで起業家として生きるスタンスが大変参考になりました。

(取材協力:オクシイ株式会社 代表取締役 高田麻衣子)
(編集:創業手帳編集部)

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