「社長がYouTubeをやるのは無駄!」登録者数140万人超えの村井氏が伝えたいこと【後編】

創業手帳
※このインタビュー内容は2021年07月に行われた取材時点のものです。

村井智建さんに創業のきっかけや事業成功の秘訣などを創業手帳代表の大久保がインタビュー

村井智建
自社の宣伝として、YouTubeをはじめようと考えている社長もいるのではないでしょうか。そんな方は、じっくりと考え直す良い機会になるかもしれません。

「社長がYouTubeをやるのは無駄!」
マックスむらいとして、YouTubeのチャンネル登録者数が140万人を超えている村井智建さんは言います。その理由とは?

18歳からビジネスの世界に飛び込み、25歳で会社を創業した村井智建さんに、社長がYouTubeをやらないほうがいい理由や、今後のマーケティング方法について、創業手帳株式会社創業者の大久保が聞きました。

村井智建(むらい ともたけ)
AppBank株式会社 代表取締役社長CEO
2000年、株式会社ガイアックス入社。2006年、株式会社GT-Agencyを設立。2012年、AppBank株式会社を設立し、代表取締役CEO就任。2013年からは「マックスむらい」としてニコニコ動画やYouTubeに出演し。YouTubeチャンネルでは、日本最大級の登録者数を獲得。2020年、5年振りにAppBank株式会社の代表に復帰。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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バーで毎晩一人飲んでいた3年間


大久保:いろいろなことがあり、大変な時期もあったと思いますが、どう乗り越えましたか?

村井:この質問に関しては後ろ向きなことしか言えません。

2015年に横領事件があったりして、落ち込んでいた時期が3年くらい続きました。私に触れると、誰でも炎上してしまうような時期です。たとえばTwitterで「マックスむらいさん、頑張ってください」ってメンションが飛んできたら、それに対して私のアンチがひどいコメントを何十件も書き込んで、メンションしてきた人のフォローを外させるんです。この時期は他人に迷惑をかけてしまうし、怖かったですね。

AppBankとしてもマックスむらいとしても、常に他人を巻き込みながらみんなでステージを作って、みんなでステージ上で踊るような仕事の仕方をしてきましたが、他人を巻き込めなくなりました。

誰かと飲みに行って愚痴をこぼしたくもなりますが、迷惑になるのでそれすらできない状況でした。

毎晩一人でバーに行って、2時間くらい飲んでから家に帰る。そんな日々が3年くらい続きましたね。飲まないとメンタルがもたなかったです。この時期は最悪でした。

大久保:なるほど。村井さんの場合は特殊かもしれませんが、社長業をしていると、他人に相談できないことはありますよね。「村井智建」と「マックスむらい」では、性格が変わったりスイッチが切り変わるのでしょうか? 

村井:性格はまったく変わらないです。

でもマックスむらいになってから、昔の社長友だちや飲み仲間には「村井本来の面白さがなくなった。何でそんなことやってるの?」と言われました。

「マックスむらいとは飲みたくないけど、村井智建とだったら飲みたい」という人も多いですね。だってマックスむらいは、濃いしうるさいですから。

でも、マックスむらいの場合は、カメラを向けられて自分で背負っているから、自分が前に出ないといけないんですよ。

いまでもYouTubeで「マックスむらいは人の話聞かないな」ってコメントがよくあるんですけど、普段の私は8割”聞いている側”なんです。

人の話をつまみにお酒を飲んでます。質問されたら答えるくらいです。

マックスむらいチャンネルでは、私が9割話していて1割ほかの人が話しているイメージなので、昔から私を知る友だちには「良くやってるね」って言われます。

性格というか、役割が違うんです。「村井智建」と「マックスむらい」常に自分の役割を全力でこなしています。

社長がYouTubeをやるのは無駄。その理由とは


大久保:村井さんはYouTube歴が長く、チャンネル登録者数も140万人を超えています。会社の宣伝も兼ねて、起業家の方でYouTubeをはじめようと考えている人もいると思いますが、これについてはどう思いますか?

村井:自己満足で個人の知名度を上げるために、YouTubeをやることは正しいと思います。

ですが、会社のプロダクトを紹介するためにYouTubeをやるのはオススメしません

YouTubeはエンタメの場所なので、プロダクトの宣伝をしたところでうまくいかないですから

事業を伸ばすためにYouTubeをやっても意味がないです。根本的に、社長がYouTubeをやること自体、やめたほうがいいと思います。無駄です! 

社長業に集中したほうが、間違いなく成果は出ます。

儲かりすぎてめっちゃ暇で、やることがない社長が会社を巻き込まないでやる分にはいいと思います。

でもコストを考えると、YouTubeよりは地方局とかに一社スポンサーで番組を作ったほうがいいんじゃないですかね。

大久保:初期のYouTubeと変わって、たくさんの芸能人も参入してきているので難しいでしょうね。アプリのプロとして、村井さんが感じる伸びるアプリの共通点ってありますか?

村井:共通点はないですね。この数年は、どのアプリが当たるのかわからないです。

傾向としてあるのは「俺、すげえプログラマーだ」と言って当たったアプリはほぼないですね。

堅実に企業で取り組むなら、リアルな世界で動く人を作ったり、何かを補完し合うアプリ自体の営業マンがいることが大事です。ユーザーの生活をより便利にしたり、変えられないと難しいです。

「アプリをインストールしてもらう」というのは営業ですから。自然とインストールされる仕組みを設計すれば、生き残る確率は上がると思います。

何のアプリを作るのか、そのアプリがどういう業種にはまるのか。

市場をイメージしながら企画書を作って、知見のある人に相談したほうが良いと思います。

ほかと比べて、圧倒的に良いアプリは滅多にありません。アプリに差がないので、営業力や巻き込み力が大事になります。

大久保:巻き込み力でいうと、人とのつながりが重要になるのでしょうか?

村井:そんなことはありません。ゼロから関係を構築していけばいいと思います。

私は何か新しい事業をはじめるときに、会社のホームページを見て直接電話しますよ。いまだに電話しています。そうしないと新しいことははじめられないですから。

自分が得だなと思うのは、相手がマックスむらいを知ってくれていることがあるんです。そのおかげで話が早く進むこともありますね。

「インフルエンサーマーケティング」から「コンテンツマーケティング」へ


大久保:最近「インフルエンサーマーケティング」から「コンテンツマーケティング」を意識している、とお話されていますが、詳しく教えてください。

村井:まさにYouTuberとして過去5、6年はインフルエンサーマーケティングの真ん中にいたと思います。

ただ、これからは企業としてインフルエンサーマーケティングからコンテンツマーケティングにシフトしていったほうがいいと考えています。

「コンテンツマーケティング」という言葉は、とても曖昧で広範囲におよびます。そこで、私の中で定義しました。

まず、前提として知ってほしい話をします。

2005年にGoogleが日本に上陸したときに「ロングテール」という言葉が流行りました。

Googleはインターネットにあるさまざまなメディアを長い尻尾として捉えて、縦の棒ではなく、横の面で勝負しようとしました。検索エンジンと広告を武器に、インターネット全体を自分たちの市場にしたわけです。


▲出典:MM Marketing Mind

インフルエンサーは縦の棒で勝負しています。しかもYouTubeに限らず、TwitterやTikTokなどもあり、日本はいま一億総インフルエンサーの時代です。

「マックスむらいで事業する」というのは縦の棒で事業することになります。でも、それでは厳しい。ライバルが多すぎて、レッドオーシャンの状態ですから。企業として挑むのであれば、横の面で事業するべきだと思います。

なので、みなさんのネタになるようなコンテンツを準備して、企業として下支えしていこうというわけです。

よく「ペヤング」を例に挙げるのですが、ペヤングを製造している「まるか食品株式会社」は焼きそばの会社ではなくて、YouTubeに特化したコンテンツマーケティングの会社です。YouTubeでよく見かける「激辛・大食い・罰ゲーム」この3つの軸に対して、まるか食品は企画して商品を投入しているわけです。

InstagramやTikTokなど、各SNSに特化した商品設計をして市場に投じることを、マネタイズの出口まで計算してできるかどうかが大事です。

その定義に沿って事業をやろうと進めています。どういう市場に対してどういうマーケティングをしながら、コンテンツを作っていくのかを考えてやっているのが、フルーツ大福などの「友竹庵」事業です。

「AppBankは大福屋になったのか」と言われることもありますが、そういうわけではありません。

フルーツ大福はInstagramとTikTokの市場に刺さりまくっていたので、テストマーケ的に着手しました。実際にやってみたら上手くいったので、本腰入れて軸になったらいいなと進めています。軸はたくさんあって損することはありませんから。

ここ3年くらいで、D2C(Direct to Consumer)がとても流行りました。世界的に見てもD2Cの話ばかりです。

インフルエンサーが化粧品やアパレルを直接販売する機会が増えました。そこで大きく伸びたのがSUZURIやBASEといった、誰もがアイテムを作って販売できるようにしたサービスです。SUZURIもBASEも、本当賢いですよね。在庫持たなくてもアイテムが作れるなんて、若い人は絶対喜びます。

インフルエンサー自身は、こうしたサービスで商品を販売したところで、対して儲からないしスケールしません。でもSUZURIやBASEといったサービス提供者は大きく儲かる。まさに「横の面」で事業をしています。

インフルエンサーマーケティングからコンテンツマーケティング。私も「横の面」を取りに行きたいと思っています。

創業手帳では、多くの著名人のインタビューを掲載しています。起業に至った経緯や失敗談など、多数掲載。無料でお届けしていますので、あわせてご活用ください。
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