元プロサッカー選手中西哲生氏に学ぶ「指導するうえで大切なこと」【前編】

創業手帳

学びたい欲求が、自発的に内側から湧いてくるような教え方

「プロサッカー選手のときから、辞めた後のことを考えていた」

そう語る中西哲生さんは、プロサッカー選手を引退後、スポーツジャーナリストやパーソナルコーチとして活躍されています。長友佑都選手や久保建英選手といった一流アスリートの指導もおこなう中西さんに、指導において大切なことを創業手帳株式会社創業者の大久保が聞きました。

中西さんのお話は、起業家が社内の人材育成をしていくうえでも、活用できるのではないでしょうか。

中西哲生(なかにし てつお)
1969年9月8日生まれ。愛知県名古屋市出身。元プロサッカー選手として活躍。現役引退後はスポーツジャーナリストとしてテレビやラジオでも活躍。現在はサッカー選手に限らず、多くのスポーツ選手などのパーソナルコーチとしても活動中。自身の経験をもとにした著書も多数出版。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計150万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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サッカー選手を引退後の切り替え

大久保:中西さんはサッカー選手を引退してから、約1年半後の2002年に『ベンゲル・ノート』を出版されています。現役引退後、どうして出版をすることができたのでしょうか?

中西現役時代にベンゲルが話していたこと、練習内容をすべて英語でメモしていました。ベンゲルはフランス人なんですが、通訳の方が英語だったので、練習中はすべて英語でした。僕はフランス語はわからないんですが、英語は話せます。つまりベンゲルとは直接、コミュニケーションが取れていたんです。

そうした背景もあり、ベンゲルが監督を務めていたアーセナルの練習場の見学に訪れることもできましたし、現役選手と監督の関係ではなく、引退した選手としての関係で、現役時代には話せないようなことも色々と話してくれました。そうして選手としては聞けない不完全な部分を補完できて、本を出版することができたんです。

大久保:アスリートの方は現役を引退してから次のキャリアに進むときに、頭を切り替えられる人と、そうではない人がいると思います。中西さんはどのように切り替えたのでしょうか。

中西サッカー選手をしているときから、引退した後のことを考えていました。つまり最初から出口戦略を考えていたんです。

現役のときから、引退後はメディアでサッカーを伝える仕事や、子どもたちにサッカーを教えたいと考えていました。

ただ自分自身でサッカー選手を極められないと理解していたので、現役時代は劣等感しかありませんでした。もちろん喜びもあったし、達成感もありましたが、高い山を登ったという感覚はありません。サッカー選手という山だけを登ったら終わりではなくて、その後の人生も含めて山があるので、引退するからといって山を下っている場合ではない、という感覚ですね。

これまでにサッカー選手、スポーツジャーナリスト、パーソナルコーチといった仕事をしてきていますが、そこにつなぎ目はなくシームレスなんです。というのもそうなるように、意識してデュアルで仕事を進めてきました

例えばサッカー選手のときには英語の勉強をしたり、パソコンでブログを書いたりしていました。当時、サッカー選手でパソコンを使っている人はほとんどいませんでしたし、Jリーグ全体を見渡しても、個人ブログをやっている選手は5人もいなかったと思います。

今やっている仕事は、もちろん全力でやります。それと並行して、それ以外の時間で自分の能力を高めることをしっかりやる。こうしたことは、自分の中で当たり前のようにやっていました。これは父親のおかげです。

父親にはサッカー選手になる前から「プロ選手が終わったらどうするんだ?」と言われていました。常に先々を見ていかなければいけない、と父親に言われていたんです。

スポーツジャーナリストの仕事をはじめてから21年目です。もちろん喜びがなかったわけではないんですが、これも達成感というよりも無力感の方が大きいです。スポーツジャーナリストをしながらパーソナルコーチをしていると、さまざまな気づきを仕事にフィードバックできます。デュアルに仕事をすると、そうした効果があるんです。

常に自分がいつも全力でやっていることと並行しながら、自分が興味のあることだったり、このあとの人生で自分がやっていきたいことをやってみる。趣味みたいな感覚で、興味があることを深掘りしていくことによって、自分自身を進化させるキーがあるのでは、とずっと感じています。

自分はサッカー選手としてそれほどすごくなかったし、スポーツジャーナリストとしてもすごくないので、更にやるべきことがあるだろうという感覚です。

大久保:並行してやることは、好奇心があるからやるんですか?

中西:好奇心もあります。ただ常にマルチタスクで考えることによって、新しい化学反応が生まれることをわかっているので、ダブル・トリプルで思考を走らせています。

サッカー選手もそうです。マルチタスクでないと良いプレーはできません。ボールを見ながら、敵と味方を見ながらプレーするわけですから。

人生もそうだと思います。パーソナルコーチとして、今はサッカー選手ではない方も指導させて頂いています。なかには「そんなことして意味あるの?」と言うひともいますが、意味はあります。いろいろな競技の選手を教えている中で、サッカーの新しい考え方に繋がることをたくさん発見できるからです。

例えば、どんなことをするにもフォームや呼吸、姿勢などは重要です。

そういうことを競技によって違う、とは思わずに考えます。もしかしたら、同じ論理が存在するかもしれない。その前提にあるのは「世の中に生きている生き物には、すべて共通点がある」というところからきています。

ここまで生き残ってきているものは、必ず生き残れる要素を持っているので、共通点はあるという前提に立っています。万物の摂理に興味があるので、そこには必ず同じ要素が存在するに違いないという仮説です。

大久保一つの尺度だけで見ているとわからないことも、二つの尺度で考えると見えてくるということですね。

中西:そうです。違うアングルから見ると、見えてくるモノが全く違ってきます。

物事を二つの尺度で見る

大久保:自分自身も体育会系なので感じるのですが、体育会系の人間は一つの尺度だけで見る人が多いイメージです。中西さんの場合は二つの尺度で見ているようですが、どうしてそうできるのでしょうか?

中西:自己肯定感が強いし、承認欲求が強いからじゃないですかね(笑)。新型コロナが流行してから、そのことがよく理解できました。人からどう見られているんだろうか、とよく考えていたんです。それに対して「自分はこうあるべきだ」という自分を、ずっと自分で作り上げていました。

新型コロナの流行によって人との関わりが減り、一人で過ごすことが多くなりました。SNSやウェブ上で他人と話すことはありましたが……。実際に会って話すことは何とも得られない楽しさがあります。傷ついたりもしますが、それがいかに重要なことだったかにも気づかされました。

いつの間にか、ひとと会っているときの自分は「作り上げた自分」になっていたので、ずっともったいないことをしていたなぁと。要するに、ひとがイメージしている「中西哲生」を演じていただけなんです。

大久保:他人から期待されている自分を演じていたわけですね。

中西:そうなんです。他人から好かれようとしていました。でもそれって、本当の自分じゃないわけです。完全体な自分を見せようとしていました。けれど、人間だから不完全なわけです。僕は傷つきたくないから「傷つけられないような自分」を演じていたことに気がつきました。

いままで仕事でやってきたことって、批判されるのが嫌で、誹謗中傷されるのが嫌で、人からよく見られたい状態でした。でも自分は不完全な人間なので、結局は違和感しかない。そこに今回気づけたので、今はブレイクスルーした感覚です。人間なんだから不完全でいいんです。そのことに気がつけたので、今後は新しいステージで自分を表現できると思っています。

大久保:肩の荷が下りた、ということですかね。

中西:はい。とはいえ、自分がやりたいことだけやっていればいいわけではありません。他人が求めてくれることもやるべきだと思います。

今までは自分で自分をなだめてきました。どうやってなだめてきたかというと、美味しいお店にご飯を食べに行ったりして、違う欲求で満たすわけです。ところが、新型コロナによって外食できなくなり、こういった事もできなくなりました。これはボディブローのように地味に効いています。これも自分を見つめなおすきっかけの一因です。

新型コロナの影響で気がついた「インプットの大事さ」

中西:これまでは、忙しくて時間がない人生でした。新型コロナの影響で時間ができて、インプットする時間ができました。

僕は様々なインプットがないと、クオリティの高いアウトプットはないと思っています。仕事が忙しいときでもインプットはしていましたが、どうしてもストックにできていなかった。

ストックして残す。それがこの1年間でできたのは大きかったです。

大久保:過去の経験を分析してまとめられた、ということですか。

中西:そうです。中村俊輔選手をお手伝いさせて頂いたことからはじまり、パーソナルコーチとして長友佑都選手、永里優季選手、久保建英選手、中井卓大選手と関わらせてもらえた。自分が見聞きして気づいてきたことを、すべてを彼らに伝えてきました。ベンゲルやストイコビッチから教わったことも山程あります。この1年間でそうしたことをすべて言語化して論理化して、さらに映像化もして整理したんです。自分でも、やっとすっきりしました。

大久保:なるほど。

中西:その中の気づきで一番大きかったのが、先ほどお話した「自分は不完全なんだから、別にそれでいいだろう」ということです。自然に自分をよく見せようとか、こう見られたいという自分が、本当は自分で嫌だったことに気づけました。

また新型コロナが流行するまでの一年間は、僕のメソッドを指導する側のコーチに色々と教えていました。ここでも素晴らしい学びがあったんです。自分が選手たちにどう教えていたかを自己分析することで、より自分のメソッドを理解できるようになりました。

その中での気づきは「自分は教えられて教わったわけじゃない」ということ。

教えられたわけではなくて、好きで”自分から”教わりに行っていたんです。引退後、ベンゲルに教わりに行ったときもロンドンまで行きました。

あのとき、どういう気持ちで学んでいたかというと、教わってる感覚がまったくなかった。つまり僕にとって最大の学びというのは、自分が教わっている感覚がない状態で学んでいる時だったんです。

なので、自分が教えるときにも同じようになればと思っています。

論理的にこれは知らなかったから、自分から学びたい。そういう学びたい欲求が、自発的に内側から湧いてくるような教え方です。

日本の教育ってどうしても教える側の立場が強いと考えがちですけど、もっと教わる側もヒントをもらえたり、意見を言いやすくなるような教え方を常に探すようにしています。

ただ、考えて言語化していく。そうすると、ある一定のパターンが見えてくるんです。うまくいっている状態が続くと人間は硬直化して、その場所から離れたくなくなります。それを変えないといけません。

大久保:まさに起業家も同じですね。

(後編に続きます)

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(取材協力: 中西哲生)
(編集: 創業手帳編集部)

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