ベアーズ 高橋 ゆき|女性として出産、子育てを経験したからこその家事代行サービス

創業手帳woman
※このインタビュー内容は2015年12月に行われた取材時点のものです。

家事代行サービス、ベアーズ 高橋ゆきさんインタビュー(その1)

(2016/07/14更新)

日本最大の家事代行サービス、ベアーズが創業したのは今から16年前のこと。他人にお金を払って家事を頼むことにまだ抵抗があった時代、創業者の高橋健志さんと妻のゆきさんはなぜベアーズを立ち上げたのでしょうか。創業当時、ゆきさんは0歳と2歳のお子さんの子育て真っ最中。事業を拡大する上でどのように子育てと仕事を両立させてきたのでしょうか。起業に至るまでの経緯や家事代行サービスにかける想い、そしてこれからのベアーズについて話を伺いました。

高橋 ゆき(たかはし・ゆき)
短大卒業後、IT企業の営業、出版社のマーケティングを経て、1995年に香港の現地商社に入社。妊娠を機に外国人メイドと出会い、帰国後の1999年、その経験を元に夫が家事代行サービスのベアーズを起業する。妻として専務取締役として創業期を支え、主に同社のマーケティング、広報戦略、人材育成を担当。2015年には世界初の家事大学を設立し、学長として新たな挑戦をしている。1男1女の母。

普通のOLから、広東語だらけの見知らぬ土地へ

ー高橋さんご夫妻がベアーズを起業した経緯から聞かせてください。

高橋:今から20年前の1995年、それまで東京のど真ん中でOLをやっていた私が、ひょんなことから香港という場所にご縁をいただき、夫婦で香港の現地企業に採用されることになりました。

ところが私たちは駐在員ではないので、日本人村のようなところに住むことは許されず、現地の人が住むようなベットタウンに住み、日本のスーパーやデパートへの入館も禁止され、映画も本も音楽も、すべて日本語を絶ちなさいと言われたんです。

「それが君の幸せな香港での働きにつながるから」という、当時私を採用してくださった香港人の社長さんの教えのもと、私たちは夫婦で海を渡りました。

でも最初の数カ月ですでに半分ノイローゼ気味ですよ。

香港は広東語が公用語なので、広東語でいかに自分の思いを表現して、それを仕事に反映させるかということが必要になってくる。

でも最初はチームに溶け込むことすら難しかった。そんな中、何と嬉しいハプニングが起こりまして、妊娠が発覚したんです。

ーそのタイミングで、ですか……!

高橋:私が日本で働いていた頃、当時はまだ女性の先輩たちが妊娠を告げると、「彼女はもう仕事に復帰してくれないかもしれないから、後任を考えよう」と言われる時代でした。

今のように、「産休、育休、復旧プログラム、さらには育休中も会社とのコンタクトを取って孤独感を感じさせない社会」なんていう概念もなければそんな制度もない。

そういうことすらも求めてはいけないような時代感だったんですね。

だから私も嬉しいことなので早く社長には報告したかったけれど、言ったら残念な思いをさせてしまうかもしれない。

せっかく日本から呼んだのに「帰ってくれ」という話にならないだろうかとか、「仕事の内容を変えよう」となってしまうのではないかとか、いろいろ考えてためらったわけです。

今考えれば、心が幼かったなと思いますけどね。

人が人を産むということは、自分の子ではなく社会の子を産むということ。

子供ができる職場環境だったということは、その会社がうまくいっている証拠なんだから、もっと早く経営者である社長に伝えるべきだったと、今経営者になってそう思います。

少し話が前後しますが、ベアーズではここ何年も結婚・妊娠・出産ラッシュが続いているんです。

これは私にとって、会社が本当にうまくいっている姿だと思うんですね。

ーなるほど。

高橋:でも当時の私はまだ26歳で心が幼く、自分が戦力になれなかったら上の人間が悲しむかもしれないと思ってね。

今はそもそも、そんなことを醸し出している企業はこれからの社会では通用しないと思っています。

私たちベアーズは「大家族主義」を掲げていて、社員が妊娠や出産をしたり、たとえ離婚して再出発しても、社員を大家族と言うならそんなことにいちいち会社が驚いて右往左往していてはいけない。

たとえ大企業になっても、人間臭さをどこまでも大事にしていかなければいけないと思っています。

ですからベアーズでは、社員のことを「チームベアーズ」と呼びます。チームベアーズ1人1人の輝きが、会社の輝きなんです。

よく社風や体質と言いますが、それらは触れたり手に取ることはできないもので、ただ感じるもの。

つまり、社風や体質はその会社を創っている創り手人1人1人の思想観なんです。思想観を育むために何が必要かというと、これはやっぱり体験しかないんですね。

苦労と試練を自分でたくさん経験して、そうすればようやく一人称で語れるようになる。

ですから私は、チームベアーズ1人1人が人として生を受けたのなら、おせっかいだけどどんな辛いことも悲しいことも全部共に乗り越えられる、そんな基盤を企業が作って暑苦しくやってきたいなと思っています。

ーなぜそう思うようになったのでしょうか。

高橋:起業前の香港時代の話に戻りますが、妊娠発覚後にどんどんお腹が大きくなる中で、ついにその事実を社長に打ち明ける時が来ました。

そうしたら社長は、なんとものすごく喜んでくれて。これは社交辞令ではなく、私の手をバッと握って体を引き寄せて、こう言ったんです。

「これで君はもっと素敵な仕事ができる。安心して子供を産んで、みんなで育てて、君は2倍働いて4倍以上の成果を出す。

そして会社を通じて社会に貢献できるビジネスウーマンになりなさい」と。

こんなことを言っては失礼ですが、香港は日本に比べて街は騒然としているし、水なんか絶対に飲めない。

だけど企業が人を受け入れる姿勢がきちんとあって、その人の人生に寄り添っていこうという腹のくくり方があるということをその時に体験しました。

フィリピン人メイドとの運命的な出会い

ー20年前の香港では、すでに女性が安心して働ける環境が整っていたんですね。

高橋:それまで私は気にしたことがなかったけれど、気づけばオフィスの至るところで妊婦さんがイキイキと働いていて、出産後はすぐに復帰してくる。

まるでホワイトボードに「出産してきます」と書いてあるくらいの勢いであっという間にね(笑)。

だけど逆に、日本のように復帰後は何年も時短が取れるなんていう制度はない。

それでもみんなキャリアを諦めないで、それどころか勉強心を持っていました。

私が勤めていた会社だけでなく、当時から香港では部長職に就いている母親なんてザラにいたんですよ。

ドーンと置かれた偉そうな椅子には可愛らしい小柄の女性が座っていて、よくよく聞けば「実は子供が3人いてね」というようにね。それはすごくカルチャーショックだったの。

でもどうしてそんな社会が現実にあるんだろうと思ったら、彼女たちの暮らしの縁の下の力持ちがフィリピンからのメイドさんだった。

出稼ぎとは言え、ホスピタリティーマインドをたくさん持ったメイドさんが彼女たちの暮らしの縁の下の力持ちなんだと聞いて納得しました。

「だからゆきもそういう人を採用すれば、絶対にあなたが人生で諦めなきゃいけないことなんかない。

それどころかもっとカッコいい背中を子供に見せられるわよ」と言われて。もうハッキリ言ってビックリですよ。カルチャーショックの連発。

ー確かに日本でメイドと言うと、限られたごく一部の人しか利用しないイメージがありますよね。

高橋:そう。

だから突然お金で誰かを雇って、その人に掃除や洗濯、料理や子供の世話まで任せたら、日本の友達に「海を渡った途端、香港マダム気取りになっちゃって嫌ね」なんて言われたらどうしようと、自分の両親にさえそのことを言えなかった。

だけど夫と緊急家族会議を開いた結果、「自分たちの周りにいる素敵な女性たちは、みんなもれなくそういう人にサポートしてもらっている。

だったらこの地の文化や習慣に従ってみよう」ということで、私たちも出会いを求めて活動し始めました。

そうしたら、あっという間にスーザンという1人のフィリピン人のメイドに出会えることができたんです。

彼女は私より5歳年上で、5歳になろうとする息子を母国のご両親とご主人に預け、出稼ぎで香港に来ていたんですね。

彼女にどうしてこの仕事をしに来たのかと尋ねたら、「私はフィリピンの一流大学を卒業して現地ではたくさんの企業から内定をいただきました。

だから就職先にも困っていたわけではありません」と。でもなんと、フィリピンの一流大学を出て新卒で就職した初任給よりも、香港に来てメイドをやる方が3倍も給料が違うんですって。

そして彼女は素敵なことを言ったの。「いろいろな家族と接することで、教科書には書いていないことをたくさん学ばせていただけるんです」と。

ーそれがベアーズを創った 原点になるわけですね。

高橋:スーザンとの出会いがあったからこそ、ベアーズでは創業期から利用者を増やしたり売り上げを上げるだけでなく、それと同じぐらい大事な柱として「日本の新しい雇用創造」と「新しい職業地位の確立」を掲げてきました。

つまり「日本に新しい暮らし方を提唱しましょう」と。

何でも自分1人で抱え込んでしまって、その挙句に気ぜわしかったり体がしんどくなって、それで本当に愛する人のためにいられるのでしょうか。

愛する人はあなたの笑顔が一番大切なのに、その笑顔をどこかに置いてエンドレスで続く家事に追われている。

しかも外で仕事もこなして、子供もちゃんと育てている。それでさらに「愛され続けるためにはかわいい女でい続けろ」なんて言われたりしても、そんなにうまくいきませんよね?

だったら私たちが新しい暮らし方を提案して、みんなが堂々と誰かにSOSを出してもいい社会創りをしようというのが「新しい暮らし方の提唱」です。

そしてもう1つが「日本の新しい雇用創造」。この2つがベアーズの創業目的の柱なんですね。

「この日本で産業としての家事代行を創っていこう」ということで産声を上げたのが、私たちベアーズなんです。

ー家事代行を産業という大きなものとして考えたんですね。

高橋:またスーザンの話に戻りますが、彼女はもちろん掃除も料理も洗濯も完璧にやってくれました。

でも何よりも、彼女がいてくれるということが私の心の保険だったんです。彼女は私の家事と育児のパートナーで、もし今彼女がここにいたら、今度は私の介護のパートナーになるでしょう。

そう考えた時に、彼女の存在が日本にはない。そこで「日本は終わりだ」ぐらい極端に思ったわけです。

たとえこれ以上国がいろいろな政策を掲げたとしても、もう伸びしろはない。

だけどあのスーザンが日本にたくさんいさえすれば、女性だけでなく男性も子供ももっともっと輝くと確信したんですよ。

女性が笑顔の家庭というのは、家庭円満の証拠。カップルだってそうじゃない?

女の子がニコニコ笑っていたら、仏頂面している男子でも「あの人甲斐性あるんだな」とか「すごいいい男なんだな」と周りに思われる。

逆にいくら男性がイケメンでも、隣の女性がどんどん笑顔がなくなって不幸そうだったら「やばいぞ、付き合わないほうがいい」という判断になるわけですよ。

そう考えると、女性が笑顔の会社はうまくいって、女性が恋をして結婚して出産して復帰して、また2人目を産んでいる今のベアーズというのは、会社としてうまくいってるなと感じます。

ー確かにそうですね。

高橋:ベアーズの立ち上げ前、夫は日本に帰ってきて私にこう言ったんです。「お前はあの時笑顔だった。

外国という地でまったく知らない人たちに囲まれてフルタイムで働きながら、子供を産んでも生き生きとしていて。僕にも優しい妻でいてくれて、もちろん子供にも笑顔だった。

君みたいなのが日本にいっぱいたらいいのにね」って。

そしてもう1つ、「スーザンみたいに本当に愛を持った献身的な仕事は尊い仕事なんだ」と。

さらに「この尊い仕事がもっと日本で評価を受けて広がっていけば、日本は大きく変わるんじゃないの?」と。

そこで夫と私は、これを一企業としてやるのではなく、新たな産業として確立しなければもったいないと、その時2人で創ったのが家事代行という言葉でした。

その日以来、夫の高橋健志はベアーズの社長として、ベアーズを心から愛し、育み、磨き、今またチームベアーズと共に頑張っています。

これからは、助けを求めてもいい社会に

ー夫である高橋健志社長の片腕という立場で、ゆきさんはどのようなことをしてきたのでしょうか。

高橋:私の役割は、夫がポリシーを持って命がけで創ってくれているこの素晴らしいベアーズというエンジンを、世の中に広げていくこと。

しかも自分たちのことだけ広げるのではなく、「一緒に産業を創ってくれる人はこっちを振り向いて。気づいて、私がいるよ」とアピールしています。

ついでに言えば「国もこっちを向いて」という感じですね。家事代行が日本の暮らしの新たなインフラになれば、私たちが体験してきたことが皆さんにも味わってもらえる。

私はよく「いつもエネルギッシュで幸せそう」と言われますが、このエネルギーはものすごい苦労と試練を乗り越えてきたからこそあるということを知っていただいて、みんなが喜びに変えて欲しいんですよ。

たまたま私にはメイドがいて彼女に助けられて、だから順風満帆で来たわけじゃない。

人間生きて行く上ではいろいろな苦労や試練は付き物で、だからこそ自分1人で全部抱え込むのではなく、助けを求めてもいい社会にしたいですね。

その助けを受けた人も、それが職業だと思ったら嬉しいじゃないですか。家事代行サービスを利用することは、決して「人に任せてサボっている、手を抜いている」ではありません。

これによって職業が生み出せて、今度はある人が生き生きと生きていける。

そして職業に就けるという、こういう社会の循環を創りたいなと思っています。

ーでは、ベアーズをどのような方たちに使ってもらいたいですか?

高橋:私たちベアーズは今16期目ですが、創業から9年間は「頑張る女性を応援します」というスローガンでやってきて、それによって集まってくれた仲間も増えてきた。

だけどちょうどその頃私の父ががんになって、最後にこう言ったんです。「ゆき、もう頑張るなんてナンセンスだよ。

頑張るというのは、自分の子供や親に何かあった時、本当に大変な時に歯を食いしばって火事場の馬鹿力を出すこと。

なのに毎日頑張りすぎていたら、そんなのサスティナブルじゃないだろう」と。それを聞いて「私はじゃあ何を社会にメッセージする企業を創ったらいいんだろう」と思ってね。

「頑張る女性を応援する」と言って入って来た子たちはみんな確かに意気込んでいて、そういう子たちは恋愛もしないし結婚もしない。

子供の話なんて振ろうものなら「結構です、今仕事に燃えているんで」ってね。それはもう違うなと。

そこで創業10周年に「女性の“愛する心”を応援します」というスローガンに変えました。

ー具体的にどういうことですか?

高橋:ベアーズを利用して楽をする。それはとても大事なことです。

だけどできれば楽をする目的が、誰かを「愛する心」を少しでも大きくするため、もしくは「愛する心」を磨くための手段としてであって欲しい。

愛する心を持つ余裕を失っていたら、その心を取り戻すためにベアーズを選んでいただければ嬉しいですね。

ベアーズは、女性のためだけの家事代行ではありません。

自分の彼女が、奥さんが、お母さんが、娘が笑顔だったら誰が嬉しいか。それは絶対にそこにいる男性や子供、そして地域社会、企業が嬉しいはずなんですね。

一方で、お客様の元へ出向くベアーズレディには「お客様との出会いはあなたの宝」と言っています。

お客様から「素敵な人生の出会いだ。ありがとうベアーズさん」と言われるような企業になりたいですよね。

ベアーズレディとお客様のマッチングというのは、双方の人生のマッチングです。

私たちはそれをやらせていただいている企業で、そういうメッセージが1人でも多くの方に伝わればと思っています。

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(取材協力:高橋 ゆき(たかはし・ゆき))
(編集:創業手帳編集部)

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