実業家 守屋 実|上場しても株は持ち続ける。「新規事業立ち上げのプロ」のエンジェル投資

創業手帳
※このインタビュー内容は2018年10月に行われた取材時点のものです。

投資することは大きな勉強になる

(2018/10/03更新)

2018年に上場したスタートアップの中で、印刷や物流業界のシェアリングプラットフォームのラクスル株式会社、介護業界のマッチングプラットフォームのブティックス株式会社という2社があります。この両方の事業立ち上げに関わっているのが、新規事業立ち上げのプロ、守屋 実氏です。1992年に株式会社ミスミ入社以来、新規事業立ち上げを専門に行い、その後は数々の会社の創業期に投資や社外取締役などの立場で関わってきました。

現在ではJAXAの上席プロデューサーとして宇宙産業の新規事業にも取り組んでいる守屋氏に、今回はスタートアップに関わり続けている理由について、お話を伺いました。

守屋 実(もりや みのる)
1969年生まれ。明治学院大学卒。1992年に株式会社ミスミ(現ミスミグループ本社)に入社後、新市場開発室で、新規事業の開発に従事。メディカル、フード、オフィスの3分野への参入を提案後、自らは、メディカル事業の立上げに従事。
2002年に新規事業の専門会社、株式会社エムアウトを、ミスミ創業オーナーの田口氏とともに創業。複数の事業の立上げおよび売却を実施後、2010年、守屋実事務所を設立。設立前、および設立間もないベンチャーを主な対象に、新規事業創出の専門家として活動。投資を実行し、役員に就任して、自ら事業責任を負うスタイルを基本とする。

「エンジェル投資家」というより「創業仲間」でいたい

—起業家が投資してもらうためには、まず自分がやっている事業を認知してもらう必要があると思います。そのためには、どういった行動をすることが必要なのでしょうか?

守屋:実は、投資家のネットワークって狭いんです。そのネットワークの中に飛び込んでいけば良いということに尽きると思います。ネットワークの中にいる人たちにしらみつぶしにアポを取ってアタックしていくということですね。

もしアタックした時に相手にされないのなら、自分の事業が話を聞いてもらうくらいまでのレベルに達していない、ということだと思います。その場合は、話を聞いてもらえるくらいまで磨くことが必要ですね。

テクニックではなく、熱意・礼儀・事業価値の話です。
シンプルなことなのですが、それと同時に、やり切るのは大変かもしれません。

—では、守屋さんが投資をする場合、起業家のどの点を見て考えていますか?

守屋起業家が持ってきた事業の中に、どんなに小さくてもいいから、日本一のポイントがあるかどうか。その点を見ています。

スタートアップって、お金や人材といった、あらゆるリソース(資源)が足りていないことが多いんです。なので、日本一と言えるポイントを持っていないと苦しいと思います。
現代は、モノやサービスが余っているので、二番手・三番手になった瞬間にダンピング(採算を無視した安売り)に巻き込まれてしまう可能性が高いです。利益を削った苦しい勝負になる、ということですね。

どんなに狭くても、小さくてもいいから「これは日本一だな!」というポイントがあってほしいですね。

あとは、その人がその事業に全力を懸けているのかどうか、ですね。この2点は、言ってしまえば当たり前のことかもしれません。それとは別に、僕の個人的なポイントでお話ししますね。

もともと僕は、立ち上げようと思っている事業のドメイン(自社の競争する領域・フィールド)はある程度決めているんです。
なので、たまたま誰かに「一緒にやりましょう」って言われてやるのではなくて、話しかけられた瞬間か、話しかけられる前から、「この辺りは立ち上げる」と決めているので、それと合致するかどうか、という点も判断基準になっています。

例えばビジネスモデルの場合は、シェアリングエコノミーっぽいものはやると決めています。今までもずっとやってきたので、土地勘があります。
事業領域の場合は、医療・介護・ヘルスケアの分野をずっとやってきましたので、同じく土地勘があります。

もう一つは、新規事業立ち上げをずっとやってきたので、お金周りや立ち上げ周りの話は多いですね。この3つに関しては、話しかけられる前からいいものがあったらやると決めています。持ってこられた話がいい話で、その人がいい人なら、即決していますね。

だから、「全然考えたことがなかったものが舞い込んできて、その事業をやる」ということは、ほぼ無いです。最初からやると決めていて、たまたまいい人と出会えたから着手する、というだけですね。顧問やアドバイザーとして関わることもありますが、共同創業者という立場で入っていきたい、というキャラクターです。僕は。

日本一のポイントと全力を懸けているのかどうか。事業ドメインが合っているかどうかが判断基準

—お話を聞いていると、守屋さんは投資家と起業家のハイブリッドのような印象です。

守屋実は今回の主題と離れてしまうかもしれませんが、僕は自分自身を投資家だと思っていないんです。僕は、自分が投資したスタートアップの株を売るつもりがないんですよ。
なんで売らないのか、というと、自分の会社だと思っているからです。自分の会社の株って売らないですよね。その感覚です。

一般的な投資家って、複数の企業に投資をして、回収できる確率を上げていると思います。そしてなんとか回収し、さらにそれを次の投資に回すんだと思います。投資家ですから。
ですが、自分の会社だったら、考え方は違いますよね。回収し、再投資に回す、って感じじゃないと思うんです。

そういうところがあるので、「エンジェル投資家」という側面もありますが、「創業仲間」という感じだと思っています。
そう思ってもらえているかは分かりませんが、そうありたい、とは思っています。
なので、僕が投資に使っているお金は、株式の売却で得たお金ではなく、自分が働いて稼いだお金の中から工面して捻出したお金だったりしています。

自分の会社だと思っているから、株は持ち続ける

最高の報酬は「予想もつかないドラマ」

—エンジェル投資家の方に伝えたいメッセージはありますか?

守屋自分の会社だと思って関わることによって、ものすごい勉強になります。例えば僕の場合、2018年の5月に上場した「ラクスル」の場合なんかはそうでした。

事業において、当初我々が思っていた通りのことが起こることもあれば、予想もつかなかったことだって起こる。他社の事例ではなく自分たちの会社の事例ですから、そのような出来事一つひとつがものすごい勉強になるんです。

リターンがあるかどうかも大事ですが、「投資をする」ということは、はるかに大きな勉強だったり、成長のドラマを見ることができます。僕が投資したスタートアップたちも、予想もしないドラマを見せてくれました。
むしろ、投資家の方は「面白いから、お金を払ってでも成長を見たい」と思えたら良いですね。

—では最後に、起業家に向けてメッセージをお願いします!

守屋:大事だと思って必要以上に構えてしまうと、いざという時に動けなくなります。「人生の大勝負だから、絶対に失敗できない」そう思うから余計に足がすくむ。
最初から上手くいくとは限りません。ましてや、足がすくみ、迷っていたら、なおのことです。であれば、自らの起業だけでなく、起業したばかりの人の手伝いするなど、経験値を積むのも良いと思います。

あとは、やりたいことがあったら、勝手に体は動きます。
気持ちや体が先で、頭はあと。予習するだけで成功することはありません。体験することの情報量が多いので、ぜひチャレンジしてくださいね。

企業の成長はお金を払ってでも見る価値がある

(取材協力:守屋実事務所 守屋 実)
(編集:創業手帳編集部)



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