「アートでサステイナブルな社会を作る」ガーナに学校や美術館を設立したアーティストの思いとは

創業手帳

投棄されたガーナの電子ゴミからアートを創る、気鋭のアーティスト長坂 真護氏にインタビュー

「世界の電子ゴミの墓場」がガーナにあることをご存知でしょうか。路上で絵を描いて世界を回っていた長坂真護氏は、経済誌で先進国のゴミが途上国へ流れていることを知り、何かに駆り立てられるように現地に飛んだそうです。電子ゴミをアートにし、得た利益でガーナにガスマスクを贈り、学校、美術館などを設立しました。

2020年、ハリウッドのドキュメンタリー監督が長坂さんの取り組みを映画化。『Still A Black Star』は現在公開準備中です。そんな長坂さんの生い立ちや、事業にかける思いについて、創業手帳代表の大久保が聞きました。

長坂 真護(ながさか まご)
MAGO CREATION株式会社 代表取締役美術家

1984年生まれ。2009年、自ら経営する会社が倒産し路上の画家に。2017年6月“世界最大級の電子機器の墓場”と言われるガーナのスラム街“アグボグブロシー”を訪れ、先進国が捨てた電子機器を燃やすことで生計を立てる人々と出会う。アートの力を使って、“我々先進国の豊かな生活は、このスラム街の人々の犠牲のもとに成り立っているという真実”を先進国に伝えることを決意。「サスティナブル・キャピタリズム」を提唱し、これまでに1000個以上のガスマスクをガーナに届け、2018年にはスラム街初の学校『MAGO ART AND STUDY』を設立。2019年8月アグボグブロシー5回目の訪問で53日間滞在し、彼らの新しい希望と生活のために、スラム街初の文化施設『MAGO E-Waste Museum』を設立した。この軌跡をエミー賞授賞監督カーン・コンウィザーが追い、ドキュメンタリー映画“Still A Black Star ”を制作し、アメリカのドキュメンタリー映画アワードImpact Docs Awardで優秀賞4部門受賞。現在、公開へ向けて準備中。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計150万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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ガジェットのせどりの利益で世界を回っていた「路上の絵描き時代」


ガーナの電子ゴミを使用した作品「真実の泉Ⅱ」Photo by Fukuda Hideyo

大久保:本日はよろしくお願いします。最初の起業はアパレルだったとお聞きしましたが、かなり前のことなんですか。

長坂:23歳のときに最初の起業をしました。前職が水商売で、貯めた3000万円を資本金にして、服飾の学校を出たということもあってアパレルで起業したんです。今思えば大義はあまりなかったし、いわゆる普通の就職もしたことがなかったので、甘かったんでしょうね。

雇った社員に、裏で会社のお金を使い込まれたということがあったり、作ったものもあまり売れず、たった1年で廃業しました。負債は1000万円。売れなかった何百着という在庫を見て、一生懸命働いて貯めたお金が溶けるって、こういうことなんだなあと実感しましたね。

大久保:苦い経験をされたんですね。その後は何をされていたんですか?

長坂:自分は何がしたいんだろうと考え、2009年に路上の絵描きになりました。7~8年は鳴かず飛ばずでしたけどね。年収100万円ぐらいで、極貧でした。海外でも絵を描きたかったので、世界中回って、500ギャラリーぐらい売り込みに行ったんですよ。でも全然ダメでしたね。

シムフリーのiPadをハワイで2~3時間並んで買うじゃないですか。それを日本でヤフオクで売れば利益が出るので、それで飛行機のチケット代を買っていました。

アートでは食えなかったですけど、極貧でも、世界中回って、何年生きられるのかっていうのを試していた感じでしたね。一切バイトもしませんでしたから。
とにかく必死でしたけど、年収100万円でも生きられるんだと実感しました。スタッフにもよく言うんです。年収の額よりも、大事なのは経験だと。

大久保:信念がなかったらなかなかできない生活ですね。不安はなかったんですか?

長坂:いや、もちろんありましたよ。慣れてきてはいましたけど、不安でしたし、貧乏は嫌だな、この生活が一生続くのかなと思っていました。誰かが手を差し伸べてくれるんじゃないかという淡い気持ちはありましたね。

大久保:何か国ぐらい回られたんですか?

長坂10年ぐらいかけて15か国以上回りました。韓国、スペイン、上海、香港、台湾、アメリカ、モロッコ、フランス…。また行きたいですね。2か月ぐらい予定をブロックして、世界中を回りながら絵を描きたい。実は加盟店システムを作りまして、世界中にマゴギャラリーができるんです。ですから実現不可能な話じゃないですね。

2020年以降はコロナで日本にいます。今でこそ家族の理解はありますが、ほんの数年前まで家族には全力でバカにされていました。日本に税金も納めていないから、非国民!って。

経済誌で電子ゴミの墓場を知り「この目で見たい」と現地へ


ガーナから届いた電子ゴミの山。中には日本語が印刷されたものも

大久保:それは傷つきますね。そこから、今のような活動に移行されたきっかけは何だったのでしょうか?

長坂:しばらくiPadのせどりの利益で生活していたということもありましたけど、もともとガジェット好きだったんです。そんな中、経済誌で先進国のゴミが途上国に流れている事実を知りました。そしてそのことを調べていくと、ガーナに電子機器の墓場があるとわかりました。これはただごとじゃないなと感じ、「お金がなくても世界を回れたんだから、行こう!」と思ったんですよね。百聞は一見に如かずっていう言葉もありますし。2017年のことでした。

ガーナのアグボグブロシーには、世界中から電子ゴミが集まってきます。その電子ゴミを燃やして処理する際に発生する有害物質を含んだ煙を毎日吸うことにより、がんで20代にして亡くなってしまう人も多いんです。衝撃を受けましたね。

大久保:なぜガーナに電子ゴミが集まってくるんでしょう?

長坂電子機器には強い毒性の化学物質が含まれており、正当に処分しようとすると費用と危険が伴います。そこで、立場の弱い方へどうしても皺寄せがいってしまうわけですね。ガーナの平均所得は月に5000円なので人件費も安いし、危険なゴミを処理するには都合がいいということなのでしょう。日本語が印刷されている電子ゴミも普通に落ちていますよ。

大久保:セブに会社を持っていたことがありましたけど、あそこにもゴミ捨て場のような場所に人々が住んでいる場所がありましたね。

長坂:日本の感覚からは考えられないような住環境ですよね。その廃棄された電子ゴミを見て、これをアートにして価値を生み出せるのでは?と考えたんです。帰国して電子ゴミを取り入れた作品を作りました。僕の作品は基本的にひとつとして同じものがない、1点ものです。実は今年に入ってゴミからできたチップを溶かして作る立体作品も作り始めています。その売上げで買ったガスマスクを持って現地を再訪したら、みんなすごく喜んでくれました。

2018年に銀座で個展を開いたんですが、1点1500万円で売買された作品もありました。昨年から年間600枚ぐらい描いていますが、平均1点600万円ぐらいですぐに買い手がつくような状況で、在庫はほとんどありません。世界を放浪して絵を描いていたときは1枚100ドルでもなかなか売れなかったので、今の状況は当時の自分が見たら信じられないと思います。

大久保書道家の武田早雲さんも路上で書いていた時期があったと聞きました。大成するアーティストは、みんな路上で書く時期があるということでしょうか(笑)。

長坂:必ずしも全員じゃないと思いますけどね。美大を出ていたら、教授が画廊を紹介してくれたりということもあると思いますが、僕はコネがなかったので。

自分のやり方を真似してもらって構わない


事務所には創りかけの作品があちこちに置かれていた

大久保:世界を放浪していた時代から、今は素晴らしいアート作品を生み出されていてメディアにも注目されていますが、何が長坂さんの成功の秘訣だったと思われますか。

長坂:20代の頃は自分に自信もなかったし、自分が何者にもなれていないという罪悪感がありました。30代になって、自分が考えていることを自信を持って行動したり、発言したりしていいんだと思えるようになったんです。それに対して評価される嬉しい結果になり、さらに自信を持つことができました。才能を開花させるのは自信だと思いますね。ただ、過信になってもダメだし、謙虚すぎてもよくないので、バランスが大事です。難しいですけどね。

大久保:日本って自分に自信がない人が多いですよね。そういう教育がされているということなんでしょうけれども。でも今はSNSもありますから、個人の発言力が持てる時代ですよね。

長坂:それは本当にそう思いますね。大企業だけが勝つ時代ではなく、最強の個人とでもいうべき人が増えるだろうと思っています。芸能人と芸能事務所だってそうですよね。今は芸能人は個人として発信することが可能ですから。

大久保:現在の資本主義についてはどう思われますか?

長坂資本主義はその制度的に、誰かがひとり勝ちしてしまうんですよね。そこに問題があると思ってます。富の再分配をしないといけないんですよ。ですから前澤さんと半分ずつお金を出し合って、1000万円をアーティストに配るということを最近しました。

僕は稼ぐことに興味はあるけど、自分が得ることにはあまり興味がないんです。給料も5%しか自分の分は取らず、あとはガーナやサステイナブル事業に投資しています。未だに築50年の家に住んでいますし、高級な家に住んで高級な車に乗るより、未来のために投資をするのが自分の最大の贅沢ですね。

大久保:サステイナブル事業とおっしゃいましたが、長坂さんが考えるサステイナブルって何ですか?

長坂:僕は廃材を使ってアートを作って、価値を生み出している。つまり作品をたくさん作って売れば売るほど、地球環境もよくなるんです。このようにビジネスとして地球環境をよくすることに取り組むことは、サステイナブルな環境活動ですよね。

僕より絵が上手な人なんてたくさんいるし、誰でも僕のやり方を真似してくれて構わないと思っています。だってこういうビジネスモデルが増えれば増えるほど、地球環境が改善されるわけですから。1本の木から生まれる利益だけを考えるのではなく、森を作ろうよという考え方ですね。僕が飯が食えなくなってもいいんです。なんとか生活していきますよ。

僕の作品を買ってくださるのは、ほとんど経営者の方なんですよ。経営理念などに社会貢献、環境保護などの概念を取り入れたい場合、小難しい言葉を書き連ねるよりも僕のアートを見るほうが一発で伝わるでしょう? 僕のアートを通して、様々な人にサステイナブルやSDGsといった言葉について、改めて考えてもらえたら嬉しいですね。

いいことは世界に広がっていく

ガーナのスラム街に作った子どもが無料で学べる学校 Photo by Fukuda Hideyo

大久保:最後に、読者へのメッセージをお願いします。

長坂:いまはSNSやテクノロジーのパワーがすごいので、いいことをすればそれは世界に広がっていきます。今の利益だけを考えるのではなく、困っている人のためになるサービスや物を開発し、サステイナブルな事業を生み出して欲しいですね。

大久保:本日は、貴重なお話をありがとうございました!

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