長い目が育むESG経営の芽、投資家が注意すべき点とは

tips

日本企業の中で、これまで主流だった中期経営計画に代わり、10年先を展望する長期経営計画を打ち出す動きが広がっています。ESG投資の機運が高まる中、「長計」は安定株主を増やすための呼び水となる可能性があるとの声が上がっています。

ESG投資とは、従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のことを指します。

持続的に社会に貢献できることを示し、長期投資家に安定的に株式を保有してもらうためにも長期ビジョンを策定する企業が増えています。投資家や顧客など様々なステークホルダーとの対話をする中で、目指している企業像を描いてほしいと求められたことも策定を後押ししています。また、新型コロナウイルスの感染拡大で、足元では1年先の業績予想を未定とする企業がなお多く、一段と不確実性が高まる中で、将来のあるべき姿を明確に示す重要性が高まったことも寄与しているものと思われます。

投資家が「長計」をみるときに注意すべき点は、いくつかあります。

1つ目は、絵に描いた餅ではないかを見極めることです。最終年度までの時間が長ければ、現実から乖離する可能性も高まるため、具体的な施策をみて実効性を精査する必要が生じます。突拍子のないものではなく、固有の強みをうまく活用した事業ポートフォリオの構築を目指しているかも確めるべきです。

2つ目は、企業がESGの観点からみた事業リスクに対し、シナリオ分析ができているかどうかです。リスクをきちんと把握できていれば、回避こそできなくても被害を最小限に抑えられる可能性が高まります。

上場企業で「長計」の公表が進めば、長期的な価値に着目した投資のための環境が整うことになります。この流れを受けて安定的な長期投資家が増えれば、企業側も目先の利益追求にとらわれず、ESGに配慮した事業活動ができる好循環が生まれることが期待されます。

編集部のコメント

編集者
世界的にESG投資の気運が高まっています。大手の金融機関や機関投資家が相次いてESG投資の重要性を唱え、ESGやSDGsを重視した事業推進を宣言しているのが象徴的です。
一方、ESG・SDGsに象徴される価値観への偏重に警鐘を鳴らす専門家もいます。その根拠の一つは、投資商品やファンドの運用成績の低さです。ESG投資を謳い多額の資本を集めた投資商品の一部が市場平均を下回る運用成績となっていることです。一般論としてアクティブ運用の成績はパッシブ運用を下回ることは経験的に知られていますが、ESG投資を謳った投資商品の収益率が一段と低迷しているのです。
米国ではESG投資の運用成績に疑問があることから、各種規制がかかり始めています。長期視点で考えるESGに対して投資商品の運用成績は年単位で評価することが多く、時間軸にずれがあるので単純な議論はできませんが、ESG投資の経済合理性に対して疑義が投げかけられ始めていることは事実です。
日本でもESG投資に対する規制の議論が進むか、注目したいところです。
読んで頂きありがとうございます。より詳しい内容は今月の創業手帳冊子版が無料でもらえますので、合わせて読んでみてください。
カテゴリ トレンド
関連タグ Environment ESG Governance SDGs Social ガバナンス ステークホルダー ビジョン ファンド 年金 投資 新型コロナウイルス 米国 経営 運用
創業手帳
この記事を読んだ方が興味をもっている記事

トレンドの創業手帳ニュース

関連するタグのニュース

途上国において中小零細事業向け小口金融サービスを展開する「五常・アンド・カンパニー」が70億円調達
2022年11月9日、五常・アンド・カンパニー株式会社は、総額70億円の資金調達を実施したことを発表しました。 五常・アンド・カンパニーは、5か国(カンボジア・スリランカ・ミャンマー・インド・タジキス…
新興国向けソーシャルレンディング・プラットフォーム運営の「クラウドクレジット」が4億円調達!
平成29年12月4日、クラウドクレジット株式会社は、総額約4億円の資金調達を実施したことを発表しました。 また、電通の100%子会社である電通ストラテジック・パートナーズと提携したことも発表しました。…
「あゆみトラスト・ファンド」が設立
あゆみトラスト・ホールディングス株式会社は、子会社のあゆみトラスト・インベストメント株式会社を通じ「あゆみトラスト・ファンド」を設立したことを発表しました。 「あゆみトラスト・ファンド」は、グループの…
「日本商業不動産保証」が即座に運転資金を確保できる保証サービス「敷金半額くん」をリリース
2020年4月27日、株式会社日本商業不動産保証は、「敷金半額くん」の提供を開始することを発表しました。 「敷金半額くん」は、現在眠っている賃貸オフィスの敷金を流動化させ、一部を運転資金に置き換えるこ…
【7月9日】起業家むけ「気になるニュースまとめ」
7月9日のニュースで、起業家が注目したいネタをまとめました。 ESG投資の裾野広がる 企業の「Environmental(環境)」、「Social(社会)」、「Governance(企業統治)」に対す…

大久保の視点

国際団体エンデバージャパン「EndeavorJapanSummit 2024」を現地レポート!
パネルセッション例:中村幸一郎(Sozo Ventures ファウンダー・著名な投資家)、ヴァシリエフ・ソフィア市副市長(ブルガリアの首都) 「Endeav…
(2024/10/9)
「JX Live! 2024」JX Awards大賞はNYでイチゴが大ヒットの古賀大貴さん(Oishii Farm 代表)
2024年10月9日、虎ノ門ヒルズフォーラムにて、「JX Live! 2024」が新経済連盟主催で行われました。 「JX Live!」は、「JX(Japan…
(2024/10/9)
「スタートアップワールドカップ2024」世界決勝を現地速報!優勝はEarthgrid(米代表・プラズマでトンネル掘削)
2024年10月4日、世界最大級のビジネスピッチコンテスト「スタートアップワールドカップ(SWC)2024」の世界決勝戦が、米国・シリコンバレーで開催されま…
(2024/10/5)
創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

注目のニュース

最新の創業手帳ニュース

創業時に役立つサービス特集