ファンファーレ 近藤志人|「配車頭」で産業廃棄物業界の課題解決へ

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年08月に行われた取材時点のものです。

産業廃棄物業界の3つ課題にAIを活用したサービス「配車頭」で貢献する


産業廃棄物業界の配車には多くの課題があります。その課題の解決にAIを活用したサービス「配車頭」で貢献しているのがファンファーレです。CEOの近藤氏に、起業の経緯やサービスの概要を聞きました。「テクノロジー活用の余地が大きい業界こそ起業のチャンス」「業界の外部から参入する利点とは」など、起業の参考になる話にも注目してください。

近藤 志人(こんどう ゆきと)
ファンファーレ 株式会社 CEO
1991年生まれ。美大出身のUXデザイナー兼経営者。crewwにて大手企業の100件以上の新規事業創出に関わった後、リクルートにて組織開発・大規模プロダクト開発などを経験。その後、2019年ファンファーレを創業。AIを活用した廃棄物業者向けの業務支援サービス「配車頭」を提供。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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産業廃棄物業界が社会インフラを支える1つだと気づく


大久保:起業の経緯を教えてください。

近藤:小さい頃から絵を描くのが好きでした。大学も美大に進学し、デザイン学部で学んでいます。学生の時に社会貢献できるビジネスに興味を持ち、いろいろと活動していましたね。何かメッセージを伝える仕事がしたいと思ったんです。

活動の中では失敗も多くありました。上手くいかない理由はビジネスがわかっていないことだと思い、一般的な就職活動をすることに決めたのです。いくつか内定をいただけました。

しかしそのような中で、大手企業のオープンイノベーション(自社以外の組織の技術を取り入れて革新する)とスタートアップの起業支援をしている会社に出会ったんです。当時はそういった活動をしている会社は1つもなかったので、魅力を感じました。全ての内定を断って、その会社に直談判して入社したのが最初のキャリアです。

3ヵ月アルバイトで働かせてもらい、成果をプレゼンテーションしたところ正式に入社させていただけました。今自分が10名ほどのスタートアップの社長をやっているわけですが、改めてよく採用してくれたなと思います。

3年ほど大手企業の新規事業支援を担当させていただきました。最終的には100件ほどの新規事業をサポートしましたね。そのときに、日本の大手企業は人材や資金力、テクノロジーを導入するのには長けているのに、新規事業が続かないケースが多くあることを知ったんです。大手企業がイノベーションを生み出し続ける組織にそもそもなっていないことに気づきました。

大久保:具体的にはどのような場面で気づかれたのでしょう。

近藤:例えば担当していた会社にエネルギー会社がありましたが、その会社は100年間ビジネスモデルが変わっていないので、誰から喋るかも暗黙の了解で決まっているような会議が行われていたのです。そういう組織でイノベーションを生み出し続けるのは非常に難しいですよね。

組織としても上手くいく状態が必要だと気づき、徐々に人事をやりたいと思うようになりました。そこで次のキャリアとして人材紹介会社に入社し、IT組織を強化していくための組織人事を経験しています。事業面と組織面を大きくするスキルが身についたと感じ、今だったらもう1回ソーシャルビジネスに挑戦できると自信もつきました。

大久保:なるほど。起業される前に事前にいくつかのスキルを習得されたのですね。

近藤:はい、そうです。そして、ソーシャルビジネスを始めようとビジネスの種を探していた時に出会ったのが、この産業廃棄物という業界です。当時副業でUX(サービスで顧客が得る体験)コンサルをしていたのですが、その中で産業廃棄物業界事業者のコンサルティングをしたことがあったんです。現場のITの活用度の低さに衝撃を受けました。

また、この副業をきっかけに産業廃棄物の業界は社会全体を支えている社会インフラの1つだと知りました。その2点から、産業廃棄物の業界でビジネスを始めることを決めました。何をしようか考えていた時に、産業廃棄物との出会いがフィットした形ですね。

とはいえ、1社だけ見るのでは当事者意識を持ちづらいと思い、1年くらいかけて全国の産廃事業者を訪問して業界への理解を深めていきました。当事者意識を持てる状態になった段階で、ファンファーレを設立した、という経緯です。

自分が覚悟を決めて楽しむことが重要

大久保:産業廃棄物は安定した市場ですよね。そういう市場はとくにベンチャーが頑張っているイメージです。

近藤:産業廃棄物業界は、内部から変わっていくモチベーションが低い傾向にあります。ある程度地場で経済圏を確保すると経営が安定する業態です。なので、労働人口不足は慢性化しているという環境にあっても、どうしても自らが変わるモチベーションが低いんですよね。だからこそ外部から入る価値が大きいのかなと思います。

大久保:新規事業を行うときに、売り上げ面で見込みがある業界だと思ったわけですか?

近藤:それはあまり考えていないですね。当時は社会インパクトしか考えていなかったです。ただ、経済合理性は社会インパクトを考えたあとにしっかりあるべきだとは思っています。経済合理性がないと業界全体の改善には繋がりません。どこまでいっても自己満足になってしまいます。

大久保:利益は大きそうですが。

近藤:そうですね。もともと経済性があるとは思います。ただ、ビジネスの種としていろいろな社会問題の事業計画を作って試したのですが、ビジネス性はどれもある程度描けるんですよ。結局は自分が覚悟を決めて、自分の貯金が減っていくのを眺めながらでも楽しいと思えることが大切だと思います。

外部からの参入だからこそ気づける世界

大久保:実際に起業してみてイメージと違う点はありましたか?

近藤:自分が株式を100%持っている状態で起業するのですから、自分の倫理観や社会にどれくらい貢献できるかを最重要視しながら事業を大きくできるかな、と思っていました。しかし株式会社という形態で、さらにスタートアップという形で外部から資本が入ってくると上場を宿命づけられるのです。優先順位が経済合理性の中である程度制限されてしまうのは、ギャップとしてありました。

大久保:どう折り合いをつけていったのでしょうか。

近藤:抽象度を上げました。一般的に、社会に対して何か良いことをしようとしたときに、軸がしっかりしていないことが多いです。その軸をきちんと決めるべきだと思いますね。社会の資本をどれだけの範囲の人が共有しているかという意味の、社会的共通資本という言葉があります。例えば水や空気など、人類が全員共有している自然環境の上に社会インフラがあり、その上に法律によって守られている社会福祉があります。私の場合、社会インフラのレイヤーで貢献したいことをやっている自覚をきちんと軸に置いています。

よく、原体験のある起業家と原体験のない起業家だとどちらがいいかという話になります。私は外部から入っているので、まさに原体験のない起業家ですよね。ただ原体験があり過ぎると、自分が救いたい世界が限定されたり、対象が狭くなってしまったりする気がするのです。原体験がないからこそ、抽象度を上げることができました。

大久保:外部から来たからこその強みがあるわけですね。

近藤:そうですね。これは、外国語の学習によく似ているなと思っています。ネイティブスピーカーは、自分の言語がどういった文法構造になっているかきちんと理解できません。しかし、外国語を学んだ人というのは文法構造がしっかり説明できますよね。これが外部から入ってきている人の利点かなと思っています。

ただし、入っていくときに失礼にならないようにするのは重要です。私の場合、1年ほどかけてこの業界の中を知り尽くしました。初めて会った人と話をした時に、この人はよく分かっているな、仲間だな、と思ってもらえる状態まで自分のレベルを引き上げたんです。

テクノロジー活用の余地が大きい業界こそ起業のチャンス


大久保:どこか1社が仲間になると、周りにも影響することがあると思います。そういったことはありましたか?

近藤:ありましたね。弊社の場合初めにリリースをした時に、すぐにお問い合わせがたくさんきまして。ペライチで作った簡単なランディングページからのお問い合わせがとまらない状態でした。

その中で、熱狂的な人がすごく気に入ってサービスを使ってくれるんですよ。「こんなサービスは今までなかった」「これがない生活は考えられない」と言って使ってくれました。そういった声をあげてくれた人たちが、業界内で発言権のある方々だったので、そこから広がっていきましたね。非常にありがたかったです。

大久保:産業廃棄物業界はアナログな業界ですが、そのなかでも一部ネットを使って改革したいという人もいるわけですよね。

近藤:イノベーター、アーリーアダプター(流行に敏感で、情報収集をする人)がこの業界にもいるんですよね。産業廃棄物業界の1代目は高度経済成長の中で公害問題がたくさん起き、法に則る形で立ち上がっているわけです。一方で2代目、3代目になるとお金持ちの家に生まれた子たちという感じになりますよね。視点が現場のレイヤーと経営者のレイヤーで異なってくるので、そういった世代の人たちからのお問い合わせが非常に多いんです。

大久保:どこかの業界で改革をする時には、必ず味方がいるということですよね。

近藤:とくに労働人口不足の業界はおすすめです。その業界は高度経済成長の時に大きくなっている会社が多くあります。今ちょうど変換期を迎え、 DXの必要性を業界が言い始めている時でしょう。テクノロジーは使っていないけれど、始めようと考えている最中だと思います。起業家としてそれは非常にチャンスです。イノベーターになる2代目、3代目が必ずいるというのは自信を持って言えますね。

大久保:イノベーションが進んでいない業界は逆にチャンスがあるということですね。

近藤: テクノロジーが入っていないと、システムのスイッチングコストも非常に低いです。新しいサービスを作って導入していく時に意思決定もスムーズだったりしますね。

配車頭で産業廃棄物業界の課題解決へ

大久保:配車頭の概要を教えてください。

近藤:まず、一般廃棄物と産業廃棄物は違うものです。一般廃棄物は家庭ゴミなどで、産業廃棄物は工場や建設現場から出るものです。量も10倍ほど違いますし、適用されるルールも回収方法も違います。

一般廃棄物は回収のときに回るルートが決まっていますよね。例えば火曜日は燃えるゴミルートというように決まっているじゃないですか。一方で産業廃棄物は日によってルートが変わる特徴がありますから、どんな配車を組むか毎日違います。配車は作り直す回数も多く非常に大変な作業です。配車頭は必要なデータを入れると、一日中かかる配車表作成業務も3分ほどで出来上がります。それがドライバーのスマホに予定として届く形ですね。

産業廃棄物業界の収集運搬業務の3つの課題を配車頭では解決します。1つ目が人手不足です。この課題に対しては、配車頭を導入すると10%ほど配車効率が上がることが解決に繋がっています。より多く受注することも可能になります。

次に、産業廃棄物の業界は高齢化とベテラン依存が進んでいます。とくにドライバーはかなり高齢化が進んでいると言われていますね。また、10億ほどの売上規模の会社でも配車を作れるのは1人、サブ担当の人が1.5人程度です。そういった人たちが明日休んだり、病気になったりした時に会社はどうしていくか、常に危機感を経営者の方は持たれています。配車頭なら、全部 AI が行なってくれるので誰でも配車が組めるんです。

3つ目はそもそも配車が大変ということがあげられます。道を良く分かっているドライバーが配車を作ることが多いですが、午前中はドライバーをして午後は配車表を作るということが行われているわけです。これでは大変なうえ、精神的にも辛いですよね。心を病んで辞められる方も一定数います。配車頭は配車管理業務全体を包括できるサービスになっていますから、業務が4分の1程度に削減できます。これらの3つの課題を解決できるのが、大きな特徴ですね。

ベネフィットで産廃事業者が報われるサービスを


大久保:配車頭を限りなく普及していきたいということですよね。

近藤:そうですね。産廃事業者の業務は、配車も含めて収集運搬、処理などの業務パイプラインがあります。今は配車に対してサービス提供をしているところです。このAI配車技術をほかの業界に使うかというと、そういうつもりは全くありません。産業廃棄物業界の課題解決をしている会社なので、この業界に対してサービスを提供し続けていきたいと考えています。今後は、AIやテクノロジーで各パイプラインの課題解決に資するプロダクトラインナップを揃えていきたいですね。

大久保:配車頭は、国から見てもありがたいサービスですよね。

近藤:国という目線で言うと、やはり民主主義社会において、票が集まりやすい予算と集まりにくい予算があると思います。教育とか医療は、社会課題として非常に認知されているので集まりやすいんですよね。産業廃棄物というのは、認知が少ないのでなかなか行政からの手当が厚くなっていかないと思っています。その分、民間企業としてやる価値を感じながら運営しています。

大久保:産業廃棄物業界に光を当てる感じですね?

近藤:はい。また、事業活動を通じて産廃業界のデータが貯まっていくので、健全に営業している事業者のアピールに活用できます。産廃事業者に依頼して不法投棄されたときは、排出事業者責任と言って廃棄物を出す側が賠償請求されることになっています。ですから、適正処理に真摯に取り組む産廃事業者を排出事業者は選びたい。

私たちのデータで、適正処理をしている産廃事業者だと証明できるようになれば、この事業者に頼もうといい循環が回り始めます。これを例えば行政報告を増やすことで管理しようとすると、その対応に追われてDX が進まなくなるんですよ。ベネフィットによって産廃事業者が報われるサービスを作っていくところまでやってきたいです。

大久保:産業廃棄物業界はSDGsのなかでも中核にあたる業界かと思いますが、外部から新たに参入するハードルは高いのでしょうか。

近藤:外部から入ってきづらい側面はあるかもしれません。けれど、弊社のCTOが組んでいるアルゴリズムと同品質のアルゴリズムを組める研究者は少ないでしょうし、ほかの役員も卓越したキャリアを持っています。そういった人材をファンファーレという会社が呼び込むことで、業界に革命を起こせたらと思っています。

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(取材協力: ファンファーレ 株式会社 CEO 近藤 志人
(編集: 創業手帳編集部)



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