LinkedIn日本代表 村上 臣|日本人の転職事情は今まさに変わっている【村上氏連載その1】

創業手帳
※このインタビュー内容は2021年06月に行われた取材時点のものです。

キャリアに対する考え方をアップデートせよ。リンクトイン村上氏に聞くこれからの転職に求められる思考・行動様式とは

世界200以上の国と地域に7億5,600万人のメンバーを有する、世界最大のビジネス特化型SNSを提供するリンクトインの日本代表村上 臣氏は、著書『転職2.0』で、日本人はキャリアの常識をアップデートする必要があると提言しています。日本人のキャリアの新ルールについて、創業手帳代表大久保がうかがいます。3回にわたる連載第1回では、村上氏の学生ベンチャー時代のエピソードやリンクトインのカルチャー、転職に必要な行動様式についてご紹介します。

村上 臣(むらかみ しん)Linkedin(リンクトイン)日本代表
青山学院大学卒業。在学中に現ヤフーCEO川邊健太郎らとともに有限会社電脳隊を設立。日本のインターネット普及に貢献する。2000年にヤフーの合併に従いヤフーに入社。2012年にヤフーの執行役員兼CMOに就任。2017年に米国・人材系ビジネスの最前線企業、リンクトインの日本代表に就任。国内外の雇用事情に精通した「キャリアのプロ」として、NewsPicksアカデミア講師を務めるなどメディアにも多数登場し、転職や働き方について発信している。複数のスタートアップ企業で戦略・技術顧問も務める。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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学生起業から就職、その後日本企業から外資系へ

大久保:本日はよろしくお願いします。村上さんの著書『転職2.0』を読ませていただきました。

村上:ありがとうございます。よろしくお願いします。

大久保昔の価値観である「終身雇用制」が崩れ始め、転職や起業が身近になってきました。今日はまずご自身のキャリアについてお話をいただければと思います。村上さんは、学生時代に起業されていますね。

学生ベンチャー「電脳隊」

村上:そうですね。大学在学中に現Zホールディングスの川邊 健太郎に声をかけられて、一緒に「電脳隊」という学生ベンチャーを起ち上げましたが、電脳隊以外でも仕事をしていて、数社から仕事を受託していました。秋葉原のPC店でアルバイトをしていた時に、法人のお客様から会社のIT化の相談を受けて、個人的な仕事につながったこともありましたね。

大久保:学業もあるし二足、三足、それ以上のわらじですね。学生ベンチャーならではのエピソードがあれば教えてください。

村上:そうですね、学生だったために困ったのは、サラリーマン経験がゼロなので、お客さんの意思決定のプロセスが全然分からなかったことです。

電脳隊でモバイルコンテンツの開発・提供をするようになってお付き合いした会社は今のKDDIですが、学生なので稟議とは何かも知りませんでした。会社の中でどうお金が動いてどう意思決定されるのかが分からないと、お客様からお金を頂くロジックも分からないので、そういうことを理解していることは起業にとって非常に大事だなと思いますね。

大久保:確かに、BtoBには必要なことですね。

村上:ええ。仕事はやってみないと分からないことが多いですから、課題解決の方法を学んだりと、組織で働いた経験はどんな形であれ起業にとってプラスになります。僕は電脳隊で仕事をする中で、組織というものを知る必要があると感じ、いったん新卒で野村総合研究所に入社しました。そして10カ月で辞めて電脳隊に戻りました。

大久保:その後、電脳隊と合併していたピー・アイ・エムがヤフーと合併することになったので、ヤフーに入社されて、一貫してモバイルの仕事に携わられたのですね。いったんヤフーを退社後、もう一度戻られて、2017年にはリンクトインの日本代表に就任されています。

リンクトイン日本代表に就任

リンクトインでは、「InDay」という自身に“In”vestするLinked”In”の日が月に一度開催される。この時はみんなで絵を描いたそう。

村上:ええ、モバイル業界でずっと仕事をしていて、世の中がモバイル化した実感がありました。この仕事をやりきったと感じて、「次に世の中が大きく変わるようなものはなんだろう?」と考えた時に、日本の労働市場は、まだ変わり切れていない“マグマ”のような状態だと感じました

まさにその時にリンクトインからコンタクトがあって、リンクトインのサービスをうまく日本に適用させれば、もっとマッチングもなめらかになるし、会社も個人も幸せになるのではないかと思い、今のポストに就きました。

リンクトインは全体像で言うと非常にカルチャーが濃くて、めずらしいタイプの会社です。シリコンバレーでも、リンクトインのカルチャーは独特という評判があります。

カルチャーの中心に、従業員の関係性が大事だとか、ユーモアが大事だとか、とにかく楽しもうというカルチャーがあって、要は楽しんで結果を出すのが最高で、それが一番偉いというカルチャーがあります。

イベントも多いですね。月に1回、インデイ(インベストメントデイ)があって、仲間の関係性を良くするために時間を使おうという日があります。外資系はドライでビジネスライクなイメージがありましたが、どちらかというと日本企業よりウェットなのではないかと思うぐらいです。

大久保:そうでしたか、リンクトインはどんな社風か個人的に気になっていましたので、お話を聞けてよかったです。

『転職2.0』執筆のきっかけ


大久保:村上さんが大学生だった頃の話に戻りますが、当時学生ベンチャーはめずらしかったのですよね。

村上:ええ。僕が就活していた時は就職氷河期真っただ中の1999年でしたが、周囲で起業しようというマインドを持っている人はいませんでした。

今もこのコロナ禍で学生たちからリンクトインにメッセージをもらって、時間がある時は相談にのっていますが、当時僕が友人から言われたことと、今の若者の言うことは全く変わっていません。

「起業なんて大丈夫か?」と思うのも分からなくもないです。ロールモデルはないし、キャリア教育が日本の教育システムの中に無いので、どうしても就職希望先は人気企業ランキングに載っている企業に集中してしまいます。「起業なんてわけの分からないことはやめろ」と、親から言われるでしょうし、親からの影響は相当強いと思います。いわゆる「親ブロック」ですね

僕は、今はもうそういう時代ではなくなってきているけれど、じゃあ具体的にどう動けばいいのか分からないという方が多いので、それならばどうしたらいいのかを体系的にまとめてみようと思って書いたのが『転職2.0』です。

キャリアに対する考え方をOS1.0からアップデートさせるという意味で、『転職2.0』というタイトルを付け、これからの転職に求められる思考・行動様式を表にまとめました。

これからの転職に求められる思考・行動様式

『転職2.0』p.5より引用改変

転職は「目的」ではなく「手段」

村上:転職をしてもせいぜい1回という時代では、その一度の転職で一気に年収を上げることに意味があり、転職は目的化していましたが、これからの人生100年時代では2回、3回、4回…と転職するのが当たり前になると思います。転職のたびに確実に成果を出してキャリアアップしていくことにより、「自己の市場価値」を最大化することが重要です。

また、「就社」から「就職」へと言うと分かりやすいと思いますが、多くの人は会社のブランド優先で「就社」しています。「会社」選びに力点が置かれていて、反面自分がどういうことをしたいのかに向き合うきっかけがありませんでした。個人がキャリア形成をしていき、シナジーを生んでいくことは、これからまさに重要になってくると思います。

大久保:お話をうかがっていて面白いと思ったのは、「就社」と「就職」は違うというお話です。日本はゼネラリスト志向というか、「就社」後に、その会社に適合した人を作りますよね

ポスト終身雇用制の時代

村上:昔は終身雇用が約束されていたので、それができましたね。社員教育にかける時間も10~20年というプランで考えられるので、会社の隅々まで経験してもらって、結果を出した人に対しては、退職前の報酬である役員のポストで報いるシステムだったと思います。

大久保:今は日本全体が伸びないので会社が伸びる前提でいられません。終身雇用も難しいし、若い人が大勢いて、偉い人が少人数いるというピラミッド型の構造も難しくなってくるということですね。

村上:そうですね。日本型雇用の特徴は3つあって、1つ目が「終身雇用」、2つ目が「年功序列」、3つ目が「企業別労働組合」で、この3つで日本型雇用と呼ばれています。

日本では、まず新卒一括採用をします。時間が経つにつれ基本的な設計として全員給料が上がります。これは人に仕事を付けていくパターンで、日本型雇用です。当然人件費は高騰します。

それに対し欧米の「ジョブ型雇用」はポストに対して人を付けるので、組織の大きさによってポストに限りがあります。日本では部下のいない部長や課長がたまにいるのですが、ジョブ型ではそれはあり得ません。そのため、そのポストが空かない限りは上に行けない構造になっています。

このように欧米のジョブ型と日本型雇用を比べた時に、社内での人の流れ、昇給ペースが構造上全く違うと言えます。

「スキル思考」と「ポジション思考」

大久保:今までの転職の「スキル思考」と転職2.0の「ポジション思考」についてもご説明いただけますか?

村上:はい。「スキル思考」は明確な目的はないのに「とりあえず何かスキルを身につけよう」という考え方です。それに対して、目指すポジションがあり、そのために必要なスキルを得たり転職することを「ポジション思考」といいます。「ポジション思考」はジョブ型雇用が中心となる、ポスト終身雇用時代のキャリア形成に必須の考え方と言えますね。

大久保:なるほど。そういう違いがあるんですね。非常によくわかりました。ありがとうございました。次回は、リンクトインを始めとしたSNSの使い方についてお聞きしたいと思います。

(次回に続きます)

転職2.0 日本人のキャリアの新・ルール 村上 臣 SBクリエイティブ
終身雇用が崩壊しつつある今、日本人のキャリアは新時代に突入しようとしています。転職の新常識を知り、「我慢しない自由な働き方」を手に入れたい人は必見の書。

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