コロナで職業危機に遭った人々に自社のデジタル営業研修プログラム「デジタルセールス・アカデミー」を無償提供。エムエム総研の萩原社長にインタビュー

創業手帳
※このインタビュー内容は2021年08月に行われた取材時点のものです。

「意思があり成長したいと考える人材に機会を」コロナ影響職者に対する萩原社長の想いとは?

今年、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、解雇や雇い止めに遭った人口が10万人を超える見込みという衝撃的なデータが厚生労働省から発表されたことは記憶に新しいかと思います。

特に小売業・飲食業・宿泊業など対人接客・販売コミュニケーション経験者への影響は4割近くを占めているといいます。

そんな中、そういった方々にデジタルセールス領域での新しいキャリアを可能にするための研修を無償で提供すると決めた人がいます。今回はその人、株式会社エムエム総研・代表の萩原社長に、無償提供の決断に至った経緯や国内外の営業の違いを肌で感じ、長きに渡り向き合ってきた「営業」という仕事のデジタル化についての考えを聞きました。

萩原張広(はぎわら・はりひろ)
株式会社エムエム総研 代表取締役
1959(昭和34)年8月25日生まれ。神奈川県横浜市出身。最終学歴 横浜市立南高等学校。
高校卒業後、歯科技工士の見習い〜飲食業〜英会話の教材、建築資材の営業等を経験し、当時急成長中の株式会社リクルートに24歳でアルバイトとして入社。その後正社員となり、28歳で営業マネージャーに。31歳で株式会社エムエム総研を設立、代表取締役に就任。法人営業支援やマーケティングサービスを大手IT企業やベンチャー企業に向けて多数提供。1998年、「マンハッタンの営業パーソンは飛込みをしているか?」という素朴な疑問から、ニューヨークに行き営業現場を視察、日本においての営業変革の必要性と、将来的な日本におけるマーケティングの可能性を確信する。以降、現在までに数百件のマーケティングプロジェクトに関わる。
著書:『営業の科学』(ダイヤモンド社)
   『少人数チームからはじめる失敗しないBtoBマーケティングの組織としくみ』(クロスメディア社)

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日本で需要が高まっているデジタル営業人材を育成する「デジタルセールス・アカデミー」とは?

―「デジタルセールス・アカデミー」とは、どのような事業ですか?

萩原:3年半ほど前にスタートした事業なのですが、もともとは「BtoBマーケティングアカデミー」という名前でした。主にインサイドセールス(訪問しない営業)の仕事をする人材をエムエム総研が正社員として雇用し、2ヶ月から3ヶ月ほど座学と実践も含めたトレーニングと研修を行って、お客様のもとに正社員というかたちで常駐させるビジネスモデルとしてスタートしました。

インサイドセールスだけではなく、カスタマーサクセスなどいろんな場面に関わる職種のことをトータルして「デジタルセールス」と私たちが命名し、アカデミー名を「デジタルセールス・アカデミー」に変更し、リリースをしました。

―どのような背景があって事業を起ち上げましたか?

萩原もともと日本の企業のインサイドセールス手法は、いわゆるただ電話をかけてアポイントをとるという概念しかなく、コロナの影響を受けて非対面の営業に移行するようになりましたが効率的な手法は持ち得ていませんでした。私たちが10年ほど前から取引のある外資系大手企業は、非対面の営業を当たり前のように生産性の高い状態で行っています。そういった外資系企業との取引があったので、私たちには本当の意味でのインサイドセールスの知見がありました。

日本の会社にもこのような生産性の高い仕組みを導入した方がいいという思いがありましたが、一番の問題は「デジタルを使って非対面で営業できる人材がそもそもいない」ということです。会社側にも指導できる人がいなくて、とりあえず電話帳を持ってきてアポイントを取るという営業スタイルしかありませんでした。

したがって、私たちが人材を育成して、コンサルと供にお客様に提供するというモデルでスタートしたのが4年ほど前になります。現在までで、約百数十人がアカデミーを卒業してお客様のところで働いたり、お客様側の正社員になったりと活躍の幅を広げています。

―この事業が目指すゴールは何でしょうか?

萩原:アメリカでは営業職の中でも訪問しないインサイドセールスの人口の方が多いのですが、3~4年前の調査では日本でインサイドセールス組織を導入している企業はわずか5~6%にしか過ぎませんでした。コロナの影響もありこれからどんどん増えると思いますし、リモートワークが普及することで、自宅から企業向けにインサイドセールスをすることも可能になります。この普及に対して10年以上、さまざまなことが起きてくると思うのですが、そこに私たちのビジネスチャンスがあるということと、多くの方にとっての雇用の機会も増えていくと考えています。

例えば、障がい者の方でコミュニケーション能力は高いのに外に出られないという方も、インサイドセールスであれば問題なく行うことが可能です。このように、地域や障害の有無にかかわらず、あらゆる方々に新しい機会を与えるということに私たちは貢献していきたいです。

まだ日本には普及していない海外流の合理的な営業スタイルを教える研修

―「デジタルセールス・アカデミー」で学べる新しい営業というのは、どのような営業なのでしょうか?

萩原:まず、営業というのはマーケティングありきなのです。いわゆる関心を全く持っていないお客様にアウトバンドで営業するというのは非常に非効率ですし、営業を受ける方も煩わしく思うことがあると思います。

私たちの事業はBtoBなので、企業が何らかの商品やサービスを導入することに対して私たちがどのように売っていくのかが根本になります。そこで、企業のニーズがあれば担当者は情報を探しているということありきで考え、マーケティング手法としてニーズに合わせたサービスサイトを開設し、そこへの流入を狙います。その時に、マーケティングオートメーションという仕組みがあり、お客様がどのようなことに関心を持っているかがデータ化され、わかるようになっています。その情報からお客様のニーズの度合いを確認し、ニーズが合う人に電話・メール・チャット等さまざまな方法でインサイドセールス担当者がオンラインで情報提供をするという営業スタイルになります。

今までの日本の営業は、このようなお客様の関心に関するデジタル技術を活用していなかったのですが、お客様の要望を履歴に残し、例えば「上半期が終わったら購入を検討したい」といった声があった場合、それまで関係を切らないようにインサイドセールスの担当者が定期的に連絡をとるなどして、いざお客様が購入するとなった時にお声がかかるようにフォローしていく仕組みです。

この方法を採用することによって、対面でのコミュニケーションが非常に質の高い時間になります。中身の濃い営業ができる上に、非対面かつオンラインだとお客様との営業機会も多くこなすことができます。

コロナ影響職者にとって逆境をチャンスに変える「デジタルセールス・アカデミー」が持つ可能性

―コロナの影響で解雇や雇い止めにあった方が10万人を超える見込みとのことですが、萩原さんはこの数字に何か感じることはありますか?

萩原:ある意味、致し方がないことだと思います。その現実は受け止めて、それぞれの人ができることで対応していくしかないとは思います。ただ、働くという面でいうと、それをきっかけにしてキャリアアップができる仕事を探したり、その人にとっての転機やきっかけになったりすることはあると思います。

環境によって働けなくなったということは決していいことではないですが、避けようがないこともやはりあるので、そこを是非機会に変えていっていただければと思います。

―コロナをきっかけにどのような方からの応募が増えましたか?

萩原:当アカデミーの研修を受けた160人ほどの人は営業未経験で、飲食店で働いていたり、飛行場でカウンター業務をしていたり、旅行業界で仕事をしていたが、コロナで人が来ず仕事がなくなってしまったなど、様々なバックグラウンドを持っています。いろいろな理由でそういった方たちが私たちの会社に応募し、もともともっていたコミュニケーションスキルに研修を受け、デジタルスキルを身につけて活躍していくということが実現できました。

コロナ禍で職に困っている方はたくさんいるのと同時に、現在は昔のように訪問営業をすることが難しいので「インサイドセールスを導入したい」や「インサイドセールスができる人材がほしい」という企業も増えました。

したがって、非対面でインサイドセールスができる人材を増やす必要があり、私たちはそれを教える仕組みをもともと持っていたので、コロナで離職した方の基礎能力を確認した上で機会を与え、育成していくことで事業としても可能性はあるのではないかと考えました。

―今回、このサービスをそういった方々に開放しようと考えた理由はなんですか?

萩原どんな業界や職種にも、自分で意思を持って成長していきたいと考える人はいると思います。そういった方々に機会を与えたい、ということが一番の理由です。

私は、事情があって大学に行けませんでした。高校は結構な進学校で、友達は早稲田や慶應大学に行っていました。そういった状況の中でも成長したいという意志はあったのですが、環境面や学歴などさまざまな理由で機会が得られない、といったことがあったと思います。

その後、24歳の時にリクルートにアルバイトとして入社しました。そこでは、仕事ができたら評価されるという文化があり、私は営業マンとして300人中ベストテンには入っていたけれど、1位にはなったことはありませんでした。しかし、アルバイトにも関わらず営業ツールを作ったり、研修の委員会に積極的に参加したりしたことを評価していただき、正社員に登用されました。そしてきっかけを得て営業マネージャーまで昇進し、そこで学んだ事によりエムエム総研を設立することが出来ました。

このように自分自身にも成功体験が積めるチャンスがあったからこそ、多くの人にそのような機会を提供したいと思っています。

―「インサイドセールス」と「カスタマーサクセス」にフォーカスしたことに、何か理由や狙いはありますか?

萩原:日本の営業組織は、営業に関わることはすべて営業担当がします。欧米では概ね4つの部門に分かれており、①マーケティング(展示会出展やホームページ開設など)②インサイドセールス(関心がある人に連絡し、商談に繋がるようお客様に商品知識を与え「育成」する)③フィールドセールス・オンラインセールス(ニーズがはっきりした場合に受注する)④カスタマーサクセス(お客様がちゃんと商品を使いこなすようにサポートする。お客様が商品を再購入したり、別の商品を購入したりする)というイメージです。

今の日本企業には②インサイドセールスと④カスタマーサクセスを出来ているケースが少ないので、そこを補うためにこの2つの分野を商材として提供することにしました。

マンハッタンでの営業視察を経て目の当たりにした日本とアメリカの営業スタイルの違いとは?

―日本での営業経験と海外での営業視察を通じて、営業スタイルに明確な違いがあるとおっしゃっていましたが、その違いが生まれた背景は何ですか?

萩原:日本では、高度経済成長期の営業は、数を打てば当たる状態だったので当時はそれでよかったんですよね。ただ、その当時の営業スタイルを現在も多くの企業が引き継いでいます。

一方、アメリカは、戦争のダメージをほぼ受けることがなく経済成長ができたこと、国土が広いこと、通信インフラが当時から安かったこと、「営業は対面でなくていい」という文化的な考えがあったことから、当時から非対面型の営業は進んでいました。

―「マンハッタンの営業マンは飛び込み営業をしているのか?」という疑問を持ち、NYを視察されたとのことですが、そういったアクティブさは昔からお持ちだったのでしょうか?

萩原:アクティブさもありますが、どちらかといえば好奇心が非常に強い方だと思っています。読書をたくさんする方なのですが、小学校の時に図書館のミステリー本をすべて読みましたし、歴史小説は高校ですべて読みましたね。NYに行ったのも、そういった好奇心からです。

―その視察でどんなものを得られましたか?

萩原:今でも一番鮮明に覚えているのは、給与計算のアウトソーシングをしているADPという会社のマーケを視察しに行ったことです。そこで先ほどの4部門があったのですが、ADPでは会社が顧客を担当し、これらの部門で分業して顧客をサポートしているので、クロージングをする営業部隊のなかでトップ営業マンに与えられる報奨が2ヶ月の休暇だったりすることには驚きました。お金ももらえて休みもたくさんもらえるということですね。

日本の営業は、営業マンが顧客を担当している認識があり、長期的な休暇は怖くてとれないという違いがあるので、とても印象深かったです。

それぞれの部門のトレーニングカリキュラムも見せていただくことができて、とても勉強になりました。

「日本の営業の仕組みを変えたい」「海外の合理的なBtoBマーケティングを広めたい」著書に込める思いとは?

―ご自身の著書である『営業の科学』で、大事にされている観点はなんですか?

萩原:一冊目の著書『営業の科学』に関しては、日本の営業や営業に対する考えを変えたいという思いで書きました。私自身、合理的な営業を実践してそれなりに結果を出すことができ、アメリカでも営業に関してさまざまな情報を得られたので、その経験から日本の営業を変えたいという思いがありました。

また、営業は「量的にたくさんこなさないといけない」などと嫌な側面が強調されがちですが、私はそのような悪しきイメージはなく成功体験を積めたので、営業の仕事に対するイメージをもっと良くしたいという思いもあります。

その考えが普及すれば、業績がより伸びますし、営業マンも楽しく営業活動することができるのではないかと思い、この著書を執筆しました。

タイトル的にわざと根性論を否定しています。営業の最終ゴールまでのプロセスは科学的に進めた方が生産性が高いですし、営業している方も楽しめるはずです。そして可能な限りプロセスをシンプルにすることで多くの方が実践できるようにすることも大切だと感じています。

―二冊目の著書『少人数チームからはじめる失敗しないBtoBマーケティングの組織としくみ』は、どんな企業向けに執筆されたものでしょうか?

萩原:二冊目に関しては、マーケティングに焦点を当てているのですが、日本の場合は営業部の中に販促担当というのがいて、販促担当がマーケ的なことをしています。しかし、外資の場合はマーケ部門が一番偉く、マーケ部門の一役割としてセールスがあるという概念があり、マーケティング的な視点で言うとこちらの方が正しい概念になります。

私たちは外資系企業のマーケティング部門と取引をしていたことにより、その知見を身に付けることができたので、これからマーケティングを始めたいという企業に向けて情報を提供したいと考えたことがこの著書を執筆したきっかけです。

まだ明確な日程は決まっていませんが、いま三冊目を準備している段階です。

―三冊目はどのようなテーマで書かれていますか?

萩原:まさしく今回のコロナでピンチを逆境に変えてキャリアチェンジを掴んだ人たちがテーマですね。今まで元焼鳥屋の従業員やミュージシャンだったというような方で、デジタルセールスで成功している人が出てきているので、彼らや彼らを受け容れた企業に対して取材をしています。キャリアチェンジに成功した人を取り上げることで、この職種の可能性を広めたい、そして企業側にもデジタルセールス職の人材を採用、マネージメントしていくための知見を広めたいという思いがあり、執筆を進めています。

萩原社長のワークスタイルについて

―仕事でやりがいを感じる瞬間はどのような時でしょうか?

萩原人の成長ですね。インサイドセールス人材を教育して派遣する部門リーダーが事業を引っ張っていて、ここ4年ぐらいで毎年200%ぐらい成長しているので、そのように会社の中で意志ある人が成長していくところを垣間見た時はやりがいを感じます。

その部門リーダーも、10年前にエムエム総研のコールセンターでアルバイトをしていたことが始まりでした。その後、リクルート時代の私と同じように、正社員になり、マネージャー、役員へと昇進していきました。社内にはそういった方が何人かいて、その人たちが機会を得て成長していく姿を見ることが楽しいですね。

―リモートワークは導入していますか?

萩原:はい、ほぼリモートワークです。昨日、10日ぶりにオフィスに行ったぐらいです。

―リモートワークをする上で便利だったツールはありますか?

萩原:ZOOMやマイクロソフトチームズを使っていますが、そんなに不自由なくリモートワークできています。

ほとんどの打ち合わせがオンラインになったので、移動時間がなくなった分、考えを整理することに時間を有効活用できるようになったことがいいことですかね。

20年以上続く企業の経営者として起業家におくるメッセージ

―起業家へおすすめしたい本はありますか?

萩原:エムエム総研の研修でよく使っているのが『7つの習慣』です。何度も読み返していて研修でも使っているので、ほぼ全編暗記しているぐらいです。ビジネスマンというよりは「人間としてこのように考えれば幸せになる確率が高くなる」という内容です。私たちの会社では自分で考えて選び、選んだことに対して自分が責任を持つという主体性をすごく大切にしていて、そういった観点もこの本では取り上げられているのでおすすめです。

―起業家に向けて一言お願いします。

萩原:私は、事業を始めることよりも事業を続けることの方が大変だと思います。特に社員を雇った場合は、社員を守る責任も出てくるので事業を続けることは大事なことです。そして、自分が嫌なことや向いていないことを事業にすると続かないので、自分の価値観ややりたいこととフィット感のある事業を選んで続ける、ということが一番大切なことだと思います。

―本日はありがとうございました。
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(取材協力: 株式会社エムエム総研代表取締役 萩原張広
(編集: 創業手帳編集部)



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