XTech Ventures 西條 晋一|エキサイト買収で話題沸騰。元サイバーエージェントCOOが語る「投資したくなる起業家」の条件

創業手帳
※このインタビュー内容は2018年12月に行われた取材時点のものです。

XTech、XTech Ventures 代表取締役CEO 西條晋一インタビュー

(2018/12/05更新)

今やインターネット広告において国内最大手の企業となったサイバーエージェント(以下:CA)。その創業期から入社し、専務取締役COOとして数多くの新規事業創出に手腕を振るっていたのが、XTech、XTech Ventures という新進企業の代表取締役CEOを務める西條晋一氏です。
2018年には、ネット広告や通信サービスを手掛ける上場企業「エキサイト」を買収。さらには、大和証券グループ本社の100%子会社であるFintertechからの資金調達を実施して、株式投資型クラウドファンディング事業に参入するなど、めざましい成長を遂げていることでも注目を集めています。

ゼロからの新規事業開発、実力者たちとの衝撃的な出会い。インターネットバブルとその崩壊の中など激動のインターネット黎明期を駆け抜けていった西條氏。
今回はCAと出会ったきっかけや、CAを経て感じた起業に必要な資質について、創業手帳代表の大久保がお話を伺いました。

西條 晋一(さいじょう しんいち) 
早稲田大学法学部を卒業後、伊藤忠商事を経て2000年にサイバーエージェントに入社。2004年取締役就任。2008年専務取締役COOに就任。2013年にWiL共同創業者ジェネラルパートナー、その後コイニー取締役、Qrio代表取締役、トライフォート取締役を歴任。2018年には、既存産業×テクノロジーで新規事業を創出することをコンセプトとする「XTech」と、志をもって起業を考えている優秀な起業家のためのベンチャーキャピタル「XTech Ventures」の2社を創業。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社の母子手帳、創業手帳を考案。2014年にビズシード社(現:創業手帳)創業。ユニークなビジネスモデルを成功させ、累計100万部を超える。内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学、官公庁などでの講義も600回以上行っている。

電車の中で見た求人広告から始まったサイバーエージェントとの出会い

大久保:西條さんはCAの前には伊藤忠商事に在籍されていたと伺いました。伊藤忠商事からCAに移られたのは、どのような経緯だったのでしょうか?

西條:伊藤忠の寮から会社に通う電車の中で、ベンチャー企業の転職フェアの広告を見つけたのがきっかけでした。大企業終身雇用という考え方が変わり、第二新卒という言葉が流行りはじめた1999年終わり頃のことです。ちょうど転職を考えていた時期でもあったので、一度フェアの様子を観に行くことにしました。

そのフェアで、「起業が学べること」「社長の近くで仕事ができること」「入社の際に社長面接があること」という条件で相談をしたところ、CAを含む3社を紹介され、その中でもおすすめと言われたCAの面接を受けることにしました。
その時に対応してくれたのが、CAの代表取締役である藤田さんでした。

大久保:藤田さんと実際にお会いした時はどんな印象でしたか?

西條いわゆる「ゾーンに入っている」というか、高いレベルで集中しているような雰囲気がありました。

当時、藤田さんは優良企業の第二新卒を狙い撃ちしていたそうです。
面接の時は「今どのようなことをやっているんですか?」と聞かれて、「商社で為替ディーラーをやっています」と答えたら、「インターネットがこれからすごいことになるので、すぐ来てください!」と言われたんです。面接の冒頭がそれだったんで、ビックリしました(笑)。

大久保:最初からそのように言われていたんですね。西條さんはその場で「行こう」と決断されたのですか?

西條:そうですね。社長と面接したいという自分の希望も叶いましたし、その場ですぐに内定が出たので、CAに決めました。
翌日には課長に辞めることを伝えて、2ヶ月後くらいには転職しましたね。

ちなみに、転職エージェントが企業と求職者の間に入ってマッチングする、いわゆる「エージェント採用」だったんですが、藤田さんいわく、僕のケースは「CAのエージェント採用史上最もコスパがよかった」そうです(笑)。

サイバーエージェントは衝撃的な体験ばかり

大久保:CA入社後は、どんなことをされたのですか?

西條:面接のときに「新規事業の部署に行きたいです」と言っていまして、内定通知には「新規事業開発室ディレクター」と書いてありました。

ですが、入社初日にオフィスに行くと、デスクの上にパソコンが入っている箱とメール設定マニュアルが置いてありました。実は、僕に内定を出すために作った部署だったので、実際に存在していなかったんです。「設定とかは、自分でやってね」みたいな感じで、一人新規事業開発部っていう形でしたね。

大久保:そこから個人でやりたかったことを実現していくような流れだったのでしょうか?

西條:そうですね。ですが、もともと大企業の管理系・金融系の部署にいたので、最初はどう動いていいかがさっぱりわからなかったから大変でした。社会人5年目にして、生まれて初めてのアポ電をしたり、やったことのない仕事もやりながら、ネットの世界に慣れていきました。

ラッキーだったのが、僕の隣の席が宮嶌 裕二さん(現 株式会社モバイルファクトリー CEO)だったことでした。宮嶌さんはめちゃめちゃネットオタクで、隣にいた僕はいろいろなことを教えてもらったおかげで、一気にネットに詳しくなりました。
転職して、誰が隣の席かというのは重要かもしれませんね。海外事業も含め、「こんなにみんなネット業界のことを知っているんだ!」と一気に意識が上がりました。

さらに「僕はラッキーだな」と思ったのは、入社して半年で子会社社長になったときの役員構成ですね。
僕が社長で、役員が藤田さん、堀江貴文さん(元ライブドア代表取締役社長CEO)、熊谷正寿さん(現 GMOインターネット株式会社 代表取締役会長兼社長・グループ代表)という構成。CA・GMO・ライブドアの合弁会社(※1)だったんです。

※1
合弁会社:複数の異なる企業などが出資して設立される会社で、内国資本と外国資本の会社が共同出資して新たな会社を設立し、共同事業を行うことを目的として運営する。

ベンチャーってなかなか合弁会社を経験することがないと思うんですけど、それに加えてすごい人たちと仕事ができたのがラッキーでした。
役員は三者三様で、それぞれ発想が違うなと感じることがよくありました。
例えば、新規事業でマーケティングして出てきた数字を見て、僕が「全然だめだ」と思ったときに、藤田さんは「こんなしょぼいサービスの状態でこれだけ人が集まるなら、いけるよこれ」と言ったり。非常にポジティブというか、物の見方が違うんですよ。

堀江さんは、突然メーリングリストに登場してものすごいツッコミを入れてきた時がありました。「こんな細かい会話を見ているのか」と思いましたね。

熊谷さんは当時から抜群に人脈があったので、「こういう人いるから紹介しようか」と言ってくださったり。このような方々と一緒に仕事ができたのは、とても勉強になりました。

大久保:入社して早い段階で、様々な濃い経験をされているんですね。ちなみに、子会社社長の経験は起業の際にプラスになるのでしょうか?

西條:「子会社社長」といっても、「自分の会社として経営できるタイプ」と「本社に属している部署みたいにやるタイプ」と大きく2つのタイプに分かれると思います。
本社の社長もしくは担当役員が子会社を管轄しているわけですが、そういう人たちにお伺いを立てながらやる人と、起業したかのように自分たちの力で運営していこうとする人では、経営者としての成長が全然違います。

もちろん、全然言うことを聞かないのはダメですが、独立国家のような感じでやっていた人たちは結構伸びたなという印象がありますね。

ちなみに、XTechでも子会社がすでに5社あります。僕は口は出すものの、基本的には任せるようにしています。自分たちでちゃんと考えさせるようにしていますね。

子会社社長の中でも、自分たちの力で運営していこうとする人は経営者としての成長が段違い

投資は人脈。いいコミュニティに関連しているかでほぼ決まる

大久保:西條さんは投資家としても活躍されていますが、投資先として「この企業は来るんじゃないか」と思う時はありますか?

西條これまで国内外相当数の企業に投資しましたが、「これから来る」っていう企業はわからないという前提で考えています。

例えば、当時ネットエイジ西川社長の紹介でミクシィに投資したことがあるのですが、最初は求人メディア(Find Job!)の会社だと思って投資しました。ですが、その後SNSのmixiで成功して、今はスマホゲームの分野で大きく成長していますよね。
また、今年上場したバンク・オブ・イノベーションという会社ですが、サイバーエージェント・ベンチャーズで投資したときには「Fooooo」という動画検索エンジンサービスを提供していました。ミクシィと同じく、今は当時と違うスマホゲーム事業をやっています。

時間が経つことで、企業が行なっているビジネスはどんどん変わります。なので、投資する段階で「この企業が来る!」と判断するのは難しいですね。

大久保:では、投資する際に西條さんが見ているポイントはどのようなものでしょうか?

西條:投資の見るポイントは、企業の規模によってまったく変わります。

僕のイメージとしては、人間に投資するのと同じだと思っています。
例えば、シード期の企業は人間で言うと赤ちゃん。事業計画書がない場合は、夫婦がこれから家族を形成していくという段階。ミドル期になると、中学生・高校生とか大学生といった具合です。

シード期の企業、いわば赤ちゃんに投資する場合、その赤ちゃんがすごく出世するエリートになるかどうかはわかりません。ですが、ヒントは様々なところにあります。
例えば、人間でいうと家庭環境。両親が高学歴もしくは裕福な場合、「おそらく高等教育を受けるだろう、その場合は成長する確率が高そうだ」という推測ができます。
企業でも同じです。創業者が以前働いていた企業で積極的に経営の勉強をしている経歴を持っていたら、その人が立ち上げたばかりの企業は培ってきた経営のノウハウを駆使して成長する可能性が高いだろう、と推測ができるわけです。

シードの場合は起業家が一人というケースも多いので、チーム(経営陣)で見たいけれどまだチームがなかったりする。その場合、この人が優秀な人を集められそうかどうかというのもすごく見ますね。
人徳があり魅力的な人はいい人を集められますが、逆にいくら優秀でIQが高そうな人でも「この人の下で働くイメージが湧かないな」という人はダメですね。
どこまで行っても、見るのは基本「人」ですね。一番は人。

ミドル期になってくるともう事業があるので、事業計画を結構見ますが、シードではほぼ見ませんね。もちろん、変な資本政策になっていないかどうかは見ますが、事業の方向転換も起こると思うので。素直で魅力的な人だったらいいなと思いますね。

赤ちゃんだとしょっちゅう面倒をみてあげるべきだし、中学生・高校生ならそんなに口を出されたくもないだろうし、しょっちゅうみなくても大丈夫。そういったイメージですね。

ちなみに、僕は投資先を探して投資するということはあまりしません。基本はご縁があるとか、インバウンドで向こうから何か良い問い合わせが来るときですね。紹介ルートを絞ると、網羅性はなくなりますが、クオリティは上がるんです。

投資家目線でいうと投資は人脈なので、投資相手がどんな良いコミュニティに関連しているかでほぼ決まります。

強い思いを持っている人は、ビジョンやアイデアが格段に変わる

大久保:事業を育てるときのベースとしている考え方はありますか?

西條:基本的には、その事業をやるのに適した人が事業をやるべきだと思います。

「こういうのやっといて」と言われてやった仕事よりは、自分で「こうやれば世の中もっとよくなるのに」とか「これ全然イケてないじゃん、俺だったらもっとよくできるぞ」というような強い思いがある事業では、出せるビジョンやアイデアがまったく変わってきます。

サラリーマン的にミッション遂行型でやる事業よりは、自分で課題意識とユーザー感覚を持っている方がいいですね。

大久保:西條さんはいろいろな体験をされてきて、最もシビれた体験はありましたか?

西條: テンションが上がるのは、やはり新しいことにチャレンジするときですね。例えば、サイバーエージェントFXをヤフー株式会社に210億円で売却したときには本格的なM&Aにチャレンジしているというのが楽しかったと思いますし、サイバーエージェント本体に入ってから新規事業を複数立ち上げて事業がどんどん大きくなっていくのも刺激的でした。

思いがあってそれを形にするのは最高の自己実現

大久保:これから起業する人が気をつけるべき「起業家あるある」はありますか?

西條:ベンチャー業界にいてちゃんと外の知り合いがいっぱいいて、いろんなビジネスモデルの話を聞いたりできていれば、あまりおかしな事業計画を作ることにはならないと思います。
逆に、例えば大企業にいて、ネット等の情報だけで「AIだ!」という感じで突然起業するようなことはおすすめできないですね。

資本政策に無知な人もまだ多いですね。全然難しくないんですけど。ちょっと1、2冊本を読めばわかるので、勉強しておくと良いと思います。

あとは、もう少しみなさんプレゼンテーションを勉強したほうがいいですね。
今はピッチコンテストの動画を残してくれているメディアもあるので、それを見て他の起業家がどういうピッチをやっているかを最低限勉強してから投資家のもとに行ってほしいなと思います。

また、エンジニアじゃない人がみんな大変そうだなというのも感じます。「どう作って動かしたらいいかわからない」、「どれくらいのコストがかかるかわからない」とか。いまどきの起業家は最低限コードを書けたり基礎的なことをわかっていないと、ちょっとしんどいんじゃないかなと思います。

それから、大企業の役員をやっていると、部下がなんでもやってくれるので起業するときに意外と実務ができないのもあるあるかもしれませんね。会社の登記から始まって人材採用や社内環境の整備など、実はわからないことだらけになってしまうので、注意が必要ですね。

大久保:最後に、日本の起業家にメッセージをお願いします!

西條:若い起業家は増えているし、投資資金も世の中にはだぶついているので、ぜひミドル層(30〜40代)の方にも起業してほしいですね。
「家族がいて、生活も不安で…」ということで起業をためらっているのだとしたら、そこまで今のVCは厳しくないし、思っているほどリスクなく起業できるのだということを知ってもらいたいと思います。

起業をするのであれば、30代前半くらいまでに企業の新規事業の責任者か、できれば子会社の社長など中心的な役割を経験しておいたほうが成功する確率は上がると思います。大企業にいた人がまったく初めて起業するというのは難易度が高いかと。

「思いがあって、自分で形にする」というのは最高の自己実現だと思います。生き方としての起業。お金持ちになるというより、人生をよくするための起業を考えてみてほしいですね。

30代〜40代の起業家志望は、思っているよりリスクなく起業できるようになっている

(取材協力:XTech株式会社 代表取締役CEO、XTech Ventures株式会社 共同創業者 西條 晋一)
(編集:創業手帳編集部)

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