エアークローゼット 天沼 聰|会社の人格を定め、知らないことは素直に聞き、本気で事業に取り組もう

創業手帳

ファッション業界未経験者が作った女性向けファッションレンタルサービスが会員登録数80万人を突破

プロのスタイリストがコーディネートした洋服を月額制で借りられる女性向けファッションレンタルサービス「airCloset(エアークローゼット)」。2014年に創業後、約7年間で会員登録者数80万人超まで成長しました。2022年7月には東証グロース市場に新規上場。

ところが、CEOである天沼氏は創業までファッション業界にまったく縁がなかったといいます。創業手帳代表の大久保が、なぜコネクションもキャリアもないファッション業界で起業したのか、また経営やブランディングについての思いなど、詳しくお聞きしました。

天沼 聰(あまぬま さとし)
エアークローゼット 代表取締役社長 兼 CEO
1979年生まれ、千葉県出身。ロンドン大学にて情報・経営を学び、帰国後アビームコンサルティングにて IT・戦略コンサルタントを約9年間従事。2011年、楽天に移籍し、 UI/UXに特化したWebのグローバルマネージャーを務める。2014年7月、「“ワクワク”が空気のようにあたりまえになる世界へ」をビジョンを掲げ、エアークローゼットを創業。2015年2月、日本初の普段着に特化したファッションレンタルサービス「airCloset」を立ち上げる。EY Entrepreneur Of The Year 2017、JapanVentureAwards2018、デロイト日本テクノロジー Fast50にて売上げ成長率日本第1位など数々の受賞歴あり。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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起業時に「会社の人格」を設定しよう

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大久保:上場おめでとうございます。まず、エアークローゼット起業までの経緯を教えていただけますか。

天沼:高校のときに、単身アイルランドに留学して寮生活を送り、イギリスの大学に進みました。ずっとデータ活用やコンピュータなど新しいものに興味があって、大学でもコンピュータを勉強したので、ITを活用した何かをしたいと思っていました。

日本に帰り、就職したのはIT系のコンサルティング会社です。9年ほど在籍し、その時点で起業したいと思ったのですが、経験の足りなさを実感し、事業会社で経験を積んでみたいと楽天に転職しました。ウェブのグローバルマネージャーとしてしばらく経験を積み、2014年7月にエアークローゼットを創業しました。

大久保:ファッション業界とは無縁のキャリアだったのですね。

天沼:はい。ITコンサル会社時代の同僚2人を飲みに誘って、起業の意志を伝えると、一緒にやりましょうという話になり、3人でどんな事業にするか話し合ったんです。

せっかく創業するからには、一時の流行で終わるようなものではなく、人のライフスタイルが豊かになり、仕事として長く存続するものに関わりたいと思い、どうしたら人のライフスタイルが豊かになるだろう?と考えました。その結果「時間の価値が高まるような何かをやりたいね」という結論に至ったんです。

どんな人にも等しく24時間が与えられているというのはよく言われることですが、その時間をどう使うか、何を優先するかは人それぞれです。

ライフステージが変わる確率が男性に比べて高い女性は、仕事が忙しくなったり、結婚や出産で可処分時間が減り、ファッションを自由に楽しめない場合が多いということに思い至りました。

楽しいものであるファッションを楽しめていない女性に、どうやったら楽しんでもらえるのかを考えた結果、エアークローゼットが生まれました。

創業のきっかけにはいろいろあると思うんですが、我々の場合は「作りたい世界観があるからそこにむけてビジネスモデルを考えよう」というパターンでしたね。

大久保:現在はSDGsやシェアリングエコノミーという言葉がブームになり、だいぶ世間にも認知されてきた感がありますが、そういったところは意識されたのでしょうか。

天沼:起業した2014年当時は、シェアリングエコノミーやサブスクリプションという言葉自体、まだあまり聞かれなかったですね。

純粋に、時間がなくてファッションを楽しめずにいる女性たちが、どうやったらまたファッションに対してワクワクする時間を持てるのかという視点で事業を考えました。「時間の使い方を変えずに利用できるように、ネットのサービスにしよう」「全部買っていただくサービスにしてしまうと、買ったけれど着ないお洋服が生まれるかもしれないからレンタルにしよう」「膨大な数から選ぶとなると、結局時間がかかってしまうのでスタイリストがお洋服を選ぶことにしよう」「返却期限を決めると時間に追われてしまうので、返却期限はなくそう」こんなふうに議論を重ねて、今のサービス内容が決定しました。

大久保:ホームページを拝見しましたが、同業他社が安さをアピールしているのに比べて、エアークローゼットさんは洋服との出会いの楽しさを前面に打ち出していらっしゃいますよね。会員数が順調に伸びているということでしたけど、こういった面が支持されているのかなと感じました。

天沼:ありがとうございます。エアークローゼットが目指す世界観や、どんなふうにお客様に見られたいかということについては、創業期に何時間も議論を重ねました。いわば会社の人格を決めるということですね。

もちろん経済合理性というメリットもありますが、それよりも一番にお伝えしたいのは「ワクワクするお洋服との出会い」や「お洋服を選ぶ時間や手間がなくなる」ということです。

社内にデザイナーもいて、そういった世界観も共有しているので、言葉使いなどのクリエイティブな面でも世界観が打ち出せているのかなと思います。

ありがたいことに、半年以上サービスを継続して利用されているお客様の比率が右肩上がりで伸びています。意識してきたことは、自分たちは何を実現したくてどういう手段でやるのかということです。「実現したいことの軸が変わらないように」ということは常に意識していますね。

例えばお洋服をお届けする際使われる箱について検討する際は、手に入る全ての箱を買ってきて、どんな風にお洋服が届いたらお客様に感動体験をお届けできるのかということを考えて箱を選びました。単なる配送ではなく、お洋服との出会いを楽しむ感動体験にしたかったんです。

​​創業期はかけられるコストもリソースも少ないですが、どこにお金をかけられるのかを考え、諦めないことが重要だと考えています。

大久保:ブランディングの重要性ということですね。

天沼:はい。世界観をキープするということにはこだわっていますね。私自身がプレスリリースを始め、UIやUXなどお客様に見えるもの全てのディレクションに入ってチェックするようにしています。

創業者の強い思い、本気度が明暗を分ける

お洋服のお届け例

大久保:ネット通販は在庫管理が大変というのはよく聞く話ですが、レンタルになると今度は戻ってくるんですよね。商品の元手もかかりますし、オペレーションの複雑さもありますし、よくチャレンジされたなと思うのですが、いかがですか。

天沼:確かに大変なビジネスモデルを選んだというのはありますね。想像以上に大変な部分は多かったです。会社を設立するときに、実は100個以上ビジネスモデルを出して検討していたんです。

最終的に選んだ理由は、ワクワクするビジョンであり、疑いなくあった方がいいサービス、これがあれば世の中がよくなると思えたからなんですね。

事業計画を書いてみると圧倒的にコストがかかりますし、課題点も多かったのですが、シンプルに挑戦したくなったというのが一番の理由です。

本気でもっともやりたいと思えて、愛着が持てるサービスを創業時に選ぶことが大切だと思いますし、今でもこのサービスを選んでよかったなと思っています。上場でやっとスタートラインに立てたと感じていますね。

大久保:自分も創業手帳を起業した際、キャリアから考えるとネット通販やコンサルが順当な道という中で、こういった冊子のニーズがあるのがわかっていて踏み切ってしまったというのはあります。でも自分が惹かれたというのは強いですよね。

天沼:起業すると、大変な時期もきつい時期も絶対あります。「大変でも、このサービスのためなら頑張れる」という揺るがない信念を作ることが大切かなと思います。

物流に関しても、業務オペレーション的に返却が想定されていないという理由で何度も断られ、「倉庫が作れない!」 というところからスタートしてなんとかシステムを作ってきました。

ビジネスモデルが固まってきた当初、「ファッション業界の人にヒアリングしてみたいね」ということで、経営陣3人でファッション業界の知り合いが何人になるかその場でSNSを開いてカウントしてみたら、見事に0人だったことがあります(笑)。そもそもお洋服を集めるのも大変でしたし、ビジネス構築も大変でした。

物流基盤を作る時は倉庫現場に勉強させていただきに行きましたし、クリーニングもいろいろ体験しに行って、染み抜き機の使い方がうまくなりましたね。現場を知るのも大切なポイントだと思っています。

経営陣に強い思いがないと、こういった壁を破ってシステムを構築することはコストも時間もかかるので、難しいと思います。

例えば楽天市場に関しても、立ち上げ当時は大資本が参入して多くのネット通販サイトが乱立していた時期でした。そういう時期にあってなぜ楽天市場が残ったのか。多くの企業の中で残ってきた企業を見ると、創業者の想いがあり、それが社内に根付いていて、スピード感や意思決定、改善が速いという共通点があると思います。紙一重の本気度が重要になってくるのではと感じています。

大久保:わずかなタイミングや決断の内容によって、結果は大きく違いますよね。

天沼:今までの会社の歴史を振り返っても、苦境時に話をさせていただいた方からの助け舟、人とのご縁も含めて今まで来られました。その際に本気で自分たちが話していなければ、助けてもらえなかった可能性もあるのではないかと思います。そこに本気があるのかどうかによって、結果を左右する何かが絶対にあるんじゃないかと感じています。

大久保:物流やクリーニングのお話を聞いて感じましたが、わからないことを聞くことに関して、何かコツはありますか。

天沼:会社としてはわからないというメッセージを出しづらいですが、一経営者としては自分がファッションについて知らないことは皆さんご存知なので、どんどん質問するようにしていますね。あえて知っているという顔をしても意味がないですし、あとで苦しくなるよりはその時に聞く方がずっと簡単だと思っています。

自分自身が常に学びの姿勢を持つこと、「知らないことはちゃんと知らないと言う」という素直さを持つことは、常に意識しているところです。

やりたいことがあるのなら、まずははじめの一歩を

サービスフロー

大久保:創業してから、一番大変だったのはいつでしょうか。

天沼:間違いなく新型コロナのパンデミックですね。予期していなかったことでしたし、ファッション業界の売上げが10%以上減少するという事態は衝撃でした。

エアークローゼットのメインターゲットがオフィスカジュアルで、会社に着ていくお洋服をどうご提案するかというところだったので、リモート勤務が増えたことで需要が低下しました。また、出勤以外でも人々の外出の機会が減り、ファッションへの興味が薄れることによって、ファッション業界全体がダメージを受けましたね。

大久保:なるほど。創業当時はそれほどSDGsなどの言葉はメジャーではなかったと思いますが、洋服を買っては捨てるということをしなくてすみますし、ビジネスモデルとしては時代に合っていますよね。レンタルして返却するので、場所を取らないというのも魅力です。

天沼:そうですね。研究でも、人々は自分の持っているお洋服を100%活用できていないという結果が出ているんです。さまざまな理由で今は着ないけれど、気に入っているから残しておくというような。今着てご自分に似合うお洋服との出会いを、エアークローゼットで楽しんでいただきたいですね。あくまでもエアークローゼットの目的はレンタルではなく、いいお洋服との出会いですので、そのお洋服が気に入ったら買い取っていただくこともできます。

サービスが生まれた当時は、サステナビリティやSDGsについては正直考えていなかったのですが、シェアリングエコノミーという概念は時代に合っていますし、個人的にも共感するところです。サーキュラーファッションに寄与できるようなビジネスモデルになったことは嬉しく思っていますね。

大久保:今後の展望についてお聞かせください。

天沼:今後もサステナビリティやSDGsの流れは変わらないと思っていますので、その中で今の女性向けサービスをもっとたくさんの方に知っていただきたいと思っています。

現在の超情報社会においては、情報も物もあふれています。選択、集合して提示するというキュレーションの価値が上がっているのはこういった世の中だからと思いますし、皆さん通常はご自分でお洋服を選んでいるわけですけれども、自分でお洋服を選ばなくてもいいという選択肢があることを知って欲しいですね。

また、成長角度を高めていくという観点では、このサービスの対象を男性にも広げていきたいと考えています。

物流基盤もシステムも汎用的に設計してきていますので、今後対象に男性を追加するのはそれほど難易度が高くないと見ています。もっとも苦労した部分でもある物流基盤や倉庫管理システムについては、数年前にシステムを刷新しました。

人口の一定のパーセンテージが、誰かにお洋服を選んでもらうという未来を想像していますが、そのときに選んでいただくサービスがエアークローゼットだといいなという思いでサービスや品質の徹底に努めています。

また将来はレンタルファッションサービスの海外展開も視野に入れていますね。サイズ展開のことも考えると、対象はアジアを想定しています。

大久保:最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

天沼:当たり前ですが、考えているだけでは世界も社会も変わりません。「何かしたい」「自分にできることがある」と思っていらっしゃる方がいたら、ぜひ踏み出して行動していただければと思います。

エアークローゼットも我々3人の思いを形にして始めましたが、ファッションや物流の知識も、コネクションもリソースもない中で、本気で事業をやりたいと思い、その思いだけで歩き始めてここまで来ました。

何かが足りないから出来ないのではなく、本気の思いがあれば出来ると思っていますので、やりたいことがあるのなら本気ではじめの一歩を踏み出していただきたいなと思っています。わたしも新しいことやチャレンジが好きなので、起業家仲間として皆さんと一緒にこれからも頑張りたいと思っています。

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(取材協力: エアークローゼット 代表取締役社長 天沼 聰
(編集: 創業手帳編集部)

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