Holoeyes 杉本 真樹|XR(VR/AR/MR)とAIで医療を革新する外科医起業家(前編)

創業手帳
※このインタビュー内容は2019年06月に行われた取材時点のものです。

医療領域のコミュニケーションにイノベーションを起こすスタートアップの代表に話を聞きました

(2019/06/04更新)

Holoeyesは、医療VRの開発で、医療領域のコミュニケーションにイノベーションを起こすスタートアップ企業です。4月にはSBIインベストメント、三菱UFJキャピタル、みずほキャピタルから総額約2億5千万円の資金調達を実施し、注目を集めました。

同社の取締役兼COOであり、医師でもある杉本真樹氏は、医師の負担を軽減したいという強い思いから、患者のCTスキャンデータやMRIデータをもとに3次元のVirtual Reality(VR)やMixed Reality(MR)のアプリケーションを生成するクラウドサービス「HoloeyesXR」を作りました。
自らの現場経験を元に起業した杉本氏のエピソードと、プロダクトにかける思いを聞きました。

杉本 真樹(すぎもと まき)Holoeyes 取締役COO取締役COO
医師/医学博士。1996年帝京大学医学部卒業。外科医として臨床現場から医療・工学分野での最先端技術の研究開発と医工産学連携による医療機器開発、医療ビジネスコンサルティング、知的財産戦略支援や科学教育、若手人材育成に精力的に携わる。医療・工学分野での最先端技術開発で多数の特許、学会賞などの高評価を受ける。
医用画像解析アプリケーションOsiriXの公認OsiriX Ambassador。2014年にAppleにて世界を変え続けるイノベーターに選出。2016年に株式会社Mediaccelを創業、代表取締役CEOを勤め、2017年Holoeyesを創業、取締役COOを勤める。

現場の疲弊を解消するため、最先端の3D技術を積極的に導入

ーどのようなきっかけから、今の事業を立ち上げたのでしょうか

杉本:私は長年外科医をやっていたんですが、2004年に都内の帝京大学本院から市原市にある病院に赴任しました。そこでは医師が非常に多忙で、現場が疲弊していました

一番大変だったのは手術です。手術では、患者さんのレントゲンとかCTといったデータを元に、運転で言うところの地図のような計画を立てます。ところが、せっかく地図があるのに現場の医師があまりそれを見ていなかったのです。また、データは2Dの情報で、パソコンの画面ではなく、1枚1枚見ていたものですから、「とても非効率だな」と思いました。さらに、実際に手術で扱うのは3次元の情報ですから、データと現実の乖離もあります。

この現状をなんとか変えられないかと思っていた時、CTが登場して、デジタルで患者の3次元データを残すことができるようになりました。実際にパソコンを使いデータを見てみたら、非常にわかりやすく、「これは便利だ」と思いました。そして、これらの情報を、手術の現場でカンタンに見られるようにする方法はないか、と探していたところ、アメリカのAppleが市販しているMacで動く、「OsiriX(オザイリクス)」というソフトを見つけました。

調べると、このソフトはジュネーブ大学の放射線科のドクターが自分で開発したもので、オープンソース(無料でソースコードを公開すること)のツールでした。このオープンソースというのがキーワードで、ソフトのコードが無料で世界に公開されることで、利用者が自分で足りない部分やバグなどの情報を共有できるので、いわば「世界中が開発者」という感じでどんどんフィードバックがあり、改変されて良いものになっていくのです。

私はこのコンセプトに感動し、早速、このソフトを手術の現場に導入しました。それまでの医療は、レントゲンなどのデータは診断の場面でしか使われてきませんでしたが、私は、現場でデータをリアルタイムで確認しながら手術を行ってみました。当時データを手術室で見ようと思ったら巨大な専用のコンピュータが必要でしたが、このソフトを使えば市販のノートパソコン一つ持ち運べば解決します。本当に画期的でした。オープンであり、汎用性があり、カンタンである。オープンソースという言葉が自分の中でキーワードになりました。

ー治療の現場に技術を導入することで、どんな変化が起きましたか

杉本:自分の手術を効率化するために使っていたら、周りの外科医も「自分も使ってみたい」と、どんどん広がっていって、病院が活気を取り戻していきました。手術が効率化されるので、実際に収益も上がったんです。

人の役に立つと、その人がまた別の人の役に立つ。こうして社会全体が元気になっていく。当時は自分が起業するなんて考えていませんでしたが、今思えばこの経験がそのままHoloeyesの企業理念になっています。

私はソフトのヘビーユーザーとなり、使っているうちに見えてきた「もっとこうしたほうが良くなるんじゃないか」というフィードバックを本家のジュネーブ大学に送ってみました。すると、向こうではこのソフトをレントゲンなど診断の場でしか使っていなかったらしく、「外科医が手術の現場で使っているとは思わなかった」と驚かれました。そこから、意見をください、ということで僕もジュネーブに行き、一緒に開発に携わりました。この関係は未だに続いています。

治療だけでなく、教育・啓蒙にも活躍するHoloeyes

ープロダクトの概要を教えてください

杉本:HoloeyesXRは、VR端末を使って、3次元のデータが今そこにあるかのように認知できるプロダクトです。VRのデータの利点は、その場にいる人が複数人で同じデータを見ることができる点です。手術は共同作業なので、現場にいる人たちが同じものを見る必要があります。

これまで、3次元のデータを立体的に見る方法はありましたが、これはパソコンのモニターの中だけでの話でした。モニターに映し出されたデータは結局平面なので、奥行きなどを感じ取るのは難しい。人間は、実際に触ったり回り込んだりしないと立体の奥行きなどを正しく把握できないんです。また手術の現場でデータを見ようとすると、画面を誰かに見せる必要があったんですが、HoloeyesXRを使うとその必要もなくなり、共有が容易になります。

この技術をサービスとして誰でも利用できるようにするために、アプリの開発に注力しました。患者のデータを弊社のサーバーにアップロードすると、15分以内にアプリにして自動で返すというサービスを展開しています。ユーザーにとっては、患者のデータを診断や手術で立体的に利用できるようになります。アップロードされたデータは個人情報が全くない形で保存されるので、我々はそれを他の人に見せたり、売ったりすることもできます。

手術はどの国でも行われているので、例えば年齢・性別・症例などからデータを検索し、実際の患者の状態に近いデータをダウンロードして治療の参考にしてもらうといった使い方ができます。

ー実際に現場で、どのように活用されているんでしょうか

杉本:まず外科医が診断や手術の現場で利用することができます。また医師が自分の技術をトレーニングするためにも使えますし、新人の研修などにも活用できます。

手術の現場でHoloeyesXRを使っているイメージ。複数人で同じデータを様々な角度から確認できる

また、患者さんへの説明にもデータを役立てることができます。レントゲンなどを使った説明ではなかなか伝わらなかった内容も、立体データにして見せることで一般の人でも一発で自分の症状を把握できるのです。このデータは患者さんに持ち帰ってもらうこともできます。市販されているゲームのVR端末などにデータをダウンロードすることで、患者さんが自分の家族に説明したりと、医療の啓蒙にも繋がると考えています

「外科医がCG・ゲーム エンジニアと手を組んだ」柔軟な発想でビジネスを具現化

ー医療系スタートアップのハードルについて教えてください

杉本医療機器として承認を受けることが一番のハードルです。現状、HoloeyesXRは病院が医療機器のための予算で購入することができません。医者や研究者は研究費や雑費として購入しているかたちなので、限界があります。
承認を受けるためには、予算、人材、時間、安全性を担保するための業績も必要で、それらを蓄積し、承認を進めているところです。

ービジネス・プロダクト作りではどんなハードルがありましたか

杉本:我々が超えてきたハードルとしては、レントゲンやCTなどの医療画像のデータをVRなどで見れるように変換したことです。

共同創業者の谷口直嗣は、ゲーム業界でCGデザインをやったりクリエイターをやったり、建築や航空宇宙の領域にも携わってきた「3Dのプロ」でした。医療画像のデータは特殊なフォーマットを使っているので、彼は「医療のデータを3Dに変換してみることは無理だろう」と思ってたらしいんですが、私はそれ以前に医療データをCGや立体で見れるようフォーマットを変換することができていました。このことを谷口が知って、ネットを通じて私に連絡をくれたんです。

そこで、私が使っていたポリゴンのデータを彼に渡した所、彼がすぐにプログラムを作ってくれて、頭蓋骨のデータが宙に浮いたんですね。「これだ!!!」ってなりました。

今まで、医療でこういうことをやろうと考える人がいなかったんです。
外科医がCG・ゲーム エンジニアと手を組んだ
ことで、これまでできなかったハードルを超えることができたといえるでしょう。

ビジネスとしては、収益化を実現する必要がありました。私は神戸大学や色んな企業と共同研究契約したり、特許を取るという取り組みを進めていたのですが、こういった取り組みの成果が一般に販売できる形で上梓されるケースが本当に少ないんです。すごいものを開発して特許をとっても、自慢話で終わってしまう。しかし、売らないとビジネスにならないし、みんなが使ってくれない。患者さんの手元に届かないと意味がないんです。

届けるためには、ビジネス化して、その収益で次のプロジェクトやサービスを作っていかないと、社会や経済が回りません。これに気づいて、起業を決意し、ビジネスを具現化できたというのがあります。

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(取材協力:Holoeyes/杉本 真樹
(編集:創業手帳編集部)



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