ロビイング(ロビー活動)とは?意味や企業事例を紹介します
日本でも重要性が高まっているロビイング(ロビー活動)!その理由や手法を解説
幅広い業界でグローバル化が進む昨今の中で、自社をさらに発展させていくために「ロビイング(ロビー活動)」に注目する企業が増えています。
ロビイングとは具体的にどのような活動であり、実際に行うことで企業はどのようなメリットを得られるのでしょうか?
そこで今回は、ロビイング(ロビー活動)の意味から日本でも重要になる理由、手法や事例までご紹介します。ロビイングについて理解を深めたい方はぜひ参考にしてください。
この記事の目次
海外では盛んなロビイング(ロビー活動)とは
ロビイング(ロビー活動)は国内だとそれほど認知度が高くないものの、欧米では盛んに行われています。
まずはどのような活動なのか、日本だとどのようなイメージを持たれているのか解説していきます。
企業・個人が政府や国際機関に働きかける活動
ロビイング(ロビー活動)とは、自社の商品やサービスが有利に展開できるよう政府や国際機関に対してルールを策定するよう働きかける活動を指します。
ビジネスを展開する上では、様々な法律・ルールで規制されていますが、あまりに縛られ過ぎているとビジネス自体が衰退する可能性もあります。
こうしたリスクを回避し、有利にビジネスを行えるようにするのがロビイングです。
日本では国民が持つ権利として、「請願」や「陳情」といった制度があります。
請願とは国民が国政に対して直接国会に要望を伝えられる権利で、陳情は議員を介さずに直接文書を送付できるものです。
いずれも政府に対して直接働きかけられるため、ロビイングに似ているといえます。
日本ではマイナスイメージが持たれがち
請願・陳情も含めロビイングは日本だとあまり馴染みがなく、国民の認知度もそれほど高くはありません。
しかも、人によってはマイナスのイメージを持っていることもあります。
実は日本でもロビイングは昔から行われてきました。
しかし、政治献金などを通して行われてきたものであり、場合によっては特定団体が私利私欲を目的に活動や制度をうまく利用してきたため、マイナスのイメージがついてしまいました。
しかし、ロビイングの本来の目的は自社の利益追求だけでなく、国や社会をより良い方向へと導くためのものです。
そもそも請願や陳情は国民一人ひとりが利用できる権利にあたるため、正しいプロセスを踏んでいれば問題はないのです。
日本でもロビイング(ロビー活動)が重要な理由
現在はまだあまり一般的ではないものの、グローバルビジネスがさらに進んでいけばロビイングの重要性は高まっていくと予想できます。
続いては、日本でもロビイングが重要な理由を4つ挙げてご紹介します。
国際競争に勝ち抜くため
グローバルビジネスが進展する中で、日本の企業が国際競争に勝ち抜いていくためにもロビイングが重要です。
国際ビジネスにおいて、国際的な取り決めや自国と外国とのルールの違いが生まれるのはもはや必然ともいえます。
そんな中で、自社にとって利益を得られるルールを策定しようと、積極的にロビイングが行われています。
上記でも述べたように海外ではロビイングが一般的なところも多く、ロビイストと呼ばれる専門の人材を雇用するほどです。
このようにロビイングが一般的な海外の企業に勝つためには、こちらもロビイングを行っていく必要があるのです。
ルールによる影響から事業を守るため
各国で決められているルールによる影響から、事業を守るためにもロビイングが活用されます。
海外で事業を展開する場合、あらかじめその国における法律やルールなどを徹底的に調査することが基本です。
法律やルールの調査を怠ってしまうと、後から問題が発生した際に対応できなくなり、場合によっては事業自体が失敗に終わってしまう可能性もあります。
万が一自社にとって不利益を被る法律・ルールが存在する場合、事前にロビイングを実施しておくことで海外での事業進出もスムーズに行われることになります。
ロビイングや事業を開始してからの内容修正は大きな手間になってしまうことも少なくありません。
なるべく事業を展開する際にロビイングに対する意識を持っておくことがポイントになります。
政府との協力で公益性を高めるため
ロビイングが重要な理由として、政府との協力で経済の発展につながることも挙げられます。
ロビイングによって事業が進めやすくなり企業も発展していけば、国内の経済全体に良い影響をもたらし、国全体の利益になる可能性もあります。
諸外国にも負けないほどの力がつけば、さらに日本企業は世界のあらゆる企業と戦っていけるようになるはずです。
また、政府が現場を知らない状況でルールを策定してしまうと、現場に混乱を招いてしまう恐れもあります。
官民一体となってルールの改変・策定を実施することで、現場の実態にも考慮したものが作れるのです。
日本の公益性を高めるためにも、今後ロビイングは重要な役割を果たすといえます。
これまでになかった新しい事業を展開するため
企業が新市場で新たな事業にチャレンジする際にも、ロビイングは大きな役割を担います。
時代は常に変わっており、その都度適したルールが策定されてきました。
しかし、中には時代に取り残されてしまい、現代にはまったく合っていないルールも存在します。
以前までのルールが残ったままになっていれば、これからの時代に向けたビジネスを展開しようとしても妨げの原因になる恐れがあります。
特に、誰もチャレンジしてこなかった新市場での事業展開となると、現代やこれからの時代に適したルールを策定しなくてはなりません。
新市場で新たな事業を進めるために、ルールという名の地盤を固めるにはロビイングが必要になってくるのです。
ロビイング(ロビー活動)の手法3つ
ロビイングは大きく分けて3つの手法に分けられます。それぞれどのように行うと効果的なロビイングにつながるのか解説していきます。
1.経済団体に加盟する
自社が経済団体に加盟することで、業界全体が有利に働くよう国・国際機関に政策提言活動を行っていきます。
経済団体にも様々な種類がありますが、特に有名なのが「経済三団体」です。
一方、新しい経済団体も誕生しています。例えば「新経済連盟」がそのひとつです。
新経済連盟は国内のテック企業を中心に、ネットを介したコンテンツ産業を行う数々の企業が参加する経済団体です。
新産業の発展を通じて国政の健全な運営や地域社会を健全に発展させること、さらに公正で自由な経済活動の確保・促進・活性化によって国民生活の安定向上に寄与することを目的としています。
新経済連盟が行った活動には、2023年度税制改正への提言なども含まれます。
2023年度税制改正にて税率の引き下げを求めると共に、法人税や所得税、相続税のほかにも暗号資産税制(法人税)の見直しや、新たな働き方などに対応した税制の見直しを図るよう提言しています。
このように、活発的に政府への提言を実施する経済団体に加盟することで、自社や業界全体に良い影響をもたらす可能性があります。
2.国会議員へ請願・陳情する
日本国憲法において国民の権利として利用できるのが、国会議員への請願・陳情です。
日本の法律は基本的に国会議員または内閣から提出された法案をもとに、衆議院・参議院で審議を行い、制定していくものです。
法案を提出してから審議に至るまでに関係省庁や機関と調整を行ったり、審議の場面でも様々な意見を反映させたりする必要があります。
こうしたプロセスの中で国会議員宛てに請願を提出することもロビイングです。請願書を作成したら国会の会期中に提出できますが、議員の紹介が必要となります。
陳情に関しては議員の紹介は必要ありません。要望したい内容を文書にまとめ、衆議院議長あてに郵送で提出します。
提出された陳情は議長が目を通し、必要と認めたものを各委員会に参考送付されます。
3.ディシジョンメーカー(意思決定者)に直接働きかける
ディシジョンメーカーへ直接交渉にうかがうこともロビイングの手法です。ディシジョンメーカーとは最終的な決定を下す人物を指します。
ただし、出資者や決裁権を持つ人物が必ずしもディシジョンメーカーであるとは限りません。
ディシジョンメーカーに直接交渉をしていくことは重要ですが、さらにあらかじめ周到な根回しを行うことで効果的なロビイングにつなげていきます。
例えば事前にレセプションを開催し、ディシジョンメーカーや投票権を持つ人たちを招待することで支持者を増やすことも活動のひとつです。
ロビイング(ロビー活動)の企業事例
実際にロビイングを行った結果、グローバル市場の中でも有利な立場を獲得し、事業を成功させた企業は存在します。
そこで、ロビイングの成功事例を紹介します。
非接触ICカードの通信規格を国際標準化
大手総合電機メーカーのA社は非接触ICカードの通信規格を国際標準化させました。
IC乗車券の導入を進めようとした際、ライバル企業がWTO政府調達協定違反として異議申し立てを行います。そこでA社はルールを形成することで対抗手段を取ったのです。
ICカードの国際標準は成立する前であったため、申し立ては却下されました。
また、A社の通信規格は非接触ICカード規格だけでなく、汎用通信規格にも決まったのです。
これらはA社がロビイングを実施したことで、自社にとって不利になってしまうルールを回避することに成功しています。
結果として規格変更をせずにIC乗車券への採用が決定しました。
乳酸菌飲料の国際規格を策定
B社は業界団体を介して、乳製品の国際規格を促しました。
このロビイングにより海外において乳酸菌飲料を健康食品に位置づけ、認知度の向上に成功しています。
B社がまず行ったのは、他社と差別化できる要素を探ったことです。
自社の商品には特定の乳酸菌が豊富に含まれていることから、一般的な清涼飲料と異なることを定義づけます。
さらに、自社独自の要素がさらに際立つようなルール形成を促します。
全国発酵乳乳酸菌飲料協会から国際政府間組織であるコーデックス委員会へ発酵乳規格の新たなカテゴリーを設けるよう働きかけたのです。
また、特定の乳酸菌が含まれていることをアピールすることで認知度を獲得し、世界各国で乳酸菌飲料が健康食品としての位置づけに成功します。
例えばイタリアだと食品区分が変更されたことで税率の低減まで実現しました。
こうした取組みの結果、自社製品の売上げ増加はもちろん、健康食品としてのイメージを確立させ世界的に売上げを拡大させていったのです。
ライドシェアサービスのシェア拡大
ライドシェアサービスはドライバーと相乗りを希望する人をマッチングするサービスで、海外では普及が加速しています。
また、一般ドライバーが自家用車を使って有料で同乗者を輸送することも可能です。
そんなライドシェアサービスで世界的なシェアを獲得しているのが、C社になります。
しかし、東南アジアの地域ではC社が現地発のベンチャー企業・D社に苦戦している状況です。
D社は現地発の特性を活かし、その地域の有力者とタッグを組むことで地域ごとに最適な戦略を実施しています。
例えば現地の大手財閥と提携を組み、地域では主流となっている電子マネー事業を展開したことでユーザーの利便性が向上し、シェアを拡大させていきました。
一方のC社は欧米ではシェアを拡げているものの、東南アジアをはじめとするアジア諸国で獲得できないのはロビイングの失敗が要因として挙げられています。
ASEAN諸国に欧州の自動車基準を適用させるルール形成
欧州の大手自動車メーカー・E社もアジア市場でシェアを獲得するためにロビイングを実施しています。
現時点でASEAN市場での欧州車の販売量は限定されているものの、今後本格的な事業展開を目指して欧州の自動車基準をASEAN諸国に適用させるよう取り組んでいるのです。
例えばタイにはもともと代替燃料車の普及を狙う税制が展開されていますが、この税制は車両構造に対して課税される仕組みになっており、ハイブリッドカーが優遇されるものでした。
この税制に対してドイツ自動車工業会は、コンベエンジンも公平な評価を受けるために欧州で取り入れられているCO2排出基準課税をタイ政府に提案します。
その結果、タイ政府はCO2排出量に連動する新物品税制へと変更したのです。
ドローンの商用利用
ドローンを商用利用化させるために、関連企業がロビイングを行っています。
例えばテクノロジー企業のF社はドローンや航空法に関する専門家を雇用し、ビッグテックに含まれるG社は2019年からドローンで宅配するサービスを発表しました。
また、ドローンの運用において影響を与える「連邦航空規則」などに対するロビイングも実施しています。
さらに中国の大手ドローン企業4社がドローン法制におけるロビー団体まで設立しています。
こうした取組みの結果、アメリカで新たなドローン規制の法案が成立しています。
今後は規制も緩和されていき、本格的にドローンの商用利用化が行われていくことでしょう。
まとめ
ロビイングは日本だと未だに認知度は低くマイナスなイメージを持たれることも多いですが、海外だとかなり普及している制度です。今後グローバルビジネスを成功させる上で、ルール形成に対する動きは非常に重要な役割を持つことになっていきます。
「ロビイングは大手企業が行うものであり、中小企業には関係ない」と思われてしまうかもしれませんが、自社製品を海外へ売り出していくためには決して関係ないとは言い切れません。
自社の継続的な発展を目指すのであれば、ロビイングもひとつの観点として取り入れてみてください。
(編集:創業手帳編集部)