The360 平田 瑞穂|360度VRライブ配信「スクールライブ360」で学校行事をアップデート

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年04月に行われた取材時点のものです。

コロナ禍で保護者が参列できない学校行事にVRカメラを設置。スマホで自分の子どもだけを間近で視聴可能に!

コロナ禍で子どもの卒業式に参加できなかった経験を元に、学校行事にVRカメラを設置し、スマホから視聴できるサービス「スクールライブ360」を提供するThe360合同会社の平田瑞穂さん。

ステージ上にVRカメラを設置することで、子どもの顔を間近に見られるようにするなど、VR業界の中でも画期的なサービスを展開しています。

学校行事に特化したVRサービスや、今後の事業展開について創業手帳編集部が聞きました。

平田 瑞穂(ひらた みほ))
The360合同会社 CEO(経営責任者)
学生時代はミュージシャンを目指していました。18歳の時、DTMの為に始めて買ったパソコンは、Windows3.1パソコン本体とOSやソフトで100万円近くの投資をする羽目に…。そのパソコンで学んだ事は、目的のDTM(PCで音楽編集する作業)だけではなく、BBS(掲示板)を使ってたくさんの人と繋がる事と、Webサイト構築の知識。私のIT事業のルーツです。

髙橋 颯(たかはし はやて)
The360合同会社 CTO(技術責任者)
北海道大学大学院卒・環境工学専攻。都内のITコンサル会社を経て独立。札幌に生まれ札幌に育ち、今も札幌を愛しながら、札幌からVR技術とスーツと環境問題提言で世界をカッコよくするビジネスをしている。先進技術の検証と社会実装が大好物。人の困りごとは全部解決したいと思っている。なので器用貧乏、もとい器用大富豪になりたいと願っている。

岡田 豊(おかだ ゆたか)
The360合同会社 CDO(事業開発責任者)
子供の頃は一度見たら覚える天才児。今は嫌なことはすぐ忘れるビジネスモデルカウンセラー。冬以外はだいたいアロハ姿。思想家な大人の皮を被った子供。破天荒な人生を語らせたら一日中1人で話せる引出しの多さがアイディアの元。ドラえもんを名乗り、社会問題解決やお客様の思いを持続可能なビジネスとして具現化するのが得意。

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「CHIBAビジコン2021」で4つのサポーター賞を受賞

ー「CHIBAビジコン2021」では、創業手帳を始め4つのサポーター賞の受賞、おめでとうございます。

平田:ありがとうございます。

ーCHIBAビジコン2021でも発表されていた「スクールライブ360」というサービスについて教えて頂けますか?

平田:スクールライブ360は、卒業式などの学校行事にVRカメラを設置して、ライブ配信するという学校に特化したサービスです。

この学校行事をVR配信するサービスが、私たちがThe360という会社を作った背景になります。

VR技術でコロナ禍の学校行事を3Dライブ配信

ーThe360を創業された背景を教えて頂けますか?

平田:私は神奈川県でwebデザイナーとして活動していましたが、北海道への移住を検討し、2018年に「北海道移住ドラフト会議」というイベントに参加しました。

そのイベントでThe360のメンバーである北海道在住の高橋と出会いました。

元々、高橋がモテるために買ったVRカメラ(笑)でさまざまな撮影を検証していたので、2019年の北海道移住ドラフト会議のイベントで、私と高橋でVRカメラを使ったライブ配信を実験的に行って成功したのが私のVR配信との出会いでした。

2020年に新型コロナウイルスの流行が拡大した当時、私には中学校3年生と小学校6年生の子どもがいまして、二人とも学校を卒業するタイミングでした。

しかし、コロナ禍で親が卒業式に参加できないという問題に直面しました。

そこで、卒業式に参加できないなら、ライブ配信を実施したいと思ったのですが、せっかくであれば平面映像ではなく、360°映像(VR)の方が学校行事には向いていると思いました。

子ども達が通う小学校でも中学校でもPTAをしていたこともあり、先生に直接VRでのライブ配信の相談をしました。

この時、多くの先生方や保護者の方々からも「ぜひやってほしい!」と多くの応援の声を頂き、絶対にサービス化したいと決意しました。

このタイミングで、元々仕事仲間だった千葉県在住の岡田に相談し、「スクールライブ360」のプレスリリースも出したところ、行政や学校、保育園から20件ほどの問い合わせを頂きました。

しかし、2020年はコロナ禍に入ったばかりで、リモートでの配信も前例がなかったので、全ての保護者に許可をもらわないといけなくなり、1件も実施できませんでした。

この経験を元に、2020年7月にThe360合同会社を設立し、千葉県と神奈川県と北海道にそれぞれメンバーがいる完全リモートの会社運営が始まりました。

学校行事をアップデートする「スクールライブ360」

ー2020年には卒業式のVRライブ配信はできなかったとのことですが、その他に、VRライブ配信を実施できた学校行事はありますか?

平田2020年の秋に神奈川県の中学校の合唱祭のライブ配信を実施したことが、「スクールライブ360」の最初の実績となりました。

通常であれば市民ホールで合唱祭を開催し、保護者の方々も参列して合唱を見る行事でしたが、新型コロナウイルスの感染を考慮し、参列客の動員はなしにして、飛沫感染対策をした学生だけで合唱祭を実施することになりました。

ここにVRカメラを入れて、ライブ配信を行うことになりました。

全校生徒が760名ほどの中学校でしたが、合唱祭のライブ視聴率は60%を超え、ライブ配信を成功させることができました。

このイベントを視聴した方々に、VRライブ配信を喜んで頂いたポイントとしては、カメラを生徒に近いステージ上に置いて撮影したことでした。

特に、合唱祭で指揮者をする生徒の保護者の方々はとても誇らしく感じると思いますが、実際に見に行っても背中しか見えず、どんな顔で指揮をしているのかは、通常であれば絶対に見えません。

しかし、私たちが提供するスクールライブ360であれば、左右最低2箇所にカメラを設置するため、どの生徒の表情も近くで見られます。

通常の学校行事では見られない、子どもの表情を間近で見られて嬉しかった。」と多くの保護者の方々に喜んで頂きました。

学校行事に特化したビジネスモデル

ースクールライブ360のサービスは、一般的なVRライブ配信のサービスよりも格段に価格が低いように感じますが、それは学校行事に特化しているからでしょうか?

平田:スクールライブ360は、学校行事に特化した価格設定とビジネスモデルです。

現状、日本の学校や公共施設の電波状況はとても不安定で、VRライブ配信をすると、通信が落ちてしまうトラブルが発生します。

従来の業務用VRライブ配信サービスでは、ライブ配信に合わせて、特設の回線を準備して配信に臨むことが多いです。

しかし、スクールライブ360は学校行事に特化したサービスとして、価格を極限まで下げているので、専用の回線を引くことができません。

実際に、ライブ配信中に回線が落ちてしまうトラブルも起きています。

そこで、回線が落ちたタイミングの映像も後で見られるようにするために、平面映像の撮影チームも同行し、後日その映像を編集したDVDを販売しています。

VRライブで叶えた保護者の願い

ー卒業式でのVRライブ配信も実施できましたか?

平田:企画から1年後の2021年3月に、ようやく卒業式でのライブ配信が実現しました。

保護者が最も見たいのは「自分の」子どもや孫の姿です。

子どもがステージに上がった姿を遠目で見るだけなく、校長先生の話をどんな顔で聞いているのか?卒業証書を受け取る時は緊張した表情ではないか?など、細かい仕草や表情を見たいのです。

これを叶えられたのが、すごく嬉しかったです。

ー学校行事をVR映像として残すことのメリットを教えて頂けますか?

平田:保護者の方々はもちろん、自分の子ども達を見たいと思いますが、その子ども達が大人になった時には、自分の顔ではなくお友達の顔や当時の先生の顔を見たいと思うかもしれません。

このように見る側のわがままを叶えてくれて、見る側が見たい場所を選べるのが、VR映像の一番のメリットだと考えています。

スクールライブ360は、コロナ禍をきっかけに生まれたサービスですが、コロナが明けても求められるサービスとして育てていきたいと思っています。

次に私たちがやりたいと思っているのは、学校の教室をVRで撮影することです。

今通っている子ども達の教室は今しか見られません。

その壁には自分たちが書いた習字が貼ってあり、黒板には友達の名前が当番として書かれています。

今この瞬間の教室をVRで空間ごと保存しておくことで、将来同窓会を開催する時に、そのVR画像をメタバース空間として同窓会の会場にできるかもしれません。

VRライブ配信を実施した近くの学校からの問い合わせも増加

ー合唱祭の実績により、さらに問い合わせが増えましたか?

平田:1つ実績ができると、近くの学校にも噂が広がり、こちらの学校でも実施して欲しいという依頼が増えています。

例えば、合唱祭の次にVRライブ配信をさせて頂いた卒業式は、合唱祭のライブ配信を行った中学校の隣の小学校からの問い合わせでした。

その小学校の校長先生は、隣の中学校で実施した合唱祭のライブ配信についての話を聞いて、自分の小学校にも取り入れたいと思って頂いたようです。

他の問い合わせとしては、北九州の学校からの問い合わせで、教員側の育成を目的とした研究授業に活用するご依頼も頂きました。

この研究授業も視察に来た先生によって、教える先生の立ち振る舞いを見たい方も、生徒の反応を見たい方もいて、見たいポイントがそれぞれ異なります。

ここでも見る側のわがままを叶えられるVRライブ配信の強みが発揮されている事例です。

スクールライブ360の次なる挑戦

ースクールライブ360の次の構想などあれば教えて頂けますか?

平田:スクールライブ360の次のステップとして、The360として自社サーバーを作って、先生達が自分たちでVRライブ配信ができる環境を整えています。

セキュリティ面を万全にしつつ、学校がVRカメラを保有して頂ければ、私たちが使い方をレクチャーします。

私たちがライブ配信の度に学校に行くと、その分1回のライブ配信にかかる費用が上がってしまいます。

しかし、先生達が自分でライブ配信をできるようになると、コロナ禍の影響で実施しにくい授業参観や他校との交流をいつでも実施可能になります。

このサービスが確立できれば、低予算で実施できるので、生徒が少ない学校でもライブ配信ができるようになるかもしれません。

早ければ来年度中にはリリースしたいと考えています。

岡田:今準備している自社サーバーにはAIを搭載しており、将来的にはワンタップで自分の子どもをカメラで追えたり、小学校から高校までの運動会の映像から、自分の子どものシーンだけを集めたダイジェスト版の自動生成もできるようになる見込みです。

「VR撮影自立コンサルパック」でVRを普及させたい

ー「VR撮影自立コンサルパック」という事業が生まれた背景について教えて頂けますか?

平田:2021年末にdocomoさんが実施するXR研修で、VRについての講師を勤めさせて頂きました。

この依頼を頂くまでは、私たちが現場に行って撮影を行うことしか考えていませんでした。

しかし、この経験を通じて、VRを教えることや、VRを使える人を増やすことも私たちの役割だと感じるようになりました。

このような経緯で、誰でもVR撮影ができるよう指導する事業として「VR撮影自立コンサルパック」事業を始めました。

ー「VR撮影自立コンサルパック」は、具体的にどのようなサービスを実施していますか?

平田:弊社とパートナーシップ契約を結んで頂き、VR技術でできることをお伝えしたり、VRカメラの使い方を教えています。

VR画像の撮影はお客様でもできるようになりますが、撮影したVR画像をつなぎ合わせて、VRツアーを編集するのは、かなりの専門知識と経験やコストが必要です。

そこで、パートナーシップを結んでいるお客様には、撮影だけして頂きます。その後、その撮影データを弊社に送って頂き、弊社でその画像を編集し、VRツアーを完成させます。

お客様に撮影をして頂くことで、弊社で撮影から実施するよりも、かなり格安で3Dツアーを作ることができるので、企業からの問い合わせには、こちらのサービスをおすすめしています。

千葉、神奈川、北海道の完全リモートで会社を運営

ー3名ともお住まいのエリアが異なり、基本的には完全リモートで会社を運営とのことですが、エリア分担について教えて頂けますか?

平田:関東の案件は私と岡田が中心に対応しており、北海道の案件は高橋が、そしてもう1人、福岡にいるメンバーが福岡を起点に九州近傍の案件に対応しています。
VR撮影のご依頼の場合は、現場に近いメンバーが臨機応変に対応していることが多いですが、私は全国どこでも飛び回っています。

ー役割分担もあれば教えてください。

平田:役割分担については、まずメンバー全員が営業を行います。

講師や登壇などでVRについて話す役割は、私が主に行っています。

VRの技術面やVR機器の設定、お客様のご要望を今の技術で実現できるかどうかの実証などは、高橋を中心に行っています。

そして、ビジネスモデルの構築などを、岡田を中心に行っています。

リモート会社経営におけるコミュニケーションの工夫

ーメンバー3名の拠点が離れていることで困ったことなどはありますか?

平田:困ったことは特にないですが、たまには会って交流したいと思うことはあります。

そこで私たちはVRゴーグルを使って、ボーリングなどのレクリエーションを通じて、楽しく交流しています。

また、ミーティングはズームの他にも、VRゴーグルを使ったバーチャルミーティングを実施することもありますが、本当に目の前に相手がいる感覚になるので面白いです。

高橋:完全リモートで会社運営をするというと、コミュニケーションが希薄化すると思われますが、実際はそうではありません。

私たちはコロナの前からリモート中心の活動ですが、直接会っていなくても、週に2〜3回ズームで顔を合わせて話し、たまにVRでハイタッチやハグなどの交流をしていると、対面以上のコミュニケーションが取れると感じることもあります。

VRで解決できる地方の課題

ー現状は学校を中心にVRサービスを展開されていると思いますが、今後、他にも注力したい分野などありますか?

平田地方創生の分野には力を入れていきたいと考えています。

「何もないがある」を魅力として発信したいと地方も増えてきていますが、この分野こそVRの得意分野だと考えています。

VRでその地方の魅力を周知して、ARで集客するというVRとARの組み合わせで、最新技術を使った地方創生に貢献したいと思います。

高橋:地方の行政や学校、中小企業こそ、VRの技術を必要としているのですが、地方にいるほとんどの方がVRの使い方や楽しみ方をまだ知りません。

また、実際に地方でVRを使ったライブ配信やイベントを開催しようとすると、かなり高額になってしまいます。

そこで、私たちからVR機器の使い方を教えたり、VRの魅力を広めながら、VRで地方を盛り上げられる人材を増やすことも、私たちにできる地方創生への貢献だと考えています。

岡田:「スクールライブ360」事業で学校行事をアップデートできると広めたり、「VR撮影自立コンサルパック」事業で多くの方にVRを身近に感じてもらうなど、VRを広めることも私たちの役割だと考えています。

高橋:私たちのテーマとして「VRで時空を超えたワクワクを提供します。」と現状はなっていますが、「VRで時空を超えたワクワクをみんなが提供できるようにします。」にテーマが変わりつつあります。

ー最後に今後の展望を教えて頂けますか?

平田:まずは子どもの笑顔をもっと身近で見られる環境をVRで作っていきたいです。これが私自身が1人の母親として絶対に欲しいサービスなので、必ず実現したいと考えています。

他にも、VRの技術を使って問題を解決したい方や実現したい目標を持っている方に、VRの技術を教えることで、より多くの方々を笑顔にしていきたいです。

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(編集:創業手帳編集部)

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(取材協力: The360合同会社 CEO 平田 瑞穂
(編集: 創業手帳編集部)



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