経営計画書作成のステップを徹底解説!ー経営理念~個別方針編ー【飯島氏連載その2】
スパッと解決・経営改善のプロ、飯島彰仁氏に聞く、社長のための経営計画作り・超入門
前回に引き続き、この連載では企業の成長に欠かせない「経営計画書」の作り方について解説していきます。今回と次回の2回にわたり、経営計画書の中身を具体的項目ごとにどのように記載するかについて説明します。
コロナの影響で、出口の見えない不況の時代となりつつありますが、こんな時だからこそ、自社の経営理念や方針を見つめなおし、そして市場の変化に対応した「経営計画書」による未来への舵取りが重要です。
今回も、古田土経営の飯島氏に創業手帳の大久保が「経営計画書の書き方」をうかがいました。経営計画書の軸ともなる経営理念や個別方針とはどのようなものか、さらにはどうやって書いたらよいのかについて説明していただきました。
株式会社古田土経営 代表取締役社長
2005年に古田土会計公認会計士・税理士事務所(現 税理士法人古田土会計)に入所。現在は、同法人含むグループ企業の株式会社古田土経営 代表取締役社長。経営計画を主力商品とする古田土会計グループにおいて、営業活動することなく年間100~150社の新規開拓をするスキームを作り上げ、現在2,300社超の中小企業を指導する。経営計画書の作成については毎年400社以上を指導しており、作成した会社の黒字割合85.8%を実現している。(日本企業の黒字率 34.2% 国税庁H29年より)また、同ノウハウを同業者である会計事務所にも提供する会計事務社経営支援塾を運営。同業者に対する経営計画作成支援実績330事務所は日本No.1を誇る。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください
この記事の目次
「経営理念」は企業にとっての旗印!
大久保:前回のお話でも出たように、経営計画書の前半部分は、経営理念や方針などのいわゆる定性的な内容をいれるとよいと教えていただきました。たしかに、経営理念は大切ですが、実に概念的なのものであるのも事実です。どういうものが理念なのでしょうか。また、計画書に取り入れることはなぜ必要なのでしょうか。
飯島:経営理念とは、ミッション、ビジョン、バリューなどとも表現されるように、企業の存在意義を言語化したものです。一般的には、社会・顧客・社員などのステークホルダーにどのような影響を与えるか表現したものが多いかと思います。
こうした理念は、経営計画書の一部として大変重要です。前回もお話しましたが、経営計画書は「経営者」が進む方向を示したものです。経営理念は、経営者の姿勢を言語化したものであり、事業の目的でもあります。
こうすることで、社員をはじめとして取引先や顧客までに「この会社はこういうことがしたいんだな」という目的が伝わります。存在意義が伝わることで、社員は働くモチベーションになりますし、顧客や取引先にも商品サービスの価値の深いところを理解してもらえる可能性が高くなります。
私も古田土経営の事業を継承し、代表の座に就いたとき「充電して放電して」という理念をかかげました。ただ、最初にこれを掲げたとき、社員はわかるようなわからないようなという反応でしたが。でも、いいんです。なぜこれなのか説明していくうちに真意が伝わりましたので。
大久保:奥深い感じですね。理念を掲げることで社員が「ついていこう」という気持ちになるのでしょうか。
飯島:そうですね、経営理念は「掲げる」ことがとても大切です。なぜこの仕事をしているのかという目的を社員と共有するためにも、経営計画書に経営理念を載せることをおすすめしています。理念が共有できれば、仕事で判断に迷うときの拠り所となりますし、なぜこの仕事をしているのかというモチベーションアップにもなります。
逆に、理念のところで共感できないという人が出て、組織を離れることになるかもしれません。しかし、これは長期的に見れば、共感できないままでは成果も得られないでしょうから、結果として良いことだと思います。
大久保:なるほど。しかし、わかりやすい経営理念を作りだすのは難しいですよね。どうしたらいいアイディアが浮かんでくるでしょうか。
飯島:たしかに、経営理念の「文章」を作ることにあまり時間をかけても意味がありません。イチから新しい理念を作りだしてもよいのですが、既存の素晴らしいアイディアが他にあるならば、参考にしながら作ってもよいでしょう。また、時代や経済環境の変化に応じて、理念も少しずつ変わっていくこともあり得ます。
シンプルに作ることが一番難しいのですが、まずは上手なところを真似しながら作っていくというのが良いでしょう。
そして、コロナの影響による不況という「きれいごと」を言っていられない状況だからこそ、経営理念をしっかり持ち、自分たちの本当の価値とは何かを絞り込み、それに集中することが大切なのです。事業の選択と集中をはかる根拠として、理念があるのです。
大久保:コロナ不況に備え、乗り越えていくためにも、もともとの思いに立ち返って自分たちの価値を見極める必要があるということですね。
「経営理念」をわかりやすく実務に落とし込んだものが「経営方針」
大久保:「会社のありたい姿」を示す経営理念が、経営計画書に重要であることはよくわかりました。他にも経営計画書の前半部分の構成として「経営方針」とありますが、これは理念とはどのように違うのでしょうか。
飯島:経営の基本方針とは、理念をもう少し具体的なレベルにまで解釈して示したものです。自社の経営にとって、優先度の高いテーマ(社員、顧客、商品など)ごとの会社の姿勢を示すものです。
大久保:たしかに経営理念は社員が「なんとなく理解」できるもので、社員としての帰属意識や心の拠り所にはなりますが、「理念を実務レベルに落とし込むとどうなるのか」というのは、人によっては分かりづらいのも事実ですからね。
飯島:以下は、経営における3大基本方針の例となります。会社によって重視するものが違ってくると思うので、参考にしながら理念をブレイクダウンしてみてください。
経営の3大基本方針の例
1.社員育成の基本方針:環境整備の徹底
- 6S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ、作法)を徹底する。
- 社員への6S のトレーニングは繰り返すことで習慣として身に着ける。 など
2.お客様に対しての基本方針:お客様第一主義
- お客様が満足し、お客様から感謝される仕事をすることで、自分の喜びとする
- お客様の立場に立ち、思考のスタート地点をお客様に置く。
- ニーズの先読みにより期待の一歩先を行くサービスを行う。
- 急激に変化するお客様のニーズに対応する。 など
3.商品・サービスについての基本方針:重点主義
- 商品と客層は絞り込むが地域は絞り込まない
- 同業者と自社の強み弱みを徹底的に分析比較し、強みを掘り下げて磨き、同業者のまねしづらい商品・サービスに集中する。
- 部分最適よりも、全体最適を追求する。個々の能率より全体の効果を考える。
- 凡事徹底こそ最高の差別化。当たり前のことを当たり前にして人に差をつける。 など
なお、この基本方針からさらにブレイクダウンしたものを個別方針と呼んでいます。商品別、顧客別、販売促進、内部体制など細かいレベルでそのノウハウを示したものとなりますので業務のマニュアルにも近い存在になります。
大久保:なるほど。こういった個別方針を作るには、具体的にどうしたらよいでしょうか。
飯島:こちらの方針も、イチから「作文」する必要はないと思っています。もちろん、できるのであればそれに越したことはないのですが、時間が取れず難しい場合もあるでしょう。他社によいアイディアがあれば、それを参考にしながら取り入れることもできます。
個別方針を作る場合は、商品開発、顧客対応、販売促進といった業務ごとに経営者の考えをキーワードとして抽出します。そして、経営理念や基本方針に従いながら、キーワードを取りまとめていきます。以下は、個別方針の例となりますので参考にしてください。
個別方針の例
- 商品に関する個別方針
- 品質改良の基準の設定
- 占有率の目標
- 商品ごとの値下げ制限 など
- お客様に関する方針
- どんな商品をすすめるか
- どのようなお客様に価格政策をとるか
- 与信管理の基準
- 販売促進に関する方針
- 新規進出地域はどこか
- 営業案内・カタログをどう活用するか
- 定期訪問基準
- 内部体制に関する方針
- 役職者の役割
- 管理者の定義
経営計画書で数字ばかりを考えるのは危険
飯島:前回のお話では、経営計画書を初めて作る場合には「数字」から考えるとよいと言いました。しかし、毎年そればかりでは数字を追うだけになってしまうので、社員のモチベーションアップにはなりません。経営計画書は、確かに経営者の意思の表れではありますが、社員がついてこなければ何も達成はできないでしょう。
会社が事業を通じて何を実現したいのか、なぜこの業務をしているのか、経営計画書に記載をすることで、社員が常時目にすることになります。繰り返し、読んでいくうちに自然と社員の一部になっていきます。
やはり、経営計画書は作成して終わりではなく、社員の意識を変えるためにも活用が大切ですね。たとえば、営業会議や朝礼などの社員同士が顔を合わせるタイミングで、経営計画書の理念や方針を振り返る時間を設けるなどの活用方法が考えられるでしょう。
大久保:創業手帳でも、経営者が常に社名である「創業手帳」が入ったシャツを着ることで社員の意識アップをはかっています。繰り返し伝えることは大切ですね。
飯島:そうですね。経営理念や方針は一度や二度では浸透しないので、よく目にするところにあるというのはいいやり方ですね。経営者としては「伝えている」と思っていても、半分も伝わっていないという話を良く聞きます。繰り返し伝えることは骨が折れますが、これも経営者の大きな仕事のひとつでもあります。
大久保:ありがとうございます。次回は、経営計画書の中核となる「数値目標」をどのように作成するか解説をしていきたいと思います。
(次回に続きます)
創業手帳が発行する「資金調達手帳」は、創業期のキャッシュフローの考え方や資金調達の方法などを詳しく解説しています。無料で取り寄せできますので、ぜひ参考にご覧ください。
(取材協力:
株式会社古田土経営代表取締役社長 飯島彰仁)
(編集: 創業手帳編集部)