経営計画書の活用で会社を強くした事例をご紹介!【飯島氏連載その5】

創業手帳
※このインタビュー内容は2021年04月に行われた取材時点のものです。

スパッと解決・経営改善のプロ、飯島彰仁氏に聞く、社長のための経営計画作り・超入門

新型コロナの長期化にともない、新しい生活様式が定着しつつある中、経済環境も大きく変化を遂げています。時代が大きく流れを変えようとしている今こそ、それぞれの自社の事業を見直したり、新規事業へ転換したりと企業も変化をしなければなりません。

また、新たな事業を進めるためにも、全社一丸となって同じ方向を向くことが必要にもなるでしょう。

こうしたときに経営計画書は意義のあるものとなりますが、企業内の中で策定され利用されているので、具体的にどのように活用されているか外側からはよくわからないのも事実です。今回は、古田土経営の飯島代表取締役に経営計画書をうまく活用している企業の事例を紹介していただきます。

飯島彰仁(いいじまあきひと)株式会社古田土経営 代表取締役社長
2005年に古田土会計公認会計士・税理士事務所(現 税理士法人古田土会計)に入所。現在は、同法人含むグループ企業の株式会社古田土経営 代表取締役社長。経営計画を主力商品とする古田土会計グループにおいて、営業活動することなく年間100~150社の新規開拓をするスキームを作り上げ、現在2,300社超の中小企業を指導する。経営計画書の作成については毎年400社以上を指導しており、作成した会社の黒字割合85.8%を実現している。(日本企業の黒字率 34.2% 国税庁H29年より)また、同ノウハウを同業者である会計事務所にも提供する会計事務社経営支援塾を運営。同業者に対する経営計画作成支援実績330事務所は日本No.1を誇る。

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【事例1】事業をOEMから自社ブランド開発に移行させるために経営計画書を活用「スズキ機工」

千葉県のスズキ機工は、主に食品メーカー向けに産業用自動機械を設計・制作している会社です。多くの商品は、受注販売としてメーカーのニーズに合わせて開発しており、技術の高さには定評があります。一方で、受注生産による製品を事業の柱としているため、先行きが見えない経済状況の昨今では取引先の状況に左右され、安定しないというリスクも抱えていました。

自社開発製品をより増やしたり、オーダーメイドの製品は戦略的に作成したりと、転換を迎える時期に経営計画書を作成しました。「経営を維持し発展させるため、指針となる経営計画書を作成していこう」という意欲的な思いが作成に至ったきっかけだそうです。

なお、昨今では自社開発製品として極圧潤滑剤の「ベルハンマー」や工業用ハサミ「ベルシザー」などのヒット商品をネット通販などで展開しています。

「売上げ比率の変換」、「従業員待遇の引き上げ」を明記

実は、スズキ機工は2012年の37期の時に初めて経営計画書を作成しました。細かな内容まではご紹介できませんが、主な項目は以下の通りです。

  • 経営理念、基本方針、行動理念、ビジョン
  • 中期事業計画(3・6年の損益計算書、貸借対照表、プロジェクトごとの売上げ構成)
  • 組織運営戦略(環境整備、教育訓練、人事、就業規則、コミュニケーション、地域貢献)
  • チーム運営戦略
  • プロジェクト運営戦略
  • 新商品開発、PR広告戦略
  • 人材戦略

特に、経営ビジョンにおける事業構成については、はっきりとした目標値を定めており、経営の「転換」をはかっていることが見ている側に伝わるようになっています。具体的には、自社開発商品の売上げ比率を70%にして、従業員の待遇も類似業種比較で150%に引き上げる旨が記載されています。

このように、会社と従業員の利益を関連付けて示すことは、「目標を達成することが社員にとっても利益がある」と社員に理解させ、やる気を引き出す好事例といえます。単純に売上げの目標だけを掲げても、社員の理解を得られず、結果を出すことが難しくなってしまうかもしれません。

また、新商品開発、PR広告戦略では、年間広告費を3,000万円とする一方、経常利益を1億円としています。広告をただの認知度向上にとどめるのではなく、さらなる効果を期待するものへ投資するという意思の現れが伝わるものになっています。

他にも、人材戦略の一環として社員向けに「なりたい自分への努力表」というワークシートを整備しています。これにより、社員が自分の目標管理を行うことができるだけでなく、会社も社員ひとり一人の考えを把握するよい機会になっています。

作っただけで終わらせない、経営計画書の活用

「スズキ機工」は、全社員16名(2017年時点)と小規模精鋭の会社です。経営計画書の作成も担当者が作成するというより、みんなで力を合わせて作成しているはずです。この会社では、経営計画書に記された目標の達成度について、月次の決算の時にチェックを行っています。社員ひとり一人に経営計画書が配られており、書き込み用のページもつけられているので、月次決算のタイミングでほぼ全員が実績を書き込めるようになっています。

計画比だけでなく、前月比、差異分析などに至るまで、細かな内容を書き込めるようになっています。さらに、週次や日次のミーティングでも、部署ごとの計画の進捗を確認する際に、経営計画書の項目の実現状況を確認しています。

社員が集まる場において、状況の報告だけでなく、経営計画書に基づき分析が行われていることが、転換が必要だったスズキ機工の変革を実現する一助になったのだと思います。

【事例2】社員とアルバイトのコミュニケーション経営計画書を活用「夢とありがとう」

夢とありがとう」は、愛媛県松山市などで飲食店を数店舗経営しています。2009年創業の若い会社です。この会社では、経営計画書は「赤本」と呼ばれており、創業者の思いがあふれるものになっています。

若者の共感を得やすくするため、言葉による方針の説明をメインに

同社の経営計画書は、社内で「経営方針書」と名づけられています。内容的にも、具体的な数値目標を掲げるというよりは、「こうしていきましょう」と言葉による方針の説明がほとんどを占めています。というのも、この会社は社員のほかに20代の若いアルバイトが多くいるため、経営計画について共感を得て推進していくことが重要です。数字だけで論理的に説明することも大事ですが、社員の特性や属性などに応じて共感を大事にすることも経営にとっては必要になることもあります。

夢とありがとうの経営計画書(経営方針書)の主な項目は次の通りです。

  • 経営理念、基本方針、行動指針、年度方針
  • 中期方針および20年後をイメージした長期方針
  • 上期、下期のスケジュール
  • 組織と人材に関するスケジュール
  • 接客やサービスに関する方針やルール
  • 社長のプロフィール
  • 社会や自社の商圏の動向
  • 今期および中期的な財務目標

先ほども触れた通り、「言葉」による説明を大切にしているので経営理念も咀嚼されてわかりやすくなっています。語意を説明することで、理解や共感を得やすいようにされています。例えば、「食」という漢字について「人を良くする」と書かれている文字であり、命の根源であると説明しています。こうすることで、食に携わることが命に携わることであることをアルバイトや社員が理解できるようになっています。

また、経営計画書の中でプロジェクトに対し、社員やアルバイトがどのように関わっていくのかが明確になっています。アルバイトのように入れ替わりが多いことが予想される場合には、周知のためにも明示的であることが求められます。

コミュニケーションを重視した経営計画書の活用

経営計画書で「思いを伝える」ことを重視しているので、内容の理解を得るために「レポート」によるコミュニケーションを実施し、理解度を測っています。レポートは「赤本レポート」といって、経営計画書に関する設問に自由回答するもの。正解があるわけではなく、自分ならどう思うかを問うものであり、社長とのコミュニケーションにもなります。

例えば、「今年度の年度方針でワクワクすることはなにか、どんな時にキラキラ働いているかと思うか」という趣旨の設問に対して、とあるアルバイトは「お客様の誉め言葉でワクワクする」と回答し、さらにそれに対し別の社員が「笑顔が素敵」と責任者がコメントをいれています。こうして、同僚や責任者との密なコミュニケーションができるのが、経営計画書の活用の好事例と言えるでしょう。

まとめ

経営計画書は、会社の転換期、コミュニケーション、業務拡大とそれぞれの事業の変革において重要な役割をはたしていることが上記の事例からもわかるでしょう。もし、経営計画書のように会社がどのような方向にどう進んでいくのか、はっきりとわかるようになっていなければスタッフや社員、ましてやアルバイトなど、何を頑張ってよいかわからないでしょう。経営計画書というコミュニケーションツールを活用して、スタッフ・アルバイトが自分で考えて仕事に向かうことが、企業の成長を支えるでしょう。経営計画書を作成し、活用していくことが会社を強くすることに他ならないのです。

(次回に続きます)

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(取材協力: 株式会社古田土経営代表取締役社長 飯島彰仁
(編集: 創業手帳編集部)



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