金子半之助創業者 金子真也 | 行列が絶えない「粋で豪快」な天丼!海外進出・M&Aのその先とは

飲食開業手帳
※このインタビュー内容は2023年10月に行われた取材時点のものです。

祖父の意志を継いで創業した天丼屋。会社の成長のためにM&Aを選択

「金子半之助」は、日本橋に本店がある天丼専門店です。

店名にした祖父の意志を継いで「安くてボリュームたっぷり」な天丼を提供している同店は、多くの人を魅了し行列が絶えません。

また、その人気から国内に次々と店舗を増やしただけでなく、アメリカや台湾などへの海外進出を果たし、「つじ田」と共同でのM&Aも成功させました。

そこで、株式会社うまプロ 代表取締役 金子真也さんに、店が増えていった過程や海外進出に至った経緯、M&Aがうまくいくポイントなどをお伺いしました。

金子真也(かねこ しんや)
株式会社うまプロ 代表取締役
1978年生まれ、東京都文京区出身。祖父・父ともに料理人の家庭で育つ。28歳のときに仕出し弁当屋として独立。江戸前天丼を提供する「金子半之助」の創業者として知られる。ラーメン店「つじ田」と合併し設立した「株式会社おいしいプロモーション(現在は、オイシーズ株式会社に社名変更)」を売却。現在は同社のアドバイザーを務める傍ら、「株式会社うまプロ」を設立し共同代表に就任。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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子どもの頃から「飲食店で生きていく」ことを決めていた


大久保:まずは、生い立ちからお聞かせいただけますか?

金子:私は、小さな料理屋を営む料理人の父親のもとで生まれ育ちました。接客をする親の背中を見て、子どもの頃から飲食店で生きていこうと決めていましたね。

大久保:小さいころから、料理人を目指していたんですね。

金子:いいえ。実は、料理人ではなく飲食店の社長になりたかったので、20歳から飲食店のホールやマネジメントを勉強していました。

ところが、私が28歳のときに父が体調を崩してお店を続けられなくなってしまったんです。でも私は料理の技術を持っていなかったので、お店を継ぐことはしませんでした。

その代わりに、一旦閉めて改装したうえで、それまで一緒に働いていた仲間と「仕出しの弁当屋」として再出発することにしたんです。

大久保:仕出しの弁当屋から、天丼屋へと変えたきっかけはありますか?

金子:仕出し弁当屋からはおいしいものが届きますが、どこで誰が作ってるのかもわからないですよね。それを「地味だな」と感じる瞬間がありました。

さらに、知人がラーメンで一世を風靡してテレビに出始めたこともあり、「自分も一品料理で勝負したい」と考えるようになっていきました。

大久保:数多くの一品料理の中から、天丼を選んだ理由を教えていただけますか?

金子:お腹がすいているときに、ふと「食べたいな」と思う食べ物は、さっぱりしたものより、こってりしたもの、特に油ものではないでしょうか。さっぱりしたものに行列ができるイメージが湧かなかったので、「油もの」がいいのではと考えました。

さらに、祖父が遺した書物に書かれていた「天丼復活論」という言葉も、天丼を選ぶきっかけになりました。

それは、「美味しかった戦前の天丼はどこへ行ってしまったのか。世の中は高級志向になっているが、巷は美味しくて安い天丼を望んでいるはずだ」という内容だったのですが、読んだ瞬間、「一品料理なら、天丼だ」と思いましたね。

大久保:おじいさまも料理人だったんですか?

金子:祖父は、調理師会の「天ぷら職人を派遣する互助会」の2代目会長でした。

そんな祖父の思いを継承したくて「天丼」を選び、店名には祖父のフルネームである「金子半之助」をつけたんです。

日本橋を選んだのは、祖父の代から3代江戸っ子なので、東京の中心でスタートしたかったからです。

祖父の想いを受け継いで、「粋で豪快」な天丼を提供


大久保:「金子半之助」さんの天ぷらは、高級感はありますが手が届くお値段で、しかもお食事が出てくるのも早いですよね。それらは、おじいさまの意思を継承したものだったんですね。

金子:そうですね。金子半之助という店名をつけた以上、味だけではなく祖父の「想い」を継承しなければなりません。

その想いは、「江戸っ子らしく、粋で豪快でいこう」という合言葉に込めました。具体的には、粋は価格で、豪快はボリュームです。つまり、美味しいだけではなく「価格が安くてボリュームがあるもの」を作ろうと。

さらに、天丼は昔ファストフードでしたから、早く提供しなければいけません。そのために、メニューを1つにすることも決めました。

面白さを追求した結果が「ドミナント戦略」に

大久保:確かに、日本橋には3店舗ありますが、それぞれで提供されているメニューは1つだけですね。

金子:そうなんです。天丼、天ぷら定食、天ぷら稲庭うどんの専門店にしていますね。あえてメニューを1つにすることで、オペレーションを簡素化させています。「日本では、専門店の方がお客様に美味しく感じていただける」という側面も、メニューを絞った理由ですね。

大久保:日本橋のなかでも割と近い距離に3店舗ありますよね。日本橋と渋谷と池袋、というように少し遠くに出店することが多いと思いますが、なぜ近くに出店したのでしょうか?

金子:スタッフ同士が行き来しやすいからです。

あとは、「ちょっと面白いかな」と思ったんですよね。「同じ町に、同じ名前で、違うものを提供しているお店がある」という状況が。お客様に「前回は天丼食べたから、次は天ぷらも食べようかな」と気軽に考えてもらいたいという気持ちもありました。

それが後に「ドミナント戦略」と表現されたのですが、実はそこまで考えていませんでしたね。

従業員を成長させるために店舗を増やした


大久保:どんどん店舗が増えていったと思いますが、転換点はありましたか?

金子:お客様が増えた分従業員も増員したことで、「新しく入ってきた人を店長にすることができない」という問題が出てきました。

飲食というのは、どこまでいってもスーパーアナログな商売なんです。つまり、血が通ったメンバーがいないと成り立ちません。

ですから、「人が育つ場所を作るためには、新しく店を出すしかない」と考えるようになっていきました。そんなときにタイミングよく三井不動産さんから「川崎のラゾーナに出店しませんか?」とお声がけいただいたことが、きっかけになりました。

大久保:チャレンジしたい料理人は、自分でお店を出すイメージがありますが、金子半之助は会社としてお店を出しているんですね。

金子:おっしゃる通り、お寿司屋や高級天ぷら屋などの高級店は、技術を学んだ後は自分で店を出すというのが一般的だと思います。

ただ、私たちはファストフードなので、技術のウエイトが高級店ほど高くありません。だからこそ、会社で成長してもらいたいと思い、お店を増やす道を選びました。

大久保:店舗が増えて会社が大きくなっていく中で、人の管理の面で大変なことはありましたか?

金子:実は、私は本当に人に恵まれていて、正直、「人の管理」で苦労したことはないんです。それは、日本橋から川崎へ、次に木更津へと離れた土地に店舗を出すことになったときも変わりませんでした。

その地その地で、友達が友達を呼んできてくれて、「みんな一緒にやろうぜ」という空気感で進んできましたね。飲食が「幅広い年齢層が活躍できる場」だということも大きかったのかもしれません。

店舗が増えたことで苦労したのは、味のコントロールの方でしたね。

大久保:自然と人が集まって会社が大きくなっていったんですね。経営者として大切にされていたことはありますか?

金子:当たり前のことですが、「人に感謝をすること」を大切にしています。身内に対しても、「ありがとう」をたくさん言える現場を作りたいと考えていました。

あとは、「自分がされて嫌なことはしない」ということでしょうか。例えば、私は怒られるのが大嫌いなので、怒ることはしません。そのような考え方に賛同してくれる人が自然と集まったのだと思います。

オファーがきてアメリカへ進出


大久保:金子半之助さんの店舗は、国内だけでなく海外にも進出していますよね。最初に海外へ展開することになった経緯をお伺いできますか?

金子:知人のイベントにお手伝いで行ったときに、「アメリカにある日系のスーパーマーケットに、店舗を出しませんか?」とオファーをいただいたのがスタートです。

「チャンスがあるなら、何でも挑戦しよう」という社風だったこと、あるメンバーが「私が家族を連れてアメリカに行きます!」と言ってくれたことで、話が進みましたね。

海外では「専門店の単品商売」は難しかった


大久保:店舗を出店する際気をつけるポイントに、日本と海外で違いはありますか?

金子:初めて出店した当時は気づいていなかったのですが、「専門店の単品商売」は非常に難しいです。

まず、世界で和食が流行ってるというのは、私は嘘だと思っています。と言いますのも、「1人でカウンターがある場所へ食べに行く」という日本の文化が、世界では一般的ではありません。とにかく、外食は家族や仲間とするものなんです。

しかし専門店は、1人が「食べたくない」と言った時点で行けなくなりますから、あまり需要がないんですよね。

たまたま私は1店舗目がフードコートの中だったので上手くいったのですが、そうでなければ難しかったかもしれません。

大久保:海外で「専門店」は難しいんですね。

金子:そうですね。私は最初「海外でも天丼1品で勝負しよう」と考えていたのですが、現地で猛反対されてしまいました。ですから天丼だけではなく、10〜15品ぐらいのメニューでスタートしましたね。

海外では「何食べよう?」と迷ったとき、「何料理」というくくりで決めることが多いんです。だからこそ、海外では中華料理やイタリア料理が流行っているんだと思います。

大久保:その後、台湾にも進出されていますが、それはどんなきっかけがあったのでしょうか?

金子:金子半之助に来てくださった台湾の企業の方から、「台湾にもお店を出してほしい」とオファーをいただいたのがきっかけです。

実は、1社だけでなく複数の会社から申し出をもらったのですが、オーナーの人柄で今の企業に決めました。

大久保:台湾は、進出先としていかがですか?

金子:台湾に進出したことで、香港やフィリピンなど他のアジアへの進出にも繋がりましたから、私としては良かったですね。

ただ、飲食で進出する先として、台湾はおすすめしません。

どうしてかというと、台湾は自国の料理が好きな人が多い、食文化が固まってる国なんです。天丼は運よくハマったのですが、最初は盛り上がっても客足が減っていく可能性が高いと思います。

会社の労働環境を整えるためМ&Aを検討

大久保:国内で店舗が増えて海外にも展開されて、その後はM&Aもされていますよね。どのような経緯でM&Aを検討されるようになったのでしょうか?

金子:海外進出も果たしどんどん会社が大きくなっていくにつれ、飲食店ではなく「企業」として、経営をしなければいけないと考えるようになりました。

飲食店はブラック企業だと言われてしまうことも多いように、労働環境を整えるためには、知恵がないとダメだと感じることが増えたんですよね。「飲食店」と「企業」には違いがあるのだと。

大久保:会社が大きくなったことで、経営に課題を感じるようになられたんですね。

金子:はい。しかし、私には企業を経営するノウハウがありません。

そんなとき、ラーメン屋の知人がM&Aをして「それなりのキャッシュインをした」「事業継承もうまくいった」という話を耳にしました。私はそこで初めて、M&Aという言葉と、「会社が売れる」ということを知ったんです。

「M&Aをすれば会社を整えてもらえるのでは」と考えはじめたタイミングで、たまたま「つじ田」を経営する中学の同級生の辻田も同じ悩みを持っていることがわかりました。

そのような経緯で、辻田と一緒にM&Aを検討するようになりましたね。

大久保:実際にM&Aに至った流れも教えていただけますか?

金子:まず、先ほどお話したM&Aをしたラーメン屋の知人に、そのM&Aを担当したFA(ファイナンシャルアドバイザー)さんを紹介してもらいました。

それが、スパイラルコンサルティングの代表である会計士の太田さんです。

太田さんに、辻田と私の会社の数字を見せたところ、「1社ずつでこれだけの利益があるのであれば、2社をくっつけてM&Aをした方が高い評価をえられるのでは」というアドバイスをいただきました。

そこで「つじ田」と「金子半之助」を合わせてM&Aをしたんです。おかげで希望額以上での売却を実現できましたね。

M&Aを成功させたいなら成長過程で売却を

大久保:希望以上の価格で売却できたということですが、M&Aが上手くいくポイントはありますか?

金子:M&Aをするならば、とにかく下がり傾向になる前の、成長過程がいいと思います。なぜなら、成長している会社だからこそ、相手も買う価値を感じてくれるんですよね。

もしかしたら、ハッタリやテクニックで高く売却することもできるかもしれません。

でもやはり、「相手がほしいもの」と「こちらが提供できるもの」が、一致していないとダメだと思うんです。それは、会社に残るメンバーたちのためにもなりますから。

ファウンダーとして会社の成長を助けたい

大久保:会社を売却したお金は、今どうされているんでしょうか?

金子:新たな企業を作ったり、運用したり、いろんな会社にエンジェル投資をしたりしていますね。

エンジェル投資は、儲け目的ではなく、投資先の経営者の方とお話をするためにしています。株主という立場ですと、その会社のことを深く教えてもらえるので勉強になるんです。

大久保:M&Aをした後は、その会社から完全に離れてしまう方もいますが、金子さんは今も事業に関わっておられるんですよね。

金子:そうですね。ファウンダーとして関わっています。

今の経営者の方から経営のノウハウを学ぶと同時に、会社の成長に貢献したいと考えています。

金子半之助を天丼の代名詞に

大久保:「金子半之助」の今後の展望をお伺いできますか?

金子:まずは、「金子半之助」を天丼の代名詞にすることが目標です。世界中で「天丼と言えば金子半之助だよね」と言われるようになることを目指しています。

大久保:金子半之助として、海外でしたいことはありますか?

金子:これまでのように1000~1500円という価格設定ではなく、刺身やデザートもつけて5000〜6000円くらいのメニューを出す天丼屋を作りたいと考えています。

どうしてかというと、食べ物の価格への感じ方は、国によってまったく違うからです。

例えば、今私はシンガポールに住んでいるのですが、こちらの方は「安いものは徹底的に安いものを」、逆に「いいものを出すお店には、少し高くても行く」という感覚がありますね。

ですから、同じクオリティの天丼を出しつつも、その前後に価値を加えて価格は高めに設定したお店を出したいなと思っています。そうすれば、杯数は同じでも売り上げが変わりますから。

大久保:新しい企業も作られたということですが、そちらについてもお伺いできますか?

金子:いくつか新しく飲食の企業を作りました。その中の1つがもんじゃ焼きのお店です。世界進出を見据えて、日本の専門店よりも「みんなでわいわい食べられるもの」として、もんじゃを選びました。

飲食店のお茶の改善をしたいという思いで、美味しいオーガニックなお茶を飲食店に卸す事業もしています。そのほかプラントベース事業などもありますが、いずれも食に携わる会社ばかりですね。

自分のことだけを考える社長にはならないで

大久保:最後に起業した方に向けてメッセージをください。

金子:私は、「人の意見には正解がない」と考えています。ただ、昔から残ってる言葉は正解だと信じてるんです。

例えば、「石の上にも3年」などは、長い間言い伝えられてきた言葉です。日本人として生まれ育ったからには、日本に昔からある言葉は大事にしたいなと。

あとは、起業で一番大切なことは、「自分のことだけ考えてはいけない」ということでしょうか。

起業をした方は「自分の幸せのためにやっている」と考えない方がいいと思います。私も「自分のことだけを考えることはしない」と、常日頃から言い聞かせていますね。

大久保写真大久保の感想

自分も日本橋の金子半之助に食事に行くことがありますが、毎回行列でなかなか入れない人気店です。

よくこんなお店が作れたなと思っていましたが、取材でその背景に迫ることができました。普通の企業、サラリーマン的な発想では作りにくい「自然に広がった」「楽しさ」「正直」という一貫した姿勢が、その秘密なのかもしれません。

M&A後はフェードアウトする経営者も多いですが、これだけ夢を持って動いているのを見ると理想的なM&Aだったのかもしれません。

勉強や新しい視点のためにエンジェル投資もしているとのこと。海外展開や逆に地元のコミュニティでの貢献も含めた、金子さんの今後が楽しみですね!


取材前に行った金子半之助(本店近くのコレドの稲庭うどんと天丼の店)うどんと天ばら

トッピングが無料なのも楽しい。確かに味以外にも綺麗な店内と絶妙な価格設定で長蛇の列だ。

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(取材協力: 株式会社うまプロ 代表取締役 金子真也
(編集: 創業手帳編集部)



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