「教えて!出縄さん」GoAngel出縄良人社長インタビュー 投資型クラウドファンディング成功のコツ
まずは「何をもって社会に役立つか」を考える
(2018/07/20更新)
近年、MakuakeやReadyForのような、サービスの提供に対してお金を支払う「クラウドファンディング」が普及してきています。その一方で、従来のクラウドファンディングとは仕組みが違う「株式投資型クラウドファンディング」といわれる新しい手法が認可され、日本では現在3社が認可されています。その一つが、「GoAngel」を運営するDANベンチャーキャピタル。長年業界に携わり、公認会計士でもある出縄良人氏が代表者を務めている企業です。
今回は出縄氏に、株式投資型クラウドファンディングの概要と、現在の資本市場について、お話を伺いました。
1983年に慶應義塾大学経済学部を卒業後、太田昭和監査法人(現:新日本有限責任監査法人に入社)。公認会計士として主に株式上場コンサルティング業務に従事。1993年に㈱ディー・ブレインを設立し、中小企業向けコンサルティング事業を開始後、1997年には株式公開専業証券会社 ディー・ブレイン証券株式会社(現:日本クラウド証券)を創業。日本証券業協会の非上場企業向け市場グリーンシートの株式公開主幹事で9割を超えるシェア。2010年までに141社に対して112億円のエクイティ・ファイナンスを支援。上場引受主幹事業務にも進出し14社を上場。札幌証券取引所アンビシャス及び福岡証券取引所Q-Boardの主幹事シェアは6割。2010年にディー・ブレイン証券の代表取締役を退任。㈱出縄&カンパニーを設立。2015年にDANベンチャーキャピタルを設立。同社は2017年7月に第一種少額電子募集取扱業者として登録。CVCファンドと株式投資型クラウドファンディングを中心とする新たなエクイティ・ファイナンスのインフラ作りに再挑戦している。
コンセプトは「Family & Friends」
出縄:クラウドファンディングは一般的に5つのタイプに分類されています。
例えば、最もポピュラーな購入型クラウドファンディングの場合、プロジェクトが成功したら、お金を出してくれたサポーターに製品やサービスが提供されます。つまり、お金を先にいただくシステムです。
これに対して、株式投資型クラウドファンディングは、サポーターが株主となって応援するシステムです。しかも、株式投資型クラウドファンディングの運営するためには、「第一種少額電子募集取扱業者」の登録が必要です。
株式投資型クラウドファンディングでは、一人が投資できる上限は1社につき年間50万円と法律で決まっており、発行会社の調達金額の総額は年間1億円未満に制限されています。
出縄:「GoAngel」は、DANベンチャーキャピタルが運営する株式投資型クラウドファンディングのプラットフォームです。
コンセプトは「Family & Friends」です。
「GoAngel」は、金銭的リターンを目的とした投資家ではなく、発行会社そのものに関心を持つ方を対象に株主になっていただくアプローチをしています。つまり、発行会社の顧客や取引先、経営者の知人・友人に「GoAngel」を通じて株主になっていただくわけです。
このようなアプローチを、アメリカでは「Family & Friends」と呼ばれており、全米で年間600億ドル(6兆6,000億円)の規模となっています。これは、全米のベンチャーキャピタル(※1)の年間投資総額に匹敵する規模です。
米国でも株式投資型クラウドファンディングが2016年に本格的に解禁されましたが、SNSが普及していることを背景に、Family & Friends型の資金調達がクラウドファンディングで拡大していると言えます。
「GoAngel」で株主を募集するためには、DANベンチャーキャピタルの審査を受ける必要があります。DANベンチャーキャピタルでは、公認会計士等の専門家ネットワークを有しており、上場企業の開示書類に準じた資料(新株式発行のための会社概要書)をつくります。この資料によって審査を行うとともに、そのコンテンツがWEBサイトで投資者に公開され、社会的な信用を高めながら、周囲から投資をしていただけるのが特徴です。
※1
ベンチャーキャピタル:まだ株式上場などには至っていないが、大きな成長が見込める企業を対象に投資する会社のこと。「VC」と略されることもある。
出縄:ベンチャーキャピタル投資の場合は、特定のベンチャーキャピタルが一定のシェアを持つことから、その影響力が高まります。強力な指導力を発揮して、企業の成長を後押しできる原動力となる可能性がありますが、それがプレッシャーとなり、場合によっては経営者と対立するケースもあります。
また、ファンドからの投資の場合は、期間内に上場を前提とする投資であることも認識しておくことも重要です。
IPO(上場)の場合は、個人投資家の多くが短期売買志向の投資家であることから、常に株価のプレッシャーがあります。内部統制の構築や適時開示の体制にコストがかかる他、敵対的な買収などにも気を配る必要があると思います。
これらに対して「GoAngel」で参加する投資家の多くは、会社のサポーターです。株主であるとともに、顧客や取引先として事業の成長に協力いただけるメリットもあります。株主の協力によって会社が成長すれば、企業価値が高まります。発行会社にとっては利益が出て、株主にとっては配当が増えるので、「Win=Win」の関係の構築がしやすいと言えます。
出縄:業種としては、飲食店やサービス業などBtoCの商材サービスを提供するわかりやすい業種が多いです。金融機関からの融資をこれ以上増やすことに抵抗がありつつも、出店や設備投資、開発投資、広告投資によって成長戦略が描ける前向きの資金ニーズがある会社が向いています。
また、「Family & Frineds」の対象である、顧客・取引先のお付き合いが広い会社が最適です。
出縄:投資家に関しては、本システムが前述した「Family & Friends」をコンセプトとしているので、全く知らない投資家は殆ど参加しません。
例えば、銀座の熟成鮨の専門店を経営する悟中㈱の場合は、参加した50名の株主の多くは、常連のお客様でした。
また、システムコンサルティングの㈱マルチブックの場合は、パートナーのシステムコンサルタント、株式会社で小学校を運営するエデューレエルシーエーは、その教育理念に共感する保護者の多くが株主として参加しました。
出縄:2017年9月にスタートして2018年6月までの募集取扱実績は6社。調達金額の合計は1億円強となっています。3月決算期の会社の登録が進む7月以降は、月に2社~4社のペースでの登録を準備しています。
エントリーから審査までの通過率は20%程度、募集の成功率は今のところ100%です。
出縄:失敗例はまだありませんが、知り合いを限定し過ぎてしまうと募集力が落ちます。思ってもいない友人知人が株主になってくれたという声はどの会社でも共通することから、できるだけ幅広く多くの方にリーチすることが重要です。
成功の法則は真摯な姿勢です。「どうして社会にこの事業が必要か?」を訴え、その事業を株主として一緒に支えて欲しいメッセージを熱く伝えることが重要です。
中小企業が様々な資金調達方法を選択できるようになった
出縄:アメリカでは2012年に成立したJOBS法(※2)に基づき、2013年には「Accredited Investor(適格投資家)(※3)」を対象とするクラウドファンディングが解禁。その後、2016年5月には「Regulation Crowdfunding」という制度が施行され、一般の投資者を対象とした株式型クラウドファンディングが全面的に解禁されました。
この制度は「Funding Portal」と呼ばれる専業業者がインターネット上のプラットフォームを運営する仕組みで、日本の制度と良く似ています。現在までで10社以上のFunding Portalが生まれ、急成長しています。なお、日本では一人が投資できる上限を「1社につき年間50万円」とされていますが、アメリカでは、年間で投資できる総額の上限を、年収の10%(年収10万ドル未満の場合は5%)と定めているところが異なります。
また、イギリスでも2014年にクラウドファンディング法制が整備されました。貸付型クラウドファンディングと投資型クラウドファンディングの法体系をそれぞれ整備し、やはりプラットフォームを使った資金調達が急成長しています。
※2
JOBS法:2012年4月に成立したアメリカの法律。 証券取引委員会(SEC)への登録・情報開示等の規制を緩和することで、中小企業の事業資金調達を支援することを主たる目的としている。
※3
Accredited Investor(適格投資家):米国証券取引委員会によって非公開企業やヘッジファンドの未登録証券に投資する事を認められた個人・法人のこと。
出縄:日本では、高度成長期の時代には金融機関や投資家からお金を借り入れることで資金を調達する「デット・ファイナンス」が、資金調達方法の主流でした。要するに、いずれは返さなければならない資金調達ということです。
その流れが変わったのは、1984年に公募増資が可能な店頭市場(現:東証JASDAQ)が開設されてからです。成長志向の中堅中小企業が、株式を発行することで資金を調達する「エクイティ・ファイナンス」を本格的に活用できるようになりました。先ほどお話しした「デット・ファイナンス」と違って、原則として株主に出資金を返す必要がない資金調達です。
これに加え、上場を前提として日本合同ファイナンス(現:JAFCO)など証券会社系列のベンチャーキャピタルが投資を行うようになりました。スタートアップの段階の中小企業への資金供給を行うことができる素晴らしい発明と言えると思います。
つまり、中小企業の中でエクイティ・ファイナンスが可能なのは、上場を計画する成長志向企業ということになり、その数は年間1,000社ほどに限定されます。
このような上場を前提としたベンチャーキャピタル投資に対して、近年世界的な広がりを見せているのが、事業会社が社外のベンチャー企業等に投資するCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)です。CVCが投資を行う目的は、上場による金銭的リターンではなく、事業シナジー(相乗効果)や新規事業開発です。成長した投資先は株式交換で子会社化する等、連結グループに取り込むことも少なくありません。
また、企業の社会的責任が注目されてきています。投資する側にとって企業の価値は、単に金銭的リターンだけではなく、事業に対する社会的評価が基礎となるようになってきています。
「何をもって社会に役立つか」という理念に「共感」し、それを持続的に発展するために株主として資金を投じて「参加」することこそ、真の株式会社への投資と言えましょう。
「共感」と「参加」はまさにクラウドファンディングにおける世界共通のキーワードでもあります。
従来は、経営者は株主の金銭的利益への欲求を満たすように行動することが求められているように考えられていました。株主が企業の社会への貢献を求めるようになった今、経営者はより事業の社会性と持続的な発展が可能なビジネスモデルを実現することが求められるようになるでしょう。
今、株式会社の中小企業が約200万社あると言われています。事業を通じて身近な社会貢献をしている中小企業の多くは、従来の上場を前提としたエクイティ・ファイナンスを行うことができませんでした。それが、「共感」と「参加」をキーワードとする、CVCあるいは株式型クラウドファンディングで可能となるでしょう。
このように、バランスの良い資金調達が中小企業でも行えるようになり、それが経済の発展に貢献することを期待しています。
出資がなかったら、起業するのはやめようと思っていた
出縄:私が初めて起業したのは1993年、32歳のときでした。㈱ディー・ブレインという中小企業を対象とするコンサルティング会社です。
大手監査法人の公開業務部で上場指導をしていた当時、バブル崩壊で新規上場企業数が激減。「上場指導よりも、中小企業のマーケティングやファイナンスの支援を行うべき」と考えて、脱サラでの起業でした。
問題は、資金でした。当時の資産と言えば、居住用のマンションのみ。これを売って創業資金をつくろうとしました。3,400万円の購入価格で残債は2,500万円。「3,600万円で売れたら、1,000万円以上の資金が残る」と思っていましたが、バブルが崩壊した影響でなかなか売れません。結局、売却額は2,800万円。手元に残ったのは300万円のみでした。私の計画では、事業立ち上げのために必要な1年間の運転資金は最低でも1,000万円。可能であれば2,000万円あれば余裕があると考えていたので、全く足りません。
そこで考えたのが「株式の募集」です。
まさに先ほどお話しした「Family & Friends」で、父親から始まり親戚、友人、そして監査法人でお付き合いしたクライアントの社長など。合わせて20名程が株主となっていただき、2,000万円の資本金を集めることができ、㈱ディー・ブレインが誕生しました。
実は、出資いただけなかったら起業するのはやめようと思っていました。
それは、「資金が足りないから」ということではなく、「出資をしていただけない=私への評価が低い」ということだからです。
監査法人の看板で仕事をしていた私にとって、私個人の能力や信用への評価はわかりませんでした。能力もなく信用もないとすれば、起業しても成功するわけがありません。その意味で、株主募集は起業成功の試金石でもありました。
資金が集まったことは大変ありがたいことでしたが、実はそれ以上に嬉しいことがありました。
ディー・ブレインの初年度のコンサルティングの売上高は1,750万円。何と、そのクライアントの大半は株主あるいは株主がご紹介していただいた企業だったのです。株主は単に資金を拠出してくれる存在ではなく、事業の立ち上げを支えてくれる強い味方なんだと実感しました。
この時の経験が、今掲げている「Family & Friends 型」ファイナンスの指導に繋がっているのは言うまでもありません。
「何をもって社会に役立つか」をまず考える
出縄:何といっても諦めないことです。
事業を行う上には、必ず壁がつきものです。その壁を、簡単に登れる階段がついているとは限りません。「登れないか・・・。」と思って諦めてしまっては、前に進めません。どうしたら壁を登れるか、あらゆる可能性を考え、実行に移す必要があります。
もちろん、考えるだけで行動しなければ成果は出ません。やってみなければわからないこともあります。やってみて、ダメであれば修正して、あるいは別の方法を考えてまた実行。壁に穴をあけるのか、壁の下を掘って潜り抜けるのか、必ず方法はあるはずです。
そして、もう一つ重要なのは、壁の先にあるもの(=事業目的)に確信をもって突き進むことです。
「何をもって社会の役に立つか」といった事業目的がハッキリしていないと、社会から支持されず、成功はできません。そして、事業目的を達成するための努力を続け、諦めない限り失敗はありません。
また、仮説が間違っていることがわかったら、方向転換する勇気も必要です。
間違った方向にある壁をいくらよじ登ろうとしても、意味がありません。新たな目標に向けて進路を定め直すことが必要なことも頭に入れて、行動することが大事ですね。
出縄:「やりたいこと」、「できること」、「社会が求めること」、の3点を考えましょう。「事業とは社会に役立つこと」とお話ししましたが、社会のニーズの大きさによって、事業の成長の可能性は決まります。
「何をもって社会に役立つか」を決めることが最も大切です。それが自分の価値観(やりたいこと)と一致すること。必要な能力(=できること)は、経営資源として調達する。これが成功する起業のスタートラインです。頑張ってください。
(取材協力:DANベンチャーキャピタル株式会社/出縄良人)
(編集:創業手帳編集部)