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2022年10月13日テイラー株式会社 柴田 陽|Headless ERPプラットフォーム事業が注目の企業
IT関連大企業の業務を支える基幹システム(ERP)を、ユーザー企業が10分の1の実装期間で構築することができるHeadless ERPプラットフォーム”Tailor Platform”の開発事業で注目なのが、柴田陽さんが2021年7月に創業した テイラー株式会社です。
ERPとは、企業の様々な基幹業務、例えば会計や人事、製造、営業などの業務を統合し、効率化、情報の一元化を図るためのシステムのことです。
組織体が大きくなればなるほど、各部署間の業務連携やスムーズな情報共有が健全経営を図る上で欠かせません。しかし実際には、各部署が独自の専用システムで各業務を運用管理していることが多く、同じ社内にもかかわらず、保有している経営資産を上手に効率よく活用しきれていない企業が多いのが現状です。
いざ、この課題解決のためにERPシステムを導入しようと思っても、一般的にパッケージ化されたERPシステムだと、自社の状況に合わせたカスタマイズに時間や労力、費用が大きくかかってしまったり、万が一、障害や不具合が起きた際、全機能にその影響がおよび、事業そのものがSTOPしかねないといった課題も残されています。
何より、システムをカスタマイズする専門知識を持ったエンジニアにかかる負担が大きく、その人材確保が出来ずに導入をあきらめる企業や、貴重なエンジニアリソースをシステム開発に奪われてしまい、本来やりたい開発が遅延してしまう企業、さらには専門知識を持つエンジニアとその他の社員との間でシステム開発やプロダクト開発に際しての溝が生まれてしまい、話が進まないといったこともよく聞かれる話です。
こうした課題の解決に向けて、日々進化し続ける独自性の高い各業務内容を、誰でも簡便に一元管理できるようにし、企業の持つリソースを無駄なく効率よくフル活用しきれるERPシステムを開発している起業家に、今大きな注目が集まっています。
テイラー株式会社の柴田陽さんに、事業の特徴や今後の課題についてお話をお聞きしました。
・このプロダクトの特徴は何ですか?
エンタープライズ向けに、テイラーメイドの基幹業務システムを10倍速で開発できる開発基盤「Tailor Platform」を通じて、大企業の基幹システムの現代化を支援します。
「Tailor Platform」は、様々な業務システムで共通している共通のバックエンド機能を、APIとして提供し、企業が求める機能のうち、個別にカスタマイズが必要な部分だけを開発し、限りあるエンジニアリングリソースを本当に必要な部分にだけ集中することを可能にします。
・どういう方にこのサービスを使ってほしいですか?
従業員3,000名以上のエンタープライズ企業様を中心にお使いいただければと思っています。2022年現在では本格ローンチ前ですが、2023年を目処に本格的に提供を開始する予定です。
・このサービスの解決する社会課題はなんですか?
2つあります。
1つは、大企業を中心に課題視されている、日々変化する業務内容や業務フローにシステムが追いついておらず、古いままのシステムを使い続けることでかえって業務が滞ってしまうケースです。
特に従業員が3,000名を超えるような大企業では、自社の複雑で独自性の高い業務を支える、カスタマイズされたシステムを強化するとともに、様々な部署に広がる多数のSaaS等のデータを統合的に管理していく必要があります。
業務システムに求める要件が複雑になり、個社ごとのカスタマイズへの必要性が高まっている一方で、各社のシステムがあらゆる面で異なるというわけではなく、8割が共通機能だったりします。これらを各社バラバラにゼロから構築することは、社会全体からみると重複投資になりますよね。したがって、ただでさえIT人材不足が日本の競争力問題に直結する中で、重複した機能を共通化して提供することは大きな社会問題の解決につながります。そこで節約されたエンジニアリングリソースを、他の、重要で唯一無二な問題の解決に投入できるからです。
もう1つはプロダクトづくりにおいて難しい部分や専門知識が必要な部分が大多数を占め、ビジネス側とエンジニア側の分断が起きていることです。テイラーではそうした専門知識が必要な部分を簡単にし、誰もがプロダクトづくりに参加できる「プロダクトづくりの民主化」を実現したいと思っています。
建物も、目に見える壁紙や家具は素人でも直感的に理解しやすいですが、基礎や躯体(壁や柱)、配管がどうなっているのか、どこがどのように相互に影響しているのかを理解するのは難しいですよね。
システムも、目に見えるUIやデザインより、その裏側を支えているバックエンド(サーバーサイド)のほうが、素人にとっては理解しにくいものです。その複雑さ、相互に絡み合っている様は、実際にプログラミングをしたことがないと理解できないでしょう。
逆に、こうした難しいバックエンドを、標準化することで複雑さをカプセルの中に閉じ込めて、部品単位のふるまいを理解すれば、システムの構造を理解しやすくすることができます。
ビジネス側にとっては、システムがブラックボックス化(ベンダーロックインにつながる)することでシステムが”手に負えなくなる”ような状況を防ぐことができますし、エンジニアたち作り手にとっても、相互の前提知識不足からくる非生産的・抽象的な議論を減らし、回り道の少ない建設的コミュニケーションを可能にします。
これにより、PM(プロダクトマネージャー)やビジネス側にとってのシステムの透明性を高め、プロダクトづくりに参加しやすくなる世界を実現したいと思っています。
・創業期に大変だったことは何でしょう?またどうやって乗り越えましたか?
まだまだ創業期なので、過去を振り返る余裕は無いのですが、テイラーの事業は私の残りの社会人人生をかけて腰を据えて取り組むつもりなので、チーム作り、具体的には採用とカルチャーづくりに注力することを心がけています。
例えば、まだ社員数が5人のタイミングでミッションやバリューを設定しました。また、多様なライフスタイルの方に働いていただきたいので、リモートワークを基本としながらも、リモートワークによって不足しがちなチームビルディングの観点については、月に1回のチームビルディングだけを目的とした社内イベント等を実施することにより、同僚同士の結束が高まるようにしています。
これからも、ハイパフォーマンスで居心地の良い組織を維持できるよう、時間とマインドシェアを割いていきたいと思います。
・どういう会社、サービスに今後していきたいですか?
5年で数百億などではなく、10年で時価総額数兆円にものぼるような会社にしていきたいですね。
テイラーを共同創業したCTOの高橋と、創業時に約束したことが2つあります。
1つ目が、テイラーでのチャレンジを起業家人生として集大成にしようということ。これまでも多くのチャレンジをしてきましたが、お互いの年齢、キャリアを考えると今回がゼロから挑める最後のチャンスになると思っています。
2つ目が、どんなに想定外の困難があっても最低1000億円規模の企業になるまではバイアウトしないということ。何度か売却を経験してきましたが、今回は、クイックにバイアウトする展開は一切考えていません。
規模的なベンチマークとして、例えば国内では、国産ERPベンダーのOBICがあります。同じ日本市場にあるのに、いわゆるSMB向けのSaaS企業とはバリュエーションが1桁違います。10年、15年かかってでも同規模の企業に育てていきたい。もちろん、時代が違うのでテイラーはグローバルな展開になることは言うまでもありませんし、ビジネスモデルも変わると思いますが、そのくらいの先行事例がある大きな市場です。チャレンジしがいがあると思っています。
・今の課題はなんですか?
まだまだ課題山積ですが、テイラーならではの課題として、米国/グローバル市場への挑戦があると思います。
2022年にYコンビネーターという、米国のアクセラレータープログラムに参加することができ、海外の顧客や投資家から「日本から米国にやってきたスタートアップ」ではなく「Yコンビネーターの1社」として見てもらえるようになったので、このチャンスを活かして米国で通用するプロダクトとチームを作って行くつもりです。
米国は世界中から起業家が集まってくるため非常に競争が激しく、製品に求められるレベルも日本とは次元が異なります。ここで確実に地歩を固めることで、グローバル市場への足がかりを作って行くことが現在の課題です。
・読者にメッセージをお願いします。
ここ10年で、日本のスタートアップ環境は、投資面でも人材面でもかなりレベルが上がったと感じています。特に若い方を中心に、海外で教育を受けた日本人や、海外経験のある日本人が増えており、創業初期からグローバルに挑戦することのできる起業家・チームが増えています。
Yコンビネーターで感じたのは、起業家の質の点では、日本も負けていないという点です。テイラーもがんばりますので、ぜひ日本からグローバルに羽ばたくスタートアップを増やしていきましょう!
左:CTO 高橋氏 右:代表取締役 柴田氏
会社名 | テイラー株式会社 |
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代表者名 | 柴田陽 |
創業年 | 2021年7月 |
従業員数 | 10名 | 資本金 | 約5.7億円(2022年9月1日現在) |
事業内容 | IT関連大企業の業務を支える基幹システム(ERP)を、ユーザー企業が10分の1の実装期間で構築することができるHeadless ERPプラットフォーム”Tailor Platform”を開発 |
サービス名 | Tailor Platform(テイラープラットフォーム) |
所在地 | 150-0002 東京都渋谷区渋谷2-6-11 |
代表者プロフィール | テイラー株式会社 代表取締役 柴田 陽(しばた・よう) 東京大学経済学部卒業。マッキンゼー・アンド・カンパニー出身。店舗集客サービス「スマポ」、タクシー配車アプリ「日本交通タクシー配車」など、数々のヒットアプリを手がける。3つの会社の創業・売却の経験を持つシリアルアントレプレナー。2016年11月に株式会社クラウドポート(現ファンズ株式会社)共同創業。2021年テイラー株式会社を設立。 |
カテゴリ | 有望企業 |
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関連タグ | ERP Headless ERP YC Yコンビネーター シリコンバレー テイラー プロダクトづくりの民主化 柴田陽 |
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