Beyond Next Ventures 伊藤 毅|エコシステムの構築を通じて大学発ベンチャーの可能性を最大化する

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年04月に行われた取材時点のものです。

大学発ベンチャーが持つ技術を事業化し、研究費を生み出すエコシステムを作る

大学研究室が持つ隠れた才能を見出し、事業化・成長をサポート。大学研究室が自ら研究費を生み出せるエコシステムの構築に注力しているのがBeyond Next Venturesです。

ベンチャーキャピタル業界や大学発ベンチャーへの投資環境の変化、そして同社が取り組む活動について、創業手帳代表の大久保がBeyond Next Ventures代表取締役の伊藤氏に聞きました。

伊藤 毅(いとう つよし)
Beyond Next Ventures株式会社 代表取締役 
東京工業大学大学院 理工学研究科化学工学専攻修了。2003年4月ジャフコ入社。2008年 産学連携投資グループ責任者として、シードステージの大学発技術シーズの事業化支援・投資活動をリード。多数の経験と実績を有する。
2014年8月にBeyond Next Ventures株式会社を創業し、代表取締役社長に就任。現在、出資先企業の複数の社外取締役および名古屋大学客員准教授・広島大学客員教授を兼務。これまで内閣府・各省庁のスタートアップ関連委員メンバーや審査員等を歴任。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。

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Beyond Next Venturesを創業し大学発ベンチャーを支援

大久保:どのような経緯でBeyond Next Venturesを創業されましたか?

伊藤:いつかは自分で起業したいという思いがあったので、修行のつもりで新卒でジャフコというベンチャーキャピタル(※1)に入りました。

2008年から大学発ベンチャーの投資グループのリーダーを任され、サイバーダインやスパイバーなどの支援を通じて、大学発ベンチャーの魅力や将来性に感化されました。

ジャフコでの経験を通じて、日本の大学研究室にも素晴らしい技術がありますが、事業化するノウハウと資金が圧倒的に不足していることを知りました。大学発のスタートアップはIT系のスタートアップと比べて、創業初期により多くの資金が必要ですが、ここに資金を提供できるベンチャーキャピタルが今よりももっと少なかったのです。

さらに、2008年頃から問題視されていることですが、大学等の技術を事業化する際に、経営を担えるビジネス人材も不足しています。この経営人材を適切にマッチングさせることができれば、成長できる大学発ベンチャーももっと増えるはずだ、とジャフコ在籍中に強く感じていました。

そこで、大学発ベンチャーの創業初期に資金を提供でき、必要に応じて経営人材を確保できるエコシステムを創るべく、2014年に当社を創業しました。

※1)ベンチャーキャピタル:未上場のベンチャー企業を中心に投資を行う投資会社

ジャフコを経て、Beyond Next Venturesを創業

大久保:新卒での就職先にジャフコを選んだ理由を教えていただけますか?

伊藤:元々起業することは決めていたのですが、特別なアイデア等もなかったため、まずは色々なスタートアップに関われる業種を希望していました。

よりシビアな環境を求めてジャフコに入社し、実際に色々なことを学ばせていただいたと感謝しています。

ジャフコでの業務を通じて、ベンチャーキャピタルの仕事の面白さに気づき、独立して起業する場合もベンチャーキャピタルとして事業に取り組みたいと思うようになりました。

大久保:何年くらいジャフコで働いてから独立しようと考えていましたか?

伊藤:私が入社した当時、ジャフコは独立志向の強い人材を躊躇なく採用していました。実際に私も将来独立する意思があると事前に伝えて入社しました。

しかし、私の意見としては、企業に入社して働きながら学ばせていただくからには、十分な恩返しをしてから独立すべきだと考えていました。

自分なりに十分な恩返しができたと感じられるまで10年かかりましたが、この点は大切にしていた部分です。

大久保:起業して大変だったことを教えてください。

伊藤:ジャフコ在籍中に起業する準備は全くしなかったので、創業時はシェアオフィスを借りて、社員は自分1人、収入はゼロという状態からのスタートでした。

なぜこのような状態からスタートしたかというと、今後ベンチャーキャピタルとしてゼロから創業した起業家たちを支援するのであれば、自分もゼロから事業を立ち上げる経験をすべきだと思ったからです。

そのため、ジャフコ時代の繋がりがないエンジェル投資家の方々に新規に会いに行く日々を過ごし、個人としてどこまでやれるか挑戦をしていました。

大久保:創業当初はどのような動きでしたか?

伊藤:ファンドを募集して3ヶ月後には30億円ほど銀行から集められると思っていましたが、全く思い通りにはいきませんでした。

この時に会社は信用が大切なんだと改めて痛感しました。なので、最初はエンジェル投資家の方々に出資していただきながら、少しずつ実績と信頼を積み重ねることの繰り返しでした。

起業家は投資や融資などの資金調達を使い分ける必要がある

大久保:融資や出資などの資金調達の使い分けについて教えていただけませんか?

伊藤日本政策金融公庫の対象業種であれば、高い確率で融資を受けられるため、活用した方がいいと思います。私も創業時に相談しましたが、金融業への融資はできないとのことで、融資は受けられませんでした。

エンジェル投資家の多くは起業経験があり、知識も豊富なので、初めて起業した方は出資を受けつつ、色々なことを相談することをお勧めします。

大久保:エンジェル投資家を選ぶ際に気をつけることなどあれば教えてください。

伊藤:エンジェル投資家やベンチャーキャピタルを問わず、出資を受ける前にまずは事業の相談をしながら、関係性を築くことが大切です。

出資を受けるよりも関係性を築くことが先で、その後出資していただくのか?経営に入っていただくのか?と慎重に見極める必要があります。

また、エンジェル投資家によってもお金の感覚が異なるため注意が必要です。例えば、同じ1,000万円の出資を受けるとしても、投資資金が100億円の投資家と、1億円の投資家では出資金に対する気持ちが異なります。

この点は投資を受ける起業家も注意して判断する必要があります。

大学発ベンチャーの支援を通じて大学の研究を加速させる

大久保:Beyond Next Venturesのベンチャーキャピタルとしての役割を教えていただけますか?

伊藤:まず私たちの投資スタイルとして、リードインベスター(※2)として出資しています。さらに、出資するだけではなく、経営や意思決定に関わることが多いです。

創業前の時点から起業家の相談に乗り、投資も含めて起業家と伴走しながら真剣にその事業を考えることが、ベンチャーキャピタリストの役割だと私は考えています。

※2)リードインベスター:リード投資家・シェアを持ち他の投資家に対して主導的な役割を果たす投資家のこと

大久保:大学発ベンチャーの役割について教えていただけますか?

伊藤:日本の大学の研究費の一部は国民の税金から捻出されていますが、その研究費は年々削減されています。

そのため、大学発ベンチャーはこの研究費だけに頼らずとも、しっかりと利益を出せるようになる必要があります。このように資金が循環するサイクルを作ることが、今の大学発のスタートアップには必要だと考えています。

多くのアメリカの大学では、研究費における寄付や民間企業からの出資の割合が多くなっています。この流れを日本でも作るために、私たちのような民間企業が大学発ベンチャーをサポートし成果を上げることで、民間企業の資金が流れるようにする必要があります。

大久保:大学の研究室がスタートアップを作るメリットは何でしょうか?

伊藤:スタートアップでは実用化寄りの開発を行うことで社会との接点が増え、大学単独での研究を行うよりも、研究に様々な選択肢を増やすことができます。さらに、スタートアップに優秀な人材を配置することで、研究者は研究に専念できる時間が増えたり、研究を加速させられるメリットがあると思います。

大久保:スタートアップが大学の研究室と組むメリットは何でしょうか?

伊藤:大学の研究成果といった最先端の技術を活用した、事業創出の機会がメリットだと思います。また、大学と組むことで技術力に信頼が増し、出資を受けやすくなるなどのメリットもあります。

次なる投資先としてインドに注目する理由

大久保:ベンチャーキャピタリストとして、今注目している分野などあれば教えていただけますか?

伊藤:注目している分野は様々ありますが、一例を挙げるとすれば、「インド」です。日本の人口が減り続ける一方で、インドの人口は増え続けています。昨年約40社のユニコーン企業が誕生し、累計でも、インドはユニコーン世界第3位の国です。

さらに、インドには日本で不足しているソフトウェアエンジニアが多い上に、ディープテック(※3)分野の企業がまだ少ないです。だからこそ、今の段階から投資先としてインドの企業に注目しています。

私たちの投資先の8割は日本のスタートアップなので、今後も日本のスタートアップの支援に注力しつつ、市場拡大といった海外への進出先としてインドに注目しています。

※3)ディープテック:科学的な発見や革新的な技術に基づいて、社会にインパクトを与えることができる技術のこと。人工知能、自動運転、クリーン電力など。

研究費を自ら生み出すエコシステムが大学発ベンチャーには必要

大久保:Beyond Next Venturesはどのフェーズのスタートアップに投資することが多いですか?

伊藤:現在投資している約9割がシード期(事業の立ち上げ準備期間)のスタートアップで、初回の投資額としては、数百万円から数億円までとなっています。

大久保:2014年にBeyond Next Venturesを創業してから現在までの期間で、ベンチャーキャピタル業界での変化を感じることはありますか?

伊藤:多くの場面で変化を感じています。特に私が長年注目している大学発のスタートアップについては、生まれる企業数も多くなりましたし、企業としての質という意味でも、優れた経営チーム、高い技術力と可能性を持つ企業が増えた印象です。

また、大学発ベンチャーに投資するベンチャーキャピタルも増え、IT分野から私たちが注目しているディープテックの分野へ資金が流れてきています。

このように市場全体として良い方向に変わっていると実感しています。

大久保:ベンチャーキャピタルとして起業する方も増えていますか?

伊藤:私のようにVCから独立してVCを創業する流れもありますが、ここ数年は元々起業家や経営者だった方々がファンドを組成してベンチャーキャピタルを始める傾向が増えています。

大学発ベンチャーとともに社会課題を解決する基盤を作る

大久保:最後にBeyond Next Venturesの想いを教えていただけますか?

伊藤:Beyond Next Venturesは大学発のスタートアップに強いVCだと思っています。特に、医療・ヘルスケア領域への投資額が多く、ポートフォリオ全体の約6割をこの分野に投資しています。

また、ただ投資するだけでなく、大学発ベンチャーが事業化して利益を生み、大学の研究費を生み出すというエコシステムの構築に注力しているのも、Beyond Next Venturesの特徴だと思います。例えば、全国の研究シーズの事業化を創業前から後押しするアクセラレーションプログラム「BRAVE」を毎年開催したり、ビジネスパーソンがディープテック領域での起業やスタートアップ経営に挑戦する機会を提供したり、低コストな研究開発拠点として日本橋にシェア型ウェットラボ「Beyond BioLAB TOKYO」を開設するなど、様々な角度から施策を実行しています。

ベンチャーキャピタルとして投資で利益を出すことだけを考えるのではなく、様々な社会課題を解決する基盤を一緒に作っていきたいと考えています。

冊子版創業手帳では、ディープテックに関する起業家のインタビューも掲載しています。無料で配布していますので、ぜひ参考にしてみてください。
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(編集:創業手帳編集部)

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(取材協力: Beyond Next Ventures株式会社 代表取締役 伊藤 毅
(編集: 創業手帳編集部)



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