週休3日制を導入するメリットは?企業がすべき対応を解説
公務の現場では週休3日制の導入が進んでいる
東京都が、2025年度より週休3日制を取り入れることが話題になっています。東京都以外にも週休3日制を導入している自治体があり、今後は民間企業への波及が考えられるでしょう。
日本企業の多くは週休2日制で、週休3日制の導入には、労働力の確保や生産性の維持などに注意を払う必要があります。しかし、実際に導入すれば他社との差別化につながり、自社の魅力を高められるメリットが期待できるでしょう。
今回は、週休3日制を導入する企業側のメリットやデメリット、企業に求められる対応などを解説します。
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この記事の目次
「週休3日制」のパターン
週休3日制と一口に言っても、大きく分けて3つの種類があります。まずは、代表的な制度とそれぞれの特徴を見ていきましょう。
メリット | デメリット | |
給与維持型 | ・従業員の時給単価が上がる ・優秀な人材確保や人材定着に繋がりやすい |
・企業側の負担が大きい ・生産性の向上が必須 |
総労働時間維持型 | ・総労働時間が変わらないため生産性を維持しやすい ・従業員は連休を取りやすくなる |
・労働日の負担が重くなる ・希望者のみ適用すると、勤怠管理が複雑になる |
給与減額型 | ・企業の負担が軽い ・従業員は連休を取りやすくなる |
・従業員の給与が減るためモチベーションに関わる ・希望者のみ適用すると、勤怠管理が複雑になる |
給与維持型
給与維持型は、給与を減らさずに労働日数を週4日に減らす形式です。従業員にとっては、受け取る給与は変わらずに労働時間が減るため、時給単価が上昇するメリットがあります。
従業員にとってメリットが大きいため、モチベーションの向上や優秀な人材の確保につながるでしょう。革新的な取り組みが評判を呼び、注目を集められる効果も期待できます。
ただし、企業側にとっては経済的な負担が変わらないにも関わらず総労働時間が減少するため、経済的な余裕がなければ導入は現実的ではありません。また、従業員には生産性向上が求められるため、導入のハードルは高いといえるでしょう。
総労働時間維持型
総労働時間維持型は、週の労働日数を減らす代わりに、1日の労働時間を増やす形式です。総労働時間は変わらないため、従業員の時給単価は変わりません。
休暇が増えることで、ワークライフバランスの向上が期待できます。また、限られた時間での業務遂行が求められるため、生産性向上につながる可能性も見込まれるでしょう。
ただし、勤務日の労働時間が10〜11時間程度に長くなるため、疲労の蓄積や集中力低下が起こる可能性があります。従業員次第では、生産性が落ちてしまうデメリットがあり得ます。
そのため、すべての従業員に一律で適用するのではなく、希望者に対してのみ適用するのが一般的です。
また、通常1日8時間・週40時間を超えての勤務には残業代を支払う必要があるのですが、変形労働時間制を導入した場合、その限りではないことも従業員・事業者ともに把握しておく必要があります。
給与減額型
給与減額型は、休日を増やして労働日数を減らしつつ、給与も減額する形式です。例えば、週5日勤務から4日勤務に変更すると、給与も4/5になるイメージです。
従業員は自由時間が増えるため、副業や趣味、家族との時間を増やせるメリットがあります。企業としては福利厚生を充実させつつ、人件費を削減できるメリットがあります。
ただし、従業員の収入が減少するため、「もっと働いて稼ぎたい」と考えている従業員のモチベーションを削ぐ事態になりかねません。
総労働時間維持型と同様に、すべての従業員に一律で適用するのではなく、希望者に対してのみ適用するのが一般的です。
週休3日制を導入する企業側のメリット
週休3日制の導入はハードルが高いとはいえ、実現できればさまざまなメリットを企業にもたらします。
週休3日制を導入することで得られる、企業側のメリットを解説します。
他社との差別化
一般的な企業は週休2日制であるため、週休3日制を導入すると他社との差別化につながります。相対的に自社の魅力が向上し、人材採用で有利になるメリットが期待できるでしょう。
週休2日制の企業は、年間休日が120日程度です(2日×52週と祝日を足すと120日程度になるため)。数ある求人の中で、年間休日が130日・140日もあれば目立ちます。つまり、求職中の人から「応募したい!」と思われる求人になるわけです。
特に、若い世代は「ワークライフバランス」を重視する傾向が強く、自由な時間を確保しやすい週休3日制は魅力的に映ります。
つまり、週休3日制は昨今の若い世代のニーズに合致しており、若い労働力の確保につながる効果が期待できるのです。
人材定着やモチベーションの向上
週休3日制を導入し、働き方の選択肢を増やすことは、福利厚生の充実化につながります。従業員が「働きやすい」「自分を大切にしてくれている」と感じれば、人材定着やモチベーション向上につながるでしょう。
新しく従業員を雇うよりも、同じ従業員に長く働いてもらえれば、採用コストや教育コストを抑えられます。熟練の従業員が長期的に勤続している企業は、生産性も向上するはずです。
「大切にしてもらえる」という安心感は、従業員の心身の健康にもつながります。心身が充実した状態で仕事に取り組めることで、業務効率と生産性、モチベーションが向上するでしょう。
ワークライフバランスの改善
仕事を充実させるだけでなく、日常生活の満足度を高めるワークライフバランスが重要視されています。
週休3日制の導入により連続した休暇を得られ、旅行や趣味などの予定が立てやすくなります。自分の自由時間を確保でき、「仕事モード」と「オフモード」の切り替えがしやすくなれば、心身ともに健康を維持できるでしょう。
従業員の中には、自己啓発に取り組む人もいるかもしれません。自発的にスキルや知識の習得に励む従業員が増え、普段の業務で還元してくれれば、企業にとってもメリットが大きいはずです。
業務の効率化
週休3日制を導入すると、自然と企業は業務効率化を意識せざるを得ません。業務の優先順位付けや無駄な業務の見直しを通じて、業務の効率化につながるでしょう。
既存の業務を見直し、よりよいやり方や進め方を取り入れれば、業務生産性を維持しつつ福利厚生の充実化を実現できます。必要に応じて、デジタルツールやAIを導入し、DX化の推進も検討するとよいでしょう。
人件費・水道光熱費などのコスト削減
従業員の出勤日数を減らし、さらに業務効率化を実現できれば、人件費を抑えられます。
従業員が法定労働時間を超える労働を行った場合、企業は割増賃金を支払わなければなりません。割増賃金の対象となる労働時間を抑制できれば、人件費を減らせるでしょう。
事業場の稼働日数が減れば、水道光熱費も抑えることが可能です。特に昨今はエネルギー資源価格の高騰に伴って電気代やガス代が高騰しているため、大きな経費削減効果が見込めます。
週休3日制を導入する企業側のデメリット
週休3日制を導入する際には、メリットだけでなくデメリットにも注意を払いましょう。
メリットもデメリットの両面を踏まえて、導入すべきかどうかを検討してみてください。
勤怠管理の複雑化
週休3日制を導入すると、勤怠管理が複雑化する可能性があります。週休3日制を希望者のみ適用する形にすると、それぞれの従業員で勤怠の管理方法が異なることが予測できます。
個人ごとの休日の組み合わせが多様化したり、チーム内で休日の調整が必要になったりすると、業務体制の維持にも支障が出かねません。チーム内に週休2日制の従業員と週休3日制の従業員がいる場合、さらに複雑になるでしょう。
ほかにも、法定休日や祝日との調整が複雑になったり、週の所定労働時間の管理が煩雑になったりする事態も想定されます。「どこからが法定外労働時間なのか」をきちんと把握しないと、適切な残業手当を計算できません。
雇用契約の見直し・就業規則の改定
週休2日制から週休3日制へ変更する場合、雇用契約の見直しや就業規則の改定を行う必要が出てきます。きちんと契約内容や規則を変更しないと、後々になってトラブルに発展するリスクがあるため、注意が必要です。
制度の変更に伴って、労働日数・労働時間・給与に変更が生じるため、当事者間で丁寧にコミュニケーションを取るべきでしょう。
雇用契約の見直し・就業規則の改定に伴って、人事労務部門や事業主自身の負担が増えると想定されます。従業員との合意形成、労働基準監督署への届出などが必要となる点は押さえておきましょう。
部署間での協力や連携が困難
勤務日数が減少すると、部署間の協力・連携が取りづらくなる恐れがあります。出勤しない従業員が増えることでコミュニケーションの不足が発生し、情報共有の遅れや誤解が生じやすくなる事態が想定されます。
また、日程調整が煩雑になり、会議・打ち合わせのスケジューリングも煩雑になるでしょう。コミュニケーションや意思疎通に支障が出ると、業務運営にも悪影響が出ます。
しっかりと引継ぎや情報共有を行わないと、結果的に業務が非効率になる事態になりかねません。報告・連絡・相談のガイドラインを整備したり、各従業員の意識を高めたりして、「業務について知っている人が誰もいない」という事態を避けましょう。
週休3日制を導入する企業に求められる対応
週休3日制を導入する場合、企業はさまざまな対応を迫られます。
社内の事務的な手続きや業務体制の維持など、さまざまな点に留意しなければなりません。
適切な勤怠管理
週休3日制を導入すると勤怠管理が複雑になりやすいため、デジタル勤怠システムや勤怠管理ソフトを導入し、適切に管理しましょう。また、特定の日に従業員の休日が重ならないようにするためにも、シフト管理を慎重に行う必要があります。
せっかく週休3日制を導入しても、「その日は誰もいないから出勤してほしい」という事態が発生すると、導入した意味がありません。
また、始業・終業時刻を正確に記録し、労働時間を把握しなければ残業手当を正しく計算できないでしょう。給与未払いのトラブルを未然に防ぐためにも、労働時間管理の徹底は欠かせません。
総労働時間維持型の週休3日制を導入する場合、変形労働時間制を活用することがあります。1か月単位の変形労働時間制を適切に運用したり、労使協定の締結や届出をきちんと行い、法令を遵守することも意識しましょう。
業務プロセスの見直し
週休3日制の導入により、労働時間や稼働日数が減少すると見込まれるため、業務プロセスを見直しましょう。可能な範囲で簡素化を行い、少ない労働時間でも生産性を維持・向上できる仕組み作りが欠かせません。
具体的には、全ての業務内容をリストアップしたうえで「必要な業務」「削減しても問題ない業務」に分けます。重要度がそこまで高くない業務に関しては、従業員の意見をヒアリングしたうえで、思い切って削減しましょう。
機械化・DX化の促進
業務効率化を実現するうえで、機械化・DX化の促進も効果的です。人間が行っていた業務を機械に任せられれば、少ない人員でも業務運営を円滑に回せます。
例えば、 BtoB ECシステムの導入で受発注業務を自動化したり、販売・在庫管理システムを活用して在庫管理を自動化したりする方法が考えられます。飲食業界であれば、配膳ロボットやスマホ注文システムなどを導入すれば、省人化できるでしょう。
他にも、クラウドツールやAI・機械学習を活用する方法があります。コミュニケーションツールとしてビジネスチャットやWeb会議システムを活用すれば、会議に関する人的リソースを削減できるでしょう。
高い付加価値を生み出せる人材の育成
自社のモノやサービスを買ってもらうためには、高い付加価値を提供しなければなりません。福利厚生の充実化に意識が向くあまり、稼働時間が減り、自社が生み出すモノやサービスの質が下がってしまうのは本末転倒です。
週休3日制を導入する際には、労使ともに高い付加価値を生み出すことを意識し、顧客や取引先からの信頼を失わないように留意する必要があります。そのため、人材育成にも意識を向けることが大切です。
例えば、スキル開発プログラムを整備したり、リスキリング(学び直し)を促進したりする方法があります。ほかにも、副業を解禁して、幅広い知識やスキルを習得する機会を提供することも考えられるでしょう。
機械化やDX化を並行して実施する場合は、デジタルスキルやITリテラシーの向上を促進することも検討する価値があります。学習費用の一部を補助したり、関連資格を取得したら資格手当を支給したりすれば、従業員が能動的に能力開発に励んでくれる可能性が期待できるでしょう。
業務体制を維持するための調整
週休3日制を導入したあとは、業務体制を維持するための調整が必要です。具体的には、業務量に応じた人員配置や部署間の連携を考慮したシフト調整などが求められるでしょう。
リソースは限られている以上、人員の適正配置や業務分担の見直しなどを通じて、リソースの最適化を図る必要があります。各従業員に希望の業務をヒアリングして、最もパフォーマンスを発揮できる部署へ配属することも効果的です。
助成金や補助金の活用
業務環境の改善や省人化・DX化を検討しはじめたとき、助成金や補助金を活用できる可能性があります。
例えば、厚生労働省が行っている「働き方改革推進支援助成金」「業務改善助成金」、中小機構が行っている「省力化投資補助金」「IT導入補助金」などが代表的です。
助成金や補助金制度を活用することで、福利厚生の充実化や省力化・機械化の事業投資を行いつつ、経済的な援助を受けられます。
まとめ
週休3日制を導入するためには、労働力の確保や生産性の維持が欠かせません。働きやすい環境を整備したり、機械化やDX化を進めたりすれば、週休3日制の導入が現実味を帯びます。
実際に週休3日制を導入できれば、他社との差別化につながり、自社の魅力を高められます。人材確保や人材定着につながれば、長期的に見ればメリットとなる可能性が高いでしょう。
助成金や補助金を活用すれば、職場環境の改善や従業員の能力開発、機械化を導入する際に経済的な援助を受けられます。企業としての魅力を高めるためにも、活用できる制度を探してみてください。
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(編集:創業手帳編集部)