家族を従業員にする2つのメリットと注意するべきポイント
家族を従業員にしようと考えている起業家向けにメリットや注意点をご紹介します
規模の小さい会社や個人経営の飲食店などでは、社長の配偶者が経理を担当したり、一家で事業を切り盛りするなど、家族が従業員として働くケースも少なくありません。
とくに起業したばかりの頃は、他人を雇わず、まずは家族の助けを借りながら事業を軌道に乗せようと考える人も多いのではないでしょうか。
家族を従業員にすると、「節税」をはじめとした多くのメリットがあります。今回は、家族を従業員として雇用する際のメリットや注意点を解説します。
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この記事の目次
家族を従業員にする2つのメリット
家族を従業員にすることで、「コストを抑えつつ信頼できる関係性のもとで働ける」「所得を分散することによる節税効果」の2つのメリットが得られます。
メリット1:コストを抑えつつ信頼できる関係性のもとで働ける
創業後しばらくは、コストを抑えるために家族以外の雇用を控えるケースが多いです。
家族を従業員にすると、多忙を極める創業期でも共に過ごす時間をもつことができますし、何より信頼できる相手と働くことでパフォーマンスも向上します。
メリット2:所得を分散することによる節税効果
配偶者や兄弟などの家族を従業員にすると、所得を分散することができ、節税効果が得られます。
たとえば、同じ2,000万円の所得でも、世帯主が1人で2,000万円稼ぐより、夫婦で1,000万円ずつ稼いだ方がトータルの所得税・住民税は安くなります。
また、従業員となる家族側は「給与所得控除」を受けられるので、こちらも節税につながります。
ただし、事業専従者として届出を行った場合は、配偶者控除(年間38万円)と扶養控除(年間38万円~63万円)が受けられないという点に注意しましょう。
家族を従業員にしてメリットを得るために注意するポイント
家族を従業員として雇用するメリットを得るためには、2つのポイントに注意する必要があります。
確定申告
家族を役員等にしている場合は、勤務実態が曖昧な状態だと、支払った役員報酬や給与が不相当に高額であると確定申告時にみなされる恐れがあります。
仮に「不相当に高額である」と判断された際は経費として認められません。
家族を従業員として雇用する場合は、日頃から勤務状況や業務内容を把握し、勤務実態について具体的な資料や書類を残しておくようにしましょう。
各種保険の加入要件
同居の親族のみを雇っている場合、労働者がいないとみなされ、会社は労災保険と雇用保険の加入ができません。
個人事業主であれば社会保険に加入できませんが、一人会社のように役員報酬がほぼ発生しない場合であれば、社会保険の加入は可能です。
ただし、同居している家族は労働者ではないので加入できません。一方、社内に同居の親族以外の従業員もいれば労働者とみなされ、各種保険の加入要件を満たした上で適用を受けることが可能です。
このように保険制度の要件は煩雑であるため、自社が該当するのかどうかをしっかりと把握することが重要です。「冊子版創業手帳」では、会社で加入が必要な公的保険制度について表にまとめています。わかりにくい加入対象者についても、ここを見ればどのような人が対象になるのかが一目瞭然です。無料でお取り寄せ可能なので是非ご活用ください。
個人事業主が家族を従業員として給与を支払うには?
個人事業主と法人では、従業員である家族に対する給与の支払い方法に大きな違いがあります。
通常、法人が従業員に支払う給与は経費として扱うことができますが、個人事業主が家族に支払う給与は経費として認められていません(事業主と別の場所に住んでいたり、事業主と生活費などの財布が別であれば経費として認められます)。
しかし、一定の手続きと条件を満たすことで、支払った給与が経費として認められる「専従者控除制度」という仕組みがあります。
個人事業の場合、「白色申告者」と「青色申告者」では給与の上限額や専従者として認められる条件が異なります。
白色申告者の場合は「事業専従者控除」、青色申告者の場合は「青色事業専従者給与」と呼ばれる制度を活用することができます。
白色申告者:事業専従者控除の条件や控除額
条件 |
1.個人事業主と生計を1つにして暮らしている配偶者や親、祖父母、子どもであること(血族は6親等内、婚姻によって親族となった姻族は3親等内) 2.その年の12月31日現在で、年齢が15歳以上(学生は原則不可)であること 3.その年を通じて6カ月を超える期間、その白色申告者の営む事業に専ら従事していること |
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給与支払限度額 (事業専従者控除額) |
下記のどちらかで少ない方の金額 A.配偶者は86万円、他の親族は1人あたり50万円が上限 B.事業所得を専従者の数に1を加えた数で割った額 |
白色申告者の場合、従業員である家族が上記の表にある3つの条件を満たしていれば、事業専従者として認められます。
また、控除額は上記の表にあるA・Bの内、少ない方の金額が適用されます。
たとえば、事業所得が300万円で事業主の配偶者と兄弟1人が手伝っていた場合、Aは「86万円+50万円=136万円」となります。それに対してBは「300万円÷(事業専従者2人+1)=100万円」となります。
この場合、Bの金額の方が少ないので、給与支払限度額(事業専従者控除額)は年間100万円となるのです。
青色申告者:青色事業専従者控除の条件や控除額
条件 |
1.個人事業主と生計を1つにして暮らしている配偶者や親、祖父母、子どもであること(血族は6親等内、婚姻によって親族となった姻族は3親等内) 2.その年の12月31日現在で、年齢が15歳以上(学生は原則不可)であること 3.その年を通じて6カ月を超える期間(一定の場合には事業に従事することができる期間の2分の1を超える期間)、その青色申告者の営む事業に専ら従事していること |
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給与支払限度額 (青色事業専従者控除) |
制限なし |
青色申告者の場合も、従業員である家族が上記の表にある3つの条件を満たしていれば、青色事業専従者として認められます。
控除額については、白色専従者のように金額の制限はありませんが、事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署へ提出する必要があります。
届出書に記載する金額が上限額なので、実際の支払額はそれ以下でも構いません。
なお、給与支払日の変更や届け出の記載額以上の給与を支払う場合は、変更届出書を税務署に提出する必要があります。
法人の場合、このような制約はなく、仕事に見合った給与を支払っていれば、金額の制約や従事期間はとくに制限されません。また、家族の給料と扶養控除などの所得控除も併用可能です。
また、青色申告を行うためには「青色申告の承認申告書」の届出が必要となります。青色申告のほうが税務的なメリットがあるため、約8割の事業者が青色申告を行っているというデータもあります。「冊子版創業手帳」では、青色申告の届出のほか、事業を立ち上げた直後に必要となる税務関係の手続きについて詳しく解説しています。
家族を従業員にするための手続きとは?
青色申告の場合、前述のように家族への給料は青色専従者給与として個人事業主の経費で落とせます。
青色専従者給与として経費で落とすためには、事業専従者へ給与の支払いを開始しようとする年の3月15日(新しく青色事業専従者になる人がいる場合はそのタイミングから2カ月以内)までに、「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署へ提出する必要があります。
なお、配偶者を青色事業専従者にすると、年間38万円の配偶者控除が受けられなくなってしまいます。節税効果を考えるのであれば、給与額は年間38万円以上に設定しましょう。
また、事業所得が少ない事業者は、専従者給与額を所得税・住民税が非課税となる年間100万円以内にしたり、事業所得が多い事業者は給与額を多めにすることで節税が可能です。
家族を役員にして役員報酬を経費で落とす方法
法人化している事業で家族を役員にして、役員報酬を経費で落とすには、毎月同じ支給日に同額の給料を支払う必要があります。
支給が1カ月おきなど不定期だったり、毎月の支給金額にバラつきがある場合は、役員報酬の全額を経費で落とすことはできません。
また、家族を役員にしない場合は税務署への事前届出は不要ですが、役員の場合は「事前確定届出給与」の手続きが必要です。
手続きをする際、設定する給与の額が一般的に妥当かという点にも留意しておきましょう。
たとえば、週に数回簡単な雑務を任せているだけなのに、月100万円を超えるような給与額は不自然です。仕事内容に対して妥当な額か、他の従業員の給与と比べて高すぎないかをきちんと検討しましょう。
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家族を従業員にするメリットは個人事業主・法人で異なる
今回は、家族を従業員にするメリットと注意点について解説しました。
家族を従業員にする際の給与支払いによる節税効果は、個人事業主と法人で異なります。その点に注意して、ご自身に合った方法を検討してみましょう。
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(編集:創業手帳編集部)