個人事業主が家賃を経費計上する方法とは
個人事業主の自宅兼事務所の家賃の扱いとは?家事按分のルールと注意点を解説
個人事業主が借りている住居を事業に使用している場合、家賃の扱いはどうなるか疑問に思っている人もいるかもしれません。
節税のためにも、必要な家事按分と経費にできる範囲のルールを知っておきましょう。
家事按分とは、事業用とプライベートで兼用している費用を分けて、事業用に使った分を経費計上する方法です。
賃貸の家を個人事業で使っている場合には、家賃の一部を家賃も経費にすることで、節税できるメリットがあります。
ただし、家事按分にはルールがあり、ルールに従わないと税務署から指摘を受けることもあるため注意が必要です。
この記事では、個人事業主の家賃、住宅にかかる費用の経費算入のポイントを紹介します。
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この記事の目次
個人事業主の家賃は経費で落とせる!
個人事業主にとって経費は節税のために重要なポイントです。売り上げの多い人は、少しでも経費を計上して年間で支払う所得税を減らしたい気持ちになるでしょう。
そこで、忘れてはいけないのが毎月支払っている家賃です。賃貸物件を借りて生活し、同じ場所を事務所として使っている個人事業主は、家賃も経費として計上できます。
以下では、状況別の詳細を解説していきます。
自宅兼事務所
自宅で事業を営んでいる個人事業主は珍しくありません。自宅兼事務所として利用している場合の家賃は、一部を経費として計上できます。経費計上における勘定科目は家事関連費です。
自宅兼事務所の家賃を経費とする際は、実際に事業で使用している分のみを計上しなくてはなりません。家事按分では主とする事業スペースの面積から割り出したり、自宅で事業活動を行っている時間の割合から算出したりします。
プライベートでしか使わない部屋や領域は、経費の対象とはなりません。家事按分で正確な割合を出し、事業で使った分のみを計上しましょう。
自宅とは別の事務所
自宅とは別に事業用の事務所を構えている場合は、事務所の家賃を全額経費にできます。事務所の賃貸料金などが該当し、勘定科目は地代家賃です。
ただし、賃借契約を結ぶ家主が配偶者や親族の場合は、生計か同一かどうかで経費にできるかも変わります。自身と家主との生計が同一のケースだと、自宅とは別に事務所があっても家賃の経費計上はできません。反対に、生計が別々であれば、親族を家主とする賃借契約でも家賃を経費とすることが可能です。
個人事業主が事務所を借りる際に、親族を含めた知り合いを頼ることもあるでしょう。事務所の家賃を計上したければ、自身とは生計が異なる親族に相談するのが妥当です。
バーチャルオフィス
個人事業主としてバーチャルオフィスを契約するときも、利用料金の全額を経費として計上可能です。バーチャルオフィスとは、実態のある土地やオフィスを持つことなく、住所や電話番号のみを利用できるサービスを指します。
バーチャルオフィスの利用料金については、支払手数料の勘定科目で処理しましょう。事業に関する手数料などの費用を計上する際に支払手数料を使います。バーチャルオフィスの料金も事業で発生する手数料であると判断できるため、妥当な処理方法です。
バーチャルオフィスはサービスの性質上、オフィス業務を外部に委託していると考えることもできます。この場合は外注費としても処理が可能です。課税仕入取引として処理する科目であるため、仕入税額控除にも活用できます。税務調査の可能性を踏まえたうえで、正当性を証明できるよう正しく処理することが重要です。
個人事業主が経費計上する際の家事按分とは
事業で使う場所の利用状況次第では、家賃のすべてを経費にできるわけではありません。また、家賃と同様に、個人事業主だからこそ経費にできる費用があります。
経費として計上する時に重要なのが「家事按分」です。家賃やそれ以外の経費対象も含めて、家事按分に関する基本的なルールを知っておきましょう。
家事按分の基本
家事按分は個人事業主が経費計上する際に使う方法で、生活費と事業費が混在している時に行います。
自宅兼事務所など用途が混在しているものに対しては、事業用として使っている割合を出し、プライベート利用と事業利用を分ける家事按分をしなければいけません。
自宅で働く個人事業主にとって、自宅は事務所でもあるため、家賃は事業のための経費でもあります。しかし、プライベートの生活にも使っているため、その分は経費にはなりません。
そこで、事業用と生活用の割合を具体的な数値で分け、金額に換算した上で経費を計上するのが、家事按分の考え方です。
家事按分を行うことで正当な経費計上ができ、家賃を含めたさまざまな要素を事業の経費にできます。
家事按分で経費にできる主な費用
家事按分の対象となる代表的なものから、意外と見落としがちなコストまで、さまざまな費用を紹介します。個人事業主にとっては大きな節税対策にもなり得るため、家事按分で経費にできる費用を把握しておきましょう。
自宅・事務所・倉庫の賃料
個人事業主が自宅を事務所として使用している場合、その家賃の一部を経費として計上できます。賃貸物件に住み、そこで働く個人事業主は、家事按分によって割合を決め、事業用の部分のみ経費計上します。
個人事業主が事業用として経費にできるのは、家賃だけではありません。事業用として使用するものはすべて経費計上が可能です。
例えば、事務所を別に借りて事業をしている場合や、自宅を倉庫やサブの仕事部屋として使っている人は、その分を経費にできます。事業で使っている割合や比率によって経費として認められるかどうかは変わりますが、不可能ではありません。
水道光熱費
家事按分による経費計上ができる範囲は、自宅の家賃だけではありません。事務所として自宅を使用している場合、その電気代やガス、水道代などの光熱費も家事按分によって経費計上できることもあります。
ただし、経費計上できる範囲には仕事の内容によって限りがあります。実際に事業用として使っていない、事業に不可欠であると認められないものは経費として計上できません。
例えば、自宅で料理教室をしていれば水道やガスも経費になりますが、パソコンだけでできるクリエイターの場合には水道やガスの経費計上は難しいでしょう。
通信費
スマホ料金やインターネット回線の利用料なども経費の対象です。スマホやパソコンを事業とプライベートで兼用している場合、家事按分によって経費にできる金額を算出します。
1日あたりの使用時間のほか、日数から求める方法もあるでしょう。家事按分する際には客観的かつ正当性のある理由が必要なため、不安であれば事業用の端末を用意するのが無難です。
自動車関連費
自動車を使う仕事内容の場合には、駐車場も経費になります。自家用車を営業車として使っている場合には、駐車場をはじめ、ガソリン代や自動車税、車検代も経費計上が可能です。
また、自動車の購入費用も経費にできます。これらの費用を家事按分する際には、走行距離で計算します。自動車購入費用は資産計上した上で減価償却するのが一般的です。
社宅の家賃
個人事業主として事業を拡大し、従業員を雇用する際の社宅についても、その家賃を経費として計上できます。すでにある持ち家を提供する、賃貸物件を提供する、会社として新たに住宅を購入するなど、いくつかのパターンが考えられるでしょう。
持ち家を社宅とする場合は、対象の社員との賃貸借契約が必要です。賃貸物件を個人事業主が借り、さらに従業員に提供する「転貸借」では、事業主や会社が家賃の一部を負担しなくてはなりません。新たに購入する物件を社宅とする際は、減価償却を行って処理します。
事業の発展が見込まれており、社宅の用意まで検討しているなら念頭に置いておきましょう。
個人事業主が家賃を経費にする際の家事按分の仕方
個人事業主が自宅の賃貸家賃を家事按分で経費にする方法について、詳しく紹介します。
賃貸物件を自宅にしていて事業にも使っている個人事業主の方は、これを参考に家賃の家事按分を行ってみてください。
使用割合を部屋の広さで出す
家賃を経費にする際には、部屋の広さをもとに使用している割合を決めることができます。
自宅の総面積のうち、どれくらい事業用に使用しているか、プライベート用に使用しているかを分けて、そのパーセンテージで家賃を割ることで経費にできる金額を出してください。
例えば、2室ある自宅の1部屋を仕事として使用した場合、その1室分の広さを事業用として計算します。
50平方メートルのマンションの6畳間を使っているとしたら、6畳=10.9443平方メートル≒10平方メートル分が事業用です。総面積の約5分の一を使っていることになり、家賃の20%を経費として計上できる計算になります。
10㎡ ÷ 50㎡ = 0.2(20%)
15万円 × 20% = 30,000円(経費計上できる家賃の目安)
使用割合を時間で出す
家賃を経費にする際には、自宅を使用している時間で事業用として使った割合を出すことも可能です。
自宅で仕事も生活もしている場合、1日のうち何時間を仕事に使用しているかによって、経費にできる金額を計算します。
ワンルームの部屋で仕事をしている人などが使える方法です。
例えば、1日8時間自宅で仕事をしている場合には、8時間分を経費計上できる計算になります。1日の総在宅時間で仕事の時間を割り、家賃を経費にできる割合を決めます。
在宅時間が18時間としたら、以下の式のように家賃の44%を事業用として経費計上可能です。
8時間 ÷ 18時間 = 0.44…(約44%)
15万円 × 44% = 66,000円(経費計上できる家賃の目安)
100%経費にはできない
自宅として借りている物件の家賃は、あくまでもその一部しか経費にはできません。必ず家事按分を行って、事業で使った分とプライベートの生活で使った分を分けてください。
自宅として借りて暮らしているのであれば、どんな使い方をしていても100%事業用とは言えないでしょう。
家事按分の計算が面倒だったりルールをあまり把握できていなかったりする場合でも、100%経費計上するのは避けるべきです。
税務署からも確定申告の際に指摘が入るかもしれません。
青色申告と白色申告で違う経費計上ルール
個人事業主の確定申告の方法には青色申告と白色申告がありますが、申告方法によって経費の家事按分ルールは異なります。
青色申告の経費計上ルール
青色申告の家事按分では、事業用として使っている割合がどれくらいであっても経費計上できます。
事業用に必要であるという根拠があれば、その基準に沿って按分し、家賃も計上することが可能です。
白色申告の経費計上ルール
白色申告の家事按分は、家事関連の費用のうち事業用に50%以上使用しているものに限られます。
例えば、事業用に自宅を40%しか使っていない場合には、家賃を経費にすることはできません。
青色申告と白色申告では、認められる金額など、経費計上のルールが異なり、白色申告は青色申告よりも条件が厳しいことが多いものです。
個人事業主でずっと白色申告をしている場合には、青色申告の利用も検討しておきましょう。
個人事業主の家賃の経費計上での注意点
個人事業主が家賃を経費計上する際には、いくつかの注意点があります。経費にできる範囲や経費計上の際に必要な書類など、守るべきルールを紹介します。
敷金は経費にならない
個人事業主の借りている自宅の住居費は、事業用として使った分だけ経費にできます。このうち、敷金は経費にできません。家賃だけでなく更新料などにも言えることですが、敷金などの一部費用については経費にできないのです。
敷金はもともと費用ではなく、いずれ戻ってくるものという扱いになるため、資産として処理しなければいけません。
ちなみに礼金は経費にすることができますが、20万円以上の場合には減価償却が必要です。
減価償却する際には礼金を一度資産として処理し、数年に分けて経費として処理していくことになります。
その年にまるまる経費計上はできませんが、経費にすること自体は可能です。
賃貸借契約書が必要となる
自宅家賃の一部を家事按分によって経費計上する場合には、その根拠となる資料が必要です。
賃貸借契約書は、自宅を個人事業主本人が借りていること、家賃を支払っていることの証明となります。また、支払いの記録が残っている通帳なども使えます。
毎年、確定申告書類を記載する際にも家賃の支払先情報を書かなければいけないので、常に手元に揃えておきましょう。
また、更新の際に家賃の値上げや値下げがあったら、その金額も計算に反映させる必要があります。
持ち家の購入費用は減価償却する
個人事業主が経費計上できるのは、賃貸物件の家賃だけではありません。持ち家の場合にも、購入費用を減価償却によって経費にすることが可能です。
ただし、住宅ローンの元本の支払いに関しては、家賃のように経費にすることはできません。
持ち家の場合には、賃貸物件とは違うルールに基づいて減価償却を行ってください。
減価償却対象となる金額の求め方
持ち家で暮らし、事業用としても使っている個人事業主は、家賃とは異なる方法で経費を計上します。
持ち家の場合に経費にできるのは、減価償却費・固定資産税・管理費・住宅ローンの金利です。
これらを家賃同様に、事業用と生活用に家事按分して、事業用のみを経費計上します。
減価償却の計算の仕方
減価償却は、事業を開始した時点から行います。事業開始日における持ち家の価値を求め、未償却残高を出しましょう。
家の取得価額からこれまで住んでいた期間に減価した分を引くことで残高が出ます。
自宅兼事務所なので残高すべてを減価償却するのではなく、さらに家事按分を行うことが必要です。
家賃の按分と同様に、床面積もしくは時間の割合によって事業用を求めます。
持ち家の住宅ローン返済金は経費にならない
月々支払いがあっても、元本部分へのローン返済は賃貸家賃支払いとは異なるもので、経費にはなりません。
ローン返済金は個人の支払いとして考えて、減価償却費、固定資産税と管理費および住宅ローンの金利分のみを按分してください。
住宅ローン控除利用中は事業用の割合に注意する
住宅ローン控除の利用中に家事按分をする場合には、住宅ローン控除の条件や所得税法などで定められていることをもとに事業用割合の設定をしなければいけません。
注意したいのは以下の点です。
-
- 住宅ローン控除の適用要件「床面積の2分の1以上の部分が専ら自己の居住の用に供するもの」
- 事業用割合が50%未満の場合は住宅ローン控除の適用金額が減少する
- 住宅ローン控除を全額受けられるのは事業用割合が10%以下の場合
特に注意したいのは、事業用の割合によって住宅ローン控除を受けられなくなるケースです。
家事按分には十分注意を払い、経費計上以外の節税方法に支障をきたさないようにしましょう。
税務署に正当な事業関連性を主張できるようにする
個人事業主が家賃などの家事按分をする際には、税務署に指摘を受けた時に提示できる客観的な根拠を準備しておくことが大切です。各種契約書などのほか、事実に基づく計算を用いたことがわかるように記録しておきましょう。
確定申告の内容次第では、税務調査が入ることも想定されます。修正によって納税額の不足が出ると、追加の納税と追徴課税の支払いが生じるのです。思わぬ出費となる恐れがあるため、曖昧な経費計上は避けるよう気をつけましょう。
税務署から指摘を受けた際に、正当な事業関連性を主張できるように、必要な資料や計算の根拠を揃えておいてください。また、正確な家事按分を心がけることも大切です。
家賃を経費計上する時の記帳方法
家賃を経費計上する際の記帳方法を2種類紹介します。1カ月単位で記帳する方法と、1年間の家賃を1度に按分し記帳する方法です。
1カ月単位で家事按分する方法
1カ月単位で家事按分して記帳する方法は、月ごとの事業に割く時間が大きく変動する場合に向いている方法です。
毎月の家事按分の割合を作業量によって調整し、記帳します。
例えば、家賃が月10万円、事業用割合が50%の場合には、以下のように仕訳します。
事業主貸50,000円 / 現金預金50,000円
作業量の少ない月には、その割合を変えることも可能です。
事業主貸80,000円 / 現金預金80,000円
上記のように、その利用割合に応じて、月々の支払い分を地代家賃と事業主貸(個人の出費)に分けます。
この方法には、確定申告ソフトの家事按分機能を使えないため、自分で毎月仕訳することが必要です。
1年分をまとめて家事按分する方法
1年分をまとめて家事按分する方法は、1カ月単位の家事按分よりも簡単にできます。年間12カ月分の家賃を最後に按分するだけで終わります。
例えば、家賃が月10万円の場合、月々の仕訳は以下の通りです。
年末の仕訳で以下のように家事按分を行います。年1度の家事按分では、確定申告ソフトの家事按分機能を使えます。
どちらの方法でもかまいませんが、より具体的に詳しく家事按分できるのは1カ月ごとに行う方法です。
まとめ・個人事業主の家賃は家事按分で経費計上して節税しよう
個人事業主の家賃は、その賃貸物件の一部を事業用と使っている場合、経費にできます。ただし、経費にする場合には、根拠のある家事按分を行うことが必要です。
適切な方法で事業用と生活用の費用を分け、節税を目指しましょう。
住宅を購入している場合には、家賃とは異なる経費計上の仕方が必要です。家賃を支払っている場合と住宅ローンを払っている場合では、扱いがまったく違うため注意してください。
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(編集:創業手帳編集部)