on call 符 毅欣|在宅医療の医師やスタッフ不足を解決!夜間・休日に医療を代行する仕組みを提供

創業手帳
※このインタビュー内容は2024年01月に行われた取材時点のものです。

地域医療機関の負担を減らすため起業。「24時間365日対応」の在宅医療を若手医師の力で支える

株式会社on callは、「在宅医療の担い手不足」という社会課題を解決するために、現役医師の符さんが立ち上げた企業です。

そんな同社のサービスである「ON CALL」は、医師が1人しかいないクリニックや時間外労働が負担になっている医療機関の、夜間・休日在宅医療をバックアップします。2023年11月にはサービス提供エリアの拡大とシステム開発に充てるため、1.5億円の資金調達も実施しました。

そこで今回は、on call 代表の符さんに、医師として起業に至った経緯やサービスの内容、在宅医療の課題などをお伺いしました。

符 毅欣 (Takayoshi Fuu)
株式会社on call 代表者  
2017年京都大学医学部卒。虎の門病院泌尿器科、長野市民病院泌尿器科、江戸川病院泌尿器科を経て現株式会社on call代表取締役CEO。
虎の門病院での研修の課程、地域研修で在宅医療の必要性や可能性を知る。非常勤医師として夜間休日の在宅診療に従事。病院勤務の傍ら在宅医療に関わる中で、地域医療の課題やクリニックが慢性的に抱える負担を体感。構造的な課題をシステム的に解決・軽減することを目的として株式会社on callを設立。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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医師として働く中で「幸せな最期」について考えるように

大久保:符さんは、医師でありながら起業もされたんですよね。まずは医師を志した理由からお伺いできますか?

:幼い頃から「死」に対する怖さがあったんです。「死にたくない」という気持ちが人一倍強かったんだと思います。

だから、どうすれば自分や自分の家族が長生きできるかを勉強したくて医学部へいきました。医師になるというよりは、例えば「薬を開発してガンを治す」といった分野の研究に興味がありましたね。

大久保:医学部では、研究分野に進まれたのでしょうか?

:学生時代は創薬の研究に携わりました。ただ、そこで日本の研究環境の厳しさを感じたんです。

研究テーマも所属先や研究室によって限られますし、興味がある分野の研究ができたとしても一部分にしか携われない。好きな研究をするためには運も必要だと感じたので、まずは「臨床医になる」という方向に進むことを決めました。

大久保:「医師として長生きの方法を模索する」という方向に進まれたんですね。

:でも実際に医療現場に出てみると、小さい頃に憧れていた「不老不死」の世界の実現は非現実的だと実感しましたね。

泌尿器科を専門にしたのですが、やはり悪性疾患であるガンなどの治療をしていると寿命を伸ばすことはできても、最終的には患者さんが終末期を迎えることは避けられませんから。ですのでだんだんと「死ぬときにどういう形であれば幸せなのか」ということを考えるようになっていきました。

大久保:人生の終盤で考えるようなことを、若いうちから考えておられたんですね。

:そうかもしれません。そのような中、初期研修医2年間で「在宅医療」の研修を数ヶ月受ける機会があり、家や施設で最期を迎える方々への医療を学びました。

そして、自分が長い間過ごしてきた場所や家族が来てくれやすい環境で亡くなるのが、人として幸せな最期なのかもしれないと思うようになりました。それが「在宅医療」を広めたいと考えたきっかけですね。

なぜ在宅医療が推進されているのか

大久保:病院より家で過ごしたい患者さんにとって、「在宅医療」は素晴らしい考え方だと思います。それだけでなく病院側も、なるべく在宅で過ごしてもらう方が良いのでしょうか?

:大きな病院の主な役割は治療介入により寿命をできるだけ伸ばす点にありますから、化学療法や手術療法に重きをおきます。

ただどこかの段階で、そのような治療がもうできない、もしくは治療をしたとしても患者さんの寿命を縮めてしまう状態になります。そうなったとき、病院にい続けるのか、家に帰ってできる治療をするのかという選択をしなければなりません。

今は「医療リソースの最適化」という意味でも、在宅医療への移行を国がサポートする体制になっていますね。

大久保:そもそも、入院をして病院で亡くなるようになったのは最近のことですよね。

:そうですね。戦後に医療が発達して、高度経済成長期に次から次へと病院が建ったことで、入院してそのまま最期を迎えるのが一般的になりました。

ですが、昨今は都市部を中心に病床が足りないことを背景に、最期まで病院にいてもらうより、家に戻ってもらおうという動きが出てきました。

大久保:病院の経営面から見ると、入院患者を増やした方が儲かる気もするのですが。

:実は、今までの日本の制度では「患者が病院にいる期間が長いほど儲かる」という仕組みでした。だから退院をさせない文化ができてしまったんです。

でも医療費の高騰が問題になり、現在は入院日数が長くなるほど病院側の取り分が下がるような制度に変わっています。

入院期間をできるだけ短くしてその後は地域に帰ってもらう、もし必要になれば再度入院してもらう、といった形がサポートされるようになっていますね。

大久保:在宅医療が制度的にも推進されるようになったのは理解しましたが、在宅医療を提供する地域の医療機関側にノウハウはあるのでしょうか?

在宅医療は良くも悪くもできる医療が限られます。だから提供する地域の開業医の先生、クリニックの先生たちに高い医療手技が求められることはあまりありません。

どちらかというと、各科の知識をもち総合的に診る「総合診療的な知識」が必要になりますね。

大久保:病院での医療と在宅医療は、少し質が違うんですね。

:在宅医療では、「できるだけ家で過ごしたい」とか「苦しくないようにしたいのか」など、患者さん自身やご家族が最も大事にしていることを引き出して医療選択をしなければなりません。コミュニケーションが大事な現場です。

地域医療に課題を感じて起業を決意


大久保:医師として働かれているときに在宅医療にも興味を持たれたというお話でしたが、起業するに至った経緯もお伺いできますか?

:転機は、在宅医療に興味を持ち始めたタイミングで長野市に2年間赴任したことです。そこでは、「在宅医療を提供している地域のクリニックでは、多くは先生が1人で24時間診療しているのだ」と知りました。そのため、夜間や休日に要請があっても積極的な対応ができず、実際に患者さんのもとに伺わずに「救急車を呼んでください」と伝えているような開業医の先生もいらっしゃいました。

でも僕は、比較的大きな病院で働いていたので、長野市には夜間や休日に対応できる若い医師がいることも知っていました。

だから「手の空いている若い医師が在宅医療をサポートできる体制をつくれば、在宅医療をさらに広められるのではないか」と考えて、長野市での創業を決意しましたね。

大久保:起業すると決断された後、どのようなことから始めましたか?

まずは知り合いの経営者の方に相談しました。その方からビジネスに詳しい方やその方経由で、現COOの中溝を紹介してもらいましたね。

大久保:資金調達はどのようにされたのでしょうか?

:医師として働いていたので資金面は多少の余裕がありましたから、自己資金でスタートしました。

大久保:創業してからはスムーズにいきましたか?

:実は長野市ではうまく医師会の先生方に話を繋げることができず、退散せざるをえなくなってしまったんです。それから東京へ拠点を移して現在に至っています。

大久保:もしかしたらコミュニティが大きいところの方が、しがらみは少ないかもしれませんね。

夜間や休日の在宅医療を支援する「ON CALL」


大久保:では、在宅医療を支援している、御社の「ON CALL」のサービス内容について教えてください。

符:僕たちが支援しているのは、クリニックの先生の対応が難しい「時間外や休日・夜間の在宅医療」です。

在宅医療は24時間365日の対応が期待されています。「夜間や休日に何かあった場合は、救急車で病院に連れていく」という体制だと、在宅医療の意義が薄れてしまうからです。

大久保:つまり御社のサービスは、対患者向け(to C)ではなく、対病院向け(to B)なのですね。

:その通りです。医師が数人で24時間365日診療しているクリニックの場合、夜間や休みの日は僕たちが代わりの医師を紹介し代診することで、かなりの負担を軽減できます。

その結果、クリニックの医師が日中の診療に集中でき、より多くの患者さんを診られるようになるのは大きなメリットだと思いますね。

大久保:ON CALLのターゲットは、ON CALLのターゲットは、医師が少ない小さいクリニックになるのでしょうか?

:入院病床もありつつ在宅医療部門もある、中小病院もターゲットです。

もちろん中小病院には医師はある程度いますが、夜間に対応する医師を確保することに苦労されているケースも少なくありません。ON CALLで夜間対応を外注できるようになり、病院側が医師を採用する負担の軽減に繋がったというお声もよくいただきますね。

バイトを探している若手医師をマッチング


大久保:地域のクリニックや中小病院は、地域の医療を担っています。一方で、小さいからこそ「人材の流動化が難しい」という課題もありますよね。そこをON CALLが解決するわけですね。

:おっしゃる通りです。地域の潜在的なリソースを、不足しているところにマッチングさせるイメージですね。

大久保:ですが、「医師が不足している」とよく耳にしますから、流動化させたくてもできないのではと感じました。

:ON CALLで対応している医師は、日中は大きい病院で働いている若手の医師です。彼らの中には、夜間や土日にバイトをしている人がめずらしくないんです。

大久保:若手の医師は、バイトをしているんですか?

:日中勤めている病院だけでなく、他の病院で当直をしたり、土日の外来をしたりといったバイトをしていますね。在宅医療はそのうちの1つです。

大久保:自分でアルバイトを探すよりは、御社のプラットフォームを使ったほうが楽ですよね。

:そうですね。今は複数のクライアントの患者さんを、何人かの医師にシフトを組んでもらって対応しています。「この日は何かあれば〇〇先生に連絡します」という流れですね。ただ、もっと規模が大きくなれば、そこをシステマチックにしたいと思っています。

大久保:医師を待機させるのではなくリアルタイムでマッチングさせる、医師版Uberのようなイメージですね。

:今回資金調達をしたのは、そのようなシステムを開発したいということも理由の1つでした。

大久保:仕組みの部分は、試行錯誤をされてきたのでしょうか?

より多くの若手医師が働きやすいプラットフォームを作るために、当初からUberのような「マッチング化」は意識していました。その点では、医師が1回対応をするごとに給与として入る、インセンティブに重きをおいた設計にしています。

日本の医師は動きにくい?

大久保:在宅医療をよくするために起業をされた符さんは、日本の医療についてどのようにお考えでしょうか?

:制度に関しては、正直何が正解かはわかりません。今後は「アメリカのようにお金がある人が最先端医療を受けられるようにすべき」なのか、逆に「誰もが良い医療を受けられるような今の日本の制度を維持すべき」なのか、多く議論されていることだと思います。

でも少なくとも弊社としては、クリニックの支援を通して「日本全国の患者さんが、より幸せな形で終末期医療を受けられるようにしたい」と考えています。

課題に感じているのは、現在、夜間に医療へアクセスしようと思ったときには、どうしても患者さんや、そのご家族が直接電話で連絡をするしかない点ですね。もっとリアルタイムに医療へ繋がる仕組みがあると、患者さんもより安心して過ごせるのではと思います。そういった近未来的な開発も、弊社で取り組んでいきたいですね。

大久保:ON CALLサービスは医療資源の再分配ができるので、病院での受け入れ人数を確保することにも繋がっていますよね。そういう意味で、間接的にも医療に貢献されていますね。

:海外なら国全体で医師の再分配に取り組むこともできると思いますが、日本の場合は医師の人事権をもつ医局の力が強く、医師が自由に行き来するのが難しい特徴があります。

大久保:医師が動きにくい状況にあるんですね。

:本来ある程度経験や技術がある医師は、どこに属したとしても医療を提供できるはずなのですが、所属大学の科のお作法があったり、人間関係が複雑だったりと、日本の医師は特に流動的に動きにくい環境にいるかもしれません。

大久保:そのあたりも、今後はテクノロジーで合理化できるようになるといいですね。

:日本は「電子カルテ」さえ、他国と比べてガラパゴス状態だと言われています。ただ、そこに関してはようやく厚労省が統合規格で患者情報を扱えるようにする動きがでてきました。

統一規格の電子カルテの導入が進んでどの医療機関の患者さんでも診療情報が引き出しやすくなると、働く医師側の流動性も上がっていくのではないでしょうか。

日本全国で安心して在宅医療が受けられるように

大久保:御社は今回資金調達をされましたが、この先の展望をお伺いできますか?

:今回の調達は、首都圏で「ONCALL水準の夜間休日支援」をしっかり広めることが目的です。次のフェーズとしては、患者数や医師の数の多い大都市圏に広げていきたいと思っています。

そして、「日本全国の医師リソースを最大限効率的に分配して、安心感のある在宅医療をどこでも提供できるようにしたい」という目標のもと、地方にもサービスを広めるつもりです。

大久保:最後に起業をしようと考えている方に向けて、一言いただけますか?

:起業をする理由は、皆さんしっかりお持ちですよね。

その想いは自分の中にしかないものですから、それを信じて進むことが一番ではないでしょうか。あとは、当たり前のことかもしれませんが、前向きな考え方や行動力も大切だと思います。

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(取材協力: 株式会社on call 代表者 符 毅欣 
(編集: 創業手帳編集部)



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